57章
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さて応接室のドアを開けると、女の子の怒号が迎えてくれた。
これは新しい歓待の仕方だなぁ。
ドアを開けたら兄妹喧嘩の真っ最中だとは思わなかった。
「なによ、お兄ちゃんのバカ! バカバカバカバカバカ!!」
「あのーすみません……」
「いい? あたしたちはパパに拾われた子供なんだよ。どっちが先に産まれてきたのか分かんないでしょ! 本当はあたしが姉で、お兄が弟かもしれないんだよ!」
「あのー、すみませーん」
「ああ、妹よ。話を蒸し返すな。お前がそう主張するから、妹のお前にも家を継ぐチャンスを与えたんだろ。ギャリング家の継承の試練をどちらが早く終わらせるかで競い合い、勝った方が家を継ぐ。妹よ。お前もこのことには賛成しただろ。それとも何か……? 護衛付きとはいえ、今になって竜骨の迷宮へ行くのが怖くなったか?」
「別に怖くなんかないわよ。なにさ、馬鹿にして!」
「あのー! すいませーん!」
しびれを切らした私がデカい声を出したことで、兄妹喧嘩が止まった。
やっとこっちに気付いたな!
こんだけ大人数でゾロゾロ入ってきたのにまるで気付かないんだもん、びっくりしたわ。
「お兄ちゃん、お客様だよ。護衛志願の人かもしれないよ」
「おっと、これはこれは。お見苦しいところをお見せして申し訳ない。ようこそ我が屋敷へ」
そう言って出迎えてくれたのは、青い髪にキザな仕草が目立つフォーグ。
その隣には、緑の髪にそばかすがチャームポイントの妹ユッケ。
なるほどここは双子だけど、彼らはギャリングさんとは血が繋がっていない、と。
「強そうな人は大歓迎よ」
「は、はぁ。ところで護衛志願って、そんな危険な所に行くんですか?」
「え!? 知らないで来ちゃったの!?」
「すみませんすみません! なんか成り行きで! いや成り行きって程でもないですけど!」
「なら説明したげるからさ、あたしとお兄ちゃんの話だけでも聞いていってよ」
「話を聞くくらいなら構わないわよ。ね、エイト?」
ゼシカに振られて、エイトも頷く。
だってそうしないと帰れなさそうだしね。
好奇心も程々にすべきだなと思い知りました。
「そいじゃあ説明するからね、そこのソファにでも座ってちょうだい」
示されたソファは明らかに二人がけだ。
リーダーであるエイトが座ると、その隣にヤンガスが当然のように座ったので、残りの三人はソファの後ろに立つことにした。
姉貴にも座らせなさいよ、子分なんだったら。
「じゃあ説明しよう」
執務机らしい大きな机の前で、フォーグが口を開いた。
ユッケは机に座っている。
良くも悪くも奔放な妹である。
「私たちの育ての親が死んでね。父の跡を私と妹のどちらが継ぐかで揉めているんだ。私たちは仲が悪い。話し合っても全然決着がつかない」
「そこであたしとお兄ちゃんで、恨みっこなしの勝負をすることにしたの。継承の試練を終えて、早く町に戻ってきた方が勝ち」
ほうほうなるほど。
ツッコミどころは多々あるけど、それは野暮だから言わないでおこう。
私も押していいボタンといけないボタンの違いは分かる。
「事情は分かりました。で、継承の試練というのは?」
「継承の試練とは、古くからギャリング一族に伝わってきた、家督を継ぐ際の肝試しみたいなものさ。竜骨の迷宮の奥まで行って、家長の証を手に刻んでくるだけなんだが、その竜骨の迷宮が曲者でね」
「魔物がいっぱいで、下手すりゃ命を落としちゃうかもしれないの。だから護衛を雇うってわけ」
「でもなかなか私と妹が納得できる人材が来てくれなくてね。ほとほと困っていたのだよ」
はぁ、それで門扉の近くにいた女戦士は断られたわけか。
そりゃまあ、そんじょそこらの衛兵よりは強い自信あるけど。
闇の世界にまで行ったくらいだし。
「私は彼らになら護衛を任せてもいいと思うが、妹よ。お前のほうはどうだね?」
フォーグに話を振られたユッケが、机から飛び降りる。
二人ともなぜソファに座らないのか。
「うん。この人たち、気に入った。あ〜ら、珍しく意見が合ったわね」
「よし、決まりだ。私か妹、どちらの護衛につくかは、君たちで選んでほしい。彼らに選ばれなかった方は、屋敷の部下を護衛に連れていく。これでいいよな、妹よ」
「文句ないよ。どっちみち吠え面かくのはお兄ちゃんだからね」
「ふん。言ってろよ」
まぁ見事にバチバチである。
マルチェロさんククール兄弟とは別のベクトルで仲が悪いな。
きょうだいってそんなもんなのかなぁ?
