73章
夢小説設定
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トロデーン城には、色んなお客様が来る。
基本的には優しい人が多いけど、中には使用人を奴隷と勘違いするような人もいて……。
僕が仕事で失敗した相手も、そういう考えの人だった。
失敗したと言っても、危害を加えたわけじゃなくて、廊下でぶつかってしまった拍子に、ただ手に持っていた水が少しかかってしまっただけ。
僕も咄嗟に頭を下げて謝罪はしたけれど、その人の怒りは収まってくれなかった。
「小間使い風情が俺の服に水を掛けやがって! どこの家の出身だ! 直接文句を言いにいってやる!」
「申し訳ございません! この子は孤児でございまして、城の者達で面倒を見ておりまして……」
「……孤児だと? ハッ、道理で躾がなってねぇわけだ! 孤児を小間使いにするなんざ、トロデーン城の奴らの気が知れねぇな。死んだ親の顔が見てみたいもんだぜ」
僕はただ黙って頭を下げ続けた。
僕に両親がいないことで、城のみんなが悪く言われるのなら、僕はここにいるべきじゃない。
ここを出て行くしかない、でもどうやって生きていこう──そんなふうな絶望が、僕の心を蝕んでいく。
その時、だった。
「……謝ってください」
静かな怒りを湛えたレイラの声が、客人に向けられた。
通りかかったらしいレイラはそう言うと、僕とメイド長の前に立ちはだかって、客人と対峙した。
「あぁ? なんで俺が小間使い風情に謝らなきゃならねぇんだ? 俺が誰か分かってるのか」
「知りません。でもエイトに謝ってください!」
「レイラ、およし!」
「エイトはこの城で働くみんなの家族です! 私とエイトも家族です、私達はこのお城で育ちました! だから謝ってください!」
「……このガキ、どうやら教育が必要なようだな!」
「お客様、おやめください! 暴力はいけません!」
メイド長が止めるより先に、レイラの頬に客人の拳が入った。
殴られてよろめいたレイラが、尻もちをついて俯く。
それでもレイラは、「謝ってください」と、それだけを繰り返した。
「何の騒ぎじゃ」
「王様、申し訳ございません! 私の監督不行届です、この子達へのお咎めはご容赦くださいませ!」
「トロデ王、お気になさることではありませんぞ。なに、そこの小間使いがぶつかってきましてな。しかしさすがは孤児。育ちの悪さは、付け焼き刃の礼儀程度では隠せなかったようですなぁ。さっさと追い出したほうが、王の評判の為ですぞ。そこの小娘など、この私に謝れなどと申してきましてな。躾のために少々手荒なことになりましたが、まぁ所詮は孤児の小間使い。身分の差が歴然とした相手に食ってかかろうなどと、恥知らずにも程が──」
「──出てゆけ」
トロデ王が怒りに震えた声でそう命令した。
「王様、何卒お許しを」とメイド長が頭を下げる。
けれどトロデ王は首を振って僕とレイラを見、そして客人を見上げ、もう一度言った。
「出てゆけ。お主など、我が国の客人でも何でもないわい」
「な、なっ!? この俺に出て行けと申されるか!?」
「この子らは我が城で働く大事な家臣、言わば家族じゃ。それは無論、わしやミーティアも同じ。小間使いという立場ではあるが、我が子も同然じゃ。それを馬鹿にするなど、断じて許さん!」
毅然とした声がそう告げ、近衛兵が客人──だった者を連れて行く。
呆然とした僕達を見やるトロデ王の眼差しは、心配そうな色になっていた。
「やれやれ……彼奴め、おなごの顔に手を上げるとはなおのこと許せん奴じゃの。メイド長、急いでレイラを医務室へ連れてゆくのじゃ。レイラはしばらく安静にせい。なに、仕事はエイトがその分、頑張ってくれるわい」
「……はい」
俯いたレイラが小さく頷いて、ぶるぶると震え出す。
そうしてレイラは唇をぐっと引き結んで、ぼろぼろ泣いた。
立ち向かうのに相当な勇気を振り絞ったんだろうし、殴られたところだってものすごく痛かったはずだ。
それでもレイラは、僕のために怒ってくれた。
それが嬉しくて……同時に、勇敢すぎるこの子を、僕が守りたいって、強く思ったんだ。
だから数年後、ミーティア姫の意向で僕が近衛兵に取り立てられた時、レイラを守る力が手に入れられると思って、僕は喜んだ。
まさかその一年後、レイラまで近衛兵になるなんて思わなかったけど……。
誰かのために怒ることができる、優しくて強いあの子を、僕が一番そばで守る。
……絶対に守るんだって、あの日の僕に約束したんだ。
だけど僕は、約束を守れなかった。
小さい頃の自分に合わせる顔がないよ。
