51章
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リブルアーチでチェルスさんを守れなかった私たちは、その傷が癒えきらないうちに雪国でメディさんまでもを失った。
残る賢者の末裔は二人。
そのうちの一人である私は、ラプソーン直々に「最後の一人」と指名された私。
そして、残る一人は──。
「おおー……」
「階段がキツそうでがすなぁ」
「いいトレーニングにはなりそう」
「二人とも、もう少しマシな感想はないわけ?」
「一応、巡礼の地のひとつだぞ」
目の前には長ーい階段。
それをゼェゼェ言いつつ登った先には、聳え立つ大聖堂。
そう、ここが世界三大聖地のひとつ。
──サヴェッラ大聖堂だ。
「私たちって来たことあるっけ?」
「僕は護衛として、建物の外側まで。レイラは船酔いして寝込んでたから、上陸も初めてじゃないかな?」
「あの時かー……」
一度だけ、私たちは先輩たちと一緒に、陛下と姫様の警備要員として、外遊に付き添った。
その時の行き先がここだったのだ。
ちなみに私は船酔いがひどくて立つこともままならず、船室でゲロと戦いながら寝込んでいた。
エイトは中まで入ったもんだと思ってたけど、外までしか連れて行ってもらえなかったとは驚きだ。
「先にお祈りしていこう。せっかくだからね」
「お前らはもう敬虔な信徒だよ。俺より信仰心あるだろ」
「ククールが持ってなさすぎるんじゃないの? 聖堂騎士団員でしょ? 元だけど」
「神の存在は信じてやってもいいが、教会なんてのはろくな組織じゃない。……聖地ゴルドで思い知ったろ」
その時のことを引き合いに出されると、私たちは何も言えない。
あれからマルチェロさんとは一度も会ってないけど、表面上は誠実そうに見えた人が、まさかあんなに腹黒い奴だったとは。
まぁろくな人間じゃないのは薄々気付いていたから、私とゼシカは『二階からイヤミ』って渾名を付けたんだけど。
「それにしてもすごい建物よねぇ。見上げてると首が痛くなっちゃう」
「中のステンドグラスも綺麗だったって聞いたよ。僕も中に入るのは初めてだから、ちょっと楽しみだな」
「兄貴が目に見えて浮き足立ってるでがす。珍しいこともあるもんでがすよ」
「えっ! そ、そんなに珍しいかな」
「たしかに珍しいかも。初めて行く場所ばっかりなのに、いつも冷静だもん」
「若者らしくて結構なことだろ。なぁ?」
「アッシから見りゃあ、ククールも充分な若者でげすよ」
わいわい言いながら大聖堂へと入る。
大聖堂の中は厳かな雰囲気に満ちていて、熱心に祈りを捧げる人達が数人いる程度だ。
自分たちの足音が響いて、なおさら静けさを感じてしまう。
聖水で手を清めてから、私達も祭壇にある女神像に向かって祈りを捧げた。
閑話休題。
我々はここに観光に来たわけでも、巡礼の旅をしているわけでもなくて。
残る最後の賢者の末裔が、ここの上に住んでいるから来たのである。
「で、どうやって法皇様に会う?」
「そもそも法皇様の館にどうやって向かうの?」
「生き方自体は、あるにはあるんだけどな。ただ、誰も彼もが行けるわけじゃない」
ククールがスタスタとどこかへ歩いていく。
そうして大聖堂の裏手にある、小さな建物へ向かっていった。
建物からは長いガラス張りの通路のようなものが、頭上にある浮いた島に続いていた。
とんでもない急勾配だけど、まさかこの通路をひたすら登っていけとか言わんだろうな?
