63章
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ふっと目が覚めた。
なんだか懐かしい夢を見た気がする。
むくりと起き上がると、隣でゼシカがしゃがみこんでぼうっとしていた。
「……おはよう。よく眠れた? 私は全然ダメ」
「そっか……」
「ねぇ、エイト。私たち、これからどうなるのかな。地上はどうなってるのかな……」
「……」
ゼシカの問いに答えられず、視線を牢の中に巡らせる。
ククールも意気消沈していて、レイラはただ牢屋の隅で蹲っている。
そもそも、今が昼なのか夜なのかさえ分からない。
ふと、倒れ伏す神父の横に、印がついているのが見えた。
なんだろうと思って近くに歩み寄ってみると、僕の気配に気付いた神父が起き上がらぬままに教えてくれた。
「ここには昼も夜もないが、時を知ることは出来る。……おお、ちょうど時間のようじゃな」
背後からガラガラとエレベーターが降りてくる音が聞こえてきた。
出てきたのは地上にいた看守。
地下で僕らを見張っていた看守と交代して、エレベーターを上に向かわせると、どっかりとテーブルに座った。
「日に一度の見張りの交代で、天に召される日がまた一日近づいたと分かるのじゃ……」
「そんな……」
僕らがここに連れてこられてから、はじめての交代。
咄嗟にレイラの近くに棒線を一本引いて、僕は牢屋の格子を握っているヤンガスに声をかけた。
「ヤンガス、何してるんだよ?」
「兄貴。申し訳ねぇでがす。なんとかこの牢屋をぶち破ろうと、頑張ってみたんでげすが……。ほんとに申し訳ねぇでがす。腕っ節が自慢のアッシも、全然歯が立たねぇでげすよ」
「体力はなるべく温存しておこう。少しでも長く生き延びないと……」
ここには水も食料もない。
出来る事といったら、なるべく体力の消費を抑えておくことくらいだ。
レイラが動こうとしないのも、そのためだと思いたい。
「……煉獄島。噂には聞いていたが、このような痛ましい場所とは……」
僕の背後で、ぽつりとニノ大司教が呟く。
「恥ずかしい話じゃが、今まで何人もこの煉獄島送りにしたが、中を見るのは初めてなんじゃ。まさか……こんなひどい……。いや、言い訳はよそう。すべては己の責任やも知れぬな」
ニノ大司教の言葉はあまりにも重すぎて、どう返したらいいかも分からない。
たしかに金と権力に驕った人間の末路であるかもしれないけれど、そんなもの、マルチェロさんだって同じだ。
あの人にだけ報いがないのは不公平だと、僕だって思う。
なにより……僕らには負うべき罪さえないのに。
それから僕らは、何度もエレベーターが降りてきては昇っていくのを眺めた。
ニノ大司教はエレベーターが降りてくる度に、冤罪で投獄されたこと、すべてはマルチェロさんの仕業であることを訴えたけれど、看守たちは何一つ聞き入れることはなかった。
床に引いた棒の数も、十を超え、二十を超えていく。
袋の中にあったチーズも底を尽き、だんだんと空腹も誤魔化せなくなり、ゆっくりと、けれど確実に誰もが死へと向かっていた。
そうして煉獄島に捕らわれ、何もできないまま、時間だけが過ぎていった──。
* * *
エイトが床に引いた線が、三十本目を刻んだ。
ここに捕らわれてから、一ヶ月か……。
ガラガラと交代を告げるエレベーターが降りてきて、地上からの看守が背伸びをしながら出てくる。
「どうでい。なんか面白ぇ話はねぇのかい? 丸一日、この穴蔵で囚人どものシケた顔見てんのにゃ、もううんざりだよ」
「おう。大ニュースがあるぜ! そりゃもう世界中大騒ぎだ」
「なんでぇ。勿体ぶんなよ。さっさと教えてくれ!」
「聞いて驚くなよ? なんと……法皇様が、ひと月前にお亡くなりになられたそうだ」
「っ!?」
「なんじゃと!? 法皇様がお亡くなりに……そ、それはまことか!?」
鋭く息を呑んだ私の音をかき消すように、ニノ大司教が牢の外に向かって声を張り上げる。
地上から来た看守は、鬱陶しそうに大司教へ怒鳴り返した。
「うるせぇぞ! てめぇら囚人の知ったことか!」
「ま、待ってくれ! 法皇様に何かあったんじゃ!? どうしてお亡くなりに……」
「うるせぇっつってんだろうが!」
……法皇様が、お亡くなりになった。
それもひと月前に。
ひと月前ということは、私たちがここに投獄されてすぐということになる。
なぜか……私の脳裏には、浮かぶ顔がひとつしかない。
まさか、あなたは……そこまで堕ちたというの?
