46章
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ゼシカが目覚めたと教えに来てくれたククールと共に、隣の部屋へと急ぐ。
部屋の中にはヤンガスと陛下もいて、ククールは部屋の入口近くの壁に背中を預けて立つことにしたようだ。
ゼシカはベッドに横たわったまま、ぼんやりとしていた。
「大丈夫、ゼシカ?」
「ゼシカ……?」
「エイト……。レイラも……」
ゼシカは私の顔を見ると、ばつの悪い表情を浮かべた。
それだけでゼシカが、呪われていた間のことを覚えているんだと察して、私もそっと俯くしかなかった。
「私……どうしてたの? なんだか随分、長い夢を見てたような気がするけど……」
「ふむ、どうやら正気を取り戻しているようじゃな」
陛下は起き上がったゼシカの顔色を見て、幾分か表情を和らげた。
それでもゼシカの表情は暗い。
無理もないか……だってゼシカは、操られていたとはいえ、私を刺した。
都合よく忘れてしまえたらよかったのに。
「覚えておらんか。わしらはドルマゲスを倒して、その翌日、お前さんが姿を消したんじゃ」
「……ううん。覚えてるわ。だけど、ひょっとしたらあれは夢だったのかと思って……。私、禍々しい魔の力に、身も心も支配されてた……。……そう、ドルマゲスと同じように。私を支配した強大な魔の力の持ち主は……暗黒神──ラプソーン」
暗黒神ラプソーン。
それは闇の遺跡にいた彷徨える魂やメラゴーストが、度々口にしていた名前。
はるか昔、この世界を闇の力で支配しようとしたものの、レティスという鳥によって阻止された。
そんな奴が──ゼシカや、あのドルマゲスを乗っ取って、賢者と呼ばれる人達の末裔を殺していった。
我々の手の中にある、ラプソーンという存在についての情報は、大体それぐらいだ。
「だけど……そのおかげで、いろんなことが分かったわ。聞いて。話したいことがたくさんあるの」
「まあ、焦らんでよいわい。順を追ってゆっくり話すんじゃ」
「……そうね。私の心にラプソーンはこう命令したわ。世界に散った八賢者の末裔を殺し、我が封印を解けって」
「八賢者……」
「八賢者っていうのは、かつて地上を荒らした暗黒神ラプソーンの魂を封印した存在らしいの。あなたのご先祖様もそのうちの一人よ、レイラ。賢者たちはラプソーンを完全には滅ぼせなかったけど、その魂を杖に閉じ込めて、自分達の血で封印したのね。暗黒神ラプソーンの呪いが、その八賢者を狙っていて……。マスター・ライラス、サーベルト兄さん、オディロ院長、あと、ベルガラックのオーナーも……。今までに殺された人達は、みんな八賢者の末裔だったのよ」
「ふーむ……。ややこしい話になってきたのう」
……ややこしい話だと思うし、同時に疑問も残る。
あの時ゼシカは──ゼシカを乗っ取っていたラプソーンは私を見て、今は私の番じゃないと言った。
賢者の末裔を殺すのに、順番なんてあるんだろうか。
どう考えても、杖が封印されていたトロデーン城から見て、近くに住んでいた人達から殺している気がする。
……でもそれだと、トロデーン城で近衛兵をしていた私を真っ先に狙わなかった理由が分からない。
「つまり、わしとミーティアが人間に戻れなかったのも、その暗黒神と関係があるということか?」
「それは分からないけど……残る八賢者は、あと四人よ。私が狙ったチェルスと、ここにいるレイラと……他にもう二人。八賢者の血筋が全て断たれると、杖にかけられた封印が解けて、ラプソーンの魂があの杖から……。……杖……?」
そこでようやく、ゼシカはゆっくりと顔を上げた。
そのかんばせが酷く青ざめていて、私たちは只事ではないと察した。
「ね、ねぇ、トロデ王! 杖は!? 私が持ってた、あの杖はどこ!?」
「杖? おお、我が城に伝わる、あの秘宝の杖のことか。そういえばあれから見かけんな。ドタバタしているうちに、どこに行ったのか分からんようになってしまったぞ」
「……いけない! チェルスが危ないわ! あの杖は、持った者が暗黒神に心を支配されてしまうの! すぐに杖を探し出して! 早くしないと、杖を持った誰かがまたチェルスを狙うわ!! エイト!! 急いであの杖を探し出して!!」
エイトが椅子を蹴るように立ち上がる。
事の重大さは私達にも伝わった。
一刻も早く、杖を探し出さないと!!
