48章
夢小説設定
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くっと息の詰まる感覚で目が覚めた。
真っ暗な部屋の中でゆっくりと上半身を起こして、深呼吸を繰り返す。
隣のゼシカは……大丈夫、起きてない。
ブーツの紐を簡単に結んで、そっと部屋を出る。
階段を上って、リビングからおうちの外へ。
外はまだ少し雪が降っていたけど、風はだいぶ収まっているみたいだった。
「……寒い」
それでも薬湯を飲んだおかげか、この地方に来たばかりの時よりは寒さを感じない。
おうちの右手側には大きな馬小屋があって、中を覗くと姫様がお休み中だった。
小さく息を吐いて、それからそっと馬小屋の扉を閉めた。
ザクザクと雪を踏んで、敷地の入口近くで空を見上げる。
真っ黒な空からは、真っ白な雪がいくつもいくつも降ってきて、それらは風に乗ってどこかへ飛んでいく。
……こんな風に、私もどこかに飛んでいけたらな。
ゼシカに刺された傷は、エイトがベホマを唱えてくれたおかげですっかり塞がった。
でもあの時の私は、本気で死を望んだ。
夢の中に現れては私を呪う言葉を吐き続ける彼らと別れられるんだって安心した。
「……ここにいた」
ふわりと肩にコートがかけられて、背後を振り向く。
そこにはエイトが立っていた。
起こしたつもりはなかったから、最初から起きていたのかもしれない。
「またあの夢?」
「……」
「まだ、自分を許せそうにない?」
「……来ないよ、そんな日は」
無数に過ぎ去っていく雪をぼんやりと見つめ、私は呟いた。
私は自分を許す権利を持たない。
私を許せるのは私に殺された人達だけ。
他の誰が私を許すと言っても、彼らが私を許さなければ、私は許されない。
「レイラは、殺した人たちのことをどう思ってる?」
「うーん……。ただの人間かな。国を統治する観点から言えば悪人だったとは思うけど、私は彼らが実際に何をして、何を企てようとしたかは知らないし。殺せって言われたから殺した。それだけの人たち」
「なのに彼らに許されたいの?」
「許されたい……とは思ってないかな。死んだ人たちとはもう会えないわけだし。ただ……」
許されたいわけではなくて、ただ単純に、私が私に呪いをかけているだけ。
夢に見る光景は自分の深層心理が関係しているだけで、本気で彼らが私を恨んでいるかは知らない。
だから許そうと思えば、私はたぶん、自分のした事を許せてしまう。
いくらでも正当化できることだ。
「自分で自分を許しちゃうと……躊躇いがなくなる気がする」
「……?」
「私やっぱ、どっかおかしいんだと思う。物事の解決手段の中に、人を殺すことが入ってるんだって自覚してるもん」
「それは……」
「パルミドでのことは、陛下の一言があったからスイッチが入っちゃったけど……。ハワードさんのことは、私の意思で殺そうとしたでしょ。エイトが止めてくれなかったら、どうなってたか分かんないよ」
真っ当な人間の感覚じゃない。
私の感覚が人道から逸れてしまっている、と自覚させるのに充分な出来事だった。
もし過去のことを許してしまったら、私は人を殺すことを正当化する人間になってしまう気がする。
「だからドルマゲスのことも……レイラが手にかけようとしたんだ?」
「慣れてる奴がやったほうがいいと思っただけ。一撃で殺してやらないと、痛みが長引くでしょ」
肩に積もった雪を払って、おうちへと足を向ける。
ドルマゲスを殺すことに躊躇いはなかった。
ただできるだけ一撃で終わらせてあげたいと思っただけで、中にはそれを慈悲深いなんて言う人もいるだろうけど、単純に他人に興味がないだけ。
自分の懐に入っていない人の命は、割とどうでもいいと思っているんだと思う。
「何度も言ってるけど、私は優しくなんかないよ。他人の命はどうでもいいと思ってるしね」
エイトはじっと私の目を見て、それからゆっくりと首を振った。
「どうでもいい人のために、レイラは心を痛めるの?」
「……何の話?」
「オディロ院長が殺された時も、チェルスさんが殺された時も、レイラは自分を責めただろ」
「そりゃだって……! あの二人はラプソーンに狙われてて、守らなきゃいけなかったのに……」
「ほら。本当にどうでもいいと思ってるなら、わざわざそんな風に自分を責めたりしないよ。サーベルトさんやギャリングさんの死ですら心を痛めるような人なのに、他人の命はどうでもいいなんて……そんな嘘、つかなくていいよ」
「……嘘とかじゃ……」
「そんな嘘をついたって、僕がレイラから離れるわけがないのに」
思わず口を閉ざしてしまった。
酷い奴だと思われれば、エイトは私から離れていくかも──なんて甘い考え、エイトにはお見通しだったらしい。