「……そんな……。法皇様が、まさか……」
ニノ大司教が呟いて膝から崩れ落ちる。
その様子を見ていたエイトが、呆然とした声で言った。
「七賢者の末裔が……全滅……?」
それはつまり。
とうとう私の番がやってきてしまったということ。
魂の封印は全てを解放された。
残るは肉体の封印のみ。
かつての八賢者は、世界の中心にある大岩に暗黒神の肉体を封じ込め、それをシャマルが女神像にしたという。
……つまり、その場所は聖地ゴルド。
もし本当に法皇様を殺したのがマルチェロさんだとすると、彼は間違いなく次の法皇になる。
そして法皇が新しく就任することになった時、演説の会場となるのが──聖地ゴルドだ。
「……なんということじゃ。法皇様がひと月も前にお亡くなりになっていたとは。ひと月前……。法皇様が亡くなられたのは、ちょうどわしらがこの煉獄島に閉じ込められてすぐ後か」
思わず両腕で自分を掻き抱いてしまった。
いつ、いつ殺しにくるの?
怖い……目に見えない恐怖が、すぐそこまで迫ってきているようで。
体が恐怖に支配されて、ぶるぶると震え出す。
自分から死ぬのも怖かったけど……誰かに殺されることになるのは、もっと怖いんだ。
神様……どうかお願いします。
私たちをここから出してください……。
マルチェロさんを止められるのは、私たちしかいないんだ。
なんだか懐かしい夢を見た気がする。
むくりと起き上がると、隣でゼシカがしゃがみこんでぼうっとしていた。
「……おはよう。よく眠れた? 私は全然ダメ」
「そっか……」
「ねぇ、エイト。私たち、これからどうなるのかな。地上はどうなってるのかな……」
「……」
ゼシカの問いに答えられず、視線を牢の中に巡らせる。
ククールも意気消沈していて、レイラはただ牢屋の隅で蹲っている。
そもそも、今が昼なのか夜なのかさえ分からない。
ふと、倒れ伏す神父の横に、印がついているのが見えた。
なんだろうと思って近くに歩み寄ってみると、僕の気配に気付いた神父が起き上がらぬままに教えてくれた。
「ここには昼も夜もないが、時を知ることは出来る。……おお、ちょうど時間のようじゃな」
背後からガラガラとエレベーターが降りてくる音が聞こえてきた。
出てきたのは地上にいた看守。
地下で僕らを見張っていた看守と交代して、エレベーターを上に向かわせると、どっかりとテーブルに座った。
「日に一度の見張りの交代で、天に召される日がまた一日近づいたと分かるのじゃ……」
「そんな……」
僕らがここに連れてこられてから、はじめての交代。
咄嗟にレイラの近くに棒線を一本引いて、僕は牢屋の格子を握っているヤンガスに声をかけた。
「ヤンガス、何してるんだよ?」
「兄貴。申し訳ねぇでがす。なんとかこの牢屋をぶち破ろうと、頑張ってみたんでげすが……。ほんとに申し訳ねぇでがす。腕っ節が自慢のアッシも、全然歯が立たねぇでげすよ」
「体力はなるべく温存しておこう。少しでも長く生き延びないと……」
ここには水も食料もない。
出来る事といったら、なるべく体力の消費を抑えておくことくらいだ。
レイラが動こうとしないのも、そのためだと思いたい。
「……煉獄島。噂には聞いていたが、このような痛ましい場所とは……」
僕の背後で、ぽつりとニノ大司教が呟く。
「恥ずかしい話じゃが、今まで何人もこの煉獄島送りにしたが、中を見るのは初めてなんじゃ。まさか……こんなひどい……。いや、言い訳はよそう。すべては己の責任やも知れぬな」
