61章
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レオパルドは空を飛ぶだけあって、こちらが空を飛べたとしても見つけるのは至難の業。
だけどレオパルドがどの辺を飛んでいるのかが分かれば、それを手がかりに追いかけることはできる。
これで私たちも、レオパルドに……ラプソーンに遅れはとらないはずだ、
「では、救世主様。お頼み申し上げました。私たちはこの谷で、吉報をお待ちしております」
救世主。
私みたいな存在をそう呼ばなければならないほど、この世界は危機に瀕している。
私たち、最初はただ、大切なものを取り戻したい思いから旅を始めただけだったのに。
大切なものを奪われたために、その仇討ちを目的とする二人が加わって、元凶だと思っていたものがそうではなくって……。
「その杖の封印って、具体的には何をしたらいいの? トロデーン城の封印の間に持っていくだけでいいのかしら」
「けど、あの杖に触ろうものなら、意識をラプソーンは乗っ取られるんだろ? 一番いいのは、取り返したその場で封印することなんだろうが……。できるもんなのか?」
「普通の人間には不可能です。しかしヨシュア様の末裔であり、霊導の力を完全に引き継いでいるあなたであれば、かつて封印を委ねた城までゆかずとも、封印を施すことが出来るはず」
「……なんか、いつの間にかめちゃくちゃ重要な役回りになってない、私?」
「杖の封印が解かれてしまった瞬間から、あなたの使命は杖の再封印となったのです。……もしやヨシュア様の一族は、伝承の継承を放棄されたのでしょうか?」
不安そうな面持ちで私を見やるラジュさんに首を振る。
きっと私の母親までは、その伝承も伝わっていたとは思うけど、私に伝えられる前に、ロアナス家は歴史に幕を下ろしてしまった。
もし正しく伝わっていたなら、闇の遺跡でドルマゲスを倒した時、私が杖を封印していたはずだったんだろう。
「では、再封印の際に唱えるべき聖句も伝わっていない、と……?」
「ヨシュア本人が暗黒神の肉体を封じ込める時に唱えたものなら、私も知ってます。あとはもう本能にしたがって直感で唱えるしかないですけど……」
「一気に不安になったな、今……」
「……いえ、その聖句だけでも伝わっているのなら安心ですわ。偉大なる霊導者ヨシュア様の末裔、救世主レイラ。どうかあなたの力と献身で、この世界を暗黒神の恐怖からお救いください」
その、どこかはぐらかすような物言いで、さすがの私も気付いてしまった。
ラジュさんが──いや、世界が私に望んでいることに。
要は私が人柱となって杖を封印するしかないわけだ。
……かつてのヨシュアがそうしたように。
「……レイラ?」
「ラジュさん。あなた達は、ヨシュアの何をもってして救世主と呼んだんですか?」
私の問いかけの真意を探る、ピンクの瞳を見つめ返す。
やがてラジュさんは、静かに答えた。
「あの方の……自己の存在と引き換えにして世界に平和をもたらした、その心に」
「……もうひとつ、聞いてもいいですか。あなた達は、何をもってして、私を救世主と呼んだんですか」
背後でエイトが息を詰まらせた。
ねぇ、みんなは気付いているかな?