エイトがククールとヤンガスを連れて、慌ただしく宿屋を飛び出していく。
私もそれに続こうとして……ゼシカに呼び止められた。
「あの……レイラ。私、あなたに謝らなくちゃいけなくて……」
「……謝るのは私のほう。ごめんなさい……ゼシカ。私、ずっと隠し事をしてきた。みんなに知られなければ、私は真人間でいられると思って……。私はとっくに、真人間なんかじゃなかったのに」
「……」
「杖が教えてくれたの? ……私が、城で何をしていたか」
ゼシカは無言のまま、小さく頷いた。
きっと八賢者の末裔がどこで何をしているか、ラプソーンの魂は知っていたんだろう。
そうでなくても私は杖のあるトロデーン城で働いていた。
ラプソーンが知らないはずがなかったんだ、だって私は八賢者の末裔なんだもん。
「軽蔑していいよ。拒絶だってされて当然だと思ってる。私と一緒に旅なんてもうしたくない、顔も見たくないって言われても仕方ないって。……エイトが聞いたら、また怒るんだろうけどさ。でもこれは私の本心だから。私、ゼシカのことを責める資格なんかないの。だって私はさ、ゼシカより酷いこと、たくさん……したんだもん」
大罪人、人殺し。
どれも私を的確に表す言葉だ。
そう、私は国を守るという大義名分の元、人を殺し続けた女。
トロデーン城の兵士たちはみんな、私のしたことを知っていた。
でも、城の外の人達──ましてやトロデーン城とは関わりのない人達は、私の事なんて知らない。
だったら自分のしたことを隠しておけば、私はみんなと同じ側に立てると思った。
……なんて浅はかな考えだったんだろう。
「……たしかにラプソーンから聞いた時は、信じられなかったわ。レイラがトロデーン城でそんなことをしていたなんて思わなかったし、人をたくさん殺してきたレイラのことが怖かった。でもレイラは、トロデーン王国を守るために、ずっと自分を犠牲にしてきたのよね」
「……」
「レイラが好き好んで人を殺したなんて、思わないわ。きっと尋常じゃない恐怖があって、良心の呵責もあって、神経をすり減らして生きてきたんだって分かるの。だから私……あなたのこと、心から尊敬するわ」
「え……」
「あなたがいたから、トロデーン城は守られてきたのよ。他の誰よりも、あなたが頑張ってきたから」
「……! そんな、こと……。私、尊敬されるような奴じゃ……」
「少しずつでいいから、自分のことを許してあげて。レイラは人殺しなんかじゃない。国を守り続けた英雄なんだって」
……英雄。
そんなふうに言われたことも、自分で思ったこともなかった。
私はただの人殺し、汚れ役。
一生明るみに出ない代わりに、誰にも認められない仕事。
それでも国のためになるならと思って、私はそれを引き受けた。
私の仕事は、明るみに出ちゃいけないことだと思う。
……でも、ゼシカがそう言ってくれるのなら。
「すぐには……難しいけど。少しずつ、自分を許せるようになるといいな」
「ええ。その時は、レイラも心から笑えるようになるわ」
「え。あはは……そこまでバレてた? こりゃ参ったな。……うん。きっとその時は、私も昔みたいに笑える気がする」
ぎこちなく笑ってみせて、私も椅子から立ち上がった。
まずはどこに行ったか分からない杖を探さなきゃ。
あの杖が他の人の手に渡ってしまったら、ゆくゆくは私も狙われることになるんだろうし。
返り討ちにできる自信はあるけど、犠牲者はもう出したくないもんね。
「杖、探してくる」
「ええ……お願い」
ゼシカに小さく手を振って、宿屋を出る。
パタン、と宿屋のドアが閉まって、私は肺の中の空気を全部吐き出すみたいに、深くため息をついた。
いつまでかかるか分からないけど──いつか、過去の自分のことを、認めてあげられる日が来るといいな。
そうして、いつの日か。
エイトとまた、心から笑い合える日が来ますように。
部屋の中にはヤンガスと陛下もいて、ククールは部屋の入口近くの壁に背中を預けて立つことにしたようだ。
