69章
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「聖なる力よ、我に力を与えたまえ!」
聖句を唱えた瞬間、暗黒神の表情が変わった。
この聖句、聞き覚えがあるだろう。
お前の肉体を数百年間も封印した、自縛の呪いだ。
『させぬ! させぬぞ!!』
杖の先の玉が飛んできて、それは私の前で見えない壁に弾かれたようにラプソーンへ跳ね返った。
イオナズンもメラゾーマも、激しい炎も凍える吹雪も。
神々の怒りすら私には届かず、流星は私の上に降り注ぐこともない。
「この身は闇を切り裂く剣となり、光を守る盾とならん! 今ここに、我が魂をもって暗黒神を封印せん!! 人の子を守れ、我が子孫たちを!!」
レティスが静かに涙を零した。
聖句を唱えるごとに、私の身体から溢れる光が強くなる。
私の命で良ければくれてやる。
これが私の望んだ、唯一の赦しだ。
「レイラ……行か、ない、で……」
エイトの声が、私を引き止めたような気がした。
……ごめんね、エイト。
ごめんね、ヤンガス、ククール、ゼシカ。
申し訳ありません、陛下、ミーティア姫。
私は逝きます。
みんなを守るためなら、この命なんて惜しくない!
「この世界を守る封印とならん!!」
ラプソーンの周囲に、目が眩むほどの聖なる光が溢れる。
苦悶の声を上げるラプソーンが、それでももがくように腕を伸ばすが、それも無意味なこと。
光はラプソーンを包み込んでいき、その姿を隠していく。
『おのれ、おのれおのれぇぇぇ!!』
私の体がふわりと浮き上がって、私はラプソーンへ向かって一歩を踏み出した。
ああ、なんだか……今とても満ち足りた気分だ。
何一つ成せなかった私だけど、最後の最後で、役に立てたからかな。
「レイラ、だめ……っ!」
「姉貴ぃっ……!!」
「行くな、レイラ……」
レティスを翼の上で、ゼシカとヤンガスとククールが、顔だけを上げて訴えている。
エイトは倒れたままだ。
──それでいい。
エイトにまで止められてしまったら、別れがつらい。
私の足元が光に包まれて消え始めた。
ああ、もうお別れだ。
別れの言葉なんて考えてなかったな……。
そうだな……みんなに伝えたいことがあるとすれば……。
「絶対に、世界を平和にしてね。私、信じてるから──」
上手く笑えているかな。
体の感覚も消えて、視界が光で埋め尽くされていく。
何かに誘われるように目を閉じて、私の身体から魂が離れた。
『私』という存在が消えていく。
魂は暗黒神の力の最奥に根付き、肉体は光の奔流に消えてなくなった。
それが、最後だった。
* * *
ラプソーンの元から、トロデーン城へと戻ってきた。
レティスが僕たちの体力を回復してくれて、目が覚めたらそこだった──と言うほうが正しい。
馬鹿みたいに現実味がない。
レイラがいない、どこにもいない。
どんなに名前を呼んでも、声が聞こえない。
どうして、どうして……?
一緒に帰るって約束したじゃないか。
ラプソーンを倒したら、僕と結婚するって約束してくれたじゃないか──。
「──っ、う、ぁぁ、ああああ……!!」
「ちくしょお……っ! ちくしょぉぉお……!!」
ゼシカが、泣いている。
ヤンガスとミーティアも。
なんだ、これは。
五人で帰ってくるはずじゃなかったのか?
一人足りない……レイラがいない。
どうして?
