5章
夢小説設定
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会話はなく、ただ私達の足音と、姫様の蹄の音、馬車の車輪の音が小さく消えていく。
……間に合わなかった。
私達は、一歩も二歩も遅かった。
「もう……遅かったんだね……」
耐えきれずに、私はそう呟いていた。
エイトとヤンガスが私を見やって、眉尻を微かに下げる。
「また間に合わなかったんだね、私達……」
「姉貴……」
「犠牲者が出る前にって言ってもさ……。出てた状態でここに来ても、そりゃ誰も救えないよね……」
「……そうかな。僕はそうは思わない」
後ろ向きな私を諌めるみたいに、エイトがそう言った。
思わずエイトを見上げてしまうと、そこにはエイトの真剣な瞳があって。
「たしかに、犠牲者が出てしまったのは事実だ。でも、救えた人だっていただろ?」
「救えた人なんて、どこにも……」
「……サーベルトさんの魂。本当はすぐにでも逝かなきゃいけなかったはずだ。でも、彼の魂はリーザス像の中で、僕達を待ってくれていた。それにきっと、ゼシカさんだって――」
……そう、なのかな。
ゼシカさんは、救われた気持ちになったのかな。
私達は、誰かを救うために旅をしているわけじゃないけど、これ以上、悲しむ人が出ないといいな。
素直に頷くことが出来なくて、視線が俯いてしまう。
そんな私の視界に、ヤンガスがひょっこりと入り込んできた。
「そうでがすよ、姉貴。あっしらはやれることをやったんだ、姉貴が気負うことじゃねぇでがすよ」
「僕らにできることなんて、少ししかないんだ。だったらそれこそ、人の死を無駄にしないように生きていくことが大切なんじゃないかな?」
「……人の死を無駄にしないように……」
「救えなかった命と、これから救える命がある。後ろを向いていたって、前には進めないよ。マスター・ライラスやサーベルトさんの分まで、ドルマゲスにぶつけよう」
ね? と優しく微笑みかけてくれるエイトが、私の背をぽんと叩く。
昔からそうだけど、エイトの言葉には説得力がある。
曲がりかけていた背が伸びて、心も少しだけ上を向けた。
「……うん、そうだね。そうだよね。助けられる人を助けていかないと。ごめんね、弱気なこと言っちゃって」
「ううん。レイラは優しいし、責任感も人一倍強いから、今回のことをきっと気に病むんだろうなって思ってた」
「あう……。さすが付き合いが長いだけあるなぁ……」
「ははっ、まあね。レイラのことならすぐ分かるよ。十年も一緒だからね。……さて、それじゃあ村に戻ろうか」
「そうでがすな。さすがに疲れたでがすよ」
「確かに! 早くベッドで休みたい!」
「はいはい、分かったから掴まって」
エイトが笑ってそう言って、私達はエイトに掴まった。
覚えたてほやほやのルーラだ。
私もいつか覚えられるかなぁ、なんて考えているけど、どうだろう。
そうして到着した夜の村は、しんと静まり返っていた。
まあ、夜中だしね。
みんな寝てるに決まってる。
宿屋が見えてくると、その入口に小さな人影があった。
立っていたのは、ポルクくんだ。
「あ、帰ってきたか! 遅いから心配してたんだぞ! で、ゼシカ姉ちゃんは!?」
「……えっと、かくかくしかじかで。あー、エイト、説明頼んだ」
「はいはい。とりあえずゼシカさんとは会えたよ。リーザス像のところで、サーベルトさんの死因が分かったから、色々と話をしてたら遅くなったんだ」
「ゼシカさんはもうしばらく一人になりたいって言ってた。少ししたら戻るからって」
「……そっか。塔でそんなことが……。まだちょっと心配だけど、ゼシカ姉ちゃんが帰ってくるって言ったんなら、きっと大丈夫だな」
ホッとしたようにポルクくんが笑う。
……本当に大好きで、大切に思ってるんだな、ゼシカさんのこと。
頑張って良かったって、ちょっとだけ素直に自分を褒めてもいいかもしれない。
「お前ら、とにかくありがとな。色々あったけど、おいらはお前らのこと、ちょっとだけそんけーしたぞ」
「ちょっとだけ? めちゃくちゃ尊敬してくれていいんだよ!」
「ちょっとだけだ! お前、ずっと思ってたけど、おとなげねーぞ!」
「ぐぅっ!! こ、このガキ……!!」
「レイラ、痛いとこ突かれちゃったね……」
「兄貴がフォローに回らねぇのも相まって、姉貴が可哀想に見えてくるでがすよ」
「ふん! お前、ちょっとはオトナになれよな。ゼシカ姉ちゃんを見習えよ」
「……私ってそんなに子供っぽい?」
「え、えーと、あはは」
「何その愛想笑い!?」
ひどい、長年の付き合いになる幼馴染み兼同僚に対して、なんだその反応。
……私ってそんなに言動が子供っぽいのか。
めちゃくちゃショックだな……。
「そうだ。お前達が戻ってきたら宿屋に泊めてもらえるように、ちょうど今、お願いしてきたとこだ。マルクも二人で小遣いはたいたんだからな。しっかり感謝して泊まれよ」
そう言ってポルクくんが宿屋の入口を離れて、お屋敷へと帰っていく。
なんだかんだで可愛いやつだ。
ま、あれくらいの子供なら、ちょっと生意気なくらいでちょうどいいかな?
