80章
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夜も更けた頃、私と陛下はクラビウス王の元を訪れた。
ベランダで外を眺めておられたクラビウス王が、私と陛下に気付いて部屋へと戻ってくる。
そうして私を見て、「ん!?」と目を見開いた。
「そなたは……ミーティア姫ではないな? そうだ、お前はエイトの仲間であった旅人の……レイラといったか。なぜお前までここに。それにその姿は……」
「……まずは改めて自己紹介をさせて下さい。私はレイラ・ロアナス。トロデ王の兄を父に持つ、トロデーン王家に連なる者です。そして私とエイトは、ミーティア姫の近衛兵でもありました」
「な、なんだと! いや待て、それよりも……ロアナス……聞いたことがある。たしか教会が聖女と認めた者が、そのような名前の家門だったぞ」
「よくご存知じゃな。そう、この者の生家であるロアナス家は、霊導者ヨシュアの家系。そして我がトロデーン王国に最も古くから存在する貴族の家じゃ」
「……よもやそのような家の出であるとは。しかしなぜお前がミーティア姫と同じ格好をしておる?」
「明日の結婚式、トロデーン王国の姫君はこの者を送り出そう。ミーティアはチャゴス王子との結婚を嫌がり、大聖堂から逃げてしまったのじゃ」
「なんだと!? トロデ王、何を申しておるか、理解しておられるのか!? これは国家間の婚儀なのだぞ!?」
「無論承知じゃ。ときに、クラビウス王よ。そなたも大概、息子に甘い父親だのう。王者の儀式でチャゴス王子が働いた不正を見逃してまで、ミーティアとの結婚を望むか」
「トロデーン王国が呪いによって滅びていたのは、サザンビークもご承知のことと思います。呪いを受けたのは陛下と姫様も例外ではありません。陛下は見た目を魔物に、姫様は白馬へと姿を変えられ、私たちは姫様の引く馬車と共に旅をしてきたのです」
そうして私は、王家の山でチャゴス王子が姫様に何をしたのかを詳細に語って聞かせた。
本来ならこれだけでも婚約破棄になりそうなものなのに、その上あの不正行為である。
試練の不正、チャゴス王子の人格。
黙っている事を選んだサザンビーク側に誠実さを感じられなかった。
陛下の糾弾はそういう切り口で始まった。
「じゃが今さら結婚式を取り止めにし、婚約も破棄となれば、双方のメンツも台無しじゃろう。そこでワシは姪にあたるこの者の申し出を受けることにした」
クラビウス王は何も言わない。
何を言ってもそちらの不利になることに気付いているからだ。
頭を押さえて悩んだ様子のクラビウス王は、やがて呻くように言った。
「……それが姫の意思だというのなら、わしは何も言わん。しかしエイトもトロデーンの関係者だったとは。少し前に彼奴もわしの元を訪れたよ。兄の……エルトリオ王子の形見のアルゴンリングを持ってな。だがわしはエイトを追い返した。国のためという建前で……その実、チャゴスのために、エイトを認めるわけにはいかんと思ったのだ」
「王のご判断も至極当然です。エイトには姫様をお願いすることになりますから、追い返してくださって良かった。……うん。姫様が笑顔でいられるなら、私はそれで」
トロデ王の視線は、やっぱりどこか悲しそうだ。
そりゃあ私とエイトはトロデーン城内でも公認の仲だったから、こんな結果になって城の人たちも驚くだろう。
それでも私はエイトの手を離す。
姫様の幸せが、私の存在と引き換えであるのなら、私は喜んでそうしよう。
* * *
僕が宿屋へ入ると、目が合ったククールが勢いよく顔を背けた。
「ククール」
「知らねぇ」
「ククールって」
「俺は何も知らねえぞ」
「バカリスマ」
「誰がバカリスマだ!」
「やっとこっち向いた」
怒ってないから、と言えば、ククールも気まずいといった表情で頷いた。
無理やりに微笑んでみせて、ベッドに座り込む。
その反応で三人も、クラビウス王の返答がどのようなものだったかを察したようだった。
「だめだったよ」
「そっか……」
ゼシカも諦めたように俯く。
「こうなりゃあ、打つ手はもうないでがすなぁ……」
ヤンガスも肩を落として呟くと、ベッドに大の字になって寝転がった。
……それよりも、レイラの姿が見当たらない。
まだ法皇の館にいるなんてことはないだろう。
いくらなんでも、夜も遅いし、ミーティア姫だってお休みになるはずだ。
「……レイラは? まだ戻ってないの?」
「……まだよ」
「ちょっと僕、探して──」
「無駄だぜ、エイト」
ククールの真剣な目とぶつかる。
けれどその視線もすぐ、明後日の方向へと逸らされた。
ゼシカもヤンガスも表情が暗い。
僕は……ひょっとして、なにか選択を間違えたのか?
