40章
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不思議な沈黙が続いた。
エイトはさっきから手を握ったり開いたりを繰り返している。
まだドルマゲスと会ってもないのに、緊張するの早すぎない?
「……あのさ!」
隣に座っていたエイトが勢いよく立ち上がる。
その顔はちょっと強張っていて、そしてちょっとだけ──頬が赤いように見えた。
「なに?」
私もつられて立ち上がって、エイトを見上げた。
こんなエイトは初めて見る。
いつだって私たちは、言いたいことを言い合ってきた。
十年近く一緒にいると、良い意味で遠慮がなくなってしまって。
「レイラに、その……伝えたいことがあって」
「泉でも言ってたね。ていうかちょくちょく何かを伝えようとしてくれてたけど、なんかタイミング良く邪魔が入ってたっけ?」
泉のときはククールに邪魔されて、エイトの口からは聞けなかった。
その前は、願いの丘で何かを言いかけたのと、アスカンタ城で何かを言いかけて、それぞれ月影の窓とキラさんのお伺いで聞けないまま。
その言葉が、やっと聞けるんだ
「大事な話なんだよね」
「……うん。すごく、大事な……大切な話なんだ」
「うん。じゃあ真剣に聞く」
自然と背筋が伸びる。
何だろう、旅が終わった後のことかな?
それともまた別の……姫様との関係をどうするか、とか?
いやでもそれを私に話しても仕方ないか。
じゃあいったい、どんな話を──。
「──好きだよ。レイラが好き」
それは、予想していたどれとも違っていた。
頭の中が真っ白になって、周りの音が一瞬だけ遠ざかる。
言葉が出てこなくて、私はただ呆然とエイトを見つめることしかできなかった。
(……え? エイトは今、なんて言った?)
私に、言ったの?
好きだって……私に?
なんで、そんなこと……なんで私が?
「エイト……」
「ずっと前から君のことを想ってた」
「私……? う、うそ……」
「嘘じゃない。こんなことで嘘ついてどうするんだよ」
「だ、だって……エイトのこと、応援してあげなきゃって……」
「……応援する必要はなかったんだよ。僕の恋の相手はレイラ、君なんだから」
「な、なにそれ……なんでそんな……」
バカみたい。
なんで気付かなかったんだろう、エイトの気持ちに。
エイトが好きだっていう自分の気持ちに。
本当、バカだ。
「私……バカだね」
「……レイラ」
「バカだよ……バカだ……。エイトが相手じゃ、言い訳なんか通用しないじゃん……」
「ふふ……残念だったね。僕は『夜勤』の事実を知ってるから、それを理由にされても退かないよ」
「何も言ってないのに、なんで言い訳がそれだって分かるの」
「付き合いが長いのは僕も同じだからかな」
悔しい……ううん、違う、嬉しいんだ。
エイトがそこまで私のことを理解してくれていて、私が背負っていた役目のことも知っていて、それでも私のことを好きになってくれたことが、嬉しいんだ。
……誰かを愛することも、愛されることもないと思ってた。
幸せになる姫様やエイトを見届けて、私はずっと『夜勤』を続けて、定年まで働いて終わりだって。
なのに現実は、いつも思い描いた通りにはなってくれない。
「ねぇ。……答え、聞かせてくれる?」
溢れそうな涙を指で拭って、エイトを見上げる。
答えなんて、ひとつしかない。
ククールには伝えないって言ったけど、エイトから好きだって言われちゃったら、応えるしかない。
だって私──私もエイトが、エイトのことが。
「私も……エイトが好き」
声が震えてしまった。
上手く届かなかったかもしれない、ああほら、エイトがキョトンとした顔してる。
ちゃんと伝えなきゃ、今度はエイトに聞こえるように。
「好き。エイトのことが、好き──」
言い終える前に、エイトの腕が私を抱きしめていた。
「ひゃぁ」なんて変な声が喉の奥から出てきたけど、エイトは聞こえないふりをしたようだ。
もしくは本当に聞こえていなかったのかも。
どっちでもいいか、そんなこと。
「同じだったんだね……僕たちは」
「私は今日やっと、エイトのことが好きなんだって気付いたんだけどね」
「じゃあ、ベルガラックで僕の前に座りたがらなかったあれも?」
「うん……きっとそう。エイトのことが好きで、恥ずかしくて……。それに、その朝も……お、押し倒されるみたいな……」
「押し倒す!?」
「してないけど! なんか……恥ずかしかったの! 私が悪かったんだけどさ……!」
「ああ……あれはレイラが霊導の力を使うから……。本当に、心臓が止まるかと思ったんだ。好きな人が倒れたら誰だって……」
それに関しては本当に反省したので、そろそろお許しいただけないだろうか。
でも許されるには積み重ねた無茶が多すぎるか!?