「ここから法皇の館に行けるようにはなってる。ただ、基本的には許可された奴しか立ち入れ──」
建物の扉を開けたククールの声が不自然に切れた。
通路から誰かが石版に乗って、すぅーっと降りてくる。
その顔は……久々に見る、腹立たしい顔だった。
「……これはこれは。どこかでお会いしたことがありましたかな?」
開口一番イヤミが絶好調のマルチェロさんがご登場だ。
私たちの間で空気がピリついた。
ククールとマルチェロさんが顔を合わせると、ろくな事にならない。
「……いい加減にしろ。俺の顔まで忘れたのかよ!」
「ああ、そうだった。規律違反のあまりの多さに、修道院を追い出されたククール。たしか……そう。そんな名前だったかな?」
「ちょっと! ふざけるのも大概にしなさいよ!」
「おやおや、怖い怖い。ほんの冗談ですよ。気分を害したなら失敬」
「冗談でも言っていいことと悪いことが有りますよ。そんなことも分からないほど頭スライムなんですか?」
誰かが吹き出すのを誤魔化すみたいに咳払いした。
たぶん私の隣にいたエイトだ。
すまん、笑いのツボを押したかったわけじゃないんだけど、例えがそれしか出てこなかったんだ……。
頭スライムと言われたマルチェロさんは、ピクリとこめかみを動かしたものの、浮かべた薄ら笑いを崩すことは無かった。
「……さてと。私にはこれより、法皇様の警護の兵を選ぶという仕事がある。気楽な旅人と違って、遊んでいる暇はないのでね。この辺で失礼しよう。それではごきげんよう。神のご加護があらんことを」
人を馬鹿にした笑みを浮かべたまま、マルチェロさんは建物から外へと出ていった。
その後ろ姿が完全に見えなくなってから、私とゼシカが同時にすぅ、と息を吸う。
隣でエイトがそっと耳を塞いだ。
「な、なんだアイツ!! ククールのこと赤の他人みたいに言いやがって!! ふざけんなっつーの!!」
「こっちだって暇じゃないわよ!! あー、あったま来た! アイツの渾名変更よ。二階からイヤミじゃなくって、どこでもイヤミ男ッ!! なによ、あの態度! 人を馬鹿にするにも程があるわ!」
「うちの女性陣は頼もしいな。ね、ククール」
「……」
「ククール?」
「……なに、何か用?」
苛立たしげに口を開いたククールに、エイトは逆にすっと口を閉ざした。
「俺は別に話すことはない。ごちゃごちゃ話しかけてくんなよ。鬱陶しい」
「ククール、そんな言い方は……」
「ごめん。僕が悪かったよ。ほら行こう、法皇様に会う方法を考えないと」
私とゼシカの背を押して、エイトが建物から出る。
その先には、この建物の警備に就いていた衛兵二人が、マルチェロさんの立ち去った方向を見て不愉快そうに鼻を鳴らしていた。
「まったくいい気なもんだ。辺境の修道院長風情が、法皇様の護衛役だと? 本来なら名門貴族の出である俺たちこそが、その大役を仰せつかるはずなのに!」
「どうせ賄賂を弾んで、上手く法皇様に取り入ったのさ。あいつの噂は聞いてる。せいぜい威張らしとけよ。どうせあいつは番犬止まり。華々しい出世もここまでだ。金でどうこうできるのはここまでさ。あとは生まれた身分がものを言う」
……教会って、本当にろくでもない組織なんだな。
神に仕える人達はみんな清らかな人だと思っていたけど、どうも違うみたいだ。
ひょっとして法皇様もそうなのかな。
「……おい!」
私たちに気付いた衛兵が、相方を窘める。
言い出したのはお前だと思うけど、まあどうでもいいや。
あーあ、いつから教会はこんなに金に汚れた組織になったんだか。
私たちの寄付金もどういうふうに使われてたか知れないな、これは。
「教会に幻想でも持ってたのか? つくづくおめでたいね」
建物の前から立ち去りながら、ククールは不機嫌そのままに言った。
慌ててククールを追いかけると、ククールが建物の警備兵を振り返らずに横目で見やる。