ゼシカはベッドに横たわったまま、ぼんやりとしていた。
「大丈夫、ゼシカ?」
「ゼシカ……?」
「エイト……。レイラも……」
ゼシカは私の顔を見ると、ばつの悪い表情を浮かべた。
それだけでゼシカが、呪われていた間のことを覚えているんだと察して、私もそっと俯くしかなかった。
「私……どうしてたの? なんだか随分、長い夢を見てたような気がするけど……」
「ふむ、どうやら正気を取り戻しているようじゃな」
陛下は起き上がったゼシカの顔色を見て、幾分か表情を和らげた。
それでもゼシカの表情は暗い。
無理もないか……だってゼシカは、操られていたとはいえ、私を刺した。
都合よく忘れてしまえたらよかったのに。
「覚えておらんか。わしらはドルマゲスを倒して、その翌日、お前さんが姿を消したんじゃ」
「……ううん。覚えてるわ。だけど、ひょっとしたらあれは夢だったのかと思って……。私、禍々しい魔の力に、身も心も支配されてた……。……そう、ドルマゲスと同じように。私を支配した強大な魔の力の持ち主は……暗黒神──ラプソーン」
暗黒神ラプソーン。
それは闇の遺跡にいた彷徨える魂やメラゴーストが、度々口にしていた名前。
はるか昔、この世界を闇の力で支配しようとしたものの、レティスという鳥によって阻止された。
そんな奴が──ゼシカや、あのドルマゲスを乗っ取って、賢者と呼ばれる人達の末裔を殺していった。
我々の手の中にある、ラプソーンという存在についての情報は、大体それぐらいだ。
「だけど……そのおかげで、いろんなことが分かったわ。聞いて。話したいことがたくさんあるの」
「まあ、焦らんでよいわい。順を追ってゆっくり話すんじゃ」
「……そうね。私の心にラプソーンはこう命令したわ。世界に散った八賢者の末裔を殺し、我が封印を解けって」
「八賢者……」
「八賢者っていうのは、かつて地上を荒らした暗黒神ラプソーンの魂を封印した存在らしいの。あなたのご先祖様もそのうちの一人よ、レイラ。賢者たちはラプソーンを完全には滅ぼせなかったけど、その魂を杖に閉じ込めて、自分達の血で封印したのね。暗黒神ラプソーンの呪いが、その八賢者を狙っていて……。マスター・ライラス、サーベルト兄さん、オディロ院長、あと、ベルガラックのオーナーも……。今までに殺された人達は、みんな八賢者の末裔だったのよ」
「ふーむ……。ややこしい話になってきたのう」
……ややこしい話だと思うし、同時に疑問も残る。
あの時ゼシカは──ゼシカを乗っ取っていたラプソーンは私を見て、今は私の番じゃないと言った。
賢者の末裔を殺すのに、順番なんてあるんだろうか。
どう考えても、杖が封印されていたトロデーン城から見て、近くに住んでいた人達から殺している気がする。
……でもそれだと、トロデーン城で近衛兵をしていた私を真っ先に狙わなかった理由が分からない。
「つまり、わしとミーティアが人間に戻れなかったのも、その暗黒神と関係があるということか?」
「それは分からないけど……残る八賢者は、あと四人よ。私が狙ったチェルスと、ここにいるレイラと……他にもう二人。八賢者の血筋が全て断たれると、杖にかけられた封印が解けて、ラプソーンの魂があの杖から……。……杖……?」
そこでようやく、ゼシカはゆっくりと顔を上げた。
そのかんばせが酷く青ざめていて、私たちは只事ではないと察した。
「ね、ねぇ、トロデ王! 杖は!? 私が持ってた、あの杖はどこ!?」
「杖? おお、我が城に伝わる、あの秘宝の杖のことか。そういえばあれから見かけんな。ドタバタしているうちに、どこに行ったのか分からんようになってしまったぞ」
「……いけない! チェルスが危ないわ! あの杖は、持った者が暗黒神に心を支配されてしまうの! すぐに杖を探し出して! 早くしないと、杖を持った誰かがまたチェルスを狙うわ!! エイト!! 急いであの杖を探し出して!!」
エイトが椅子を蹴るように立ち上がる。
事の重大さは私達にも伝わった。
一刻も早く、杖を探し出さないと!!