どうして僕は、レイラを助けられないままで……。
立ち上がることも出来ない僕の手に、トーポが何かを握らせた。
持ち上げてみると、それはレイラがつけていたネックレス。
チェーンを引きちぎって僕のポケットにねじこんだんだろう。
持ち主を失ってもなお、ネックレスは綺麗な輝きを放っていた。
抱えていたはぐれメタルの剣──レイラが使っていた剣を抱き締める。
何もかもが受け止められなくて……涙だって出てこなかった。
『……時間がありません』
絶望に暮れる僕らに、レティスの声がかけられる。
『なんとしてでも、暗黒神を倒す手段を探さなくてはなりません』
「でも……そんなもの、どこに……」
ゼシカのそれが、僕らの心を代弁していた。
今まで旅をしてきた場所のどこにも、そんな力はなかった。
どうしたらいいかなんて、もう分からない。
『それでもです。レイラの命を無駄にしてはいけません』
レイラはいない。
それがようやく現実味を帯びてきて、ぽっかりと胸に空洞を開けた。
呪われたままの城、魔物になったままのトロデ王と、馬の姿のままのミーティア。
何一つ変わらないまま、レイラだけが消えてしまった。
「……とりあえず、今日はもう宿屋で休もうぜ。何をするにしろ、話はそれからだ」
ククールがそう言って、ルーラを唱える。
降り立った先はサザンビーク。
どうしてククールがここを選んだのかは分からないけど、そんなのどうだっていい。
バザーも終わった城下町は人もまばらで、宿屋だって空室だらけ。
何かを言われて、言われた通りに部屋に入ると、どうやら一人一部屋ずつ借りたらしいとようやく気付いた。
ベッドに力なく倒れ込んで、ポケットからネックレスを取り出す。
つい昨日、消えてしまうかもしれない彼女と、肌を重ねたのに。
消えてほしくなくて、目の前からいなくなってほしくなくて、あんな状況で将来を約束したのに。
「本当に消えるなんて、思ったよりもひどい子だね……」
レイラの声は全部聞こえていた。
頬に寄せられた唇の温かさも覚えている。
(必ず、ラプソーンを倒して、君を取り戻してみせるから──)
明日から、前を向いていくから。
だから今だけは……。
声は殺した。
だけど……溢れ出る涙だけは、止められなかった。
胸が痛い、どんなに息を吸っても痛いままだ。
頭の中がぐちゃぐちゃで、何も考えられない。
悲しいだとかつらいだとか、そんな言葉のどれにも当てはまらない気がした。
レイラを失うのが、こんなにも苦しいことだったなんて。
眠気と疲労が重なって、意識が朧げになっていく。
そのまま、あの子のところにいけたらいいのに……なんて、どうしようもないことを思いながら、目を閉じた。
──夢を見た。
何かの祭壇のような場所。
何も書かれていない石碑には、竜が口を開けている。
その石碑に、不思議な紋章が浮かび上がった。
どこにあるのかは分からない。
でも、夢というには、あまりにも生々しい感覚が残っていて……。
次に目が覚めたとき、世界は朝だった。
彼女がいない日々の始まり。
なんとなく、感じていた。
あの祭壇に行かなければいけない、と。
聖句を唱えた瞬間、暗黒神の表情が変わった。
この聖句、聞き覚えがあるだろう。
お前の肉体を数百年間も封印した、自縛の呪いだ。
『させぬ! させぬぞ!!』
杖の先の玉が飛んできて、それは私の前で見えない壁に弾かれたようにラプソーンへ跳ね返った。
イオナズンもメラゾーマも、激しい炎も凍える吹雪も。
神々の怒りすら私には届かず、流星は私の上に降り注ぐこともない。
「この身は闇を切り裂く剣となり、光を守る盾とならん! 今ここに、我が魂をもって暗黒神を封印せん!! 人の子を守れ、我が子孫たちを!!」
レティスが静かに涙を零した。
聖句を唱えるごとに、私の身体から溢れる光が強くなる。
私の命で良ければくれてやる。
これが私の望んだ、唯一の赦しだ。
「レイラ……行か、ない、で……」
エイトの声が、私を引き止めたような気がした。
……ごめんね、エイト。
ごめんね、ヤンガス、ククール、ゼシカ。
申し訳ありません、陛下、ミーティア姫。
私は逝きます。
みんなを守るためなら、この命なんて惜しくない!
「この世界を守る封印とならん!!」
ラプソーンの周囲に、目が眩むほどの聖なる光が溢れる。
苦悶の声を上げるラプソーンが、それでももがくように腕を伸ばすが、それも無意味なこと。
光はラプソーンを包み込んでいき、その姿を隠していく。
『おのれ、おのれおのれぇぇぇ!!』
私の体がふわりと浮き上がって、私はラプソーンへ向かって一歩を踏み出した。
ああ、なんだか……今とても満ち足りた気分だ。
何一つ成せなかった私だけど、最後の最後で、役に立てたからかな。
「レイラ、だめ……っ!」
「姉貴ぃっ……!!」
「行くな、レイラ……」
レティスを翼の上で、ゼシカとヤンガスとククールが、顔だけを上げて訴えている。
エイトは倒れたままだ。
──それでいい。
エイトにまで止められてしまったら、別れがつらい。
私の足元が光に包まれて消え始めた。
ああ、もうお別れだ。
別れの言葉なんて考えてなかったな……。
そうだな……みんなに伝えたいことがあるとすれば……。
「絶対に、世界を平和にしてね。私、信じてるから──」
上手く笑えているかな。
体の感覚も消えて、視界が光で埋め尽くされていく。
何かに誘われるように目を閉じて、私の身体から魂が離れた。
『私』という存在が消えていく。
魂は暗黒神の力の最奥に根付き、肉体は光の奔流に消えてなくなった。
それが、最後だった。
* * *
ラプソーンの元から、トロデーン城へと戻ってきた。
レティスが僕たちの体力を回復してくれて、目が覚めたらそこだった──と言うほうが正しい。
馬鹿みたいに現実味がない。
レイラがいない、どこにもいない。
どんなに名前を呼んでも、声が聞こえない。
どうして、どうして……?