そうして吐き捨てるように続けた。
「内情はあの通り泥沼さ。閉鎖された世界にいるぶん、普通の奴より歪んでやがる。あんたらだって、ここまで俺と旅してきたんだ。よく分かってんだろ?」
「……うん」
甘い幻想は捨てろと言われた気がした。
ここに来たばかりの時に言った、ククールの声が今になって重みを増してきた。
神は信じてもいい、だけど教会なんてろくな組織じゃない。
…分かっていたはずなのに、私たちの誰よりもククールが教会の汚職を間近で見てきたんだって。
なのに私たちは、綺麗なところだけしか見ようとしていなかった。
私たちが信じていたものは、いったい何なんだろう。
残る賢者の末裔は二人。
そのうちの一人である私は、ラプソーン直々に「最後の一人」と指名された私。
そして、残る一人は──。
「おおー……」
「階段がキツそうでがすなぁ」
「いいトレーニングにはなりそう」
「二人とも、もう少しマシな感想はないわけ?」
「一応、巡礼の地のひとつだぞ」
目の前には長ーい階段。
それをゼェゼェ言いつつ登った先には、聳え立つ大聖堂。
そう、ここが世界三大聖地のひとつ。
──サヴェッラ大聖堂だ。
「私たちって来たことあるっけ?」
「僕は護衛として、建物の外側まで。レイラは船酔いして寝込んでたから、上陸も初めてじゃないかな?」
「あの時かー……」
一度だけ、私たちは先輩たちと一緒に、陛下と姫様の警備要員として、外遊に付き添った。
その時の行き先がここだったのだ。
ちなみに私は船酔いがひどくて立つこともままならず、船室でゲロと戦いながら寝込んでいた。
エイトは中まで入ったもんだと思ってたけど、外までしか連れて行ってもらえなかったとは驚きだ。
「先にお祈りしていこう。せっかくだからね」
「お前らはもう敬虔な信徒だよ。俺より信仰心あるだろ」
「ククールが持ってなさすぎるんじゃないの? 聖堂騎士団員でしょ? 元だけど」
「神の存在は信じてやってもいいが、教会なんてのはろくな組織じゃない。……聖地ゴルドで思い知ったろ」
その時のことを引き合いに出されると、私たちは何も言えない。
あれからマルチェロさんとは一度も会ってないけど、表面上は誠実そうに見えた人が、まさかあんなに腹黒い奴だったとは。
まぁろくな人間じゃないのは薄々気付いていたから、私とゼシカは『二階からイヤミ』って渾名を付けたんだけど。
「それにしてもすごい建物よねぇ。見上げてると首が痛くなっちゃう」
「中のステンドグラスも綺麗だったって聞いたよ。僕も中に入るのは初めてだから、ちょっと楽しみだな」
「兄貴が目に見えて浮き足立ってるでがす。珍しいこともあるもんでがすよ」
「えっ! そ、そんなに珍しいかな」
「たしかに珍しいかも。初めて行く場所ばっかりなのに、いつも冷静だもん」
「若者らしくて結構なことだろ。なぁ?」
「アッシから見りゃあ、ククールも充分な若者でげすよ」
わいわい言いながら大聖堂へと入る。
大聖堂の中は厳かな雰囲気に満ちていて、熱心に祈りを捧げる人達が数人いる程度だ。
自分たちの足音が響いて、なおさら静けさを感じてしまう。
聖水で手を清めてから、私達も祭壇にある女神像に向かって祈りを捧げた。
閑話休題。
我々はここに観光に来たわけでも、巡礼の旅をしているわけでもなくて。
残る最後の賢者の末裔が、ここの上に住んでいるから来たのである。
「で、どうやって法皇様に会う?」
「そもそも法皇様の館にどうやって向かうの?」
「生き方自体は、あるにはあるんだけどな。ただ、誰も彼もが行けるわけじゃない」
ククールがスタスタとどこかへ歩いていく。
そうして大聖堂の裏手にある、小さな建物へ向かっていった。
建物からは長いガラス張りの通路のようなものが、頭上にある浮いた島に続いていた。
とんでもない急勾配だけど、まさかこの通路をひたすら登っていけとか言わんだろうな?
