45章
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資料室から駆け上がってきた私たちを見るや否や、ハワードさんは眦を吊り上げて怒鳴った。
「ええい、遅いわ! 何をやっとったんじゃ! どうやらあの杖使い女がまた現れたらしい! わしは速攻で結界を完成させねばならん! 世界結界全集は見つかったんじゃろ? さあ渡せ! すぐに渡せ!」
「ああもう、はいこれです!!」
手に持っていた本を押し付けると、ハワードさんは「これじゃこれじゃ!」と頷いた。
そうしてハワードさんは大釜へ、私たちは外へと走り出したとき。
「わしは今から大急ぎで結界を調合するゆえ、お前たちは外であの杖使い女を食い止めておれ!」
「本当に間に合うんだろうな!?」
「なに、心配せんでもすぐにできるわい! なにしろわしは偉大な大呪術師じゃからな! おっとそうじゃ。なむなむなむ……ほれ!」
ハワードさんが何かを唱えると、私たちの体力と魔力が全回復した。
宿屋でしっかり休んだから、最初からフルパワーなんだけど、まぁいいか!!
「これで元気になったじゃろう! とにかく一秒でも長く、あの杖使い女を食い止めるのじゃぞ! よいな!!」
「誰のせいで探すのに手間取ったと思ってんですか、もぉー!!」
「ちったぁ整理しとけやクソ野郎!!」
私とヤンガスの怒鳴り声を残して、私たちはハワードさんの部屋から飛び出した。
階段を駆け下りて屋敷の外へ転がり出ると、空は午前中だというのに真っ暗な雲で覆われ、更には稲光がいくつもの筋を描いている。
敷地内にも外にも、野次馬や駆け付けてきたリブルアーチの住民が押し寄せていた。
その間を通ろうとするけど、みんなこの異変に夢中で通してくれない!
庭の噴水にあるハワードさんを模した石像──その上に、ゼシカが立っていた。
「せっかく守りは万全にしておきなさいって言ったのに、随分と無防備なのね」
「黙れ! ここから先へは一歩も行かせないぞ! ハワード様に指一本触れさせるものか!」
やっぱりチェルスさんがゼシカと対峙している。
チェルスの横には……レオパルドもいる!
駄目だ、今のゼシカ相手じゃ、チェルスなんて相手にもならない!
「……ハワード? ふふふ……」
「な……何がおかしいんだ!」
「悲しいわ……。自分の血に刻みつけられた大いなる運命を、あなたはまだ何も知らないのね。私が狙っていたのは、初めからあんな見せかけだけの男じゃないわ。この杖が全てを知っているの。私の狙いは、かつて暗黒神ラプソーンを封印した八賢者のひとり、大呪術師クーパスの末裔──チェルス。あなたのことよ」
……は?
なに、それ……?
それじゃあつまり、ハワード一族の末裔とクーパスの末裔は、既に出会っていたってこと!?
だったらなんでハワードさんは、チェルスのことが分からないの!?
「悲しいわね。あなたの命を守るべきはずの男が、その事をまるで覚えていないなんて」
ちょちょちょ……ちょっと待て!?
忘れてるって、呪はどうなってるわけ!?
だって魔の力が真に蘇るとき、二人の末裔は出会うって……!
そんな呪を自分の一族にかけたって、初代ハワードの手記にはそう書いてあったのに!!
ようやく人だかりから抜け出して、「ちょっと待ったァ!!」と二人の会話に割り込む。
ゼシカの狙いがチェルスさんなら尚更、殺させるわけにはいかない!!
だって賢者の血は、もう半分が失われてるんだから!
「……うふふ。やっぱりまだいたのね」
「ゼシカ!!」
「チェルスさん、大丈夫ですか!?」
二人の間に割って入って、チェルスさんの身体を確認する。
大丈夫、怪我はない。
「いいわ。どうせあなた達と戦うのは、避けて通れないと思ってたもの。ただ、こんなふうにあなた達を死なせてしまうなんて、少し悲しいわね……」
「ゼシカ、どうしてこんなことになっちゃってるの! 目を覚まして!」
最悪、ゼシカと戦うことにもなるかもしれない。
それだけは避けたい思いで、私はゼシカへと言葉を発した。
仲間に向かって剣なんて抜きたくない……!
