65章
夢小説設定
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全員を貫くような痛みで、ようやく目が覚めた。
呻きながらゆっくりと起き上がり、動かすと痛む右腕を押さえて、立ち上がる。
「──な、に……これ」
全てが崩れた聖地が、そこには広がっていた。
薙ぎ倒され、無惨に転がる柱。
潰れた見張り台、跡形もなく消え去った家々。
そして──ぽっかりと口を開け、底が見えない……大神殿があったはずの、大穴。
「……ぅ、う」
背後でエイトが呻いて、起き上がる。
そうして彼もまた、目の前の惨状に言葉を失った。
……私が、法皇の館で、杖の封印を躊躇ったりなんかしたから。
これは私が犯した罪なんだ、罪の重さを神が示したんだ。
死ぬべき時に死ななかったことへの……神の怒りなのかもしれない。
「これ……は……?」
「……私が、いけなかったんだ」
思わずそう零していた。
地面に私の涙が落ちて、染みを作る。
それは荒廃した風に吹かれて、砂が隠した。
その上から、何度も何度も涙が落ちる。
「私が、杖を封印しなかったから……。だからこんな事になったんだ……。私が……私が死ぬのを怖がったせいで……!」
「違う……。違う、違う……! レイラのせいじゃない……! そんなことあるはずない……」
「杖を封印していれば、私一人が死ぬだけでよかったのに……! あ、ああ……! ごめんなさい……ごめんなさい……!!」
いったい何人が、この大穴に落ちて死んだ?
爆発に巻き込まれて死んだ?
私なんかよりも遥かに命に価値のある人たちが、何百人と死んで……。
ただ杖を封印する為だけに生かされていただけの私が、どうして生き延びてしまったの?
「……兄貴──」
立ち上がったククールが何かを呟いて、大穴に向かってせり出していた神殿への道に向かって走る。
「ククール!」とエイトが叫んで、私の手を引っ張ったまま走った。
道の先に……誰かが掴まっている。
その体が滑り落ちて──その手を、ククールが掴んだ。
「……なん、の……つもり、だ……? 離せ……!!」
マルチェロさんの声が、ククールへそう喚く。
ククールの表情は見えなかったけど、彼は手を離そうとしない。
「貴様らが、邪魔を……しなければ、暗黒神の力、我が手に、できたのだ……。だが、望みは、潰えた……。すべて終わった、のだ……。さあ……! 離せ……!! 貴様、なぞに……助けられて、たまる、か……!」
マルチェロさんがククールの手を振り払って、落ちていこうとする。
ククールはそれでもまた手を伸ばして、マルチェロさんの手を掴んだ。
「……死なせないさ」
ククールが静かに言う。
「虫ケラみたいに嫌ってた弟に情けをかけられ、あんたは惨めに生き延びるんだ。好き放題やってそのまま死のうなんて許さない」
マルチェロさんの手を両手で掴んで、ククールがマルチェロさんを道の上まで引っ張り上げた。
座り込んだククールへ、マルチェロさんが拳で地面を叩いて叫ぶ。
「この上……生き恥を晒せ……だと? 貴様……!!」
立ち上がったククールは、服の汚れを手で払うと、少しだけ俯いて口を閉ざし。
そうして、ぽつりと呟いた。
「……十年以上前だよな。身寄りがなくなった俺が、初めて修道院に来たあの日。最初にまともに話したのが、あんただった。家族も家もなくなって、ひとりっきりで……修道院にも、誰も知り合いがいなくて……。最初に会ったあんたは、でも、優しかったんだ。初めの、あの時だけ。俺が誰か知ってからは、手のひらを返すように冷たくなったけど、それでも……。……それでも、俺は。忘れたことは、なかったよ」
切ない色をした瞳は、マルチェロさんを映すことはなかった。
互いにどうしようもない父親によって翻弄され、その結果、憎み憎まれる兄弟になってしまった二人。
それでもククールは──マルチェロさんのことを、嫌いになれなかった。
初めて声を掛けてくれた時の優しい姿を、忘れることができなくて。
それは愛と呼ぶには、あまりにも哀しくて。
ただの思い出にするには、あまりにも重すぎた。
マルチェロさんがふらつきながら立ち上がり、足を引きずってククールの背後を通り過ぎていく。
聖地の外へ向かう道をゆっくりと歩んでいく姿を、やっぱりククールは見ようとしない。
「……いつか……私を、助けたこと……後悔、するぞ……」
「……好きにすればいいさ。また何かしでかす気なら、何度だって止めてやる」
「……」
最後まで交わらなかった兄弟の道は、ここで永遠に分かたれる。
道を塞ぐようにして二人を見守っていた私たちは、マルチェロさんがこちらへ歩いてくるために道を開けた。
私たちの手前で立ち止まったマルチェロさんは、黒革の手袋の上から嵌めていた指輪をおもむろに外すと、それを後ろへと放り投げた。
それをククールが右手で掴み、そうして手の中にあるものを見て、はっと息を呑む。
「これ、あんたの……聖堂騎士団の指輪か……?」
「貴様にくれてやる。……もう私には無縁のものだ」
そうとだけ言い残して、痛みに顔を歪めながら、マルチェロさんは聖地の外へと歩みを進めていった。
立ち尽くしたままその後ろ姿を見つめるククールの元に、ゼシカが駆け寄る。
「……ねえ、ククール。放っといていいの? あんな酷い怪我してるのに。ねぇってば!」
「……」
マルチェロさんの指輪を握り締めたまま、痛切な面持ちでククールは、マルチェロさんの姿をただ見つめていた。
土埃が風に巻き上げられて、マルチェロさんの姿を薄く隠していく。
その中を歩いていくマルチェロさんの後ろ姿は、段々と小さくなって──そうして、とうとう見えなくなった。
呻きながらゆっくりと起き上がり、動かすと痛む右腕を押さえて、立ち上がる。
「──な、に……これ」
全てが崩れた聖地が、そこには広がっていた。
薙ぎ倒され、無惨に転がる柱。
潰れた見張り台、跡形もなく消え去った家々。
そして──ぽっかりと口を開け、底が見えない……大神殿があったはずの、大穴。
「……ぅ、う」
背後でエイトが呻いて、起き上がる。
そうして彼もまた、目の前の惨状に言葉を失った。
……私が、法皇の館で、杖の封印を躊躇ったりなんかしたから。
これは私が犯した罪なんだ、罪の重さを神が示したんだ。
死ぬべき時に死ななかったことへの……神の怒りなのかもしれない。
「これ……は……?」
「……私が、いけなかったんだ」
思わずそう零していた。
地面に私の涙が落ちて、染みを作る。
それは荒廃した風に吹かれて、砂が隠した。
その上から、何度も何度も涙が落ちる。
「私が、杖を封印しなかったから……。だからこんな事になったんだ……。私が……私が死ぬのを怖がったせいで……!」
「違う……。違う、違う……! レイラのせいじゃない……! そんなことあるはずない……」
「杖を封印していれば、私一人が死ぬだけでよかったのに……! あ、ああ……! ごめんなさい……ごめんなさい……!!」
いったい何人が、この大穴に落ちて死んだ?