エイトがいつから私のこと好きだったかは知らないけど、少なくとも旅に出る前から好きだったっぽいし……。
そう考えると、ここに至るまでの道中でやらかしたあれやこれや、エイトはさぞかし肝を冷やしてきたんだろうな。
好きな人が無茶してるのは、怖かっただろうな……。
……ていうか、いつから好きだったんだ、私のこと。
聞くのは野暮かな……いいや、聞いちゃえ!
「……ねえ。いつから好きでいてくれたの」
「聞いちゃう、それ?」
「言って。気になるから」
「……僕らが小間使いになった頃」
「ほぼ最初からじゃない!?」
「レイラには、僕と姫様が相思相愛に見えてたかもしれないけどね。僕はずっと……」
エイトの手が頬を包む。
その手がつ、と頬骨をなぞって。
あ、と思う頃には。
「君しか見てなかった」
私たちの距離は、ゼロになった。
触れただけのそこから、エイトの想いが伝わってくるみたいだ。
私、エイトとキスしちゃった。
どうしよう、いいのかな。
でもエイトは私のことが好きで、私もエイトのことが好きで……。
エイトの顔がゆっくりと離れていく。
いつの間にか閉じていた目を開けて、私は夜の星が瞬く中で、エイトと見つめ合った。
「……本当に姫様じゃなくていいの?」
「どうしてレイラは、僕とミーティアをくっ付けたがるの?」
「そ、そりゃあ、お似合いだなって思うしさ。……私なんかよりも、姫様のほうがずっと綺麗だし、優しいし。それにほら、助けてもらった時から好きだって言ってたじゃん」
「……たしかに僕は、行き倒れてたところをミーティア姫に助けてもらったけど……。ミーティア姫のことが好きだって話、したことないはずだよ」
「海辺の教会でさ、話してるの聞こえちゃった。全部終わったら告白するって、助けてもらった時から好きだったって、エイト言ってた」
ぽかんとしたエイトが、「あ!?」と声を上げる。
やっと繋がってくれたようで何よりだ。
そこまで脈絡のないことを言ったつもりはなかったのに。
でもあれは間違いなく、姫様のことを言っていた。
だって私がエイトを助けたことなんてなかったから。
エイトにはいつも助けられてばっかりで、エイトの力になれなくて、ずっと足を引っ張ってばっかりだった。
「……恥ずかしいな、聞かれてたんだ」
「あの時、失恋したって思ったんだろうなぁ。自覚はなかったけど、うっすらエイトのこと好きだったんだと思う」
「失恋……? あの時、僕はレイラの話をしてたんだよ」
「……うん?」
「全部終わったら、レイラに好きって伝えようと思ってた。助けてもらったあの日から、ずっとレイラのことが好きだったんだって伝えたら、どんな反応するかなって」
「……私、エイトのこと助けた覚えない……」
「忘れちゃったかな。僕が賓客にぶつかって水を掛けちゃって──」
「……あ! あったような気がする……。え、あれ!? あれ助けたことにカウントされてたの!?」
「してたよ。あの時、すごく嬉しくて……でも同時に、僕がレイラを守らなきゃって思ったんだ。レイラは僕のために、大切なもののために、立ち向かえる人だから。レイラは優しくて強くて、勇気のある人。僕はあの時からレイラのことが好きで、レイラを守りたいから強くなるって決めたんだ」
小っ恥ずかしいにも程がある!
まさかあのひと騒動がきっかけだったとか、誰も思わないよ!
言ってみれば、あれが私の悪い武勇伝の始まりだもんね。
まさか賓客のオッサンにぶん殴られるとは思わなかったけど。
「あの後、メイド長に怒られたことだけは覚えてる」
「僕も一緒に怒られたから、よく覚えてる。レイラは隣でちょっと不貞腐れてた」
「度胸ありすぎるな、私……」
「……でも嬉しかったよ」
そう呟いて、エイトは微笑んだ。
あの時から十年近くが経って、私たちはお互いに強くなって、今では互いに背中を預けて戦っている。
同じ境遇の仲間から、幼馴染みになって、仕事の同僚になって……。
そして今日、そこに新しく『恋人』という関係が加わった。
予想外ではあったけど、でも嫌じゃない。
「……エイト、好き」
「僕も。大好き」
「あ、大がつくのはズルい──ん」
やっぱりエイトは最後まで言わせてくれない。
キスで塞ぐなんて、そんなのどこで覚えたんだか。
……でもまぁ、いいか。
私の恋心なんて、十年も抱え続けたエイトのそれには、きっと遠く及ばない。
せいぜい愛されてあげよう。
お互いが白髪頭になって、どちらかが先に死んだって、きっと私たちなら、互いを想いあっていられるよね──。
エイトはさっきから手を握ったり開いたりを繰り返している。
まだドルマゲスと会ってもないのに、緊張するの早すぎない?