「うふふ……八賢者の末裔がここにもひとり。でも今はあなたの番じゃないの。そこをどいてくれる?」
「嫌だ! ゼシカ、人を殺すなんて駄目だよ! ねぇ分かってるでしょ!?」
「あなたが言うと滑稽ね、人殺しの近衛兵さん?」
「──え?」
なんで。
なんでそんなこと、ゼシカ。
知ってるの、なんで、ねえ……。
「な、なん……何言ってるんでがすか、ゼシカ!?」
「あらあなたも知らなかったの? そこにいるあなたの『姉貴』が、トロデーンで何をしてきたのか──」
「ッ、聞くなヤンガス! ただのハッタリだ!!」
「ハッタリなんかじゃないわ、真実よ。ねぇレイラ……何人殺したのだったかしら? 一人? 二人? そんな可愛い数じゃないわよね。ふふ……」
おかしい、だって私、その事は誰にも話してない。
ヤンガスもククールも……もちろんゼシカも知らないはずなのに。
なんでそのこと……?
「ふふ……。忘れたのなら教えてあげる。あなたに命じられた『夜勤』の数は七回。殺した数は……あら惜しい、九人。もう少しで二桁だったのにね。うふふ……」
頭の中に……悲鳴が聞こえてくる……。
私が殺した人たちの……絶叫、命乞い、呪いの言葉……。
忘れたわけじゃない。
ずっと私の頭の中に彼らはいる。
忘れたくても忘れられない、ずっとずっと夢で彼らに恨まれてきた。
「あ、姉貴……」
「レイラ、お前……」
「……! 違う、違うのヤンガス、ククール……! 私、好きでやったわけじゃ……。命令だったから……それが私の仕事だったから、だから……!」
嫌だ、やめて、そんな目で──軽蔑した目で私を見ないで。
『夜勤』なんて好きじゃなかった、誰のことも好きで手にかけたわけじゃない。
そうしないと私は生きていけなかったから、だから──。
「ねぇ、そんなふうに人を殺すことを覚えてしまったあなたが……エイトの隣にいるのは、不釣り合いだと思わない?」
「……ゼシカ!! それ以上は!!」
「わ……私、私は……」
やっぱりエイトの隣には……いちゃ駄目だ。
こんな、人の命を奪い続けてきた人間が、誰かと幸せになろうなんて……考えちゃいけなかったんだ。
私には過ぎたるものだったんだ、誰かを好きになるなんて……。
「違う、違うよレイラ! 僕はそんなこと思ってない!!」
「ごめん……なさい……。私──」
「レイラ!!」
謝ったって許してもらえない。
私の罪は、軽くなったりなんかしない。
……分かっていたことなのに。
最初からそうするつもりだったのに。
私には幸せになる権利なんて──最初からなかったんだって。
知っていたはずなのに。
「武器を取れレイラ! ゼシカに殺されるつもりか!?」
「ごめん……私、ゼシカに剣なんか、向けられない……」
浅い呼吸のまま、喘ぐように言って、私は剣から手を離した。
……私が死んだら、世界はどうなるのかな。
エイトと姫様は幸せになれるかな、そうだといいな。
それなら……死んでも、いいかな……。
人の命を奪うばかりで……助けることも出来やしない私なんか、必要ない。
ああ、本当に──ドルマゲスの言った通り、大罪人は私だ。
「ふふ、気が変わったわ。やっぱりあなたから最初に始末してあげる。八賢者のひとり、霊導者ヨシュアの末裔──レイラ」
ゼシカが杖を振り上げる。
その切っ先は鋭くて……それが人を刺し貫くところを、私は二度、この目で見た。
(やっと……終わるかな。たくさんの人から恨まれて、憎まれて、呪いのような言葉を浴びせられる夢から、覚める──)
抵抗の意思は、もうなかった。
とっくに私は壊れてしまっていて、継ぎ接ぎだらけの心に『嘘』という幕を被せて隠していただけなんだろう。
……エイトと一緒にいたら、私も少しはマシになれるかなって思ったけど、ごめんね。
人殺しは結局、どこまで行っても──。
「馬鹿か!? 本気で死ぬぞ!!」
「姉貴!!」
「レイラ避けて!!」
私はゆっくりと首を振った。
いい、もう全部終わってしまえばいい。
私の旅も、私の命も、霊導者の血筋も……ここで終わる。
どうせ私は天国になんて行けやしないだろうから、天国へ行けるだろうエイトとは金輪際、会えないけど。
ゼシカを見上げて、目を閉じる。
その時、だった。
「ふざけるな……!!」
聞いたこともないような、低く唸る声と共に、私の身体が温かいものに強く引っ張られた。
ぱっと目を開けたら、エイトが私を庇うように抱き締めている。
──駄目だ、そんなことしたら、エイトまで一緒に死んじゃう。
私から離すために、とびきりの力でエイトを突き飛ばす。
エイトが勢いよく吹っ飛んで、エイトの腕に少し引っ張られて私がよろめいた。
「エイト、ごめん──」
よろめくままにエイトと私が向かい合った、その瞬間。
何かが私のお腹を突き抜けた。
「ええい、遅いわ! 何をやっとったんじゃ! どうやらあの杖使い女がまた現れたらしい! わしは速攻で結界を完成させねばならん! 世界結界全集は見つかったんじゃろ? さあ渡せ! すぐに渡せ!」
「ああもう、はいこれです!!」
手に持っていた本を押し付けると、ハワードさんは「これじゃこれじゃ!」と頷いた。
そうしてハワードさんは大釜へ、私たちは外へと走り出したとき。
「わしは今から大急ぎで結界を調合するゆえ、お前たちは外であの杖使い女を食い止めておれ!」
「本当に間に合うんだろうな!?」
「なに、心配せんでもすぐにできるわい! なにしろわしは偉大な大呪術師じゃからな! おっとそうじゃ。なむなむなむ……ほれ!」
ハワードさんが何かを唱えると、私たちの体力と魔力が全回復した。
宿屋でしっかり休んだから、最初からフルパワーなんだけど、まぁいいか!!
