80章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
法皇の館の一階が、トロデーン王家の控え室。
陛下のおわすお部屋に入ると、ちょうど姫様もいらっしゃった。
大臣もいらっしゃるが、「なぜここにお前が?」という顔だ。
「姫様がお呼びと伺いまして」
「来てくれたのね、レイラ! 最後にあなたの顔が見たくて、無理を言って呼んでもらったの」
「あはは。姫様からのお呼びとあれば、闇の世界にだって行きますよ。私たち、幼馴染みなんですもん」
「ええ……そう、そうね。レイラ、今まで私に仕えてくれてありがとう。今までお礼を言えなかったから、改めて言わせて。これからお父様と、トロデーンのために、精一杯力を尽くしてちょうだい」
姫様の悲しい別れの言葉に、私は黙って首を振った。
残念ながら、私はこれから先のトロデーンにはいない存在になる。
「……私、姫様の笑顔を曇らせる輩がいるのが許せないんです」
「レイラ……」
「姫様が心から幸せになれる相手は、別にいるはずですよ。私はとっくに覚悟できてます。姫様──ううん、ミーティア。私、ミーティアの幸せを守りたい。そのために私はここに来たの」
は、とミーティアが口を押さえる。
まさかと震えた声は、私の言わんとすることをたしかに理解していた。
「レイラ……あなた、私の代わりに、チャゴス王子と……?」
「ええ。そのつもりです」
「な、なんじゃと!? レイラお主、何を申しておるのか分かっておるのか!?」
「勿論です。私の父は陛下の兄上。そして私はミーティアよりも年上。先々代が交わした約束に従えば、花嫁となるのは私であるはずです」
ものすごい屁理屈を並べている自覚はある。
それでも、これだけはもう、退けない。
私の大好きなミーティアのためなら、私の恋心なんて捨てる。
私にはこの結婚に反対する権利なんかないって言ったけど、やっぱりこんなの、納得できないもん。
呪いで馬にされて、それでも気丈に振る舞ってくれた姫様が、最後の最後で不幸になるなんて。
「陛下、ご決断を。国のメンツのために、ミーティア姫を不幸にしてしまうのですか。私は納得できません。幼馴染みの……大切な主君の幸せを守るのが、近衛兵である私の役目です」
「レイラ……あなたは、それで幸せになれるの?」
「姫様の幸せが、私の幸せですよ。嘘じゃなく、本当に。姫様とエイトが一緒に幸せになってくれるなら、私はそれで十分です」
「……でも」
「ミーティア。正直な気持ちを聞かせて? 私はミーティアの味方だから」
顔色を悪くしたミーティアが、それでも震える手を握って、口を開く。
はく、と息を吸っただけのミーティアの口は閉じられて……。
そうして、小さな声が、堪えきれない思いを呟いた。
「……わたくし、チャゴス王子とは、結婚したくないわ……」
「ミーティア……」
「チャゴス王子と結婚するくらいなら、お馬さんのままがよかったくらい。王族に生まれたのなら、その務めを果たすのが義務だと思って生きてきたけど……。でも、やっぱり、嫌なものは嫌」
ミーティアの訴えが控え室に落ちる。
陛下は、思い詰めた様子の姫様を悲しそうに見上げ……。
それから、私を見上げて言った。
「レイラよ。お主を、兄の子だと……トロデーン王家に連なる者だと認めよう。チャゴス王子と結婚するという役目、お主に任せるぞ」
「はい。今日までトロデーンで過ごした日々は、私の宝物です。母国の更なる発展と、お二人の健康をお祈りしております」
陛下に向かって跪いて頭を下げる。
近衛兵レイラは、今日で終わり。
これが私に出来る最後のご奉公だ。
姫様の控え室に一緒に入ると、姫様付きの女性文官が私を見て不思議そうに首を傾げた。
「まぁ、副隊長? 姫様のお部屋にどのようなご用が?」