「ここから法皇の館に行けるようにはなってる。ただ、基本的には許可された奴しか立ち入れ──」
建物の扉を開けたククールの声が不自然に切れた。
通路から誰かが石版に乗って、すぅーっと降りてくる。
その顔は……久々に見る、腹立たしい顔だった。
「……これはこれは。どこかでお会いしたことがありましたかな?」
開口一番イヤミが絶好調のマルチェロさんがご登場だ。
私たちの間で空気がピリついた。
ククールとマルチェロさんが顔を合わせると、ろくな事にならない。
「……いい加減にしろ。俺の顔まで忘れたのかよ!」
「ああ、そうだった。規律違反のあまりの多さに、修道院を追い出されたククール。たしか……そう。そんな名前だったかな?」
「ちょっと! ふざけるのも大概にしなさいよ!」
「おやおや、怖い怖い。ほんの冗談ですよ。気分を害したなら失敬」
「冗談でも言っていいことと悪いことが有りますよ。そんなことも分からないほど頭スライムなんですか?」
誰かが吹き出すのを誤魔化すみたいに咳払いした。
たぶん私の隣にいたエイトだ。
すまん、笑いのツボを押したかったわけじゃないんだけど、例えがそれしか出てこなかったんだ……。
頭スライムと言われたマルチェロさんは、ピクリとこめかみを動かしたものの、浮かべた薄ら笑いを崩すことは無かった。
「……さてと。私にはこれより、法皇様の警護の兵を選ぶという仕事がある。気楽な旅人と違って、遊んでいる暇はないのでね。この辺で失礼しよう。それではごきげんよう。神のご加護があらんことを」
人を馬鹿にした笑みを浮かべたまま、マルチェロさんは建物から外へと出ていった。
その後ろ姿が完全に見えなくなってから、私とゼシカが同時にすぅ、と息を吸う。
隣でエイトがそっと耳を塞いだ。
「な、なんだアイツ!! ククールのこと赤の他人みたいに言いやがって!! ふざけんなっつーの!!」
「こっちだって暇じゃないわよ!! あー、あったま来た! アイツの渾名変更よ。二階からイヤミじゃなくって、どこでもイヤミ男ッ!! なによ、あの態度! 人を馬鹿にするにも程があるわ!」
「うちの女性陣は頼もしいな。ね、ククール」
「……」
「ククール?」
「……なに、何か用?」
苛立たしげに口を開いたククールに、エイトは逆にすっと口を閉ざした。
「俺は別に話すことはない。ごちゃごちゃ話しかけてくんなよ。鬱陶しい」
「ククール、そんな言い方は……」
「ごめん。僕が悪かったよ。ほら行こう、法皇様に会う方法を考えないと」
私とゼシカの背を押して、エイトが建物から出る。
その先には、この建物の警備に就いていた衛兵二人が、マルチェロさんの立ち去った方向を見て不愉快そうに鼻を鳴らしていた。
「まったくいい気なもんだ。辺境の修道院長風情が、法皇様の護衛役だと? 本来なら名門貴族の出である俺たちこそが、その大役を仰せつかるはずなのに!」
「どうせ賄賂を弾んで、上手く法皇様に取り入ったのさ。あいつの噂は聞いてる。せいぜい威張らしとけよ。どうせあいつは番犬止まり。華々しい出世もここまでだ。金でどうこうできるのはここまでさ。あとは生まれた身分がものを言う」
……教会って、本当にろくでもない組織なんだな。
神に仕える人達はみんな清らかな人だと思っていたけど、どうも違うみたいだ。
ひょっとして法皇様もそうなのかな。
「……おい!」
私たちに気付いた衛兵が、相方を窘める。
言い出したのはお前だと思うけど、まあどうでもいいや。
あーあ、いつから教会はこんなに金に汚れた組織になったんだか。
私たちの寄付金もどういうふうに使われてたか知れないな、これは。
「教会に幻想でも持ってたのか? つくづくおめでたいね」
建物の前から立ち去りながら、ククールは不機嫌そのままに言った。
慌ててククールを追いかけると、ククールが建物の警備兵を振り返らずに横目で見やる。
そうして吐き捨てるように続けた。
「内情はあの通り泥沼さ。閉鎖された世界にいるぶん、普通の奴より歪んでやがる。あんたらだって、ここまで俺と旅してきたんだ。よく分かってんだろ?」
「……うん」
甘い幻想は捨てろと言われた気がした。
ここに来たばかりの時に言った、ククールの声が今になって重みを増してきた。
神は信じてもいい、だけど教会なんてろくな組織じゃない。
…分かっていたはずなのに、私たちの誰よりもククールが教会の汚職を間近で見てきたんだって。
なのに私たちは、綺麗なところだけしか見ようとしていなかった。
私たちが信じていたものは、いったい何なんだろう。
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