──私の命に課せられた、使命について。
だけど私から言うのは癪だから、ずるい手を使わせてもらうね。
私から「封印のために死にます」なんて言ってやらない。
世界から「封印のために死ね」と言われて、私はそうするんだ。
「……あなたが持つ、ヨシュア様と同じ力に」
「では、あなた達の願ったとおりに──」
「──駄目だ!」
私を遮ったのは、エイトの大声だった。
やっぱりエイトは気付いたんだ。
ラジュさんが私に何をしてほしいのか。
だけど……それでも私は、そのカードを切る。
エイトがいない世界なんて、意味がないから。
「エイト。分かって」
「……嫌だ。分かりたくない」
「死ににいくわけじゃないのに」
「……何、を言って」
死ににいくわけじゃない。
杖の封印が解かれて、賢者の末裔が殺され始めた時から、私の運命は定まってしまった。
だから、私はその運命が示すとおりに生きて、終わるだけ。
人生という舞台の幕を、大団円で降ろすために。
真っ青なエイトに微笑んで、私は首を横に振った。
何の力もない、ただの人間だったらよかったのに。
なまじ霊導者の力を十全に受け継いでしまったせいで、私は世界の命運なんてものを背負わされてしまった。
……本当は分かってる。
私がそのカードを切って、この世界を助けたとしても、エイトは、エイトだけが悲しみの中に取り残されてしまうって。
好きになるべきじゃなかったんだ、エイトは、私を。
私の事なんて、誰も好きになるべきじゃなかった。
私は、誰のことも好きになるべきじゃなかった。
「ラジュさん。大丈夫です、きっと何とかしてみせます」
「レイラ、どうして」
「とりあえず宝物庫に行こっか! 暗黒大樹の葉を手に入れて、レオパルドを大急ぎで追いかけないと!」
「……触れないほうがいいんだな?」
ククールは私を見つめて、静かにそう問うた。
……本当はみんなに知ってほしかった。
でも、それで決意が揺らぐのは嫌だ。
だから……気付いても、知らないふりをしてほしい。
「うん」
私は何もかもを飲み込んで、綺麗に微笑んで見せた。
あなた達はこの先を生きてゆく存在。
消えるだけの命なんて、気にしなくていい。
どうせ何も残らないのだから。
「……分かった。お前がそれを望むなら、俺は何も聞かない」
「どうしてよ!? だってレイラとラジュさんの反応からして、レイラは……!」
「ゼシカ。レイラがそれを望んでるんだ。最後まで、今まで通りの俺たちでいようぜ」
ククールがそう言って遺跡を出ていく。
手を引かれたゼシカは、なおも何かを言い募っていたけれど、微笑んでいる私を見てからは、何も言わなくなった。
私もククールに続いて遺跡を出ようとすると、後ろからエイトが来ていないのに気が付いた。
……でも、私が声をかけるのは違う気がしたから、エイトを遺跡の中に残して、私はそのまま外へ出たのだった。
吊り橋を渡って向こう側へ戻り、酒場の中を通り抜けて、宿屋の入口から外へ。
そうして通路を左に降りていけば、そこが宝物庫になっている。
宝物庫の扉を開けると、鉄格子の前に立っていた門番のオークが、私を見て頷いた。
「話は聞いたぞ。お前たちは俺たちの最後の希望だ。さあ、中の宝を持っていけ」
「ありがとうございます。……必ず成し遂げます」
オークは一瞬だけ悲しそうな目をして、それから厳しい表情に戻り、無言で頷いた。
鉄格子を開け、中へと入る。
先頭になって進む私へ、ミミックが声をかけた。
「霊導者の子が世を救うとは、皮肉なものよ。だが心してかかれ。人間の八賢者と神鳥レティスが力を合わせても、あの暗黒神を封印するのが精一杯だったのだ。万が一、暗黒神が復活してしまったら、奴を滅ぼすことはできないものと思え。暗黒神を止めるのは、今しかないのだ」
「もちろん。そのために私がいるんでしょうから」
どちらの意味でも取れる答えを返して、私は宝箱を開けた。
中に収められていた黒い葉っぱ。
これが暗黒大樹の葉……。