「明日のチャゴス王子との結婚は、私の役目になったので。ひとまず服を取り替えて、姫様を隊長たちのいる宿屋に返します」
「え!? えっなんて!? どういうことですの!?」
「話すと長くなるのだけど……。他言無用と約束できるかしら?」
文官がブンブンと首を縦に振る。
姫様と顔を見合わせて苦笑いを浮かべると、私たちは事情を説明した。
私の父がトロデ王の兄であること、私のほうが姫様より早く生まれていること。
先祖の約束に則るなら、私が許嫁になるはずであること。
文官は頭が爆発しそうな顔をしていた。
ついでにチャゴス王子のエピソードも(多少盛って)伝えてやると、卒倒した。
「そ、そんな方に、ミーティア姫を……」と呟いて、文官がよろよろと後退りをする。
「そんな方に姫様をやるわけにはいかないから、私が代わりになるってことです。ご理解いただけました?」
「副隊長様……。ですがあなたは、近衛隊長と将来を約束されていたのでは……」
「それは姫様に任せました! 姫様とエイトなら大丈夫ですよ、付き合いも長いですし。ね、姫様」
「……ええ。そうね……」
曖昧な微笑みを浮かべた姫様が、私に何かを言いかけて──。
それからなんでもないと首を振った。
それはもう聞き返さないほうがいいと察したので、私は自分の服の紐に手をかけた。
これでいい。
これでいいはずなんだ。
私の命はトロデーンの幸せのためにある。
最後に姫様の役に立てるなら、私が生き返った意味もあったんだと思う。
姫様の服に袖を通して、私の服に着替えた姫様と見つめ合う。
「どうかエイトとお幸せに」
「……あなたも。どうか元気でね、レイラ」
姫様が部屋を出ていく。
ちらっと見えた外は、もうすっかり夜だった。
みんなはもう休んだ頃だろうか。
ヤンガスとゼシカには、ククールから話があるはず。
エイトは……最後まで知らないほうが幸せかもな。
……しかし化粧をしたら私も綺麗になれるもんだ。
明日の準備を手伝ってくれる使用人たちくらいなら、騙し通せそうだな。
陛下のおわすお部屋に入ると、ちょうど姫様もいらっしゃった。
大臣もいらっしゃるが、「なぜここにお前が?」という顔だ。
「姫様がお呼びと伺いまして」
「来てくれたのね、レイラ! 最後にあなたの顔が見たくて、無理を言って呼んでもらったの」
「あはは。姫様からのお呼びとあれば、闇の世界にだって行きますよ。私たち、幼馴染みなんですもん」
「ええ……そう、そうね。レイラ、今まで私に仕えてくれてありがとう。今までお礼を言えなかったから、改めて言わせて。これからお父様と、トロデーンのために、精一杯力を尽くしてちょうだい」
姫様の悲しい別れの言葉に、私は黙って首を振った。
残念ながら、私はこれから先のトロデーンにはいない存在になる。
「……私、姫様の笑顔を曇らせる輩がいるのが許せないんです」
「レイラ……」
「姫様が心から幸せになれる相手は、別にいるはずですよ。私はとっくに覚悟できてます。姫様──ううん、ミーティア。私、ミーティアの幸せを守りたい。そのために私はここに来たの」
は、とミーティアが口を押さえる。
まさかと震えた声は、私の言わんとすることをたしかに理解していた。
「レイラ……あなた、私の代わりに、チャゴス王子と……?」
「ええ。そのつもりです」
「な、なんじゃと!? レイラお主、何を申しておるのか分かっておるのか!?」
「勿論です。私の父は陛下の兄上。そして私はミーティアよりも年上。先々代が交わした約束に従えば、花嫁となるのは私であるはずです」
ものすごい屁理屈を並べている自覚はある。
それでも、これだけはもう、退けない。
私の大好きなミーティアのためなら、私の恋心なんて捨てる。
私にはこの結婚に反対する権利なんかないって言ったけど、やっぱりこんなの、納得できないもん。
