72章
夢小説設定
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降り立ったのは、おじいさんの家の二階にある庭。
すごいな、竜神王……そんなところまで正確に僕らを送れるのか。
「おお、ここはまさに我が家ではないか。さすがは竜神王様。狙いが正確でらっしゃる。……さて、エイトよ。まずはお前に渡したい物がある。ついてまいれ」
おじいさんがそう言って家の中へ入っていく。
僕たちも一度顔を見合わせて、それから家の中へお邪魔した。
おじいさんはというと、部屋の中にある宝箱の鍵を開け、蓋を開けて、中から何かを取り出した。
受け取ったそれは指輪……アルゴンリングだ。
「それはお前の母ウィニアの形見。そしてお前の父エルトリオからウィニアに贈られた物なのじゃ。その指輪に嵌められた宝石には、お前も見覚えがあるのではないか? そう。それはアルゴンハート。お前の父親は、二十年前に姿を消したサザンビーク国のエルトリオ王子なのじゃ」
「……」
開いた口が塞がらない。
もうずっと開きっぱなしな気がする。
僕の母親が竜神族だってだけでも信じられないような事実なのに、その上さらに、父親がサザンビークのエルトリオ王子だなんて──。
普通はどっちかじゃないか!?
ぽかん……としてしまった僕らの前に、紙芝居がやってきた。
もちろん読み手はおじいさんだ。
描かれていたのは、竜神族の娘と、僕によく似た人間の男。
着ている服からして、明らかにサザンビークの王族だった。
……この人が、エルトリオ王子。
僕の父さん……。
そしてその横に描かれているのが、ウィニア──僕の母さん。
「我が娘ウィニアは、持ち前の好奇心から人間界を訪れ、そこで偶然、エルトリオ王子と出会った。やがて二人は互いを深く愛し合うようになる」
そう語り始めたおじいさんは、両親が手を握り合っている絵を、真っ二つに破った。
絵は握り締めた二人の手を引き裂くようにちぎられている。
「……それを引き裂いたのは、他でもない、このわしなのじゃ。その時はそれが正しいと思っておった。人間と竜神族とでは、幸せになれるはずがないと……。だが結局、わしの決断は自分の娘を不幸にしただけじゃった」
「……母さん」
「……ウィニアを連れ戻してから程なくして、竜神族の里のそばで、人間の亡骸が発見された」
絵が変わって、里へ至る道に倒れ尽きたエルトリオ王子が現れる。
まさか、あのお墓の場所──父さんは、あそこまで辿り着いていたんだ。
本当にあと少しのところで……。
「それはエルトリオじゃった。ウィニアを追ってこの里を目指した彼は、いま少しの所で力尽きたのだ」
……つまり、あそこまでひとりで登ってきたってこと、だよな?
僕ら四人がかりでも大変だったあの道を、たったひとりで!?
なんだか……父さんには一生勝てない気がする、気力とか純粋な実力とか、愛の力とか……。
絵が変わって、今度は母さんの部屋だ。
あの使用人の食事も受け付けず、嘆きに暮れている。
「その事を知った娘は、深く深く悲しみ、悲嘆のあまり徐々に身体を弱らせていった……。そしてその時既に、ウィニアはエルトリオの子……エイト、お前を身ごもっておったのじゃ。その事に気付いたウィニアは、周囲の反対を押し切って、産むことを決めた」
「そんな──じゃあ、ウィニアさんは……」
手のひらを握り締めていたせいか、爪が食い込んで痛い。
だけど母さんと父さんの胸の痛みは、こんなものじゃなかったはずだ。
どうしてこんな……救いのない結末にしかならなかったんだろう。
紙芝居の絵は、花を供えられた父さんの墓と、幼い僕を抱くおじいさんの姿。
……でも、母さんの墓は、天の祭壇に向かう途中にあったような──。
「だが衰弱していたあれの身体が、出産に耐えられるはずもなく、お前を産んだウィニアはそのまま……」
絵が変わる。
次の場面は、僕を囲んで長老たちが何事かを話し合う絵だ。
「こうして生まれてきた、人間と竜神族の血を引くエイトをどうすべきかが、長老会議で話し合われた。何年にも渡る長い議論の末、決められたのは、まだ幼いお前の記憶を封じ、この里から追放することだった」
「……つ、追放!? なんだってそんなことに……」
「無論わしは必死に反対したよ。だが一度下った決定が覆ることはなかった。この時ばかりは、わしも自らの無力さを呪ったものじゃよ……。やがて会議で決められた通り、お前は竜神王様の手によって記憶を封じられ、里を追放された」
やたら凛々しく描かれたおじいさんの絵が変わる。