エイトがククールとヤンガスを連れて、慌ただしく宿屋を飛び出していく。
私もそれに続こうとして……ゼシカに呼び止められた。
「あの……レイラ。私、あなたに謝らなくちゃいけなくて……」
「……謝るのは私のほう。ごめんなさい……ゼシカ。私、ずっと隠し事をしてきた。みんなに知られなければ、私は真人間でいられると思って……。私はとっくに、真人間なんかじゃなかったのに」
「……」
「杖が教えてくれたの? ……私が、城で何をしていたか」
ゼシカは無言のまま、小さく頷いた。
きっと八賢者の末裔がどこで何をしているか、ラプソーンの魂は知っていたんだろう。
そうでなくても私は杖のあるトロデーン城で働いていた。
ラプソーンが知らないはずがなかったんだ、だって私は八賢者の末裔なんだもん。
「軽蔑していいよ。拒絶だってされて当然だと思ってる。私と一緒に旅なんてもうしたくない、顔も見たくないって言われても仕方ないって。……エイトが聞いたら、また怒るんだろうけどさ。でもこれは私の本心だから。私、ゼシカのことを責める資格なんかないの。だって私はさ、ゼシカより酷いこと、たくさん……したんだもん」
大罪人、人殺し。
どれも私を的確に表す言葉だ。
そう、私は国を守るという大義名分の元、人を殺し続けた女。
トロデーン城の兵士たちはみんな、私のしたことを知っていた。
でも、城の外の人達──ましてやトロデーン城とは関わりのない人達は、私の事なんて知らない。
だったら自分のしたことを隠しておけば、私はみんなと同じ側に立てると思った。
……なんて浅はかな考えだったんだろう。
「……たしかにラプソーンから聞いた時は、信じられなかったわ。レイラがトロデーン城でそんなことをしていたなんて思わなかったし、人をたくさん殺してきたレイラのことが怖かった。でもレイラは、トロデーン王国を守るために、ずっと自分を犠牲にしてきたのよね」
「……」
「レイラが好き好んで人を殺したなんて、思わないわ。きっと尋常じゃない恐怖があって、良心の呵責もあって、神経をすり減らして生きてきたんだって分かるの。だから私……あなたのこと、心から尊敬するわ」
「え……」
「あなたがいたから、トロデーン城は守られてきたのよ。他の誰よりも、あなたが頑張ってきたから」
「……! そんな、こと……。私、尊敬されるような奴じゃ……」
「少しずつでいいから、自分のことを許してあげて。レイラは人殺しなんかじゃない。国を守り続けた英雄なんだって」
……英雄。
そんなふうに言われたことも、自分で思ったこともなかった。
私はただの人殺し、汚れ役。
一生明るみに出ない代わりに、誰にも認められない仕事。
それでも国のためになるならと思って、私はそれを引き受けた。
私の仕事は、明るみに出ちゃいけないことだと思う。
……でも、ゼシカがそう言ってくれるのなら。
「すぐには……難しいけど。少しずつ、自分を許せるようになるといいな」
「ええ。その時は、レイラも心から笑えるようになるわ」
「え。あはは……そこまでバレてた? こりゃ参ったな。……うん。きっとその時は、私も昔みたいに笑える気がする」
ぎこちなく笑ってみせて、私も椅子から立ち上がった。
まずはどこに行ったか分からない杖を探さなきゃ。
あの杖が他の人の手に渡ってしまったら、ゆくゆくは私も狙われることになるんだろうし。
返り討ちにできる自信はあるけど、犠牲者はもう出したくないもんね。
「杖、探してくる」
「ええ……お願い」
ゼシカに小さく手を振って、宿屋を出る。
パタン、と宿屋のドアが閉まって、私は肺の中の空気を全部吐き出すみたいに、深くため息をついた。
いつまでかかるか分からないけど──いつか、過去の自分のことを、認めてあげられる日が来るといいな。
そうして、いつの日か。
エイトとまた、心から笑い合える日が来ますように。
