70章
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里の中へ先導してくれるグルーノさんについて行きながら、ふとポケットにトーポがいないのに気がついた。
いつもなら僕のポケットから出てくることもないのに、急に飛び出して……どこに行ったんだろう?
「そういや、トーポの奴はどこに行っちまったんでげしょう? 今までこんなことなかったのに、ここに来た途端、急に……。あいつ、いったいどうしたんでがすかね?」
「トーポ? どこだよ、置いていっちゃうぞー?」
声をかけても、トーポが出てくる気配はない。
その時、グルーノさんが「ああ」と思い出したように言った。
「あのネズミならば、里の中へと走っていったぞ。そのうちお前さんのところへ戻ってくるじゃろう」
「そう、ですか。それならいいんだけど……」
ポケットにトーポがいないのはなんだか落ち着かない。
トーポだって僕の大切な相棒なのに、お前まで僕を置いていかないでくれよ、なんて心の中で呟く。
里の中に足を踏み入れた僕たちは、言葉を失った。
家が数軒建つ以外は、何も無い小さな里。
ただ、どうにも覇気がないというか、人の住んでいる気配が薄い。
「こ、これは……? どうしてこんなに荒れ果てておる? わしが旅立った時には、こんなでは……」
「……旅立った?」
不思議な言葉を口走ったグルーノさんが、「あ、いやいや」と誤魔化す。
……なんというか、ちょっと怪しいな。
ひとまず里の人達に話を聞いてみたほうがいいかと、僕らは一番近くにあった家にお邪魔することにした。
……のだけど、それがいけなかった。
「おのれ! どうしてこの里に人間が入り込んでいる!?」
寝たきりのご老人が起き上がりかけて、僕らに怒鳴りつける。
そうしてまたぐったりと寝床に横になった。
「グムムム……。わしがこんな身体でなければ、今すぐ竜となって叩き出してやるのに……」
「やれやれ、寝込んでいても人間嫌いは相変わらずのようじゃな」
「……お前は、グルーノ! さては人間たちを里に招き入れたのはお前だな! この竜神族の裏切り者め! お前がそんなことだから、お前の娘もあんな過ちを犯すのだ!」
「過ちか……。本当にお前さんは相変わらずだな。さあ、エイト。こんな石頭のことは放っといて、どこか他の所へ行くとしよう。病人をあまり興奮させるものでもないしな」
「あ、はい……」
──過ち。
グルーノさんの娘さんは、何かの過ちを犯したらしい。
それがいったいなんの事なのか分からないけど、グルーノさんが旅に出た理由は、その過ちを償うためだったとか?
里の外にある大きな岩には、竜神族の青年がもたれかかって座っていた。
どうにも具合が悪そうだけど、ひょっとして里が荒れている理由と関係が?
「……お前たち、ひょっとして人間なのか? ……いや。そんなことはもう、どうでもいい事だったな。滅びゆく我らにとっては……」
「お主、どうしたのじゃ? いったいこの里に何が起こったというのじゃ!?」
「あなたは、グルーノ老? そうか、戻ってきたのですね。しかしこんな時に帰ってくるとは、あなたも運がない。竜神族の最期を見届けることになるのだから……」
「竜神族の最期じゃと? これは只事ではなさそうじゃ。よし、エイトよ。まずは他の長老たちに会って、詳しい話を聞くことにしようぞ」
長老たちのいる場所は、上にある大きな建物だという。
そこに向かうと、入口には別の竜神族の青年が立ち塞がっていた。
「これはグルーノ老。お久しぶりです。いつの間にお帰りになられたので?」
「挨拶はいい。それよりも、この里の荒れようはどういうことなのじゃ!? ……いや、詳しい話は他の長老たちから聞くことにしよう。中に入らせてもらうぞ」
「あなたを通すのは構いませんが、お連れの方々……人間たちを会議場へ入れるわけにはいきませんよ」
やっぱりそうなるよな、とククールが肩を竦める。
なんというか、人間嫌いもここまでいくと差別的というか……。
昔は人間を支配していたらしいくせに、本当に自分勝手な種族だな。
「お前は……竜神族の者たちは、こんな時にまだそんなことを言っておるのか! ええい、責任はわしが取る! さっさとそこをどくがよい!」
「……そこまで言うなら、仕方ありませんね。分かりました。どうぞお通りください」
青年が入口から横に退いて、僕らは会議場へ入った。
会議場では、円卓に座った長老たちが、熱心に議論を交わしている。
何となく圧倒されて声を掛けられずにいると、長老の一人がこちらに気付いて振り返った。
「何事だ? 今は長老会議の最中じゃぞ」
「おお、そなた、グルーノではないか!」
グルーノさんに気付いた老婆が立ち上がる。
その声で他の長老たちもこちらを見やり、グルーノさんと僕らに気付いて驚いたように目を丸くした。
「たしかに、我ら長老会議の一員、グルーノ老のようじゃな。よく帰ってきたのう」
「……うむ。いや、そんなことより、この里の荒れようはどういうことか、誰か説明してくれぬか?」
「……そうか。あの儀式が行われたのは、お主が里を出ていった後じゃったな。よかろう。ではあれから竜神族の里に何が起こったのか教えてやろう」
頼む、と頷いて、グルーノさんは空いていた椅子に座った。
そこが長老会議でのグルーノさんの場所だったようだ。
僕らはグルーノさんの後ろに立って、長老たちの話を聞くことにした。
いつもなら僕のポケットから出てくることもないのに、急に飛び出して……どこに行ったんだろう?
