78章
夢小説設定
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花瓶に花を挿して、リボンを結ぶ。
白い花に、白いリボン。
色の統一感もあっていい感じだ。
夕方になって詰所へ向かうと、ちょうど任務を終えて戻ってくる途中のレイラが見えた。
「レイラ」
「あ、エイト!」
ぱっと笑顔になったレイラが、手を振ってこちらへ走ってくる。
後ろ手に花瓶を隠したままレイラを待つと、レイラはブロンズキャップを外して小脇に抱え、僕の前に立った。
「どうしたの?」
「レイラに会いたくなって」
ストレートに伝えると、レイラの頬が赤くなる。
それでも嬉しそうにはにかんで、兵舎へと走っていった。
「着替えてくるから待ってて!」
「うん、ゆっくりでいいよ」
パタンと兵舎に繋がるドアが閉じる。
交代で警備にあたる同僚や先輩後輩が、僕を見て「休日返上?」と茶化してくるから、「休日謳歌中です」と返しておいた。
宿舎のドアが開いて、レイラが飛び出してくる。
白のチュニックにターコイズグリーンのジャンパースカート。
あの旅でレイラが着ていた服だ。
ゆっくりでいいって言ったのに、と笑うと、レイラはちょっと膨れた。
「待たせちゃ悪いと思って急いできたのに」
「ゆっくりでいいよって言っただろ」
「え、言った?」
「聞こえてなかったのか、それはごめんね。さてと……ちょっと歩かない?」
「どこまで?」
「んー、海辺までかな」
剣を持ってきてない、と表情を曇らせるレイラにまた笑って、城門へと歩く。
門が閉まるまではまだ時間があるから、外に出ても大丈夫だ。
表の城門が閉まった時は、裏の通用門から入ればいい。
「トヘロス」
唱えた瞬間、魔物達がサッと居なくなった。
ラプソーンを倒した影響だと思うけど、魔物たちが人間を襲うことはめっきり減ったように感じる。
旅に出た頃はスライムだって襲ってきたのに、今や道端で遭遇しても向こうが茂みに逃げ去っていくくらいだ。
これは僕だけじゃなくて、商人たちも口にしていたことだから、きっと世界は良い方向に変わりつつあるんだろう。
「行こうか」
「うん」
城を出て右手に曲がって、海のほうへと降りていく。
レイラは今日あったことを、楽しそうに話してくれた。
視線が僕の背中の方に向けられそうになるのは、体の向きを変えてどうにか阻止している。
サプライズのつもりだから、まだ知られるわけにはいかないんだ。
「ねぇエイト、ずっと気になってたんだけど、なに持ってるの?」
「内緒」
「えー? 覗こうとしても隠されるし、気になるじゃん」
「もうすぐ分かるよ」
海辺に着いて、「わぁ……!」と歓声を上げたレイラが砂浜へと降りていく。
押し寄せては返す波と、オレンジ色の空、夕陽を跳ね返す海。
やっぱりトロデーンの海は綺麗だ。
前のレイラだったら、お構いなしに僕へ向けて海水をかけただろうに、今は遠い眼差しで海を眺めるだけ。
「綺麗だね」
「うん。夕日が反射してキラキラしてる」
「前のレイラだったら、僕に水を掛けてただろうな」
「さすがにもうしないよ」
「どうして?」
「……ここを出るまでは子供っぽかっただけ。色んなものを見て、色んなことを経験して……もう無邪気な私じゃいられないなって」
「どうして」
「一回死んじゃったからね。本当なら、ここに私はいないはずだし、復活したトロデーン城で前みたいに暮らすこともできないはずだった。神様がくれたオマケみたいなもんだから。……でも、それでもいい。こうして平和になった世界の中で生きられるだけで、十分幸せだよ」
ぐっと言いたいことを堪える。
さざ波が浜辺に押し寄せて音を立てては、消えていく。
それは確かに、幸せなことなのかもしれないけど──それだけで充分だなんて、そんなの。
そんなの、寂しいじゃないか。
「……レイラ」
「ん?」
「レイラはそれだけで満足かもしれないけど……。僕は、それだけじゃ足りないよ」
「……エイト?」
「どう言おうか、ずっと迷ってたけど……」
そう言って、ずっと後ろ手で持っていた花瓶を差し出す。
ストックが挿してある花瓶を見て、レイラがはっと顔色を変えた。
「僕と一緒に、もっと幸せなこれからを、歩んでくれませんか」
「エイト……それって」
「レイラが生きているのは、神様がくれたオマケなんかじゃない。あんな終わり方を受け入れたくなかった僕の……僕たち四人が掴んだ、たった一つの希望なんだ。神様なんか関係ない。僕がレイラに生きていてほしくて、僕がレイラの死を認めたくなくて、だから僕がレイラを蘇らせた。……レイラのことを、誰よりも愛しているから」