一緒に帰るって約束したじゃないか。
ラプソーンを倒したら、僕と結婚するって約束してくれたじゃないか──。
「──っ、う、ぁぁ、ああああ……!!」
「ちくしょお……っ! ちくしょぉぉお……!!」
ゼシカが、泣いている。
ヤンガスとミーティアも。
なんだ、これは。
五人で帰ってくるはずじゃなかったのか?
一人足りない……レイラがいない。
どうして?
どうして僕は、レイラを助けられないままで……。
立ち上がることも出来ない僕の手に、トーポが何かを握らせた。
持ち上げてみると、それはレイラがつけていたネックレス。
チェーンを引きちぎって僕のポケットにねじこんだんだろう。
持ち主を失ってもなお、ネックレスは綺麗な輝きを放っていた。
抱えていたはぐれメタルの剣──レイラが使っていた剣を抱き締める。
何もかもが受け止められなくて……涙だって出てこなかった。
『……時間がありません』
絶望に暮れる僕らに、レティスの声がかけられる。
『なんとしてでも、暗黒神を倒す手段を探さなくてはなりません』
「でも……そんなもの、どこに……」
ゼシカのそれが、僕らの心を代弁していた。
今まで旅をしてきた場所のどこにも、そんな力はなかった。
どうしたらいいかなんて、もう分からない。
『それでもです。レイラの命を無駄にしてはいけません』
レイラはいない。
それがようやく現実味を帯びてきて、ぽっかりと胸に空洞を開けた。
呪われたままの城、魔物になったままのトロデ王と、馬の姿のままのミーティア。
何一つ変わらないまま、レイラだけが消えてしまった。
「……とりあえず、今日はもう宿屋で休もうぜ。何をするにしろ、話はそれからだ」
ククールがそう言って、ルーラを唱える。
降り立った先はサザンビーク。
どうしてククールがここを選んだのかは分からないけど、そんなのどうだっていい。
バザーも終わった城下町は人もまばらで、宿屋だって空室だらけ。
何かを言われて、言われた通りに部屋に入ると、どうやら一人一部屋ずつ借りたらしいとようやく気付いた。
ベッドに力なく倒れ込んで、ポケットからネックレスを取り出す。
つい昨日、消えてしまうかもしれない彼女と、肌を重ねたのに。
消えてほしくなくて、目の前からいなくなってほしくなくて、あんな状況で将来を約束したのに。
「本当に消えるなんて、思ったよりもひどい子だね……」
レイラの声は全部聞こえていた。
頬に寄せられた唇の温かさも覚えている。
(必ず、ラプソーンを倒して、君を取り戻してみせるから──)
明日から、前を向いていくから。
だから今だけは……。
声は殺した。
だけど……溢れ出る涙だけは、止められなかった。
胸が痛い、どんなに息を吸っても痛いままだ。
頭の中がぐちゃぐちゃで、何も考えられない。
悲しいだとかつらいだとか、そんな言葉のどれにも当てはまらない気がした。
レイラを失うのが、こんなにも苦しいことだったなんて。
眠気と疲労が重なって、意識が朧げになっていく。
そのまま、あの子のところにいけたらいいのに……なんて、どうしようもないことを思いながら、目を閉じた。
──夢を見た。
何かの祭壇のような場所。
何も書かれていない石碑には、竜が口を開けている。
その石碑に、不思議な紋章が浮かび上がった。
どこにあるのかは分からない。
でも、夢というには、あまりにも生々しい感覚が残っていて……。
次に目が覚めたとき、世界は朝だった。
彼女がいない日々の始まり。
なんとなく、感じていた。
あの祭壇に行かなければいけない、と。
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