80章
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レイラと別れてしばらくすれば、日が落ちて辺りは暗くなってきた。
僕らも宿屋で夜を明かすべく部屋に入ったけど、どっかりと椅子に座った途端、珍しくククールが怒りを顕にした。
ドン! と机を叩いたその音で、ゼシカとヤンガスも視線をククールへと向ける。
「まったく、あの野郎! なーにが平民風情は式に招待できないだ! ムカツクぜ。王者の儀式からだいぶ経ったが、あの様子じゃ、相変わらず小根は腐ったままだな。でも明日になれば、姫様はあいつと結婚か……。なぁ、エイト?」
なあ、と言われても──と返そうとしたとき、ククールがはっと目を瞠る。
それから顔を上げて僕を見た。
「そうだ! エイト。指輪だよ。あの指輪があっただろ。お前の親父の指輪がさ。指輪を持ってるんだろ? それをクラビウス王に見せてみたらどうだ!? クラビウス王も、お前が亡き兄の息子だって分かれば、考えを変えるかもしれないぜ。一か八か、話をつけに法皇の館へ行ってみろよ。さあ、行ってきなよ!」
袋から、父さんの遺したアルゴンリングを取り出す。
綺麗な色の宝石が嵌められた指輪は、父さんが母さんへ渡した、愛の証。
そして僕が、父さんの──エルトリオ王子の息子であるという、揺るぎない証拠だ。
指輪を握り締めて立ち上がる。
この指輪を見せることで、僕にも結婚の資格があると分かれば。
ミーティアと結婚するつもりはないけど……でも、ミーティアをあの王子から助けられるかもしれないなら。
「行ってくる」
僕は三人にそう言い残して、宿屋を飛び出した。
大聖堂の裏へと走って、連絡通路を昇る。
目の前に見えた、法皇の館。
サザンビーク王家は、法皇様の部屋を控え室にしていると聞いた。
ならば目指すのは二階だ。
階段を駆け上がって、部屋へと入る。
クラビウス王は部屋にあるベランダから外を眺めていた。
ベランダへの窓を開けて、そちらへと向かう。
「……クラビウス王」
背後から声を掛けると、クラビウス王は驚いたように振り向き、僕を見て目を丸くした。
「お前は、エイト! 覚えておるぞ。かつて王家の家宝である魔法の鏡をくれてやったな。どうしてお前がここにいるのだ?」
「大事なお話があって参りました。夜分遅く失礼致します。まずはこれを」
袋から父さんのアルゴンリングを取り出し、クラビウス王へと手渡す。
クラビウス王はその指輪を見て、更に混乱したようだった。
「こ、この指輪は! アルゴンハートを石に使っているな……。どこで手に入れたのだ?」
「その指輪は僕の父のものです。旅の途中で僕の生まれ故郷に辿り着いて、祖父から託されました。僕の父は、二十年前に王位継承権を捨てて国を去った、エルトリオ王子……クラビウス王の兄君です。父は僕の母と恋に落ちたのですが、それをよしとしなかった祖父によって、母が故郷に連れ戻されてしまったんです。それを追い掛けて、父はサザンビークを飛び出して……。母の故郷にたどり着く一歩手前で、命を落としてしまったそうです。その指輪は、母が故郷を抜け出したとき、出会った父から婚約の印として渡されたものだと、祖父が教えてくれました」
事情を説明すると、クラビウス王は今度、頭の痛そうな顔になった。
あの厳格なクラビウス王の百面相は、なかなか見られるものじゃないな。
「……ううむ。さすがのわしも頭が混乱してきそうだよ。だがお前が、我が兄エルトリオの息子だという話は本当のようだな。でなければ、身内しか知りえない事情を、そこまで知る由もないであろう」
「……」
「思えば、もし兄が国を捨ててお前の母を追いかけていかなければ、今頃は兄がサザンビークの王のはずだ。そしてお前が王子として生まれていれば、ミーティア姫と結婚するのはお前だったかもしれん」
「だったら……」
「だが、今更何を言おうが、それらはすべて、もしもの話だよ。王位継承権を持つ者が新たに加われば、国が乱れるであろう。お前を認めるわけにはいかんのだよ。……悪く思わないでくれ。話は以上だ。もう帰るがよい」
そうなるだろうとは思っていた。
国同士の約束事だ、僕如きの存在で揺らぐような話じゃない。
たとえ僕が、兄の子だったとしても──竜神族の里でトロデ王も言っていたように、僕の存在を認知するわけにはいかない。
王位継承権を持つ者が新たに現れると、王位争いで国が乱れかねない。
それは至極真っ当な理由で、僕にできるのは、この場から引き下がることだけだ。
指輪も取り上げられ、僕は黙って法皇の館を出た。
ここに来た時とは真反対に、足取りが重い。
……この結婚で、幸せになるのはチャゴス王子だけだ。
ミーティアもトロデ王も、もちろん僕たちも、誰も幸せになんてなれない。
せめてミーティアを式から逃がすことが出来れば、と思ったけど、それもどうやら無理そうだ。
大聖堂へと降りて、空を見上げる。
星が瞬く夜空はこんなにも綺麗なのに、心の中はちっとも晴れやしない。
ため息をついて、宿屋へと階段を降りていく。