レイラの瞳が僕と手元の花を何度も往復する。
そうして震えた唇が、「いいの?」と呟いた。
「私、生きてるだけで幸せだって、これは奇跡だって思って……。少しでもこの奇跡が長く続いてほしいから、私、生きてること以上は望まないようにしようって……。……なのにいいの? 私、エイトと、これから先も幸せでいていいの?」
「もちろん。だってレイラは誰よりも頑張ったじゃないか。神様がくれたオマケなんかじゃなくて、神様からのご褒美なんだよ。……二人で、幸せになろう」
レイラの目尻が涙が溢れて、頬を伝っていく。
何度も手の甲で拭うけど、レイラの涙は止まるどころか増える一方だ。
静かにしゃくり上げながら何度も頷くレイラへ、もう一度、スタックの花瓶を差し出した。
「レイラ。──僕と、結婚してください」
「……はい……っ!」
顔を真っ赤にして大泣きするレイラが、スタックの花瓶を受け取る。
そうしてその花をじっと眺め、ぶわっと更に涙が増えた。
「泣かせるつもりはなかったのに……」
「ひっ、ぐすっ、ごめ……。う、うれし、くて、エイトと結婚、できるとか、思ってなかった、から」
「思っててくれないと嫌だな。これでも十年間、ずっとレイラのことが大好きだったんだよ」
「ずる、い、ずるい……エイトがずるい〜……」
「っふ……はは、そっか。それじゃあもうひとつ、ズルしちゃおうかな」
レイラの左手をそっと持ち上げて、薬指にそれを通す。
魔法を使いこなすレイラのためになればと思って錬金していた──女神の指輪。
「こ、これ」
「オリハルコンを魔物からもぎ取るのに、一日かかっちゃったけど……受け取って。婚約指輪のつもりなんだけど、その、雰囲気とか台無しにしちゃったらごめん」
「そんなこと、ない。嬉しい……ありが、と……う、うぅぅ……」
右手で花瓶を握り締めて、左手を僕に握られたままで、涙を拭けないレイラが更にぼたぼたと大粒の涙を零した。
空いている左手で涙を拭いてやって、そっと上を向かせる。
そうしてレイラへの想いを込めて、キスをした。
風が吹いてレイラの髪を揺らす。
ゆっくりと唇が離れて、レイラの潤んだ瞳が僕を見上げる。
その瞳が瞼の奥に隠れて、また唇が重なった。
これは夢じゃない、僕達の現実だ。
僕たちはこれから二人で、一緒に幸せになる。
僕達が掴んだ幸せの中で……いつまでも──。
白い花に、白いリボン。
色の統一感もあっていい感じだ。
夕方になって詰所へ向かうと、ちょうど任務を終えて戻ってくる途中のレイラが見えた。
「レイラ」
「あ、エイト!」
ぱっと笑顔になったレイラが、手を振ってこちらへ走ってくる。
後ろ手に花瓶を隠したままレイラを待つと、レイラはブロンズキャップを外して小脇に抱え、僕の前に立った。
「どうしたの?」
「レイラに会いたくなって」
ストレートに伝えると、レイラの頬が赤くなる。
それでも嬉しそうにはにかんで、兵舎へと走っていった。
「着替えてくるから待ってて!」
「うん、ゆっくりでいいよ」
パタンと兵舎に繋がるドアが閉じる。
交代で警備にあたる同僚や先輩後輩が、僕を見て「休日返上?」と茶化してくるから、「休日謳歌中です」と返しておいた。
宿舎のドアが開いて、レイラが飛び出してくる。
白のチュニックにターコイズグリーンのジャンパースカート。
あの旅でレイラが着ていた服だ。
ゆっくりでいいって言ったのに、と笑うと、レイラはちょっと膨れた。
「待たせちゃ悪いと思って急いできたのに」
「ゆっくりでいいよって言っただろ」
「え、言った?」
「聞こえてなかったのか、それはごめんね。さてと……ちょっと歩かない?」
「どこまで?」
「んー、海辺までかな」
剣を持ってきてない、と表情を曇らせるレイラにまた笑って、城門へと歩く。
門が閉まるまではまだ時間があるから、外に出ても大丈夫だ。
表の城門が閉まった時は、裏の通用門から入ればいい。
「トヘロス」
唱えた瞬間、魔物達がサッと居なくなった。
ラプソーンを倒した影響だと思うけど、魔物たちが人間を襲うことはめっきり減ったように感じる。
旅に出た頃はスライムだって襲ってきたのに、今や道端で遭遇しても向こうが茂みに逃げ去っていくくらいだ。
これは僕だけじゃなくて、商人たちも口にしていたことだから、きっと世界は良い方向に変わりつつあるんだろう。
「行こうか」
「うん」
城を出て右手に曲がって、海のほうへと降りていく。
レイラは今日あったことを、楽しそうに話してくれた。
視線が僕の背中の方に向けられそうになるのは、体の向きを変えてどうにか阻止している。
サプライズのつもりだから、まだ知られるわけにはいかないんだ。