「これで元気になったじゃろう! とにかく一秒でも長く、あの杖使い女を食い止めるのじゃぞ! よいな!!」
「誰のせいで探すのに手間取ったと思ってんですか、もぉー!!」
「ちったぁ整理しとけやクソ野郎!!」
私とヤンガスの怒鳴り声を残して、私たちはハワードさんの部屋から飛び出した。
階段を駆け下りて屋敷の外へ転がり出ると、空は午前中だというのに真っ暗な雲で覆われ、更には稲光がいくつもの筋を描いている。
敷地内にも外にも、野次馬や駆け付けてきたリブルアーチの住民が押し寄せていた。
その間を通ろうとするけど、みんなこの異変に夢中で通してくれない!
庭の噴水にあるハワードさんを模した石像──その上に、ゼシカが立っていた。
「せっかく守りは万全にしておきなさいって言ったのに、随分と無防備なのね」
「黙れ! ここから先へは一歩も行かせないぞ! ハワード様に指一本触れさせるものか!」
やっぱりチェルスさんがゼシカと対峙している。
チェルスの横には……レオパルドもいる!
駄目だ、今のゼシカ相手じゃ、チェルスなんて相手にもならない!
「……ハワード? ふふふ……」
「な……何がおかしいんだ!」
「悲しいわ……。自分の血に刻みつけられた大いなる運命を、あなたはまだ何も知らないのね。私が狙っていたのは、初めからあんな見せかけだけの男じゃないわ。この杖が全てを知っているの。私の狙いは、かつて暗黒神ラプソーンを封印した八賢者のひとり、大呪術師クーパスの末裔──チェルス。あなたのことよ」
……は?
なに、それ……?
それじゃあつまり、ハワード一族の末裔とクーパスの末裔は、既に出会っていたってこと!?
だったらなんでハワードさんは、チェルスのことが分からないの!?
「悲しいわね。あなたの命を守るべきはずの男が、その事をまるで覚えていないなんて」
ちょちょちょ……ちょっと待て!?
忘れてるって、呪はどうなってるわけ!?
だって魔の力が真に蘇るとき、二人の末裔は出会うって……!
そんな呪を自分の一族にかけたって、初代ハワードの手記にはそう書いてあったのに!!
ようやく人だかりから抜け出して、「ちょっと待ったァ!!」と二人の会話に割り込む。
ゼシカの狙いがチェルスさんなら尚更、殺させるわけにはいかない!!
だって賢者の血は、もう半分が失われてるんだから!
「……うふふ。やっぱりまだいたのね」
「ゼシカ!!」
「チェルスさん、大丈夫ですか!?」
二人の間に割って入って、チェルスさんの身体を確認する。
大丈夫、怪我はない。
「いいわ。どうせあなた達と戦うのは、避けて通れないと思ってたもの。ただ、こんなふうにあなた達を死なせてしまうなんて、少し悲しいわね……」
「ゼシカ、どうしてこんなことになっちゃってるの! 目を覚まして!」
最悪、ゼシカと戦うことにもなるかもしれない。
それだけは避けたい思いで、私はゼシカへと言葉を発した。
仲間に向かって剣なんて抜きたくない……!
