70章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
おほん、と軽く咳払いをした長老が、ゆっくりと口を開いた。
長老である彼らも、やはり顔色は良くない。
この里にいったい何が起きているんだろうか。
「……お主が旅立った後すぐに、我らが王である竜神王様は、ひとつの決定を下されたのじゃ。それは我ら竜神族が持つふたつの姿のうち、人間の姿を封じる儀式を行うというものじゃった」
「なんと! それはまことか!? そのような儀式が存在するとは……」
「竜神王様はまず、自らの身で封印の儀式を試すべく、天の祭壇へと向かわれたのじゃ。そして儀式は完成し、竜神王様は完全なる竜となった……かに思われた」
「だがその儀式は失敗じゃった。お主も知っての通り、わしらが竜のままでいるのは、激しく消耗する。封印の儀式とは、その消耗する体力を周囲のもの……とりわけ、同じ竜神族から吸収していくというものだったのじゃ。こうしてわしらは竜神王様に体力を吸収され続け、竜神族の里は見る間に荒れ果てたというわけだ」
「そ、そんな……ひどい」
ゼシカが言葉を失ったように口を手で覆う。
何かの病気が流行ったとかではなくて、まさか彼らの王が原因だったとは。
どうして人間の姿を封じるなんて真似を。
そうしてまで、人間を忌み嫌う必要がどこにあるんだろう。
「儀式の失敗に気付いた我々は、竜神王様の元へ行き、封印を解いてくださるようお願いした。しかし竜の姿のままでいることは、竜神王様のお心にまで悪影響を及ぼしておったのじゃ。わしらが天の祭壇で見たものは、既に正気を失われ、凶暴な魔獣と化した竜神王様じゃった。竜神王様に攻撃されて、わしらは為す術もなく逃げるしかなかった」
「これが、この竜神族の里に起こった災いの全てじゃ。どうじゃ、納得がいったかね?」
「う……うむ。わしの留守の間に、よもやそんなことが起こっていようとは……」
……留守ってはっきり言ったな、今。
ということは、グルーノさんも帰ってきたのは僕らと同じタイミングだったということになるけど。
ひょっとして……トーポの正体がグルーノさんだったりしない、よな?
まさかそんな、さすがにないよな?
火を噴いたり吹雪を吐いたりするネズミだけど、まさか正体がグルーノさんとか、そんなことないよな……!?
「……ところでグルーノよ。先程から気になっておったのだが、お主の同行者を紹介してくれぬか? どうやら人間のようだが……。いや別に、人間を里に入れたことを咎めようというわけではないのだ」
「おお……この者たちは、暗黒神ラプソーンと戦う最強の戦士たち、エイトとその仲間たちじゃ」
どんな紹介の仕方をされているんだ……。
僕らは別に最強でもなんでもなくて、ただ祖国を救いたかったり、仇を討ちたいだけなんだけど。
ヤンガスは誇らしげに胸を張っていた。
僕が最強の戦士だと言われたことが嬉しいらしい。
「エイトというと、あの時の……」
「いやそれよりも、暗黒神ラプソーンと戦っておるじゃと?」
「それ程の者ならば、わしらが話し合っていた役目にはピッタリなのでは……」
「じゃが、このような危険な役目を、関わりなき者に任せるわけには……」
長老たちが顔を見合わせて何事かを話し合う。
「ふむ?」とその様子を見守ることにしたらしいグルーノさんは、次いでこちらを振り返った。
「エイトよ。とにかく、長老たちに挨拶してきてはどうじゃな?」
「あ、はい。そうですね……」
みんなで顔を見合わせて、僕が代表して挨拶に回ることにした。
ゾロゾロ行くものじゃないというのは、僕も察していたところではある。
グルーノさんの左隣に座っていた老婆が、僕を見て顔を上げる。
「本当に暗黒神ラプソーンと戦っておるのか?」
「……はい。一度は負けましたけど、諦めるつもりはありません」
「そうか。……かつての戦いに加わりはしなかったが、暗黒神ラプソーンの恐ろしさは、わしらも知っておる。知っておればこそ、人の身であの暗黒神と戦いうる者がいるとは、とても信じられぬ思いじゃ」
「僕ひとりで戦うわけじゃないです。みんなで戦っているから、立ち向かえるんだと思います」
そうか、と老婆は頷いて、何か思い詰めたように手元を見つめた。
それはそれとして、今はこの里の話だ。
竜神王という人を正気に戻すために、僕らでできることがあればいいけど……。
