5章
夢小説設定
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あ、と掠れた声が零れる。
どうやら、起こしてしまったみたいだ。
「……ごめん、起こした?」
「ううん。実は僕も、眠れそうになくて」
そう言って横になったまま、エイトが気弱に微笑む。
エイトでもそんなことあるんだ、なんて安心しちゃって、私はベッドから出た。
「ちょっとその辺、歩いてくる」
「僕も行くよ。どうせ横になってても眠れないし」
ヤンガスを起こさないように――まあ今の状態なら、ちょっとやそっとじゃ起きないだろうけど――気を付けて、宿屋を出る。
月明かりが淡く照らす村の中は、静かだ。
「何かあった?」
「ん、うん……。気のせいかもしれないんだけど……」
宿屋の前にある丸太のベンチに腰掛けて、用水路に浮かぶ葉を眺める。
私の隣にエイトも座って、私を気遣うように見つめてきた。
「……リーザス像の瞳に残った、サーベルトさんの記憶を見た時にさ。……最後、ドルマゲスと目が合ったような気がして」
「え……」
「気のせいだと思うけど……。なんだか妙に胸がざわついて。それで、滝の洞窟でドボンに言われたことが頭を過ぎっちゃって」
「ザバンだね。滝壺に飛び込まないであげてね。……たしかに、それは僕も気になってることではあったんだ。レイラに不思議な力がある……みたいなことを言っていたから」
曖昧に頷いて、両手を見る。
私に何の力があるっていうんだろう。
どうせなら、エイトとヤンガスの足を引っ張らないような、物理的な力があれば良かったのに。
「……私の生まれに秘密があったりするのかな」
「どう、だろうね。レイラは僕と同じで、幼い頃の記憶がないから……」
「そうなんだよね……。気が付いたらトロデーン城で暮らしていて、城に来る前の記憶なんてまったくないんだもん。何かしらの秘密があったとしても、分かりっこないなぁ」
手のひらを握ったり開いたりしてみても、特別な力なんて感じない。
まあ、子供の足で遠くに行けるはずないから、トロデーン国領に住んでいたのは間違いないと思うんだけど……。
「その力が目覚めたら、エイトとヤンガスの足を引っ張ることもなくなるかなぁ」
「……僕らは別に、今だってレイラが足を引っ張ってるとは思ってないよ?」
「え、嘘だぁ。こんなに足引っ張ってるって自覚あるのに」
「本当だよ、そんなこと思ってない。むしろ、そんなふうに思わせちゃってたのが、申し訳ないくらいだ」
変なの、と呟いて、視線を足元に落とす。
私が二人に勝ってるところなんて、素早さくらいのものだ。
力も身の守りも二人には及ばないから、絶対に迷惑をかけている自信がある。
「もしさ、この力が、世界を滅ぼせるようなものだったら、どうしようか」
「……」
「一番手っ取り早いのは、私をサクッと殺すことだと思うんだけど。エイト、そうなったら私のことサクッとやれる?」
「やらないよ。やるわけないだろ」
「じゃあどうするの?」
「どうもしないよ。レイラはそんな力を悪用するような人じゃない」
「……断言しちゃうんだ」
「これに関しては断言できるよ。伊達にレイラと十年も一緒じゃないからね」
十年……か。
もっと前からお城にいたような気もするけど、でもやっぱり十年なんだろうな。
最初は小間使いとして、野菜の皮むきを手伝うところからのスタートだった。
それが今じゃ、包丁じゃなくて剣を握っている。
「いつか分かるかな。自分達の出自とか、そういうの」
「どうだろう。でもたしかに、自分のことなのに秘密があるのは、ちょっと嫌だなとは思うよ」
静かに苦笑して、エイトが呟く。
自分のことなのに、生まれ故郷も両親のことも分からない。
それがどれだけ寂しいことなのか、私とエイトはよく知っている。
「……まあ、今はいいや。ドルマゲスを追いかけることが優先だもんね」
「うん、そうだね」
「それにほら、女の人は秘密を持ってる方が魅力的らしいじゃん。魅力的な女になれば、もう大人げないなんて言われないはずだし!」
「あはは……。根に持ってたんだ、それ……」
ええそれはもう根深く持っておりますとも。
十八の女に向かって大人げないなんて、二度と言わせない!
まあでも、ゼシカさんのほうが大人っぽいのは……認めざるを得ないけど……。
「……何笑ってんの、エイト」
「ううん。レイラはそのままでいてほしいなって思っただけ」
「ふっ……。残念だね、エイト。私は近いうち、大人の女に……なってみせるよ」
「ははっ、うん。頑張れ、レイラ」
「ねぇ今ちょっと馬鹿にしたでしょ、そうでしょ!?」
「してないしてない! 応援したじゃないか!」
「笑ってたー! エイトの意地悪!」
肩を掴んで前後に揺らす。
可笑しそうに笑って、エイトは私にされるがままになった。
ひどいやつめ!
見てろよ、絶対に大人の女になってみせるんだからな!