でもゼシカとサーベルトさんは仲良さそうだったし……。
「そうそう、君らが護衛した方が負けても、ちゃんと報酬は払うから、その点だけは安心してくれ」
「タダ働きにはならないんなら、いっか……」
おかしいな、当初の予定では断られて屋敷を後にするはずだったのに。
なぜか護衛が決まってしまったな。
レオパルドの行方も分かってないし、いいっちゃいいんだけど。
それより問題は、兄と妹のどちらを護衛するかだ。
「ぶっちゃけどっちでも私は文句ないよ。エイトが決めな」
「俺もだ」
「私もそれでいいわ」
「兄貴の選択だ、アッシも文句はねぇでがす」
「え、ええ……?」
困惑した様子のエイトの顔が、「僕もどっちでもいいんだけど……」と言っていた。
うーん、ぱっと見た限りでは、スムーズに旅が進みそうなのはフォーグ。
道中が賑やかになって楽しそうなのがユッケだ。
ここから先はエイトの判断に任せよう。
「じゃあ……」
エイトの視線がユッケへ向かう。
目が合ったユッケは、ニッコリと屈託のない笑顔を浮かべた。
「お兄ちゃんより、あたしと一緒のほうが楽しいよ。選ぶんだったらあたしにしときなよ」
「まあ賑やかさは確実に妹のユッケだろうけどよ」
「あたしを護衛して竜骨の迷宮へ行ってくれるよね?」
「うーん……。まあそれでいいか。分かりました」
「わーい! よろしくね! そうそう、出発は明日の朝、日の出と同時なんだよ。朝早くに出発するから、寝坊しないように今夜はうちに泊まっていってね」
そーれは……私とエイトは起きられるけど、他三人はどうだ!?
ちょっと不安になってきたな、特にヤンガス……。
また台所からフライパンとレードルを貸してもらわないと……。
「ふむ。それじゃあ私は、屋敷の部下たちを護衛に連れていこう。……おっと、忘れていた」
執務机の上にある呼び鈴をフォーグが鳴らす。
すぐにドアが開いて、メイドが現れた。
「お呼びでしょうか?」
「ここにいる客人のために、今日の夕食は豪勢にしてくれたまえ。たらふく食べて力を付けてもらわないと、不公平だものな」
「なによぅ、恩着せがましいわね。それで敵に塩でも送ったつもり? まあ、美味しい夕食には文句ないけど」
美味しい……御馳走!
いつぶりだろう!?
そういうもてなしを受ける機会、全然ないからなぁ……!
下手するとアスカンタ以来なんじゃ……!
「こりゃ儲けもんだ。アスカンタに続いて、また美味いメシにありつけるたぁ、ついてるでがすよ!」
「またトロデ王抜きでか。少し気が引けるな……」
「おっさんには悪いが、今度のことは内緒にさせてもらうぜ」
やれやれ、とククールが肩を竦める。
私も気は引けるけど、でも美味しいご飯は是非とも頂きたい!
宿屋のご飯にモンクがあるわけじゃないけど、パンとスープだけだと飽きも来るってもんじゃん!