「竜神王様を正気に戻す手段、無いわけではないのじゃ」
声を掛けてきたのは、ふたつ席を飛ばしたところにいる、青い服を着た老人。
そうなんですか、と顔を向けて、その人のところへ急ぐ。
それならそうと早く言ってくれれば──。
「それは竜神王様と戦い、倒すこと。さすれば竜神王様は人の姿に戻り、正気を取り戻すはずなのじゃ。そこでわしらは、最強の竜である竜神王様と戦う勇者を、一族の中から選ぶ相談をしておったのじゃが……。生命力を奪われ、弱った竜神族の者では敵うはずがないという結論に達し、困っておったところなのじゃ」
「竜神王と、戦って……」
……僕らは、かつてない強敵に挑んで負けた。
それも、大切な人を死に追いやって。
世界を救うなんて、僕たちの手には余るような話だったのかもしれない。
僕たちは本来、そんな大それたことを成し遂げられるような器ではなかったのかもしれない……。
言葉を失った僕は、俯きかけた顔を慌てて上げた。
下を向くわけにはいかない。
諦めたら、本当にレイラの命が無駄になる。
やらなくちゃいけないんだ、絶対に。
それがレイラとの約束なんだから。
「おお……お前があのエイトか。本当に立派になったものじゃなぁ」
「え……っと?」
僕のことを知っている。
今の老婆の口ぶりは、そう確信が持てるものだった。
僕はここに来たことなんて一度もない。
なのに、どうして──。
「結局のところ、竜神族とは、人と竜、両方の姿を持っているのが自然なのだな。それを無理に捻じ曲げて、人の姿を捨て去ろうとするから、このようなことになったのじゃ」
隣に座る緑の服を着た老人が呟く。
自然の法則を捻じ曲げることは、どこかで悪影響が出るものだ。
彼らの場合は、それが一族の滅びに直結してしまった。
大体の状況と、こうなった原因は把握した。
つまり、僕らがやるべきことは──竜神王を倒し、正気を取り戻してもらうことだ。
できる自信はない。
ラプソーンに完膚なきまでに叩きのめされた事実は、僕らに少なからず影を落としている。
だけど……困っている人たちを見捨てることは、やっぱりできなかった。
きっとここにレイラがいたら、任せてくださいと二つ返事で引き受けたはず。
だから……僕も。
お人好しのお節介を、焼くことにする。
長老である彼らも、やはり顔色は良くない。
この里にいったい何が起きているんだろうか。
「……お主が旅立った後すぐに、我らが王である竜神王様は、ひとつの決定を下されたのじゃ。それは我ら竜神族が持つふたつの姿のうち、人間の姿を封じる儀式を行うというものじゃった」
「なんと! それはまことか!? そのような儀式が存在するとは……」
「竜神王様はまず、自らの身で封印の儀式を試すべく、天の祭壇へと向かわれたのじゃ。そして儀式は完成し、竜神王様は完全なる竜となった……かに思われた」
「だがその儀式は失敗じゃった。お主も知っての通り、わしらが竜のままでいるのは、激しく消耗する。封印の儀式とは、その消耗する体力を周囲のもの……とりわけ、同じ竜神族から吸収していくというものだったのじゃ。こうしてわしらは竜神王様に体力を吸収され続け、竜神族の里は見る間に荒れ果てたというわけだ」
「そ、そんな……ひどい」
ゼシカが言葉を失ったように口を手で覆う。
何かの病気が流行ったとかではなくて、まさか彼らの王が原因だったとは。
どうして人間の姿を封じるなんて真似を。
そうしてまで、人間を忌み嫌う必要がどこにあるんだろう。
「儀式の失敗に気付いた我々は、竜神王様の元へ行き、封印を解いてくださるようお願いした。しかし竜の姿のままでいることは、竜神王様のお心にまで悪影響を及ぼしておったのじゃ。わしらが天の祭壇で見たものは、既に正気を失われ、凶暴な魔獣と化した竜神王様じゃった。竜神王様に攻撃されて、わしらは為す術もなく逃げるしかなかった」
「これが、この竜神族の里に起こった災いの全てじゃ。どうじゃ、納得がいったかね?」
「う……うむ。わしの留守の間に、よもやそんなことが起こっていようとは……」
……留守ってはっきり言ったな、今。
ということは、グルーノさんも帰ってきたのは僕らと同じタイミングだったということになるけど。
ひょっとして……トーポの正体がグルーノさんだったりしない、よな?
まさかそんな、さすがにないよな?
火を噴いたり吹雪を吐いたりするネズミだけど、まさか正体がグルーノさんとか、そんなことないよな……!?