「うふふ……八賢者の末裔がここにもひとり。でも今はあなたの番じゃないの。そこをどいてくれる?」
「嫌だ! ゼシカ、人を殺すなんて駄目だよ! ねぇ分かってるでしょ!?」
「あなたが言うと滑稽ね、人殺しの近衛兵さん?」
「──え?」
なんで。
なんでそんなこと、ゼシカ。
知ってるの、なんで、ねえ……。
「な、なん……何言ってるんでがすか、ゼシカ!?」
「あらあなたも知らなかったの? そこにいるあなたの『姉貴』が、トロデーンで何をしてきたのか──」
「ッ、聞くなヤンガス! ただのハッタリだ!!」
「ハッタリなんかじゃないわ、真実よ。ねぇレイラ……何人殺したのだったかしら? 一人? 二人? そんな可愛い数じゃないわよね。ふふ……」
おかしい、だって私、その事は誰にも話してない。
ヤンガスもククールも……もちろんゼシカも知らないはずなのに。
なんでそのこと……?
「ふふ……。忘れたのなら教えてあげる。あなたに命じられた『夜勤』の数は七回。殺した数は……あら惜しい、九人。もう少しで二桁だったのにね。うふふ……」
頭の中に……悲鳴が聞こえてくる……。
私が殺した人たちの……絶叫、命乞い、呪いの言葉……。
忘れたわけじゃない。
ずっと私の頭の中に彼らはいる。
忘れたくても忘れられない、ずっとずっと夢で彼らに恨まれてきた。
「あ、姉貴……」
「レイラ、お前……」
「……! 違う、違うのヤンガス、ククール……! 私、好きでやったわけじゃ……。命令だったから……それが私の仕事だったから、だから……!」
嫌だ、やめて、そんな目で──軽蔑した目で私を見ないで。
『夜勤』なんて好きじゃなかった、誰のことも好きで手にかけたわけじゃない。
そうしないと私は生きていけなかったから、だから──。
「ねぇ、そんなふうに人を殺すことを覚えてしまったあなたが……エイトの隣にいるのは、不釣り合いだと思わない?」
「……ゼシカ!! それ以上は!!」
「わ……私、私は……」
やっぱりエイトの隣には……いちゃ駄目だ。
こんな、人の命を奪い続けてきた人間が、誰かと幸せになろうなんて……考えちゃいけなかったんだ。
私には過ぎたるものだったんだ、誰かを好きになるなんて……。
「違う、違うよレイラ! 僕はそんなこと思ってない!!」
「ごめん……なさい……。私──」
「レイラ!!」
謝ったって許してもらえない。
私の罪は、軽くなったりなんかしない。
……分かっていたことなのに。
最初からそうするつもりだったのに。
私には幸せになる権利なんて──最初からなかったんだって。
知っていたはずなのに。
「武器を取れレイラ! ゼシカに殺されるつもりか!?」
「ごめん……私、ゼシカに剣なんか、向けられない……」
浅い呼吸のまま、喘ぐように言って、私は剣から手を離した。
……私が死んだら、世界はどうなるのかな。
エイトと姫様は幸せになれるかな、そうだといいな。
それなら……死んでも、いいかな……。
人の命を奪うばかりで……助けることも出来やしない私なんか、必要ない。
ああ、本当に──ドルマゲスの言った通り、大罪人は私だ。
「ふふ、気が変わったわ。やっぱりあなたから最初に始末してあげる。八賢者のひとり、霊導者ヨシュアの末裔──レイラ」
ゼシカが杖を振り上げる。
その切っ先は鋭くて……それが人を刺し貫くところを、私は二度、この目で見た。
(やっと……終わるかな。たくさんの人から恨まれて、憎まれて、呪いのような言葉を浴びせられる夢から、覚める──)
抵抗の意思は、もうなかった。
とっくに私は壊れてしまっていて、継ぎ接ぎだらけの心に『嘘』という幕を被せて隠していただけなんだろう。
……エイトと一緒にいたら、私も少しはマシになれるかなって思ったけど、ごめんね。
人殺しは結局、どこまで行っても──。
「馬鹿か!? 本気で死ぬぞ!!」
「姉貴!!」
「レイラ避けて!!」
私はゆっくりと首を振った。
いい、もう全部終わってしまえばいい。
私の旅も、私の命も、霊導者の血筋も……ここで終わる。
どうせ私は天国になんて行けやしないだろうから、天国へ行けるだろうエイトとは金輪際、会えないけど。
ゼシカを見上げて、目を閉じる。
その時、だった。
「ふざけるな……!!」
聞いたこともないような、低く唸る声と共に、私の身体が温かいものに強く引っ張られた。
ぱっと目を開けたら、エイトが私を庇うように抱き締めている。
──駄目だ、そんなことしたら、エイトまで一緒に死んじゃう。
私から離すために、とびきりの力でエイトを突き飛ばす。
エイトが勢いよく吹っ飛んで、エイトの腕に少し引っ張られて私がよろめいた。
「エイト、ごめん──」
よろめくままにエイトと私が向かい合った、その瞬間。
何かが私のお腹を突き抜けた。
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