急ごう、手遅れになる前に。
ラプソーンの復活だけは、絶対に阻止しなくちゃ。
「エイトが来るまで、酒場で待っていようよ」
「そうでがすな。しかしエイトの兄貴、何をそんなに慌てておられたんでげしょうね?」
「……うん、なんでだろうね」
曖昧にぼかして、酒場へと戻る。
変わらないヤンガスのそれに、ほっとしてしまったのは内緒だ。
酒が回ってご機嫌な陛下にそっとお水を渡しつつ、その隣に失礼して座らせてもらうことにした。
そうして私たちはそれぞれピュア・ギガンテスを一杯頼んで、なかなか戻ってこないエイトを待つことにしたのだった。
……きっと、気持ちの整理がつかないんだろう。
私だってそうだもん、エイトは尚更だよね。
でも私が躊躇ってしまったせいで、全部がおしまいになってしまうことだけは避けなきゃいけない。
終わらせたくないんだ、私は。
この世界を──エイトが生きていく世界を、終わらせたりなんてしたくない。
だけどレオパルドがどの辺を飛んでいるのかが分かれば、それを手がかりに追いかけることはできる。
これで私たちも、レオパルドに……ラプソーンに遅れはとらないはずだ、
「では、救世主様。お頼み申し上げました。私たちはこの谷で、吉報をお待ちしております」
救世主。
私みたいな存在をそう呼ばなければならないほど、この世界は危機に瀕している。
私たち、最初はただ、大切なものを取り戻したい思いから旅を始めただけだったのに。
大切なものを奪われたために、その仇討ちを目的とする二人が加わって、元凶だと思っていたものがそうではなくって……。
「その杖の封印って、具体的には何をしたらいいの? トロデーン城の封印の間に持っていくだけでいいのかしら」
「けど、あの杖に触ろうものなら、意識をラプソーンは乗っ取られるんだろ? 一番いいのは、取り返したその場で封印することなんだろうが……。できるもんなのか?」
「普通の人間には不可能です。しかしヨシュア様の末裔であり、霊導の力を完全に引き継いでいるあなたであれば、かつて封印を委ねた城までゆかずとも、封印を施すことが出来るはず」
「……なんか、いつの間にかめちゃくちゃ重要な役回りになってない、私?」
「杖の封印が解かれてしまった瞬間から、あなたの使命は杖の再封印となったのです。……もしやヨシュア様の一族は、伝承の継承を放棄されたのでしょうか?」
不安そうな面持ちで私を見やるラジュさんに首を振る。
きっと私の母親までは、その伝承も伝わっていたとは思うけど、私に伝えられる前に、ロアナス家は歴史に幕を下ろしてしまった。
もし正しく伝わっていたなら、闇の遺跡でドルマゲスを倒した時、私が杖を封印していたはずだったんだろう。
「では、再封印の際に唱えるべき聖句も伝わっていない、と……?」
「ヨシュア本人が暗黒神の肉体を封じ込める時に唱えたものなら、私も知ってます。あとはもう本能にしたがって直感で唱えるしかないですけど……」
「一気に不安になったな、今……」
「……いえ、その聖句だけでも伝わっているのなら安心ですわ。偉大なる霊導者ヨシュア様の末裔、救世主レイラ。どうかあなたの力と献身で、この世界を暗黒神の恐怖からお救いください」
その、どこかはぐらかすような物言いで、さすがの私も気付いてしまった。
ラジュさんが──いや、世界が私に望んでいることに。
要は私が人柱となって杖を封印するしかないわけだ。
……かつてのヨシュアがそうしたように。
「……レイラ?」
「ラジュさん。あなた達は、ヨシュアの何をもってして救世主と呼んだんですか?」
私の問いかけの真意を探る、ピンクの瞳を見つめ返す。
やがてラジュさんは、静かに答えた。
「あの方の……自己の存在と引き換えにして世界に平和をもたらした、その心に」
「……もうひとつ、聞いてもいいですか。あなた達は、何をもってして、私を救世主と呼んだんですか」
背後でエイトが息を詰まらせた。
ねぇ、みんなは気付いているかな?