「そういや、トーポの奴はどこに行っちまったんでげしょう? 今までこんなことなかったのに、ここに来た途端、急に……。あいつ、いったいどうしたんでがすかね?」
「トーポ? どこだよ、置いていっちゃうぞー?」
声をかけても、トーポが出てくる気配はない。
その時、グルーノさんが「ああ」と思い出したように言った。
「あのネズミならば、里の中へと走っていったぞ。そのうちお前さんのところへ戻ってくるじゃろう」
「そう、ですか。それならいいんだけど……」
ポケットにトーポがいないのはなんだか落ち着かない。
トーポだって僕の大切な相棒なのに、お前まで僕を置いていかないでくれよ、なんて心の中で呟く。
里の中に足を踏み入れた僕たちは、言葉を失った。
家が数軒建つ以外は、何も無い小さな里。
ただ、どうにも覇気がないというか、人の住んでいる気配が薄い。
「こ、これは……? どうしてこんなに荒れ果てておる? わしが旅立った時には、こんなでは……」
「……旅立った?」
不思議な言葉を口走ったグルーノさんが、「あ、いやいや」と誤魔化す。
……なんというか、ちょっと怪しいな。
ひとまず里の人達に話を聞いてみたほうがいいかと、僕らは一番近くにあった家にお邪魔することにした。
……のだけど、それがいけなかった。
「おのれ! どうしてこの里に人間が入り込んでいる!?」
寝たきりのご老人が起き上がりかけて、僕らに怒鳴りつける。
そうしてまたぐったりと寝床に横になった。
「グムムム……。わしがこんな身体でなければ、今すぐ竜となって叩き出してやるのに……」
「やれやれ、寝込んでいても人間嫌いは相変わらずのようじゃな」
「……お前は、グルーノ! さては人間たちを里に招き入れたのはお前だな! この竜神族の裏切り者め! お前がそんなことだから、お前の娘もあんな過ちを犯すのだ!」
「過ちか……。本当にお前さんは相変わらずだな。さあ、エイト。こんな石頭のことは放っといて、どこか他の所へ行くとしよう。病人をあまり興奮させるものでもないしな」
「あ、はい……」
──過ち。
グルーノさんの娘さんは、何かの過ちを犯したらしい。
それがいったいなんの事なのか分からないけど、グルーノさんが旅に出た理由は、その過ちを償うためだったとか?
里の外にある大きな岩には、竜神族の青年がもたれかかって座っていた。
どうにも具合が悪そうだけど、ひょっとして里が荒れている理由と関係が?
「……お前たち、ひょっとして人間なのか? ……いや。そんなことはもう、どうでもいい事だったな。滅びゆく我らにとっては……」
「お主、どうしたのじゃ? いったいこの里に何が起こったというのじゃ!?」
「あなたは、グルーノ老? そうか、戻ってきたのですね。しかしこんな時に帰ってくるとは、あなたも運がない。竜神族の最期を見届けることになるのだから……」
「竜神族の最期じゃと? これは只事ではなさそうじゃ。よし、エイトよ。まずは他の長老たちに会って、詳しい話を聞くことにしようぞ」
長老たちのいる場所は、上にある大きな建物だという。
そこに向かうと、入口には別の竜神族の青年が立ち塞がっていた。
「これはグルーノ老。お久しぶりです。いつの間にお帰りになられたので?」
「挨拶はいい。それよりも、この里の荒れようはどういうことなのじゃ!? ……いや、詳しい話は他の長老たちから聞くことにしよう。中に入らせてもらうぞ」
「あなたを通すのは構いませんが、お連れの方々……人間たちを会議場へ入れるわけにはいきませんよ」
やっぱりそうなるよな、とククールが肩を竦める。
なんというか、人間嫌いもここまでいくと差別的というか……。
昔は人間を支配していたらしいくせに、本当に自分勝手な種族だな。
「お前は……竜神族の者たちは、こんな時にまだそんなことを言っておるのか! ええい、責任はわしが取る! さっさとそこをどくがよい!」
「……そこまで言うなら、仕方ありませんね。分かりました。どうぞお通りください」
青年が入口から横に退いて、僕らは会議場へ入った。
会議場では、円卓に座った長老たちが、熱心に議論を交わしている。
何となく圧倒されて声を掛けられずにいると、長老の一人がこちらに気付いて振り返った。
「何事だ? 今は長老会議の最中じゃぞ」
「おお、そなた、グルーノではないか!」
グルーノさんに気付いた老婆が立ち上がる。
その声で他の長老たちもこちらを見やり、グルーノさんと僕らに気付いて驚いたように目を丸くした。
「たしかに、我ら長老会議の一員、グルーノ老のようじゃな。よく帰ってきたのう」
「……うむ。いや、そんなことより、この里の荒れようはどういうことか、誰か説明してくれぬか?」
「……そうか。あの儀式が行われたのは、お主が里を出ていった後じゃったな。よかろう。ではあれから竜神族の里に何が起こったのか教えてやろう」
頼む、と頷いて、グルーノさんは空いていた椅子に座った。
そこが長老会議でのグルーノさんの場所だったようだ。
僕らはグルーノさんの後ろに立って、長老たちの話を聞くことにした。