「……ところでグルーノよ。先程から気になっておったのだが、お主の同行者を紹介してくれぬか? どうやら人間のようだが……。いや別に、人間を里に入れたことを咎めようというわけではないのだ」
「おお……この者たちは、暗黒神ラプソーンと戦う最強の戦士たち、エイトとその仲間たちじゃ」
どんな紹介の仕方をされているんだ……。
僕らは別に最強でもなんでもなくて、ただ祖国を救いたかったり、仇を討ちたいだけなんだけど。
ヤンガスは誇らしげに胸を張っていた。
僕が最強の戦士だと言われたことが嬉しいらしい。
「エイトというと、あの時の……」
「いやそれよりも、暗黒神ラプソーンと戦っておるじゃと?」
「それ程の者ならば、わしらが話し合っていた役目にはピッタリなのでは……」
「じゃが、このような危険な役目を、関わりなき者に任せるわけには……」
長老たちが顔を見合わせて何事かを話し合う。
「ふむ?」とその様子を見守ることにしたらしいグルーノさんは、次いでこちらを振り返った。
「エイトよ。とにかく、長老たちに挨拶してきてはどうじゃな?」
「あ、はい。そうですね……」
みんなで顔を見合わせて、僕が代表して挨拶に回ることにした。
ゾロゾロ行くものじゃないというのは、僕も察していたところではある。
グルーノさんの左隣に座っていた老婆が、僕を見て顔を上げる。
「本当に暗黒神ラプソーンと戦っておるのか?」
「……はい。一度は負けましたけど、諦めるつもりはありません」
「そうか。……かつての戦いに加わりはしなかったが、暗黒神ラプソーンの恐ろしさは、わしらも知っておる。知っておればこそ、人の身であの暗黒神と戦いうる者がいるとは、とても信じられぬ思いじゃ」
「僕ひとりで戦うわけじゃないです。みんなで戦っているから、立ち向かえるんだと思います」
そうか、と老婆は頷いて、何か思い詰めたように手元を見つめた。
それはそれとして、今はこの里の話だ。
竜神王という人を正気に戻すために、僕らでできることがあればいいけど……。
「竜神王様を正気に戻す手段、無いわけではないのじゃ」
声を掛けてきたのは、ふたつ席を飛ばしたところにいる、青い服を着た老人。
そうなんですか、と顔を向けて、その人のところへ急ぐ。
それならそうと早く言ってくれれば──。
「それは竜神王様と戦い、倒すこと。さすれば竜神王様は人の姿に戻り、正気を取り戻すはずなのじゃ。そこでわしらは、最強の竜である竜神王様と戦う勇者を、一族の中から選ぶ相談をしておったのじゃが……。生命力を奪われ、弱った竜神族の者では敵うはずがないという結論に達し、困っておったところなのじゃ」
「竜神王と、戦って……」
……僕らは、かつてない強敵に挑んで負けた。
それも、大切な人を死に追いやって。
世界を救うなんて、僕たちの手には余るような話だったのかもしれない。
僕たちは本来、そんな大それたことを成し遂げられるような器ではなかったのかもしれない……。
言葉を失った僕は、俯きかけた顔を慌てて上げた。
下を向くわけにはいかない。
諦めたら、本当にレイラの命が無駄になる。
やらなくちゃいけないんだ、絶対に。
それがレイラとの約束なんだから。
「おお……お前があのエイトか。本当に立派になったものじゃなぁ」
「え……っと?」
僕のことを知っている。
今の老婆の口ぶりは、そう確信が持てるものだった。
僕はここに来たことなんて一度もない。
なのに、どうして──。
「結局のところ、竜神族とは、人と竜、両方の姿を持っているのが自然なのだな。それを無理に捻じ曲げて、人の姿を捨て去ろうとするから、このようなことになったのじゃ」
隣に座る緑の服を着た老人が呟く。
自然の法則を捻じ曲げることは、どこかで悪影響が出るものだ。
彼らの場合は、それが一族の滅びに直結してしまった。
大体の状況と、こうなった原因は把握した。
つまり、僕らがやるべきことは──竜神王を倒し、正気を取り戻してもらうことだ。
できる自信はない。
ラプソーンに完膚なきまでに叩きのめされた事実は、僕らに少なからず影を落としている。
だけど……困っている人たちを見捨てることは、やっぱりできなかった。
きっとここにレイラがいたら、任せてくださいと二つ返事で引き受けたはず。
だから……僕も。
お人好しのお節介を、焼くことにする。
4/4ページ