「ポルクくん、ありがとー!」
そう言って手を振ると、振り返ったポルクくんが照れくさそうに「おー!」と言って手を振り返してくれた。
可愛いやつだ。
さて宿屋へ入ると、カウンターにいる女将さんが私達を見て微笑んだ。
「ポルクとマルクから話は聞いてますよ。どうぞごゆっくり」
そう言って女将さんが六ゴールドを見せてくれた。
二人のお小遣い、六ゴールドしかなかったんだな……。
ポルクくんとマルクくんにとって、この宿代はかなりの出費だったに違いない。
ありがとう、と心の中で再度お礼を呟いて、私達はベッドに倒れ込んだ。
色々なことがあって、疲れちゃったな。
ドルマゲスがサーベルトさんを殺した理由は、何だったんだろう。
それに、なぜあいつは最後、私のほうを向いて――。
「っ……!」
急にその事を思い出して、一気に目が覚めた。
飛び起きて、乱れかけた呼吸を整える。
それからふと隣を見やると、相変わらず横になった瞬間に爆睡しているヤンガスと……。
心配そうな目で私を見つめる、エイトと目が合った。
……間に合わなかった。
私達は、一歩も二歩も遅かった。
「もう……遅かったんだね……」
耐えきれずに、私はそう呟いていた。
エイトとヤンガスが私を見やって、眉尻を微かに下げる。
「また間に合わなかったんだね、私達……」
「姉貴……」
「犠牲者が出る前にって言ってもさ……。出てた状態でここに来ても、そりゃ誰も救えないよね……」
「……そうかな。僕はそうは思わない」
後ろ向きな私を諌めるみたいに、エイトがそう言った。
思わずエイトを見上げてしまうと、そこにはエイトの真剣な瞳があって。
「たしかに、犠牲者が出てしまったのは事実だ。でも、救えた人だっていただろ?」
「救えた人なんて、どこにも……」
「……サーベルトさんの魂。本当はすぐにでも逝かなきゃいけなかったはずだ。でも、彼の魂はリーザス像の中で、僕達を待ってくれていた。それにきっと、ゼシカさんだって――」
……そう、なのかな。
ゼシカさんは、救われた気持ちになったのかな。
私達は、誰かを救うために旅をしているわけじゃないけど、これ以上、悲しむ人が出ないといいな。
素直に頷くことが出来なくて、視線が俯いてしまう。
そんな私の視界に、ヤンガスがひょっこりと入り込んできた。
「そうでがすよ、姉貴。あっしらはやれることをやったんだ、姉貴が気負うことじゃねぇでがすよ」
「僕らにできることなんて、少ししかないんだ。だったらそれこそ、人の死を無駄にしないように生きていくことが大切なんじゃないかな?」
「……人の死を無駄にしないように……」
「救えなかった命と、これから救える命がある。後ろを向いていたって、前には進めないよ。マスター・ライラスやサーベルトさんの分まで、ドルマゲスにぶつけよう」
ね? と優しく微笑みかけてくれるエイトが、私の背をぽんと叩く。
昔からそうだけど、エイトの言葉には説得力がある。
曲がりかけていた背が伸びて、心も少しだけ上を向けた。
「……うん、そうだね。そうだよね。助けられる人を助けていかないと。ごめんね、弱気なこと言っちゃって」
「ううん。レイラは優しいし、責任感も人一倍強いから、今回のことをきっと気に病むんだろうなって思ってた」
「あう……。さすが付き合いが長いだけあるなぁ……」
「ははっ、まあね。レイラのことならすぐ分かるよ。十年も一緒だからね。……さて、それじゃあ村に戻ろうか」
「そうでがすな。さすがに疲れたでがすよ」
「確かに! 早くベッドで休みたい!」