その夜、私たちはテーブルに並んだ美味しい料理をお腹いっぱい食べた。
そうして、強い眠気に襲われ、眠りについた──。
これは新しい歓待の仕方だなぁ。
ドアを開けたら兄妹喧嘩の真っ最中だとは思わなかった。
「なによ、お兄ちゃんのバカ! バカバカバカバカバカ!!」
「あのーすみません……」
「いい? あたしたちはパパに拾われた子供なんだよ。どっちが先に産まれてきたのか分かんないでしょ! 本当はあたしが姉で、お兄が弟かもしれないんだよ!」
「あのー、すみませーん」
「ああ、妹よ。話を蒸し返すな。お前がそう主張するから、妹のお前にも家を継ぐチャンスを与えたんだろ。ギャリング家の継承の試練をどちらが早く終わらせるかで競い合い、勝った方が家を継ぐ。妹よ。お前もこのことには賛成しただろ。それとも何か……? 護衛付きとはいえ、今になって竜骨の迷宮へ行くのが怖くなったか?」
「別に怖くなんかないわよ。なにさ、馬鹿にして!」
「あのー! すいませーん!」
しびれを切らした私がデカい声を出したことで、兄妹喧嘩が止まった。
やっとこっちに気付いたな!
こんだけ大人数でゾロゾロ入ってきたのにまるで気付かないんだもん、びっくりしたわ。
「お兄ちゃん、お客様だよ。護衛志願の人かもしれないよ」
「おっと、これはこれは。お見苦しいところをお見せして申し訳ない。ようこそ我が屋敷へ」
そう言って出迎えてくれたのは、青い髪にキザな仕草が目立つフォーグ。
その隣には、緑の髪にそばかすがチャームポイントの妹ユッケ。
なるほどここは双子だけど、彼らはギャリングさんとは血が繋がっていない、と。
「強そうな人は大歓迎よ」
「は、はぁ。ところで護衛志願って、そんな危険な所に行くんですか?」
「え!? 知らないで来ちゃったの!?」
「すみませんすみません! なんか成り行きで! いや成り行きって程でもないですけど!」
「なら説明したげるからさ、あたしとお兄ちゃんの話だけでも聞いていってよ」
「話を聞くくらいなら構わないわよ。ね、エイト?」
ゼシカに振られて、エイトも頷く。
だってそうしないと帰れなさそうだしね。
好奇心も程々にすべきだなと思い知りました。
「そいじゃあ説明するからね、そこのソファにでも座ってちょうだい」
示されたソファは明らかに二人がけだ。
リーダーであるエイトが座ると、その隣にヤンガスが当然のように座ったので、残りの三人はソファの後ろに立つことにした。
姉貴にも座らせなさいよ、子分なんだったら。
「じゃあ説明しよう」
執務机らしい大きな机の前で、フォーグが口を開いた。
ユッケは机に座っている。
良くも悪くも奔放な妹である。
「私たちの育ての親が死んでね。父の跡を私と妹のどちらが継ぐかで揉めているんだ。私たちは仲が悪い。話し合っても全然決着がつかない」
「そこであたしとお兄ちゃんで、恨みっこなしの勝負をすることにしたの。継承の試練を終えて、早く町に戻ってきた方が勝ち」
ほうほうなるほど。
ツッコミどころは多々あるけど、それは野暮だから言わないでおこう。
私も押していいボタンといけないボタンの違いは分かる。
「事情は分かりました。で、継承の試練というのは?」
「継承の試練とは、古くからギャリング一族に伝わってきた、家督を継ぐ際の肝試しみたいなものさ。竜骨の迷宮の奥まで行って、家長の証を手に刻んでくるだけなんだが、その竜骨の迷宮が曲者でね」
「魔物がいっぱいで、下手すりゃ命を落としちゃうかもしれないの。だから護衛を雇うってわけ」
「でもなかなか私と妹が納得できる人材が来てくれなくてね。ほとほと困っていたのだよ」
はぁ、それで門扉の近くにいた女戦士は断られたわけか。
そりゃまあ、そんじょそこらの衛兵よりは強い自信あるけど。
闇の世界にまで行ったくらいだし。
「私は彼らになら護衛を任せてもいいと思うが、妹よ。お前のほうはどうだね?」
フォーグに話を振られたユッケが、机から飛び降りる。
二人ともなぜソファに座らないのか。
「うん。この人たち、気に入った。あ〜ら、珍しく意見が合ったわね」
「よし、決まりだ。私か妹、どちらの護衛につくかは、君たちで選んでほしい。彼らに選ばれなかった方は、屋敷の部下を護衛に連れていく。これでいいよな、妹よ」
「文句ないよ。どっちみち吠え面かくのはお兄ちゃんだからね」
「ふん。言ってろよ」
まぁ見事にバチバチである。
マルチェロさんククール兄弟とは別のベクトルで仲が悪いな。
きょうだいってそんなもんなのかなぁ?
