77章
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陛下の兄君が私の父だった、とエイトが言ったようなら気がするけど、聞き間違いの可能性が高い。
そんなはずはなかろう、さすがにそれは冗談だよ。
「えーっとぉ……聞き間違いかなぁ? 陛下の兄君が私の父親だって言った? いやまさかねぇ! そんなこと言ってないよねぇ!」
「言ったよ?」
「そこは嘘でも『言ってないよ』って言うところだよ」
「嘘なんかつかないよ。本当のことなのに」
本当のことかぁ……そっかァ……。
いっそ嘘だったら笑えたのにな……。
まさか本当に私の父親が、陛下の兄君だとは……。
……ん? ということはつまり……。
「だからレイラとミーティアは従姉妹なんだって」
「え、えぇぇ──!? ど、どうしよう……姫様に申し訳なくなってきた……! こんな品性の欠片もない人間が従姉で申し訳なくなってきた!」
「そうかな? レイラは愛嬌があって可愛いと思うけど」
「ふぁ……っ!?」
つ、とエイトの指が私の身体をなぞる。
擽ったさで変な声が出てしまって、咄嗟に手で口を覆った。
たぶん聞かれたよね、これ。
こんな至近距離にいて聞こえないはずないもんね。
「ねぇ、擽ったいってば……エイト、ふ、あは……っ!」
「だめ?」
「……もう、しょうがないなぁ」
目を閉じてすぐ、甘い口付けが落ちてきた。
エイトの匂いが濃くて、心臓がドキドキ言ってる。
触れ合うだけのキスが深くなっていって、無意識にエイトの首の後ろに手を回していた。
キスだけで頭の中がとろんとしてきて、気持ちいい。
「……エイト」
「レイラ、かわいい」
「はぇ……? 私、可愛いの……?」
「自覚なかったの?」
「や、うーん……。顔が整ってるほうだって自覚はあるけど……。かわいいかどうかは、あんまり……。興味がなかったって言うほうが正しいかも……」
「そうだったの? 僕は初めてレイラと会った時から、可愛いなって思ってたのに」
「十年間の片想い……すごいな」
十年の片想いって、ここまで人を盲目にさせるものなんだな。
さすがにちょっと引いてる。
ヒョロガリの小娘を相手に可愛いとはならんだろ、普通。
でもエイトが言うと、本気でそう思ってるんだろうなってなるから不思議だよなぁ。
私のことがどれだけ好きなのかは、旅の中で充分すぎるくらい感じたもんね。
「生き返って初めてだから……優しくして」
「もちろん。レイラの嫌なことなんてしないって約束する」
「……ん。じゃあ……エイトの恋心十年分、私にください」
エイトが見事に固まった。
そこまで変なことを言ったつもりはなかったのに。
バカでかいため息をついたエイトが、私の口を強引に塞いできた。
息を吸うタイミングを忘れてしまったせいで、エイトとのキスが苦しくなってくる。
エイトの胸を叩いて抗議してようやく、エイトが渋々と顔を離してくれた。
「やなこと、しないって、ゆった」
「レイラが僕の理性を煽るようなこと言うからいけないんだよ。酷いことされたいの」
「はぁ!? そ、そんなことしてないし、酷いことするなら今日はやらない!」
「でも僕の恋心十年分、欲しいんだろ?」
「う、うぐぅ……」
言葉の裏で「吐いた唾を飲むのか」と問われたような気がした。
そういう……つもりではないけど……。
なんか、その……私って自分で思った以上に爆弾発言をかましたんだなって……。
……いや、もう何も言うまい……。
身体から力を抜いて、降ってきたキスを受け止める。
もう好きにしてくれと呟いて、私はエイトに向かって手を伸ばした──。
* * *
「──言い訳があるなら聞くぜぇ?」
「申し訳ありませんでした……」
日がすっかり昇った翌朝。
ガッツリ寝坊させてくれた上に、足腰も立たなくしてくれたエイトに向かって、私は開口一番、恨み言を吐いた。
なお私を抱き潰した張本人はしっかり一番鶏の鳴き声で起きたし、いつの間にか私の非番をもぎ取ってきていた。
できる恋人なのかそうじゃないんだか、判断に苦しむよ私は。
「今までの反動が一気にきちゃって……。本当にごめん……」
「しっかり反省してくれたまえよ、エイトくん……」
口では咎めつつも、内心ではそこまで嫌に思っていないから、どうにも顔と言葉が一致しない。
そりゃあ……好きな人にあれだけ求められたら、誰だって嬉しいというか……。
……いらんこと墓穴を掘りそうだから言わないでおこう。
