75章
夢小説設定
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そこは右も左も、上も下もなかった。
完全な黒だけがあって、それ以外は何も無い。
ただ直感的に、ああ私は消えるんだなと、それだけは分かっていた。
封印に自分自身を使ったんだから、消えて当たり前。
もうみんなと笑ったり、美味しいご飯を食べたり、綺麗な夜空を見上げながら野宿をしたりすることも無い。
……いや訂正、言うてそんなに野宿はしてなかった。
だけどここに来て、賢者の末裔たちの気配が途絶えてしまった。
まあ彼らはあのまま神の御許へ向かったんだろう。
どこにも行けず消えてしまうだけの私とは、行き先が違う。それだけの話だ。
思えば短い人生だった。
霊導者ヨシュアの一族、トロデーン王国貴族ロアナス家の一人娘として生を受けながら、わずか九歳で孤児となり、トロデーン城で保護されたことが、私の人生の始まりだったように思う。
あの時、今にも死にそうだった私を見つけてくれたのは、木の実を拾いに外へ出ていたエイトだったと聞いた。
私の容態が快復するまで看病をしてくれたのも。
本当ならその後、孤児院に預けられるはずだったらしいけど、それに反対したのが姫様。
結果として私はエイトと同じく、トロデーン城で小間使いとして働くことになって……先に近衛兵として取り立てられたエイトを追いかけるように、翌年には私も近衛兵に。
この人事も姫様が絡んでいるとかいないとか、噂を聞いたことがある。
私たち三人は幼馴染みとして、兄妹同然に育ってきたから、私だけが離れたところにいるのが、姫様にとっては嫌だったのかもしれない。
でも私が本当に担った仕事は、とても褒められたものではなかった。
自分がしてきたことの始末は付けないといけないと思っていたし、今回の件で償いにしたい気持ちはある。
……許してくれるかな。
いったい私は誰に許しを乞うているんだろう。
神様か、それとも私が殺した人たちか。
否、消えていくだけの私には、神も彼らも、赦しを与えることなどできないだろう。
(……だけど、もし、私が蘇る奇跡が起きたなら)
その時は、神が赦しを与えたのだと思うことにしよう。
生まれ変わったつもりで、平和な世の中を生きていきたいな。
もう自分を責めることなんてしないから、エイトと一緒に幸せになりたい。
幸せになりたいなんて烏滸がましいかもしれないな。
少しでも長く、平和な世界を生きていたい。
うん、それがいい、私の願いはそれにしよう。
凪いだ心地で揺蕩っていると、不意にオーブの光が現れた。
八つの光は、私をどこかへ誘おうとしている。
なんだ、かつての賢者たちじゃないか。
わざわざ私を迎えに来てくれたのか、ご苦労なことだ。
……結局、奇跡は起きなかったな。
まぁそれも当然か。
私みたいな人間に、神が赦しなんて与えてくれるはずないもんね。
賢者たちの導きに従おうとしたとき、何かが引っかかったように私を引き留めた。
それは神鳥の杖の力。
なぜか杖の力は、必死に私を繋ぎ止めていたいようだった。
どうにか逃れようともがけばもがくほど、引き留める力が強くなる。
これは困った、賢者たちの待つあちら側へ行きたいのに、これじゃどこへも行けない。
賢者たちはしばらくそこで私を待っていたけれど、やがてどこかへと去ってしまった。
困惑したのは私のほうだ。
このまま消えることも神の御許へ行くこともできず、杖の中に閉じ込められていろってこと?
それはあんまりじゃない!?
もがくのも疲れたような気がして、また私は黒の世界を漂った。
エイトたちはどうなっただろう。
暗黒神は倒せたんだろうか。
城は、陛下と姫様は、城の人たちは元に戻ったのかな。
ここからではそれを確かめる術もない。
もういっそ眠りに就いてしまうか、と目を閉じかけた──肉体は消えているので、その喩えが近かっただけだ──その時。
『レイラ、帰っておいで──』
どこからともなく、エイトの声が私にそう呼びかけた。
帰る? いったいどこに、どうやって。
疑問だけが増えていく私の目の前に、細く光の筋が現れた。
口があれば「なんじゃこりゃあ!!」と言っていたはずだ。
現に今もなんじゃこりゃあと思っている。
緊迫感がないってククールに怒られたなぁ、これ。
光の筋を追いかけようとすると、神鳥の杖はあっさりと私を離してくれた。
なんだ、この道を歩かせたかったのか。
ふわふわと漂いながら、光の筋の上を泳いでいく。
どこまで続いているんだろう、これ。
ふわふわと漂っていたはずなのに、気が付くと私は、自分の足で光の道を歩いていた。
腕を振っていることに気付いた。
呼吸していた。
そして──泣いていた。
ああ神様、私の罪をお赦しになったのですか。
私に生きてよいとおっしゃるのですか。
大切な人たちが生きる世界で、私も生きてよいのですか。
(神よ、あなたのご慈悲に感謝します)
もう二度と自分を蔑ろになんてしない。
私は生きていく。
私たちを待つ人たちと、あのあたたかくて優しい世界で。
「みんな、待ってて……! 今、帰るから! みんなのところに……! エイトのところに、帰るから!!」
どこまでも伸びる光の道を、私は走った。
走って、走って──そうして視界も体も何もかもが、真っ白な光に包まれて──。