離れたほうがいいと思うのに。
人の命を奪うことに慣れた人間となんて、関わらないほうがいいのに。
「……エイトって物好き?」
「そうかも。だってレイラが背負ってきたもの全部ひっくるめて、レイラのことが好きだから」
「なにも、こんな奴を好きにならなくてもねぇ」
「九年間好きだったのに、今更嫌いになんかなれないよ」
「……そんなもんかなぁ」
「そんなもんだよ、僕にとっては。レイラが自分のことを許せなくても、僕はレイラのことが好きだよ。好きだから、一緒に背負いたい。レイラだけがいつまでも苦しんでしまうのは、違うと思うから」
違うのかな。
私に課せられた役目だから、剣を握った私がやった事だから。
彼らの命を……人の命を奪う側に立ってしまった責任は負わなければいけない。
私の手は人の命を奪うばかりで、誰かを守ることもできない。
そんな奴が人殺しの自分を許してしまったら、自分がどうなるか私にも分からない。
「それに……レイラは大丈夫だと思うんだ。勘みたいなものだけど。自分を許したからって、誰彼構わず殺すような殺人鬼にはならないよ」
「そこまでにはならないと思うけどさぁ。でもハワードさんの時みたいなことは起こるかもしんないよ」
「その時は僕が止めるよ」
「エイトが隣にいなかったらどうするの」
「隣にいない時……あるかな?」
「……ないか」
一緒に旅してるんだもん、あるわけないよな。
そもそもこの過保護なエイトが、私から離れるわけがなかったんだ。
目を離したら何しでかすか分かんないバーサーカーを野放しにするとか、どう考えたって危険すぎるもんね。
自分がバーサーカーなのはさすがに自覚がある。
「少しくらい人のせいにしていいと思う。レイラは真面目だから、なかなかそう思えなかったんだろうけど」
「真面目ぇ? 私はどっちかって言うと不真面目だよ! クソ真面目のエイトに言われたら嫌味に聞こえる〜」
「なんで自分から評価を下げに来るの」
「……褒められるのに慣れてないからだよ! ちょっとは察しな!」
「察したら素直に聞いてくれる?」
「なんか押しが強すぎない?」
やいのやいの言いながら、外から家の中へと戻る。
すっかり雪風に当たって身体が冷えてしまったようで、家の中の暖かさで身体が震えた。
さて、朝が来るまでもう一眠りといこうかな。
階段を降りようとした時、逆に階段を上がってくる足音が聞こえてきた。
そうして姿を現したのは、メディさんだった。
真っ暗な部屋の中でゆっくりと上半身を起こして、深呼吸を繰り返す。
隣のゼシカは……大丈夫、起きてない。
ブーツの紐を簡単に結んで、そっと部屋を出る。
階段を上って、リビングからおうちの外へ。
外はまだ少し雪が降っていたけど、風はだいぶ収まっているみたいだった。
「……寒い」
それでも薬湯を飲んだおかげか、この地方に来たばかりの時よりは寒さを感じない。
おうちの右手側には大きな馬小屋があって、中を覗くと姫様がお休み中だった。
小さく息を吐いて、それからそっと馬小屋の扉を閉めた。
ザクザクと雪を踏んで、敷地の入口近くで空を見上げる。
真っ黒な空からは、真っ白な雪がいくつもいくつも降ってきて、それらは風に乗ってどこかへ飛んでいく。
……こんな風に、私もどこかに飛んでいけたらな。
ゼシカに刺された傷は、エイトがベホマを唱えてくれたおかげですっかり塞がった。
でもあの時の私は、本気で死を望んだ。
夢の中に現れては私を呪う言葉を吐き続ける彼らと別れられるんだって安心した。
「……ここにいた」
ふわりと肩にコートがかけられて、背後を振り向く。
そこにはエイトが立っていた。
起こしたつもりはなかったから、最初から起きていたのかもしれない。
「またあの夢?」
「……」
「まだ、自分を許せそうにない?」
「……来ないよ、そんな日は」
無数に過ぎ去っていく雪をぼんやりと見つめ、私は呟いた。
私は自分を許す権利を持たない。
私を許せるのは私に殺された人達だけ。
他の誰が私を許すと言っても、彼らが私を許さなければ、私は許されない。
「レイラは、殺した人たちのことをどう思ってる?」
「うーん……。ただの人間かな。国を統治する観点から言えば悪人だったとは思うけど、私は彼らが実際に何をして、何を企てようとしたかは知らないし。殺せって言われたから殺した。それだけの人たち」
「なのに彼らに許されたいの?」
「許されたい……とは思ってないかな。死んだ人たちとはもう会えないわけだし。ただ……」
許されたいわけではなくて、ただ単純に、私が私に呪いをかけているだけ。
夢に見る光景は自分の深層心理が関係しているだけで、本気で彼らが私を恨んでいるかは知らない。
だから許そうと思えば、私はたぶん、自分のした事を許せてしまう。