「それよりも……今日でゼシカたち、帰っちゃうんだよね?」
「うん。ゼシカはリーザス村に帰るって。ヤンガスも結局、パルミドに戻るみたいだった」
「山賊稼業から足を洗いたくてパルミドを出てったのにねぇ。……あれ? ククールは?」
「……さあ」
エイトの無言の間が雄弁に本音を語っていた。
あのバカリスマ、どこに行くつもりなんだろうな。
ともあれ、トロデーン城に残る私たちとはここでお別れだから、お見送りはしないと。
イテテテ……と痛む腰を押さえながら起き上がって、床に散らかしたままの下着を拾……おうとすると、エイトの視線がちらちらとこちらを見ているのが気になった。
「……どうかした?」
「えっ、いや、なんでもない!」
「んー? どこ見てたのかなー?」
「み、見てない! そりゃゼシカよりは慎ましいとは思ってるけど、でもやっぱり人並みよりは大きいなって……!」
「全部言うじゃん」
「……あ」
わぁすごい、ここまでのおバカさんは初めて見た。
顔を赤くしたり青くしたり、やっぱり赤くしたエイトの腕をツンツンとつつく。
顔がニヤけている自覚はあります。
「えーなに? エイトってばムッツリなの?」
「な! ち、違う!」
「違わんだろ流石に。自覚ないんかい」
どう考えたってエイトはムッツリスケベだ。
諦めてその称号を背負ってくれ。
あんまり揶揄うとやり返されるから、程々に留めておいて、クローゼットに押し込んでいた私服に着替えていく。
部屋を出ようとドアノブに手をかけてから、ちょっと考えて──それから手を離した。
すぐ後ろにいたエイトのほうを振り返って、思いっきり抱き着く。
「どうしたの?」
「んーん。大好きって言いたかったの。あとはエイトの補充」
エイトは今日から近衛の仕事に復帰するから、一緒にはいられない。
夜までのお預けになるから、今のうちにエイトの成分を補充しようという魂胆だ。
「……ん、うん。これでよし。さ、早く行こう! ゼシカたち、帰っちゃうよ!」
「うん。あ、ほら、走らなくていいから──」
エイトの手を引っ張って、兵舎の出入口から外へと飛び出す。
繋いだ手は温かくて、空も気持ちのいい青空が広がっている。
ここからが、私たちの新しい日常のスタート。
平和になったこの世界で、私たちは一緒に生きていくんだ──。
そんなはずはなかろう、さすがにそれは冗談だよ。
「えーっとぉ……聞き間違いかなぁ? 陛下の兄君が私の父親だって言った? いやまさかねぇ! そんなこと言ってないよねぇ!」
「言ったよ?」
「そこは嘘でも『言ってないよ』って言うところだよ」
「嘘なんかつかないよ。本当のことなのに」
本当のことかぁ……そっかァ……。
いっそ嘘だったら笑えたのにな……。
まさか本当に私の父親が、陛下の兄君だとは……。
……ん? ということはつまり……。
「だからレイラとミーティアは従姉妹なんだって」
「え、えぇぇ──!? ど、どうしよう……姫様に申し訳なくなってきた……! こんな品性の欠片もない人間が従姉で申し訳なくなってきた!」
「そうかな? レイラは愛嬌があって可愛いと思うけど」
「ふぁ……っ!?」
つ、とエイトの指が私の身体をなぞる。
擽ったさで変な声が出てしまって、咄嗟に手で口を覆った。
たぶん聞かれたよね、これ。
こんな至近距離にいて聞こえないはずないもんね。
「ねぇ、擽ったいってば……エイト、ふ、あは……っ!」
「だめ?」
「……もう、しょうがないなぁ」
目を閉じてすぐ、甘い口付けが落ちてきた。
エイトの匂いが濃くて、心臓がドキドキ言ってる。
触れ合うだけのキスが深くなっていって、無意識にエイトの首の後ろに手を回していた。
キスだけで頭の中がとろんとしてきて、気持ちいい。
「……エイト」
「レイラ、かわいい」
「はぇ……? 私、可愛いの……?」
「自覚なかったの?」
「や、うーん……。顔が整ってるほうだって自覚はあるけど……。かわいいかどうかは、あんまり……。興味がなかったって言うほうが正しいかも……」
「そうだったの? 僕は初めてレイラと会った時から、可愛いなって思ってたのに」
「十年間の片想い……すごいな」
十年の片想いって、ここまで人を盲目にさせるものなんだな。
さすがにちょっと引いてる。
ヒョロガリの小娘を相手に可愛いとはならんだろ、普通。
でもエイトが言うと、本気でそう思ってるんだろうなってなるから不思議だよなぁ。
私のことがどれだけ好きなのかは、旅の中で充分すぎるくらい感じたもんね。