「……あのさ!」
隣に座っていたエイトが勢いよく立ち上がる。
その顔はちょっと強張っていて、そしてちょっとだけ──頬が赤いように見えた。
「なに?」
私もつられて立ち上がって、エイトを見上げた。
こんなエイトは初めて見る。
いつだって私たちは、言いたいことを言い合ってきた。
十年近く一緒にいると、良い意味で遠慮がなくなってしまって。
「レイラに、その……伝えたいことがあって」
「泉でも言ってたね。ていうかちょくちょく何かを伝えようとしてくれてたけど、なんかタイミング良く邪魔が入ってたっけ?」
泉のときはククールに邪魔されて、エイトの口からは聞けなかった。
その前は、願いの丘で何かを言いかけたのと、アスカンタ城で何かを言いかけて、それぞれ月影の窓とキラさんのお伺いで聞けないまま。
その言葉が、やっと聞けるんだ
「大事な話なんだよね」
「……うん。すごく、大事な……大切な話なんだ」
「うん。じゃあ真剣に聞く」
自然と背筋が伸びる。
何だろう、旅が終わった後のことかな?
それともまた別の……姫様との関係をどうするか、とか?
いやでもそれを私に話しても仕方ないか。
じゃあいったい、どんな話を──。
「──好きだよ。レイラが好き」
それは、予想していたどれとも違っていた。
頭の中が真っ白になって、周りの音が一瞬だけ遠ざかる。
言葉が出てこなくて、私はただ呆然とエイトを見つめることしかできなかった。
(……え? エイトは今、なんて言った?)
私に、言ったの?
好きだって……私に?
なんで、そんなこと……なんで私が?
「エイト……」
「ずっと前から君のことを想ってた」
「私……? う、うそ……」
「嘘じゃない。こんなことで嘘ついてどうするんだよ」
「だ、だって……エイトのこと、応援してあげなきゃって……」
「……応援する必要はなかったんだよ。僕の恋の相手はレイラ、君なんだから」
「な、なにそれ……なんでそんな……」
バカみたい。
なんで気付かなかったんだろう、エイトの気持ちに。
エイトが好きだっていう自分の気持ちに。
本当、バカだ。
「私……バカだね」
「……レイラ」
「バカだよ……バカだ……。エイトが相手じゃ、言い訳なんか通用しないじゃん……」
「ふふ……残念だったね。僕は『夜勤』の事実を知ってるから、それを理由にされても退かないよ」
「何も言ってないのに、なんで言い訳がそれだって分かるの」
「付き合いが長いのは僕も同じだからかな」
悔しい……ううん、違う、嬉しいんだ。
エイトがそこまで私のことを理解してくれていて、私が背負っていた役目のことも知っていて、それでも私のことを好きになってくれたことが、嬉しいんだ。
……誰かを愛することも、愛されることもないと思ってた。
幸せになる姫様やエイトを見届けて、私はずっと『夜勤』を続けて、定年まで働いて終わりだって。
なのに現実は、いつも思い描いた通りにはなってくれない。
「ねぇ。……答え、聞かせてくれる?」
溢れそうな涙を指で拭って、エイトを見上げる。
答えなんて、ひとつしかない。
ククールには伝えないって言ったけど、エイトから好きだって言われちゃったら、応えるしかない。
だって私──私もエイトが、エイトのことが。
「私も……エイトが好き」
声が震えてしまった。
上手く届かなかったかもしれない、ああほら、エイトがキョトンとした顔してる。
ちゃんと伝えなきゃ、今度はエイトに聞こえるように。
「好き。エイトのことが、好き──」
言い終える前に、エイトの腕が私を抱きしめていた。
「ひゃぁ」なんて変な声が喉の奥から出てきたけど、エイトは聞こえないふりをしたようだ。
もしくは本当に聞こえていなかったのかも。
どっちでもいいか、そんなこと。
「同じだったんだね……僕たちは」
「私は今日やっと、エイトのことが好きなんだって気付いたんだけどね」
「じゃあ、ベルガラックで僕の前に座りたがらなかったあれも?」
「うん……きっとそう。エイトのことが好きで、恥ずかしくて……。それに、その朝も……お、押し倒されるみたいな……」
「押し倒す!?」
「してないけど! なんか……恥ずかしかったの! 私が悪かったんだけどさ……!」
「ああ……あれはレイラが霊導の力を使うから……。本当に、心臓が止まるかと思ったんだ。好きな人が倒れたら誰だって……」
それに関しては本当に反省したので、そろそろお許しいただけないだろうか。
でも許されるには積み重ねた無茶が多すぎるか!?