いくらでも正当化できることだ。
「自分で自分を許しちゃうと……躊躇いがなくなる気がする」
「……?」
「私やっぱ、どっかおかしいんだと思う。物事の解決手段の中に、人を殺すことが入ってるんだって自覚してるもん」
「それは……」
「パルミドでのことは、陛下の一言があったからスイッチが入っちゃったけど……。ハワードさんのことは、私の意思で殺そうとしたでしょ。エイトが止めてくれなかったら、どうなってたか分かんないよ」
真っ当な人間の感覚じゃない。
私の感覚が人道から逸れてしまっている、と自覚させるのに充分な出来事だった。
もし過去のことを許してしまったら、私は人を殺すことを正当化する人間になってしまう気がする。
「だからドルマゲスのことも……レイラが手にかけようとしたんだ?」
「慣れてる奴がやったほうがいいと思っただけ。一撃で殺してやらないと、痛みが長引くでしょ」
肩に積もった雪を払って、おうちへと足を向ける。
ドルマゲスを殺すことに躊躇いはなかった。
ただできるだけ一撃で終わらせてあげたいと思っただけで、中にはそれを慈悲深いなんて言う人もいるだろうけど、単純に他人に興味がないだけ。
自分の懐に入っていない人の命は、割とどうでもいいと思っているんだと思う。
「何度も言ってるけど、私は優しくなんかないよ。他人の命はどうでもいいと思ってるしね」
エイトはじっと私の目を見て、それからゆっくりと首を振った。
「どうでもいい人のために、レイラは心を痛めるの?」
「……何の話?」
「オディロ院長が殺された時も、チェルスさんが殺された時も、レイラは自分を責めただろ」
「そりゃだって……! あの二人はラプソーンに狙われてて、守らなきゃいけなかったのに……」
「ほら。本当にどうでもいいと思ってるなら、わざわざそんな風に自分を責めたりしないよ。サーベルトさんやギャリングさんの死ですら心を痛めるような人なのに、他人の命はどうでもいいなんて……そんな嘘、つかなくていいよ」
「……嘘とかじゃ……」
「そんな嘘をついたって、僕がレイラから離れるわけがないのに」
思わず口を閉ざしてしまった。
酷い奴だと思われれば、エイトは私から離れていくかも──なんて甘い考え、エイトにはお見通しだったらしい。
離れたほうがいいと思うのに。
人の命を奪うことに慣れた人間となんて、関わらないほうがいいのに。
「……エイトって物好き?」
「そうかも。だってレイラが背負ってきたもの全部ひっくるめて、レイラのことが好きだから」
「なにも、こんな奴を好きにならなくてもねぇ」
「九年間好きだったのに、今更嫌いになんかなれないよ」
「……そんなもんかなぁ」
「そんなもんだよ、僕にとっては。レイラが自分のことを許せなくても、僕はレイラのことが好きだよ。好きだから、一緒に背負いたい。レイラだけがいつまでも苦しんでしまうのは、違うと思うから」
違うのかな。
私に課せられた役目だから、剣を握った私がやった事だから。
彼らの命を……人の命を奪う側に立ってしまった責任は負わなければいけない。
私の手は人の命を奪うばかりで、誰かを守ることもできない。
そんな奴が人殺しの自分を許してしまったら、自分がどうなるか私にも分からない。
「それに……レイラは大丈夫だと思うんだ。勘みたいなものだけど。自分を許したからって、誰彼構わず殺すような殺人鬼にはならないよ」
「そこまでにはならないと思うけどさぁ。でもハワードさんの時みたいなことは起こるかもしんないよ」
「その時は僕が止めるよ」
「エイトが隣にいなかったらどうするの」
「隣にいない時……あるかな?」
「……ないか」
一緒に旅してるんだもん、あるわけないよな。
そもそもこの過保護なエイトが、私から離れるわけがなかったんだ。
目を離したら何しでかすか分かんないバーサーカーを野放しにするとか、どう考えたって危険すぎるもんね。
自分がバーサーカーなのはさすがに自覚がある。
「少しくらい人のせいにしていいと思う。レイラは真面目だから、なかなかそう思えなかったんだろうけど」
「真面目ぇ? 私はどっちかって言うと不真面目だよ! クソ真面目のエイトに言われたら嫌味に聞こえる〜」
「なんで自分から評価を下げに来るの」
「……褒められるのに慣れてないからだよ! ちょっとは察しな!」
「察したら素直に聞いてくれる?」
「なんか押しが強すぎない?」
やいのやいの言いながら、外から家の中へと戻る。
すっかり雪風に当たって身体が冷えてしまったようで、家の中の暖かさで身体が震えた。
さて、朝が来るまでもう一眠りといこうかな。
階段を降りようとした時、逆に階段を上がってくる足音が聞こえてきた。
そうして姿を現したのは、メディさんだった。