そうして、私は──。
完全な黒だけがあって、それ以外は何も無い。
ただ直感的に、ああ私は消えるんだなと、それだけは分かっていた。
封印に自分自身を使ったんだから、消えて当たり前。
もうみんなと笑ったり、美味しいご飯を食べたり、綺麗な夜空を見上げながら野宿をしたりすることも無い。
……いや訂正、言うてそんなに野宿はしてなかった。
だけどここに来て、賢者の末裔たちの気配が途絶えてしまった。
まあ彼らはあのまま神の御許へ向かったんだろう。
どこにも行けず消えてしまうだけの私とは、行き先が違う。それだけの話だ。
思えば短い人生だった。
霊導者ヨシュアの一族、トロデーン王国貴族ロアナス家の一人娘として生を受けながら、わずか九歳で孤児となり、トロデーン城で保護されたことが、私の人生の始まりだったように思う。
あの時、今にも死にそうだった私を見つけてくれたのは、木の実を拾いに外へ出ていたエイトだったと聞いた。
私の容態が快復するまで看病をしてくれたのも。
本当ならその後、孤児院に預けられるはずだったらしいけど、それに反対したのが姫様。
結果として私はエイトと同じく、トロデーン城で小間使いとして働くことになって……先に近衛兵として取り立てられたエイトを追いかけるように、翌年には私も近衛兵に。
この人事も姫様が絡んでいるとかいないとか、噂を聞いたことがある。
私たち三人は幼馴染みとして、兄妹同然に育ってきたから、私だけが離れたところにいるのが、姫様にとっては嫌だったのかもしれない。
でも私が本当に担った仕事は、とても褒められたものではなかった。
自分がしてきたことの始末は付けないといけないと思っていたし、今回の件で償いにしたい気持ちはある。
……許してくれるかな。
いったい私は誰に許しを乞うているんだろう。
神様か、それとも私が殺した人たちか。
否、消えていくだけの私には、神も彼らも、赦しを与えることなどできないだろう。
(……だけど、もし、私が蘇る奇跡が起きたなら)
その時は、神が赦しを与えたのだと思うことにしよう。
生まれ変わったつもりで、平和な世の中を生きていきたいな。
もう自分を責めることなんてしないから、エイトと一緒に幸せになりたい。
幸せになりたいなんて烏滸がましいかもしれないな。
少しでも長く、平和な世界を生きていたい。
うん、それがいい、私の願いはそれにしよう。
凪いだ心地で揺蕩っていると、不意にオーブの光が現れた。
八つの光は、私をどこかへ誘おうとしている。
なんだ、かつての賢者たちじゃないか。
わざわざ私を迎えに来てくれたのか、ご苦労なことだ。
……結局、奇跡は起きなかったな。
まぁそれも当然か。
私みたいな人間に、神が赦しなんて与えてくれるはずないもんね。
賢者たちの導きに従おうとしたとき、何かが引っかかったように私を引き留めた。
それは神鳥の杖の力。
なぜか杖の力は、必死に私を繋ぎ止めていたいようだった。
どうにか逃れようともがけばもがくほど、引き留める力が強くなる。
これは困った、賢者たちの待つあちら側へ行きたいのに、これじゃどこへも行けない。
賢者たちはしばらくそこで私を待っていたけれど、やがてどこかへと去ってしまった。
困惑したのは私のほうだ。
このまま消えることも神の御許へ行くこともできず、杖の中に閉じ込められていろってこと?
それはあんまりじゃない!?
もがくのも疲れたような気がして、また私は黒の世界を漂った。
エイトたちはどうなっただろう。
暗黒神は倒せたんだろうか。
城は、陛下と姫様は、城の人たちは元に戻ったのかな。
ここからではそれを確かめる術もない。
もういっそ眠りに就いてしまうか、と目を閉じかけた──肉体は消えているので、その喩えが近かっただけだ──その時。
『レイラ、帰っておいで──』
どこからともなく、エイトの声が私にそう呼びかけた。
帰る? いったいどこに、どうやって。
疑問だけが増えていく私の目の前に、細く光の筋が現れた。
口があれば「なんじゃこりゃあ!!」と言っていたはずだ。
現に今もなんじゃこりゃあと思っている。
緊迫感がないってククールに怒られたなぁ、これ。
光の筋を追いかけようとすると、神鳥の杖はあっさりと私を離してくれた。
なんだ、この道を歩かせたかったのか。
ふわふわと漂いながら、光の筋の上を泳いでいく。
どこまで続いているんだろう、これ。
ふわふわと漂っていたはずなのに、気が付くと私は、自分の足で光の道を歩いていた。
腕を振っていることに気付いた。
呼吸していた。
そして──泣いていた。
ああ神様、私の罪をお赦しになったのですか。
私に生きてよいとおっしゃるのですか。
大切な人たちが生きる世界で、私も生きてよいのですか。
(神よ、あなたのご慈悲に感謝します)
もう二度と自分を蔑ろになんてしない。
私は生きていく。
私たちを待つ人たちと、あのあたたかくて優しい世界で。
「みんな、待ってて……! 今、帰るから! みんなのところに……! エイトのところに、帰るから!!」
どこまでも伸びる光の道を、私は走った。
走って、走って──そうして視界も体も何もかもが、真っ白な光に包まれて──。
そうして、私は──。
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