──私の命に課せられた、使命について。
だけど私から言うのは癪だから、ずるい手を使わせてもらうね。
私から「封印のために死にます」なんて言ってやらない。
世界から「封印のために死ね」と言われて、私はそうするんだ。
「……あなたが持つ、ヨシュア様と同じ力に」
「では、あなた達の願ったとおりに──」
「──駄目だ!」
私を遮ったのは、エイトの大声だった。
やっぱりエイトは気付いたんだ。
ラジュさんが私に何をしてほしいのか。
だけど……それでも私は、そのカードを切る。
エイトがいない世界なんて、意味がないから。
「エイト。分かって」
「……嫌だ。分かりたくない」
「死ににいくわけじゃないのに」
「……何、を言って」
死ににいくわけじゃない。
杖の封印が解かれて、賢者の末裔が殺され始めた時から、私の運命は定まってしまった。
だから、私はその運命が示すとおりに生きて、終わるだけ。
人生という舞台の幕を、大団円で降ろすために。
真っ青なエイトに微笑んで、私は首を横に振った。
何の力もない、ただの人間だったらよかったのに。
なまじ霊導者の力を十全に受け継いでしまったせいで、私は世界の命運なんてものを背負わされてしまった。
……本当は分かってる。
私がそのカードを切って、この世界を助けたとしても、エイトは、エイトだけが悲しみの中に取り残されてしまうって。
好きになるべきじゃなかったんだ、エイトは、私を。
私の事なんて、誰も好きになるべきじゃなかった。
私は、誰のことも好きになるべきじゃなかった。
「ラジュさん。大丈夫です、きっと何とかしてみせます」
「レイラ、どうして」
「とりあえず宝物庫に行こっか! 暗黒大樹の葉を手に入れて、レオパルドを大急ぎで追いかけないと!」
「……触れないほうがいいんだな?」
ククールは私を見つめて、静かにそう問うた。
……本当はみんなに知ってほしかった。
でも、それで決意が揺らぐのは嫌だ。
だから……気付いても、知らないふりをしてほしい。
「うん」
私は何もかもを飲み込んで、綺麗に微笑んで見せた。
あなた達はこの先を生きてゆく存在。
消えるだけの命なんて、気にしなくていい。
どうせ何も残らないのだから。
「……分かった。お前がそれを望むなら、俺は何も聞かない」
「どうしてよ!? だってレイラとラジュさんの反応からして、レイラは……!」
「ゼシカ。レイラがそれを望んでるんだ。最後まで、今まで通りの俺たちでいようぜ」
ククールがそう言って遺跡を出ていく。
手を引かれたゼシカは、なおも何かを言い募っていたけれど、微笑んでいる私を見てからは、何も言わなくなった。
私もククールに続いて遺跡を出ようとすると、後ろからエイトが来ていないのに気が付いた。
……でも、私が声をかけるのは違う気がしたから、エイトを遺跡の中に残して、私はそのまま外へ出たのだった。
吊り橋を渡って向こう側へ戻り、酒場の中を通り抜けて、宿屋の入口から外へ。
そうして通路を左に降りていけば、そこが宝物庫になっている。
宝物庫の扉を開けると、鉄格子の前に立っていた門番のオークが、私を見て頷いた。
「話は聞いたぞ。お前たちは俺たちの最後の希望だ。さあ、中の宝を持っていけ」
「ありがとうございます。……必ず成し遂げます」
オークは一瞬だけ悲しそうな目をして、それから厳しい表情に戻り、無言で頷いた。
鉄格子を開け、中へと入る。
先頭になって進む私へ、ミミックが声をかけた。
「霊導者の子が世を救うとは、皮肉なものよ。だが心してかかれ。人間の八賢者と神鳥レティスが力を合わせても、あの暗黒神を封印するのが精一杯だったのだ。万が一、暗黒神が復活してしまったら、奴を滅ぼすことはできないものと思え。暗黒神を止めるのは、今しかないのだ」
「もちろん。そのために私がいるんでしょうから」
どちらの意味でも取れる答えを返して、私は宝箱を開けた。
中に収められていた黒い葉っぱ。
これが暗黒大樹の葉……。
急ごう、手遅れになる前に。
ラプソーンの復活だけは、絶対に阻止しなくちゃ。
「エイトが来るまで、酒場で待っていようよ」
「そうでがすな。しかしエイトの兄貴、何をそんなに慌てておられたんでげしょうね?」
「……うん、なんでだろうね」
曖昧にぼかして、酒場へと戻る。
変わらないヤンガスのそれに、ほっとしてしまったのは内緒だ。
酒が回ってご機嫌な陛下にそっとお水を渡しつつ、その隣に失礼して座らせてもらうことにした。
そうして私たちはそれぞれピュア・ギガンテスを一杯頼んで、なかなか戻ってこないエイトを待つことにしたのだった。
……きっと、気持ちの整理がつかないんだろう。
私だってそうだもん、エイトは尚更だよね。
でも私が躊躇ってしまったせいで、全部がおしまいになってしまうことだけは避けなきゃいけない。
終わらせたくないんだ、私は。
この世界を──エイトが生きていく世界を、終わらせたりなんてしたくない。