話があっちこっち行っちゃったおかげで、なんだか心がリラックス出来た気がする。
何となく睡魔を感じて、欠伸をかみ殺す。
エイトも隣で眠そうに欠伸をしたから、宿屋に戻ることにした。
おやすみと言い合って、またベッドに寝転がる。
うとうとと微睡み、意識が深い底に落ちていく、その中で。
誰かが、私を見つめているような気がした。
どうやら、起こしてしまったみたいだ。
「……ごめん、起こした?」
「ううん。実は僕も、眠れそうになくて」
そう言って横になったまま、エイトが気弱に微笑む。
エイトでもそんなことあるんだ、なんて安心しちゃって、私はベッドから出た。
「ちょっとその辺、歩いてくる」
「僕も行くよ。どうせ横になってても眠れないし」
ヤンガスを起こさないように――まあ今の状態なら、ちょっとやそっとじゃ起きないだろうけど――気を付けて、宿屋を出る。
月明かりが淡く照らす村の中は、静かだ。
「何かあった?」
「ん、うん……。気のせいかもしれないんだけど……」
宿屋の前にある丸太のベンチに腰掛けて、用水路に浮かぶ葉を眺める。
私の隣にエイトも座って、私を気遣うように見つめてきた。
「……リーザス像の瞳に残った、サーベルトさんの記憶を見た時にさ。……最後、ドルマゲスと目が合ったような気がして」
「え……」
「気のせいだと思うけど……。なんだか妙に胸がざわついて。それで、滝の洞窟でドボンに言われたことが頭を過ぎっちゃって」
「ザバンだね。滝壺に飛び込まないであげてね。……たしかに、それは僕も気になってることではあったんだ。レイラに不思議な力がある……みたいなことを言っていたから」
曖昧に頷いて、両手を見る。
私に何の力があるっていうんだろう。
どうせなら、エイトとヤンガスの足を引っ張らないような、物理的な力があれば良かったのに。
「……私の生まれに秘密があったりするのかな」
「どう、だろうね。レイラは僕と同じで、幼い頃の記憶がないから……」
「そうなんだよね……。気が付いたらトロデーン城で暮らしていて、城に来る前の記憶なんてまったくないんだもん。何かしらの秘密があったとしても、分かりっこないなぁ」
手のひらを握ったり開いたりしてみても、特別な力なんて感じない。
まあ、子供の足で遠くに行けるはずないから、トロデーン国領に住んでいたのは間違いないと思うんだけど……。
「その力が目覚めたら、エイトとヤンガスの足を引っ張ることもなくなるかなぁ」
「……僕らは別に、今だってレイラが足を引っ張ってるとは思ってないよ?」
「え、嘘だぁ。こんなに足引っ張ってるって自覚あるのに」
「本当だよ、そんなこと思ってない。むしろ、そんなふうに思わせちゃってたのが、申し訳ないくらいだ」
変なの、と呟いて、視線を足元に落とす。
私が二人に勝ってるところなんて、素早さくらいのものだ。
力も身の守りも二人には及ばないから、絶対に迷惑をかけている自信がある。
「もしさ、この力が、世界を滅ぼせるようなものだったら、どうしようか」
「……」
「一番手っ取り早いのは、私をサクッと殺すことだと思うんだけど。エイト、そうなったら私のことサクッとやれる?」
「やらないよ。やるわけないだろ」
「じゃあどうするの?」
「どうもしないよ。レイラはそんな力を悪用するような人じゃない」
「……断言しちゃうんだ」
「これに関しては断言できるよ。伊達にレイラと十年も一緒じゃないからね」
十年……か。
もっと前からお城にいたような気もするけど、でもやっぱり十年なんだろうな。
最初は小間使いとして、野菜の皮むきを手伝うところからのスタートだった。
それが今じゃ、包丁じゃなくて剣を握っている。
「いつか分かるかな。自分達の出自とか、そういうの」
「どうだろう。でもたしかに、自分のことなのに秘密があるのは、ちょっと嫌だなとは思うよ」
静かに苦笑して、エイトが呟く。
自分のことなのに、生まれ故郷も両親のことも分からない。
それがどれだけ寂しいことなのか、私とエイトはよく知っている。
「……まあ、今はいいや。ドルマゲスを追いかけることが優先だもんね」
「うん、そうだね」
「それにほら、女の人は秘密を持ってる方が魅力的らしいじゃん。魅力的な女になれば、もう大人げないなんて言われないはずだし!」
「あはは……。根に持ってたんだ、それ……」
ええそれはもう根深く持っておりますとも。
十八の女に向かって大人げないなんて、二度と言わせない!
まあでも、ゼシカさんのほうが大人っぽいのは……認めざるを得ないけど……。
「……何笑ってんの、エイト」
「ううん。レイラはそのままでいてほしいなって思っただけ」
「ふっ……。残念だね、エイト。私は近いうち、大人の女に……なってみせるよ」
「ははっ、うん。頑張れ、レイラ」
「ねぇ今ちょっと馬鹿にしたでしょ、そうでしょ!?」
「してないしてない! 応援したじゃないか!」
「笑ってたー! エイトの意地悪!」
肩を掴んで前後に揺らす。
可笑しそうに笑って、エイトは私にされるがままになった。
ひどいやつめ!
見てろよ、絶対に大人の女になってみせるんだからな!
話があっちこっち行っちゃったおかげで、なんだか心がリラックス出来た気がする。
何となく睡魔を感じて、欠伸をかみ殺す。
エイトも隣で眠そうに欠伸をしたから、宿屋に戻ることにした。
おやすみと言い合って、またベッドに寝転がる。
うとうとと微睡み、意識が深い底に落ちていく、その中で。
誰かが、私を見つめているような気がした。
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