守ると決めた人を、世界の平和のために犠牲にするなんて。
本当に──腹が立つ。
基本的には優しい人が多いけど、中には使用人を奴隷と勘違いするような人もいて……。
僕が仕事で失敗した相手も、そういう考えの人だった。
失敗したと言っても、危害を加えたわけじゃなくて、廊下でぶつかってしまった拍子に、ただ手に持っていた水が少しかかってしまっただけ。
僕も咄嗟に頭を下げて謝罪はしたけれど、その人の怒りは収まってくれなかった。
「小間使い風情が俺の服に水を掛けやがって! どこの家の出身だ! 直接文句を言いにいってやる!」
「申し訳ございません! この子は孤児でございまして、城の者達で面倒を見ておりまして……」
「……孤児だと? ハッ、道理で躾がなってねぇわけだ! 孤児を小間使いにするなんざ、トロデーン城の奴らの気が知れねぇな。死んだ親の顔が見てみたいもんだぜ」
僕はただ黙って頭を下げ続けた。
僕に両親がいないことで、城のみんなが悪く言われるのなら、僕はここにいるべきじゃない。
ここを出て行くしかない、でもどうやって生きていこう──そんなふうな絶望が、僕の心を蝕んでいく。
その時、だった。
「……謝ってください」
静かな怒りを湛えたレイラの声が、客人に向けられた。
通りかかったらしいレイラはそう言うと、僕とメイド長の前に立ちはだかって、客人と対峙した。
「あぁ? なんで俺が小間使い風情に謝らなきゃならねぇんだ? 俺が誰か分かってるのか」
「知りません。でもエイトに謝ってください!」
「レイラ、およし!」
「エイトはこの城で働くみんなの家族です! 私とエイトも家族です、私達はこのお城で育ちました! だから謝ってください!」
「……このガキ、どうやら教育が必要なようだな!」
「お客様、おやめください! 暴力はいけません!」
メイド長が止めるより先に、レイラの頬に客人の拳が入った。
殴られてよろめいたレイラが、尻もちをついて俯く。
それでもレイラは、「謝ってください」と、それだけを繰り返した。
「何の騒ぎじゃ」
「王様、申し訳ございません! 私の監督不行届です、この子達へのお咎めはご容赦くださいませ!」
「トロデ王、お気になさることではありませんぞ。なに、そこの小間使いがぶつかってきましてな。しかしさすがは孤児。育ちの悪さは、付け焼き刃の礼儀程度では隠せなかったようですなぁ。さっさと追い出したほうが、王の評判の為ですぞ。そこの小娘など、この私に謝れなどと申してきましてな。躾のために少々手荒なことになりましたが、まぁ所詮は孤児の小間使い。身分の差が歴然とした相手に食ってかかろうなどと、恥知らずにも程が──」
「──出てゆけ」
トロデ王が怒りに震えた声でそう命令した。
「王様、何卒お許しを」とメイド長が頭を下げる。
けれどトロデ王は首を振って僕とレイラを見、そして客人を見上げ、もう一度言った。
「出てゆけ。お主など、我が国の客人でも何でもないわい」
「な、なっ!? この俺に出て行けと申されるか!?」
「この子らは我が城で働く大事な家臣、言わば家族じゃ。それは無論、わしやミーティアも同じ。小間使いという立場ではあるが、我が子も同然じゃ。それを馬鹿にするなど、断じて許さん!」
毅然とした声がそう告げ、近衛兵が客人──だった者を連れて行く。
呆然とした僕達を見やるトロデ王の眼差しは、心配そうな色になっていた。
「やれやれ……彼奴め、おなごの顔に手を上げるとはなおのこと許せん奴じゃの。メイド長、急いでレイラを医務室へ連れてゆくのじゃ。レイラはしばらく安静にせい。なに、仕事はエイトがその分、頑張ってくれるわい」
「……はい」
俯いたレイラが小さく頷いて、ぶるぶると震え出す。
そうしてレイラは唇をぐっと引き結んで、ぼろぼろ泣いた。
立ち向かうのに相当な勇気を振り絞ったんだろうし、殴られたところだってものすごく痛かったはずだ。
それでもレイラは、僕のために怒ってくれた。
それが嬉しくて……同時に、勇敢すぎるこの子を、僕が守りたいって、強く思ったんだ。
だから数年後、ミーティア姫の意向で僕が近衛兵に取り立てられた時、レイラを守る力が手に入れられると思って、僕は喜んだ。
まさかその一年後、レイラまで近衛兵になるなんて思わなかったけど……。
誰かのために怒ることができる、優しくて強いあの子を、僕が一番そばで守る。
……絶対に守るんだって、あの日の僕に約束したんだ。
だけど僕は、約束を守れなかった。
小さい頃の自分に合わせる顔がないよ。
守ると決めた人を、世界の平和のために犠牲にするなんて。
本当に──腹が立つ。