……なんで自分のことだけそんなに美化したんだろう、いやこれは聞かない方がいい気がするな。
絵が変わって、竜神王が僕に記憶封じの呪いをかけている。
だから僕は、城に来るまでの記憶がないんだ……。
「だが可愛い孫を……ウィニアの忘れ形見を見捨てることなど、わしにはとてもできなかった。わしは竜神王様に願い出て、人間界へ追放されたお前を追いかける許しを頂いたのじゃ」
紙芝居が走るトーポの絵になる。
里の入口であるあの大門に向かって走っているから、先に僕が追放されて、その後を追ってきたんだろう。
「そのための条件は、姿をネズミに変え、決してエイトと話してはならぬという、厳しいものじゃった。だが、本当なら人間界で、両親と共に幸せに暮らすはずだったお前に背負わせた苦労を思えば……。そうすることがお前に対する償いになるとは思わんが、わしは迷わずネズミとなって、お前を追いかけたのじゃ」
紙芝居はそれで終わり。
思い出せはしなかったけど、僕の身に起きたことは分かった。
ここは僕の故郷……そうなるはずだったんだ。
人間を忌み嫌う考えのせいで、僕はこの里では生きられなくて、人間界に追放されてしまったけれど……。
「これがわしに話せる全てじゃ。今まで黙っていて本当にすまなかった。不甲斐ないこの老人を許してくれ」
おじいさんがそう言って、紙芝居を宝箱に戻す。
……一体いつから用意していたんだ、この紙芝居。
まさか昨日の夜に作ったとか言わない……よな?
「その指輪じゃが……これからはお前が持っていてくれ」
「いいんですか? だってこれは……母さんの形見なんですよね?」
「よいのじゃ。そのほうがウィニアも……お前の母も喜ぶであろうからな」
「……分かりました。大事にします」
アルゴンリングを布に包んで、袋へとしまう。
なんだか夢の中の出来事を思い出した。
僕を押してくれたあの声がきっと父さんで……。
空を泳いでいた竜が、母さんだったんだろう。
息子の背中を押しにきてくれるなんて、父さんもにくいことをするものだ、なんて思えたのは、僕がこうして前に進めているからだと思う。
すごいな、竜神王……そんなところまで正確に僕らを送れるのか。
「おお、ここはまさに我が家ではないか。さすがは竜神王様。狙いが正確でらっしゃる。……さて、エイトよ。まずはお前に渡したい物がある。ついてまいれ」
おじいさんがそう言って家の中へ入っていく。
僕たちも一度顔を見合わせて、それから家の中へお邪魔した。
おじいさんはというと、部屋の中にある宝箱の鍵を開け、蓋を開けて、中から何かを取り出した。
受け取ったそれは指輪……アルゴンリングだ。
「それはお前の母ウィニアの形見。そしてお前の父エルトリオからウィニアに贈られた物なのじゃ。その指輪に嵌められた宝石には、お前も見覚えがあるのではないか? そう。それはアルゴンハート。お前の父親は、二十年前に姿を消したサザンビーク国のエルトリオ王子なのじゃ」
「……」
開いた口が塞がらない。
もうずっと開きっぱなしな気がする。
僕の母親が竜神族だってだけでも信じられないような事実なのに、その上さらに、父親がサザンビークのエルトリオ王子だなんて──。
普通はどっちかじゃないか!?
ぽかん……としてしまった僕らの前に、紙芝居がやってきた。
もちろん読み手はおじいさんだ。
描かれていたのは、竜神族の娘と、僕によく似た人間の男。
着ている服からして、明らかにサザンビークの王族だった。
……この人が、エルトリオ王子。
僕の父さん……。
そしてその横に描かれているのが、ウィニア──僕の母さん。
「我が娘ウィニアは、持ち前の好奇心から人間界を訪れ、そこで偶然、エルトリオ王子と出会った。やがて二人は互いを深く愛し合うようになる」
そう語り始めたおじいさんは、両親が手を握り合っている絵を、真っ二つに破った。
絵は握り締めた二人の手を引き裂くようにちぎられている。
「……それを引き裂いたのは、他でもない、このわしなのじゃ。その時はそれが正しいと思っておった。人間と竜神族とでは、幸せになれるはずがないと……。だが結局、わしの決断は自分の娘を不幸にしただけじゃった」
「……母さん」
「……ウィニアを連れ戻してから程なくして、竜神族の里のそばで、人間の亡骸が発見された」
絵が変わって、里へ至る道に倒れ尽きたエルトリオ王子が現れる。
まさか、あのお墓の場所──父さんは、あそこまで辿り着いていたんだ。
本当にあと少しのところで……。
「それはエルトリオじゃった。ウィニアを追ってこの里を目指した彼は、いま少しの所で力尽きたのだ」
……つまり、あそこまでひとりで登ってきたってこと、だよな?