呪いで馬にされて、それでも気丈に振る舞ってくれた姫様が、最後の最後で不幸になるなんて。
「陛下、ご決断を。国のメンツのために、ミーティア姫を不幸にしてしまうのですか。私は納得できません。幼馴染みの……大切な主君の幸せを守るのが、近衛兵である私の役目です」
「レイラ……あなたは、それで幸せになれるの?」
「姫様の幸せが、私の幸せですよ。嘘じゃなく、本当に。姫様とエイトが一緒に幸せになってくれるなら、私はそれで十分です」
「……でも」
「ミーティア。正直な気持ちを聞かせて? 私はミーティアの味方だから」
顔色を悪くしたミーティアが、それでも震える手を握って、口を開く。
はく、と息を吸っただけのミーティアの口は閉じられて……。
そうして、小さな声が、堪えきれない思いを呟いた。
「……わたくし、チャゴス王子とは、結婚したくないわ……」
「ミーティア……」
「チャゴス王子と結婚するくらいなら、お馬さんのままがよかったくらい。王族に生まれたのなら、その務めを果たすのが義務だと思って生きてきたけど……。でも、やっぱり、嫌なものは嫌」
ミーティアの訴えが控え室に落ちる。
陛下は、思い詰めた様子の姫様を悲しそうに見上げ……。
それから、私を見上げて言った。
「レイラよ。お主を、兄の子だと……トロデーン王家に連なる者だと認めよう。チャゴス王子と結婚するという役目、お主に任せるぞ」
「はい。今日までトロデーンで過ごした日々は、私の宝物です。母国の更なる発展と、お二人の健康をお祈りしております」
陛下に向かって跪いて頭を下げる。
近衛兵レイラは、今日で終わり。
これが私に出来る最後のご奉公だ。
姫様の控え室に一緒に入ると、姫様付きの女性文官が私を見て不思議そうに首を傾げた。
「まぁ、副隊長? 姫様のお部屋にどのようなご用が?」
「明日のチャゴス王子との結婚は、私の役目になったので。ひとまず服を取り替えて、姫様を隊長たちのいる宿屋に返します」
「え!? えっなんて!? どういうことですの!?」
「話すと長くなるのだけど……。他言無用と約束できるかしら?」
文官がブンブンと首を縦に振る。
姫様と顔を見合わせて苦笑いを浮かべると、私たちは事情を説明した。
私の父がトロデ王の兄であること、私のほうが姫様より早く生まれていること。
先祖の約束に則るなら、私が許嫁になるはずであること。
文官は頭が爆発しそうな顔をしていた。
ついでにチャゴス王子のエピソードも(多少盛って)伝えてやると、卒倒した。
「そ、そんな方に、ミーティア姫を……」と呟いて、文官がよろよろと後退りをする。
「そんな方に姫様をやるわけにはいかないから、私が代わりになるってことです。ご理解いただけました?」
「副隊長様……。ですがあなたは、近衛隊長と将来を約束されていたのでは……」
「それは姫様に任せました! 姫様とエイトなら大丈夫ですよ、付き合いも長いですし。ね、姫様」
「……ええ。そうね……」
曖昧な微笑みを浮かべた姫様が、私に何かを言いかけて──。
それからなんでもないと首を振った。
それはもう聞き返さないほうがいいと察したので、私は自分の服の紐に手をかけた。
これでいい。
これでいいはずなんだ。
私の命はトロデーンの幸せのためにある。
最後に姫様の役に立てるなら、私が生き返った意味もあったんだと思う。
姫様の服に袖を通して、私の服に着替えた姫様と見つめ合う。
「どうかエイトとお幸せに」
「……あなたも。どうか元気でね、レイラ」
姫様が部屋を出ていく。
ちらっと見えた外は、もうすっかり夜だった。
みんなはもう休んだ頃だろうか。
ヤンガスとゼシカには、ククールから話があるはず。
エイトは……最後まで知らないほうが幸せかもな。
……しかし化粧をしたら私も綺麗になれるもんだ。
明日の準備を手伝ってくれる使用人たちくらいなら、騙し通せそうだな。