爆発に巻き込まれて死んだ?
私なんかよりも遥かに命に価値のある人たちが、何百人と死んで……。
ただ杖を封印する為だけに生かされていただけの私が、どうして生き延びてしまったの?
「……兄貴──」
立ち上がったククールが何かを呟いて、大穴に向かってせり出していた神殿への道に向かって走る。
「ククール!」とエイトが叫んで、私の手を引っ張ったまま走った。
道の先に……誰かが掴まっている。
その体が滑り落ちて──その手を、ククールが掴んだ。
「……なん、の……つもり、だ……? 離せ……!!」
マルチェロさんの声が、ククールへそう喚く。
ククールの表情は見えなかったけど、彼は手を離そうとしない。
「貴様らが、邪魔を……しなければ、暗黒神の力、我が手に、できたのだ……。だが、望みは、潰えた……。すべて終わった、のだ……。さあ……! 離せ……!! 貴様、なぞに……助けられて、たまる、か……!」
マルチェロさんがククールの手を振り払って、落ちていこうとする。
ククールはそれでもまた手を伸ばして、マルチェロさんの手を掴んだ。
「……死なせないさ」
ククールが静かに言う。
「虫ケラみたいに嫌ってた弟に情けをかけられ、あんたは惨めに生き延びるんだ。好き放題やってそのまま死のうなんて許さない」
マルチェロさんの手を両手で掴んで、ククールがマルチェロさんを道の上まで引っ張り上げた。
座り込んだククールへ、マルチェロさんが拳で地面を叩いて叫ぶ。
「この上……生き恥を晒せ……だと? 貴様……!!」
立ち上がったククールは、服の汚れを手で払うと、少しだけ俯いて口を閉ざし。
そうして、ぽつりと呟いた。
「……十年以上前だよな。身寄りがなくなった俺が、初めて修道院に来たあの日。最初にまともに話したのが、あんただった。家族も家もなくなって、ひとりっきりで……修道院にも、誰も知り合いがいなくて……。最初に会ったあんたは、でも、優しかったんだ。初めの、あの時だけ。俺が誰か知ってからは、手のひらを返すように冷たくなったけど、それでも……。……それでも、俺は。忘れたことは、なかったよ」
切ない色をした瞳は、マルチェロさんを映すことはなかった。
互いにどうしようもない父親によって翻弄され、その結果、憎み憎まれる兄弟になってしまった二人。
それでもククールは──マルチェロさんのことを、嫌いになれなかった。
初めて声を掛けてくれた時の優しい姿を、忘れることができなくて。
それは愛と呼ぶには、あまりにも哀しくて。
ただの思い出にするには、あまりにも重すぎた。
マルチェロさんがふらつきながら立ち上がり、足を引きずってククールの背後を通り過ぎていく。
聖地の外へ向かう道をゆっくりと歩んでいく姿を、やっぱりククールは見ようとしない。
「……いつか……私を、助けたこと……後悔、するぞ……」
「……好きにすればいいさ。また何かしでかす気なら、何度だって止めてやる」
「……」
最後まで交わらなかった兄弟の道は、ここで永遠に分かたれる。
道を塞ぐようにして二人を見守っていた私たちは、マルチェロさんがこちらへ歩いてくるために道を開けた。
私たちの手前で立ち止まったマルチェロさんは、黒革の手袋の上から嵌めていた指輪をおもむろに外すと、それを後ろへと放り投げた。
それをククールが右手で掴み、そうして手の中にあるものを見て、はっと息を呑む。
「これ、あんたの……聖堂騎士団の指輪か……?」
「貴様にくれてやる。……もう私には無縁のものだ」
そうとだけ言い残して、痛みに顔を歪めながら、マルチェロさんは聖地の外へと歩みを進めていった。
立ち尽くしたままその後ろ姿を見つめるククールの元に、ゼシカが駆け寄る。
「……ねえ、ククール。放っといていいの? あんな酷い怪我してるのに。ねぇってば!」
「……」
マルチェロさんの指輪を握り締めたまま、痛切な面持ちでククールは、マルチェロさんの姿をただ見つめていた。
土埃が風に巻き上げられて、マルチェロさんの姿を薄く隠していく。
その中を歩いていくマルチェロさんの後ろ姿は、段々と小さくなって──そうして、とうとう見えなくなった。