ニノ大司教の言葉はあまりにも重すぎて、どう返したらいいかも分からない。
たしかに金と権力に驕った人間の末路であるかもしれないけれど、そんなもの、マルチェロさんだって同じだ。
あの人にだけ報いがないのは不公平だと、僕だって思う。
なにより……僕らには負うべき罪さえないのに。
それから僕らは、何度もエレベーターが降りてきては昇っていくのを眺めた。
ニノ大司教はエレベーターが降りてくる度に、冤罪で投獄されたこと、すべてはマルチェロさんの仕業であることを訴えたけれど、看守たちは何一つ聞き入れることはなかった。
床に引いた棒の数も、十を超え、二十を超えていく。
袋の中にあったチーズも底を尽き、だんだんと空腹も誤魔化せなくなり、ゆっくりと、けれど確実に誰もが死へと向かっていた。
そうして煉獄島に捕らわれ、何もできないまま、時間だけが過ぎていった──。
* * *
エイトが床に引いた線が、三十本目を刻んだ。
ここに捕らわれてから、一ヶ月か……。
ガラガラと交代を告げるエレベーターが降りてきて、地上からの看守が背伸びをしながら出てくる。
「どうでい。なんか面白ぇ話はねぇのかい? 丸一日、この穴蔵で囚人どものシケた顔見てんのにゃ、もううんざりだよ」
「おう。大ニュースがあるぜ! そりゃもう世界中大騒ぎだ」
「なんでぇ。勿体ぶんなよ。さっさと教えてくれ!」
「聞いて驚くなよ? なんと……法皇様が、ひと月前にお亡くなりになられたそうだ」
「っ!?」
「なんじゃと!? 法皇様がお亡くなりに……そ、それはまことか!?」
鋭く息を呑んだ私の音をかき消すように、ニノ大司教が牢の外に向かって声を張り上げる。
地上から来た看守は、鬱陶しそうに大司教へ怒鳴り返した。
「うるせぇぞ! てめぇら囚人の知ったことか!」
「ま、待ってくれ! 法皇様に何かあったんじゃ!? どうしてお亡くなりに……」
「うるせぇっつってんだろうが!」
……法皇様が、お亡くなりになった。
それもひと月前に。
ひと月前ということは、私たちがここに投獄されてすぐということになる。
なぜか……私の脳裏には、浮かぶ顔がひとつしかない。
まさか、あなたは……そこまで堕ちたというの?
「……そんな……。法皇様が、まさか……」
ニノ大司教が呟いて膝から崩れ落ちる。
その様子を見ていたエイトが、呆然とした声で言った。
「七賢者の末裔が……全滅……?」
それはつまり。
とうとう私の番がやってきてしまったということ。
魂の封印は全てを解放された。
残るは肉体の封印のみ。
かつての八賢者は、世界の中心にある大岩に暗黒神の肉体を封じ込め、それをシャマルが女神像にしたという。
……つまり、その場所は聖地ゴルド。
もし本当に法皇様を殺したのがマルチェロさんだとすると、彼は間違いなく次の法皇になる。
そして法皇が新しく就任することになった時、演説の会場となるのが──聖地ゴルドだ。
「……なんということじゃ。法皇様がひと月も前にお亡くなりになっていたとは。ひと月前……。法皇様が亡くなられたのは、ちょうどわしらがこの煉獄島に閉じ込められてすぐ後か」
思わず両腕で自分を掻き抱いてしまった。
いつ、いつ殺しにくるの?
怖い……目に見えない恐怖が、すぐそこまで迫ってきているようで。
体が恐怖に支配されて、ぶるぶると震え出す。
自分から死ぬのも怖かったけど……誰かに殺されることになるのは、もっと怖いんだ。
神様……どうかお願いします。
私たちをここから出してください……。
マルチェロさんを止められるのは、私たちしかいないんだ。