「生き返って初めてだから……優しくして」
「もちろん。レイラの嫌なことなんてしないって約束する」
「……ん。じゃあ……エイトの恋心十年分、私にください」
エイトが見事に固まった。
そこまで変なことを言ったつもりはなかったのに。
バカでかいため息をついたエイトが、私の口を強引に塞いできた。
息を吸うタイミングを忘れてしまったせいで、エイトとのキスが苦しくなってくる。
エイトの胸を叩いて抗議してようやく、エイトが渋々と顔を離してくれた。
「やなこと、しないって、ゆった」
「レイラが僕の理性を煽るようなこと言うからいけないんだよ。酷いことされたいの」
「はぁ!? そ、そんなことしてないし、酷いことするなら今日はやらない!」
「でも僕の恋心十年分、欲しいんだろ?」
「う、うぐぅ……」
言葉の裏で「吐いた唾を飲むのか」と問われたような気がした。
そういう……つもりではないけど……。
なんか、その……私って自分で思った以上に爆弾発言をかましたんだなって……。
……いや、もう何も言うまい……。
身体から力を抜いて、降ってきたキスを受け止める。
もう好きにしてくれと呟いて、私はエイトに向かって手を伸ばした──。
* * *
「──言い訳があるなら聞くぜぇ?」
「申し訳ありませんでした……」
日がすっかり昇った翌朝。
ガッツリ寝坊させてくれた上に、足腰も立たなくしてくれたエイトに向かって、私は開口一番、恨み言を吐いた。
なお私を抱き潰した張本人はしっかり一番鶏の鳴き声で起きたし、いつの間にか私の非番をもぎ取ってきていた。
できる恋人なのかそうじゃないんだか、判断に苦しむよ私は。
「今までの反動が一気にきちゃって……。本当にごめん……」
「しっかり反省してくれたまえよ、エイトくん……」
口では咎めつつも、内心ではそこまで嫌に思っていないから、どうにも顔と言葉が一致しない。
そりゃあ……好きな人にあれだけ求められたら、誰だって嬉しいというか……。
……いらんこと墓穴を掘りそうだから言わないでおこう。
「それよりも……今日でゼシカたち、帰っちゃうんだよね?」
「うん。ゼシカはリーザス村に帰るって。ヤンガスも結局、パルミドに戻るみたいだった」
「山賊稼業から足を洗いたくてパルミドを出てったのにねぇ。……あれ? ククールは?」
「……さあ」
エイトの無言の間が雄弁に本音を語っていた。
あのバカリスマ、どこに行くつもりなんだろうな。
ともあれ、トロデーン城に残る私たちとはここでお別れだから、お見送りはしないと。
イテテテ……と痛む腰を押さえながら起き上がって、床に散らかしたままの下着を拾……おうとすると、エイトの視線がちらちらとこちらを見ているのが気になった。
「……どうかした?」
「えっ、いや、なんでもない!」
「んー? どこ見てたのかなー?」
「み、見てない! そりゃゼシカよりは慎ましいとは思ってるけど、でもやっぱり人並みよりは大きいなって……!」
「全部言うじゃん」
「……あ」
わぁすごい、ここまでのおバカさんは初めて見た。
顔を赤くしたり青くしたり、やっぱり赤くしたエイトの腕をツンツンとつつく。
顔がニヤけている自覚はあります。
「えーなに? エイトってばムッツリなの?」
「な! ち、違う!」
「違わんだろ流石に。自覚ないんかい」
どう考えたってエイトはムッツリスケベだ。
諦めてその称号を背負ってくれ。
あんまり揶揄うとやり返されるから、程々に留めておいて、クローゼットに押し込んでいた私服に着替えていく。
部屋を出ようとドアノブに手をかけてから、ちょっと考えて──それから手を離した。
すぐ後ろにいたエイトのほうを振り返って、思いっきり抱き着く。
「どうしたの?」
「んーん。大好きって言いたかったの。あとはエイトの補充」
エイトは今日から近衛の仕事に復帰するから、一緒にはいられない。
夜までのお預けになるから、今のうちにエイトの成分を補充しようという魂胆だ。
「……ん、うん。これでよし。さ、早く行こう! ゼシカたち、帰っちゃうよ!」
「うん。あ、ほら、走らなくていいから──」
エイトの手を引っ張って、兵舎の出入口から外へと飛び出す。
繋いだ手は温かくて、空も気持ちのいい青空が広がっている。
ここからが、私たちの新しい日常のスタート。
平和になったこの世界で、私たちは一緒に生きていくんだ──。
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