でもゼシカとサーベルトさんは仲良さそうだったし……。
「そうそう、君らが護衛した方が負けても、ちゃんと報酬は払うから、その点だけは安心してくれ」
「タダ働きにはならないんなら、いっか……」
おかしいな、当初の予定では断られて屋敷を後にするはずだったのに。
なぜか護衛が決まってしまったな。
レオパルドの行方も分かってないし、いいっちゃいいんだけど。
それより問題は、兄と妹のどちらを護衛するかだ。
「ぶっちゃけどっちでも私は文句ないよ。エイトが決めな」
「俺もだ」
「私もそれでいいわ」
「兄貴の選択だ、アッシも文句はねぇでがす」
「え、ええ……?」
困惑した様子のエイトの顔が、「僕もどっちでもいいんだけど……」と言っていた。
うーん、ぱっと見た限りでは、スムーズに旅が進みそうなのはフォーグ。
道中が賑やかになって楽しそうなのがユッケだ。
ここから先はエイトの判断に任せよう。
「じゃあ……」
エイトの視線がユッケへ向かう。
目が合ったユッケは、ニッコリと屈託のない笑顔を浮かべた。
「お兄ちゃんより、あたしと一緒のほうが楽しいよ。選ぶんだったらあたしにしときなよ」
「まあ賑やかさは確実に妹のユッケだろうけどよ」
「あたしを護衛して竜骨の迷宮へ行ってくれるよね?」
「うーん……。まあそれでいいか。分かりました」
「わーい! よろしくね! そうそう、出発は明日の朝、日の出と同時なんだよ。朝早くに出発するから、寝坊しないように今夜はうちに泊まっていってね」
そーれは……私とエイトは起きられるけど、他三人はどうだ!?
ちょっと不安になってきたな、特にヤンガス……。
また台所からフライパンとレードルを貸してもらわないと……。
「ふむ。それじゃあ私は、屋敷の部下たちを護衛に連れていこう。……おっと、忘れていた」
執務机の上にある呼び鈴をフォーグが鳴らす。
すぐにドアが開いて、メイドが現れた。
「お呼びでしょうか?」
「ここにいる客人のために、今日の夕食は豪勢にしてくれたまえ。たらふく食べて力を付けてもらわないと、不公平だものな」
「なによぅ、恩着せがましいわね。それで敵に塩でも送ったつもり? まあ、美味しい夕食には文句ないけど」
美味しい……御馳走!
いつぶりだろう!?
そういうもてなしを受ける機会、全然ないからなぁ……!
下手するとアスカンタ以来なんじゃ……!
「こりゃ儲けもんだ。アスカンタに続いて、また美味いメシにありつけるたぁ、ついてるでがすよ!」
「またトロデ王抜きでか。少し気が引けるな……」
「おっさんには悪いが、今度のことは内緒にさせてもらうぜ」
やれやれ、とククールが肩を竦める。
私も気は引けるけど、でも美味しいご飯は是非とも頂きたい!
宿屋のご飯にモンクがあるわけじゃないけど、パンとスープだけだと飽きも来るってもんじゃん!
その夜、私たちはテーブルに並んだ美味しい料理をお腹いっぱい食べた。
そうして、強い眠気に襲われ、眠りについた──。
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