「ねぇエイト、ずっと気になってたんだけど、なに持ってるの?」
「内緒」
「えー? 覗こうとしても隠されるし、気になるじゃん」
「もうすぐ分かるよ」
海辺に着いて、「わぁ……!」と歓声を上げたレイラが砂浜へと降りていく。
押し寄せては返す波と、オレンジ色の空、夕陽を跳ね返す海。
やっぱりトロデーンの海は綺麗だ。
前のレイラだったら、お構いなしに僕へ向けて海水をかけただろうに、今は遠い眼差しで海を眺めるだけ。
「綺麗だね」
「うん。夕日が反射してキラキラしてる」
「前のレイラだったら、僕に水を掛けてただろうな」
「さすがにもうしないよ」
「どうして?」
「……ここを出るまでは子供っぽかっただけ。色んなものを見て、色んなことを経験して……もう無邪気な私じゃいられないなって」
「どうして」
「一回死んじゃったからね。本当なら、ここに私はいないはずだし、復活したトロデーン城で前みたいに暮らすこともできないはずだった。神様がくれたオマケみたいなもんだから。……でも、それでもいい。こうして平和になった世界の中で生きられるだけで、十分幸せだよ」
ぐっと言いたいことを堪える。
さざ波が浜辺に押し寄せて音を立てては、消えていく。
それは確かに、幸せなことなのかもしれないけど──それだけで充分だなんて、そんなの。
そんなの、寂しいじゃないか。
「……レイラ」
「ん?」
「レイラはそれだけで満足かもしれないけど……。僕は、それだけじゃ足りないよ」
「……エイト?」
「どう言おうか、ずっと迷ってたけど……」
そう言って、ずっと後ろ手で持っていた花瓶を差し出す。
ストックが挿してある花瓶を見て、レイラがはっと顔色を変えた。
「僕と一緒に、もっと幸せなこれからを、歩んでくれませんか」
「エイト……それって」
「レイラが生きているのは、神様がくれたオマケなんかじゃない。あんな終わり方を受け入れたくなかった僕の……僕たち四人が掴んだ、たった一つの希望なんだ。神様なんか関係ない。僕がレイラに生きていてほしくて、僕がレイラの死を認めたくなくて、だから僕がレイラを蘇らせた。……レイラのことを、誰よりも愛しているから」
レイラの瞳が僕と手元の花を何度も往復する。
そうして震えた唇が、「いいの?」と呟いた。
「私、生きてるだけで幸せだって、これは奇跡だって思って……。少しでもこの奇跡が長く続いてほしいから、私、生きてること以上は望まないようにしようって……。……なのにいいの? 私、エイトと、これから先も幸せでいていいの?」
「もちろん。だってレイラは誰よりも頑張ったじゃないか。神様がくれたオマケなんかじゃなくて、神様からのご褒美なんだよ。……二人で、幸せになろう」
レイラの目尻が涙が溢れて、頬を伝っていく。
何度も手の甲で拭うけど、レイラの涙は止まるどころか増える一方だ。
静かにしゃくり上げながら何度も頷くレイラへ、もう一度、スタックの花瓶を差し出した。
「レイラ。──僕と、結婚してください」
「……はい……っ!」
顔を真っ赤にして大泣きするレイラが、スタックの花瓶を受け取る。
そうしてその花をじっと眺め、ぶわっと更に涙が増えた。
「泣かせるつもりはなかったのに……」
「ひっ、ぐすっ、ごめ……。う、うれし、くて、エイトと結婚、できるとか、思ってなかった、から」
「思っててくれないと嫌だな。これでも十年間、ずっとレイラのことが大好きだったんだよ」
「ずる、い、ずるい……エイトがずるい〜……」
「っふ……はは、そっか。それじゃあもうひとつ、ズルしちゃおうかな」
レイラの左手をそっと持ち上げて、薬指にそれを通す。
魔法を使いこなすレイラのためになればと思って錬金していた──女神の指輪。
「こ、これ」
「オリハルコンを魔物からもぎ取るのに、一日かかっちゃったけど……受け取って。婚約指輪のつもりなんだけど、その、雰囲気とか台無しにしちゃったらごめん」
「そんなこと、ない。嬉しい……ありが、と……う、うぅぅ……」
右手で花瓶を握り締めて、左手を僕に握られたままで、涙を拭けないレイラが更にぼたぼたと大粒の涙を零した。
空いている左手で涙を拭いてやって、そっと上を向かせる。
そうしてレイラへの想いを込めて、キスをした。
風が吹いてレイラの髪を揺らす。
ゆっくりと唇が離れて、レイラの潤んだ瞳が僕を見上げる。
その瞳が瞼の奥に隠れて、また唇が重なった。
これは夢じゃない、僕達の現実だ。
僕たちはこれから二人で、一緒に幸せになる。
僕達が掴んだ幸せの中で……いつまでも──。
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