「はいはい、分かったから掴まって」
エイトが笑ってそう言って、私達はエイトに掴まった。
覚えたてほやほやのルーラだ。
私もいつか覚えられるかなぁ、なんて考えているけど、どうだろう。
そうして到着した夜の村は、しんと静まり返っていた。
まあ、夜中だしね。
みんな寝てるに決まってる。
宿屋が見えてくると、その入口に小さな人影があった。
立っていたのは、ポルクくんだ。
「あ、帰ってきたか! 遅いから心配してたんだぞ! で、ゼシカ姉ちゃんは!?」
「……えっと、かくかくしかじかで。あー、エイト、説明頼んだ」
「はいはい。とりあえずゼシカさんとは会えたよ。リーザス像のところで、サーベルトさんの死因が分かったから、色々と話をしてたら遅くなったんだ」
「ゼシカさんはもうしばらく一人になりたいって言ってた。少ししたら戻るからって」
「……そっか。塔でそんなことが……。まだちょっと心配だけど、ゼシカ姉ちゃんが帰ってくるって言ったんなら、きっと大丈夫だな」
ホッとしたようにポルクくんが笑う。
……本当に大好きで、大切に思ってるんだな、ゼシカさんのこと。
頑張って良かったって、ちょっとだけ素直に自分を褒めてもいいかもしれない。
「お前ら、とにかくありがとな。色々あったけど、おいらはお前らのこと、ちょっとだけそんけーしたぞ」
「ちょっとだけ? めちゃくちゃ尊敬してくれていいんだよ!」
「ちょっとだけだ! お前、ずっと思ってたけど、おとなげねーぞ!」
「ぐぅっ!! こ、このガキ……!!」
「レイラ、痛いとこ突かれちゃったね……」
「兄貴がフォローに回らねぇのも相まって、姉貴が可哀想に見えてくるでがすよ」
「ふん! お前、ちょっとはオトナになれよな。ゼシカ姉ちゃんを見習えよ」
「……私ってそんなに子供っぽい?」
「え、えーと、あはは」
「何その愛想笑い!?」
ひどい、長年の付き合いになる幼馴染み兼同僚に対して、なんだその反応。
……私ってそんなに言動が子供っぽいのか。
めちゃくちゃショックだな……。
「そうだ。お前達が戻ってきたら宿屋に泊めてもらえるように、ちょうど今、お願いしてきたとこだ。マルクも二人で小遣いはたいたんだからな。しっかり感謝して泊まれよ」
そう言ってポルクくんが宿屋の入口を離れて、お屋敷へと帰っていく。
なんだかんだで可愛いやつだ。
ま、あれくらいの子供なら、ちょっと生意気なくらいでちょうどいいかな?
「ポルクくん、ありがとー!」
そう言って手を振ると、振り返ったポルクくんが照れくさそうに「おー!」と言って手を振り返してくれた。
可愛いやつだ。
さて宿屋へ入ると、カウンターにいる女将さんが私達を見て微笑んだ。
「ポルクとマルクから話は聞いてますよ。どうぞごゆっくり」
そう言って女将さんが六ゴールドを見せてくれた。
二人のお小遣い、六ゴールドしかなかったんだな……。
ポルクくんとマルクくんにとって、この宿代はかなりの出費だったに違いない。
ありがとう、と心の中で再度お礼を呟いて、私達はベッドに倒れ込んだ。
色々なことがあって、疲れちゃったな。
ドルマゲスがサーベルトさんを殺した理由は、何だったんだろう。
それに、なぜあいつは最後、私のほうを向いて――。
「っ……!」
急にその事を思い出して、一気に目が覚めた。
飛び起きて、乱れかけた呼吸を整える。
それからふと隣を見やると、相変わらず横になった瞬間に爆睡しているヤンガスと……。
心配そうな目で私を見つめる、エイトと目が合った。