僕ら四人がかりでも大変だったあの道を、たったひとりで!?
なんだか……父さんには一生勝てない気がする、気力とか純粋な実力とか、愛の力とか……。
絵が変わって、今度は母さんの部屋だ。
あの使用人の食事も受け付けず、嘆きに暮れている。
「その事を知った娘は、深く深く悲しみ、悲嘆のあまり徐々に身体を弱らせていった……。そしてその時既に、ウィニアはエルトリオの子……エイト、お前を身ごもっておったのじゃ。その事に気付いたウィニアは、周囲の反対を押し切って、産むことを決めた」
「そんな──じゃあ、ウィニアさんは……」
手のひらを握り締めていたせいか、爪が食い込んで痛い。
だけど母さんと父さんの胸の痛みは、こんなものじゃなかったはずだ。
どうしてこんな……救いのない結末にしかならなかったんだろう。
紙芝居の絵は、花を供えられた父さんの墓と、幼い僕を抱くおじいさんの姿。
……でも、母さんの墓は、天の祭壇に向かう途中にあったような──。
「だが衰弱していたあれの身体が、出産に耐えられるはずもなく、お前を産んだウィニアはそのまま……」
絵が変わる。
次の場面は、僕を囲んで長老たちが何事かを話し合う絵だ。
「こうして生まれてきた、人間と竜神族の血を引くエイトをどうすべきかが、長老会議で話し合われた。何年にも渡る長い議論の末、決められたのは、まだ幼いお前の記憶を封じ、この里から追放することだった」
「……つ、追放!? なんだってそんなことに……」
「無論わしは必死に反対したよ。だが一度下った決定が覆ることはなかった。この時ばかりは、わしも自らの無力さを呪ったものじゃよ……。やがて会議で決められた通り、お前は竜神王様の手によって記憶を封じられ、里を追放された」
やたら凛々しく描かれたおじいさんの絵が変わる。
……なんで自分のことだけそんなに美化したんだろう、いやこれは聞かない方がいい気がするな。
絵が変わって、竜神王が僕に記憶封じの呪いをかけている。
だから僕は、城に来るまでの記憶がないんだ……。
「だが可愛い孫を……ウィニアの忘れ形見を見捨てることなど、わしにはとてもできなかった。わしは竜神王様に願い出て、人間界へ追放されたお前を追いかける許しを頂いたのじゃ」
紙芝居が走るトーポの絵になる。
里の入口であるあの大門に向かって走っているから、先に僕が追放されて、その後を追ってきたんだろう。
「そのための条件は、姿をネズミに変え、決してエイトと話してはならぬという、厳しいものじゃった。だが、本当なら人間界で、両親と共に幸せに暮らすはずだったお前に背負わせた苦労を思えば……。そうすることがお前に対する償いになるとは思わんが、わしは迷わずネズミとなって、お前を追いかけたのじゃ」
紙芝居はそれで終わり。
思い出せはしなかったけど、僕の身に起きたことは分かった。
ここは僕の故郷……そうなるはずだったんだ。
人間を忌み嫌う考えのせいで、僕はこの里では生きられなくて、人間界に追放されてしまったけれど……。
「これがわしに話せる全てじゃ。今まで黙っていて本当にすまなかった。不甲斐ないこの老人を許してくれ」
おじいさんがそう言って、紙芝居を宝箱に戻す。
……一体いつから用意していたんだ、この紙芝居。
まさか昨日の夜に作ったとか言わない……よな?
「その指輪じゃが……これからはお前が持っていてくれ」
「いいんですか? だってこれは……母さんの形見なんですよね?」
「よいのじゃ。そのほうがウィニアも……お前の母も喜ぶであろうからな」
「……分かりました。大事にします」
アルゴンリングを布に包んで、袋へとしまう。
なんだか夢の中の出来事を思い出した。
僕を押してくれたあの声がきっと父さんで……。
空を泳いでいた竜が、母さんだったんだろう。
息子の背中を押しにきてくれるなんて、父さんもにくいことをするものだ、なんて思えたのは、僕がこうして前に進めているからだと思う。
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