「無駄ってどういうことだよ」
「レイラは探したっていねえよ。いや、もう会えねぇって言ったほうが正しいか」
「どうして……」
……ゼシカもヤンガスも、何かを知ってる。
知っているからこそ、僕の背を押したんだ。
クラビウス王の元へ行こうとする僕を、無謀だと止めなかったのは、彼らだけが知っている事情に理由がある。
「なぜなら──チャゴスと結婚するのが、レイラだからさ」
「……は? なん、で……それ、どういう……」
「どうもこうもないわ。レイラは、ミーティア姫の代わりになることを選んだのよ」
「結局こうなっちまいやしたね。姉貴の性格じゃあ、姫様をこのまま見捨てるなんてできねぇと思っちゃいたんでがすが……」
「……エイト。こいつはそのレイラからの預かり物だ」
言葉を失った僕へ、ククールが手を差し出す。
僕の手に押し付けられたのは、女神の指輪。
僕がレイラに婚約の証として渡したものだった。
足が不意に力を失って、宿屋の床に座り込む。
どうして、なんてことすら考えられない。
頭の中が真っ白で……何が起きているのか、まるで分からなかった。
「……エイト」
ゼシカではない女の人の声。
顔を上げると、宿屋の入口に……ミーティアがいる。
レイラの服を着て、レイラと同じように髪を二つに結んだミーティアが。
僕の顔を見たミーティアが、こちらへと駆け込んできて言った。
「お願い、みんな! レイラを、助けてあげて……!」
「……どうやって?」
女神の指輪を握りしめて俯き、僕は問うた。
どうやって助けたらいい?
アルゴンリングを用いての交渉には失敗した。
僕らは式に招待されていないから、大聖堂へ近付くことさえできやしない。
ようやく……ようやく掴まえたと思ったレイラの手が、こんなにも簡単にすり抜けていくなんて。
僕との約束を、二度も破られるなんて。
もう僕には……何をどうすることもできないんだ。
ベランダで外を眺めておられたクラビウス王が、私と陛下に気付いて部屋へと戻ってくる。
そうして私を見て、「ん!?」と目を見開いた。
「そなたは……ミーティア姫ではないな? そうだ、お前はエイトの仲間であった旅人の……レイラといったか。なぜお前までここに。それにその姿は……」
「……まずは改めて自己紹介をさせて下さい。私はレイラ・ロアナス。トロデ王の兄を父に持つ、トロデーン王家に連なる者です。そして私とエイトは、ミーティア姫の近衛兵でもありました」
「な、なんだと! いや待て、それよりも……ロアナス……聞いたことがある。たしか教会が聖女と認めた者が、そのような名前の家門だったぞ」
「よくご存知じゃな。そう、この者の生家であるロアナス家は、霊導者ヨシュアの家系。そして我がトロデーン王国に最も古くから存在する貴族の家じゃ」
「……よもやそのような家の出であるとは。しかしなぜお前がミーティア姫と同じ格好をしておる?」
「明日の結婚式、トロデーン王国の姫君はこの者を送り出そう。ミーティアはチャゴス王子との結婚を嫌がり、大聖堂から逃げてしまったのじゃ」
「なんだと!? トロデ王、何を申しておるか、理解しておられるのか!? これは国家間の婚儀なのだぞ!?」
「無論承知じゃ。ときに、クラビウス王よ。そなたも大概、息子に甘い父親だのう。王者の儀式でチャゴス王子が働いた不正を見逃してまで、ミーティアとの結婚を望むか」
「トロデーン王国が呪いによって滅びていたのは、サザンビークもご承知のことと思います。呪いを受けたのは陛下と姫様も例外ではありません。陛下は見た目を魔物に、姫様は白馬へと姿を変えられ、私たちは姫様の引く馬車と共に旅をしてきたのです」
そうして私は、王家の山でチャゴス王子が姫様に何をしたのかを詳細に語って聞かせた。
本来ならこれだけでも婚約破棄になりそうなものなのに、その上あの不正行為である。
試練の不正、チャゴス王子の人格。
黙っている事を選んだサザンビーク側に誠実さを感じられなかった。
陛下の糾弾はそういう切り口で始まった。
「じゃが今さら結婚式を取り止めにし、婚約も破棄となれば、双方のメンツも台無しじゃろう。そこでワシは姪にあたるこの者の申し出を受けることにした」
クラビウス王は何も言わない。