そうして宿屋へ入ると、目が合ったククールは、思いっ切り顔を背けたのだった。
僕らも宿屋で夜を明かすべく部屋に入ったけど、どっかりと椅子に座った途端、珍しくククールが怒りを顕にした。
ドン! と机を叩いたその音で、ゼシカとヤンガスも視線をククールへと向ける。
「まったく、あの野郎! なーにが平民風情は式に招待できないだ! ムカツクぜ。王者の儀式からだいぶ経ったが、あの様子じゃ、相変わらず小根は腐ったままだな。でも明日になれば、姫様はあいつと結婚か……。なぁ、エイト?」
なあ、と言われても──と返そうとしたとき、ククールがはっと目を瞠る。
それから顔を上げて僕を見た。
「そうだ! エイト。指輪だよ。あの指輪があっただろ。お前の親父の指輪がさ。指輪を持ってるんだろ? それをクラビウス王に見せてみたらどうだ!? クラビウス王も、お前が亡き兄の息子だって分かれば、考えを変えるかもしれないぜ。一か八か、話をつけに法皇の館へ行ってみろよ。さあ、行ってきなよ!」
袋から、父さんの遺したアルゴンリングを取り出す。
綺麗な色の宝石が嵌められた指輪は、父さんが母さんへ渡した、愛の証。
そして僕が、父さんの──エルトリオ王子の息子であるという、揺るぎない証拠だ。
指輪を握り締めて立ち上がる。
この指輪を見せることで、僕にも結婚の資格があると分かれば。
ミーティアと結婚するつもりはないけど……でも、ミーティアをあの王子から助けられるかもしれないなら。
「行ってくる」
僕は三人にそう言い残して、宿屋を飛び出した。
大聖堂の裏へと走って、連絡通路を昇る。
目の前に見えた、法皇の館。
サザンビーク王家は、法皇様の部屋を控え室にしていると聞いた。
ならば目指すのは二階だ。
階段を駆け上がって、部屋へと入る。
クラビウス王は部屋にあるベランダから外を眺めていた。
ベランダへの窓を開けて、そちらへと向かう。
「……クラビウス王」
背後から声を掛けると、クラビウス王は驚いたように振り向き、僕を見て目を丸くした。
「お前は、エイト! 覚えておるぞ。かつて王家の家宝である魔法の鏡をくれてやったな。どうしてお前がここにいるのだ?」
「大事なお話があって参りました。夜分遅く失礼致します。まずはこれを」
袋から父さんのアルゴンリングを取り出し、クラビウス王へと手渡す。
クラビウス王はその指輪を見て、更に混乱したようだった。
「こ、この指輪は! アルゴンハートを石に使っているな……。どこで手に入れたのだ?」
「その指輪は僕の父のものです。旅の途中で僕の生まれ故郷に辿り着いて、祖父から託されました。僕の父は、二十年前に王位継承権を捨てて国を去った、エルトリオ王子……クラビウス王の兄君です。父は僕の母と恋に落ちたのですが、それをよしとしなかった祖父によって、母が故郷に連れ戻されてしまったんです。それを追い掛けて、父はサザンビークを飛び出して……。母の故郷にたどり着く一歩手前で、命を落としてしまったそうです。その指輪は、母が故郷を抜け出したとき、出会った父から婚約の印として渡されたものだと、祖父が教えてくれました」
事情を説明すると、クラビウス王は今度、頭の痛そうな顔になった。
あの厳格なクラビウス王の百面相は、なかなか見られるものじゃないな。
「……ううむ。さすがのわしも頭が混乱してきそうだよ。だがお前が、我が兄エルトリオの息子だという話は本当のようだな。でなければ、身内しか知りえない事情を、そこまで知る由もないであろう」
「……」
「思えば、もし兄が国を捨ててお前の母を追いかけていかなければ、今頃は兄がサザンビークの王のはずだ。そしてお前が王子として生まれていれば、ミーティア姫と結婚するのはお前だったかもしれん」
「だったら……」
「だが、今更何を言おうが、それらはすべて、もしもの話だよ。王位継承権を持つ者が新たに加われば、国が乱れるであろう。お前を認めるわけにはいかんのだよ。……悪く思わないでくれ。話は以上だ。もう帰るがよい」
そうなるだろうとは思っていた。
国同士の約束事だ、僕如きの存在で揺らぐような話じゃない。
たとえ僕が、兄の子だったとしても──竜神族の里でトロデ王も言っていたように、僕の存在を認知するわけにはいかない。
王位継承権を持つ者が新たに現れると、王位争いで国が乱れかねない。
それは至極真っ当な理由で、僕にできるのは、この場から引き下がることだけだ。
指輪も取り上げられ、僕は黙って法皇の館を出た。
ここに来た時とは真反対に、足取りが重い。
……この結婚で、幸せになるのはチャゴス王子だけだ。
ミーティアもトロデ王も、もちろん僕たちも、誰も幸せになんてなれない。
せめてミーティアを式から逃がすことが出来れば、と思ったけど、それもどうやら無理そうだ。
大聖堂へと降りて、空を見上げる。
星が瞬く夜空はこんなにも綺麗なのに、心の中はちっとも晴れやしない。
ため息をついて、宿屋へと階段を降りていく。
そうして宿屋へ入ると、目が合ったククールは、思いっ切り顔を背けたのだった。