エイトがいつから私のこと好きだったかは知らないけど、少なくとも旅に出る前から好きだったっぽいし……。
そう考えると、ここに至るまでの道中でやらかしたあれやこれや、エイトはさぞかし肝を冷やしてきたんだろうな。
好きな人が無茶してるのは、怖かっただろうな……。
……ていうか、いつから好きだったんだ、私のこと。
聞くのは野暮かな……いいや、聞いちゃえ!
「……ねえ。いつから好きでいてくれたの」
「聞いちゃう、それ?」
「言って。気になるから」
「……僕らが小間使いになった頃」
「ほぼ最初からじゃない!?」
「レイラには、僕と姫様が相思相愛に見えてたかもしれないけどね。僕はずっと……」
エイトの手が頬を包む。
その手がつ、と頬骨をなぞって。
あ、と思う頃には。
「君しか見てなかった」
私たちの距離は、ゼロになった。
触れただけのそこから、エイトの想いが伝わってくるみたいだ。
私、エイトとキスしちゃった。
どうしよう、いいのかな。
でもエイトは私のことが好きで、私もエイトのことが好きで……。
エイトの顔がゆっくりと離れていく。
いつの間にか閉じていた目を開けて、私は夜の星が瞬く中で、エイトと見つめ合った。
「……本当に姫様じゃなくていいの?」
「どうしてレイラは、僕とミーティアをくっ付けたがるの?」
「そ、そりゃあ、お似合いだなって思うしさ。……私なんかよりも、姫様のほうがずっと綺麗だし、優しいし。それにほら、助けてもらった時から好きだって言ってたじゃん」
「……たしかに僕は、行き倒れてたところをミーティア姫に助けてもらったけど……。ミーティア姫のことが好きだって話、したことないはずだよ」
「海辺の教会でさ、話してるの聞こえちゃった。全部終わったら告白するって、助けてもらった時から好きだったって、エイト言ってた」
ぽかんとしたエイトが、「あ!?」と声を上げる。
やっと繋がってくれたようで何よりだ。
そこまで脈絡のないことを言ったつもりはなかったのに。
でもあれは間違いなく、姫様のことを言っていた。
だって私がエイトを助けたことなんてなかったから。
エイトにはいつも助けられてばっかりで、エイトの力になれなくて、ずっと足を引っ張ってばっかりだった。
「……恥ずかしいな、聞かれてたんだ」
「あの時、失恋したって思ったんだろうなぁ。自覚はなかったけど、うっすらエイトのこと好きだったんだと思う」
「失恋……? あの時、僕はレイラの話をしてたんだよ」
「……うん?」
「全部終わったら、レイラに好きって伝えようと思ってた。助けてもらったあの日から、ずっとレイラのことが好きだったんだって伝えたら、どんな反応するかなって」
「……私、エイトのこと助けた覚えない……」
「忘れちゃったかな。僕が賓客にぶつかって水を掛けちゃって──」
「……あ! あったような気がする……。え、あれ!? あれ助けたことにカウントされてたの!?」
「してたよ。あの時、すごく嬉しくて……でも同時に、僕がレイラを守らなきゃって思ったんだ。レイラは僕のために、大切なもののために、立ち向かえる人だから。レイラは優しくて強くて、勇気のある人。僕はあの時からレイラのことが好きで、レイラを守りたいから強くなるって決めたんだ」
小っ恥ずかしいにも程がある!
まさかあのひと騒動がきっかけだったとか、誰も思わないよ!
言ってみれば、あれが私の悪い武勇伝の始まりだもんね。
まさか賓客のオッサンにぶん殴られるとは思わなかったけど。
「あの後、メイド長に怒られたことだけは覚えてる」
「僕も一緒に怒られたから、よく覚えてる。レイラは隣でちょっと不貞腐れてた」
「度胸ありすぎるな、私……」
「……でも嬉しかったよ」
そう呟いて、エイトは微笑んだ。
あの時から十年近くが経って、私たちはお互いに強くなって、今では互いに背中を預けて戦っている。
同じ境遇の仲間から、幼馴染みになって、仕事の同僚になって……。
そして今日、そこに新しく『恋人』という関係が加わった。
予想外ではあったけど、でも嫌じゃない。
「……エイト、好き」
「僕も。大好き」
「あ、大がつくのはズルい──ん」
やっぱりエイトは最後まで言わせてくれない。
キスで塞ぐなんて、そんなのどこで覚えたんだか。
……でもまぁ、いいか。
私の恋心なんて、十年も抱え続けたエイトのそれには、きっと遠く及ばない。
せいぜい愛されてあげよう。
お互いが白髪頭になって、どちらかが先に死んだって、きっと私たちなら、互いを想いあっていられるよね──。
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