何を言ってもそちらの不利になることに気付いているからだ。
頭を押さえて悩んだ様子のクラビウス王は、やがて呻くように言った。
「……それが姫の意思だというのなら、わしは何も言わん。しかしエイトもトロデーンの関係者だったとは。少し前に彼奴もわしの元を訪れたよ。兄の……エルトリオ王子の形見のアルゴンリングを持ってな。だがわしはエイトを追い返した。国のためという建前で……その実、チャゴスのために、エイトを認めるわけにはいかんと思ったのだ」
「王のご判断も至極当然です。エイトには姫様をお願いすることになりますから、追い返してくださって良かった。……うん。姫様が笑顔でいられるなら、私はそれで」
トロデ王の視線は、やっぱりどこか悲しそうだ。
そりゃあ私とエイトはトロデーン城内でも公認の仲だったから、こんな結果になって城の人たちも驚くだろう。
それでも私はエイトの手を離す。
姫様の幸せが、私の存在と引き換えであるのなら、私は喜んでそうしよう。
* * *
僕が宿屋へ入ると、目が合ったククールが勢いよく顔を背けた。
「ククール」
「知らねぇ」
「ククールって」
「俺は何も知らねえぞ」
「バカリスマ」
「誰がバカリスマだ!」
「やっとこっち向いた」
怒ってないから、と言えば、ククールも気まずいといった表情で頷いた。
無理やりに微笑んでみせて、ベッドに座り込む。
その反応で三人も、クラビウス王の返答がどのようなものだったかを察したようだった。
「だめだったよ」
「そっか……」
ゼシカも諦めたように俯く。
「こうなりゃあ、打つ手はもうないでがすなぁ……」
ヤンガスも肩を落として呟くと、ベッドに大の字になって寝転がった。
……それよりも、レイラの姿が見当たらない。
まだ法皇の館にいるなんてことはないだろう。
いくらなんでも、夜も遅いし、ミーティア姫だってお休みになるはずだ。
「……レイラは? まだ戻ってないの?」
「……まだよ」
「ちょっと僕、探して──」
「無駄だぜ、エイト」
ククールの真剣な目とぶつかる。
けれどその視線もすぐ、明後日の方向へと逸らされた。
ゼシカもヤンガスも表情が暗い。
僕は……ひょっとして、なにか選択を間違えたのか?
「無駄ってどういうことだよ」
「レイラは探したっていねえよ。いや、もう会えねぇって言ったほうが正しいか」
「どうして……」
……ゼシカもヤンガスも、何かを知ってる。
知っているからこそ、僕の背を押したんだ。
クラビウス王の元へ行こうとする僕を、無謀だと止めなかったのは、彼らだけが知っている事情に理由がある。
「なぜなら──チャゴスと結婚するのが、レイラだからさ」
「……は? なん、で……それ、どういう……」
「どうもこうもないわ。レイラは、ミーティア姫の代わりになることを選んだのよ」
「結局こうなっちまいやしたね。姉貴の性格じゃあ、姫様をこのまま見捨てるなんてできねぇと思っちゃいたんでがすが……」
「……エイト。こいつはそのレイラからの預かり物だ」
言葉を失った僕へ、ククールが手を差し出す。
僕の手に押し付けられたのは、女神の指輪。
僕がレイラに婚約の証として渡したものだった。
足が不意に力を失って、宿屋の床に座り込む。
どうして、なんてことすら考えられない。
頭の中が真っ白で……何が起きているのか、まるで分からなかった。
「……エイト」
ゼシカではない女の人の声。
顔を上げると、宿屋の入口に……ミーティアがいる。
レイラの服を着て、レイラと同じように髪を二つに結んだミーティアが。
僕の顔を見たミーティアが、こちらへと駆け込んできて言った。
「お願い、みんな! レイラを、助けてあげて……!」
「……どうやって?」
女神の指輪を握りしめて俯き、僕は問うた。
どうやって助けたらいい?
アルゴンリングを用いての交渉には失敗した。
僕らは式に招待されていないから、大聖堂へ近付くことさえできやしない。
ようやく……ようやく掴まえたと思ったレイラの手が、こんなにも簡単にすり抜けていくなんて。
僕との約束を、二度も破られるなんて。
もう僕には……何をどうすることもできないんだ。
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