34章
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──夕暮れに染まる道を、一台の馬車がカラカラと音を立てて進んでいく。
(これは……夢?)
馬車はポルトリンクからリーザス村の方向へ向かっているようだった。
外の景色には少々、見覚えがある。
私の視界は馬車の窓から、室内へと向けられた。
私の隣に座るのはメイドの女の子。
そして向かいに母親らしき女性と、その隣には父親らしき男性。
顔は逆光になっていて分からないけど、母親の髪は綺麗な黒髪だった。
「旦那様、奥様。今日のお夕飯は何にしましょうか」
「そうねぇ。レイラは何が食べたい?」
「私はクリームシチューが食べたいです!」
「はは、レイラは本当にクリームシチューが好きだな。なら、そうしようか」
「かしこまりました。腕によりをかけてお作りします!」
メイドが腕に筋肉を作って見せて、三人で笑う。
……私にも、こんなふうに平和な幼少期があったんだろう。
それともこれはただの夢……私に都合のいい夢を見ているだけなのだろうか。
馬車の窓から海が遠ざかっていく。
名残惜しい気持ちでそれを眺めていた、次の瞬間──。
視界はぐるんと目まぐるしく回って、凄まじい衝撃に襲われた。
メイドの腕の中に庇われた私は、メイドと共に馬車の外へ放り出されて──。
「旦那様、奥様!」
メイドの悲鳴が聞こえて、そちらを振り向く。
瞬間、私の喉が「ひゅっ」と音を立てた。
……見た瞬間に分かる。
二人はもう……死んでいた。
獲物を仕留めた魔物たちは、まだ生きている私とメイドに目をつけた。
私を抱き上げたメイドが、魔物に背を向けて森の中に逃げ込もうとする。
だけど、それは逆に危険だ。
戦闘に慣れている今の私でも、魔物から逃げるのは簡単じゃない。
ましてやメイドは戦えない一般人。
逃げられるはずもない。
メイドが背中を引き裂かれて絶命する。
その腕から這い出した私は、ゆっくりと迫り来る魔物を前に、腰が抜けたまま後退りするしかなかった。
魔物が牙を剥いて襲いかかる。
その瞬間、私はぐっと体を硬くして──。
* * *
男子部屋で真っ先に目が覚めたのは、例によって例のごとく僕だった。
一番鶏の声と共に目が覚めるのは、近衛兵として取り立てられてから当たり前の事だった。
それでも、ふと思う。
もしこの世界のどこかに、顔も名前も知らない両親がいて、その両親の元で今も暮らしていたら、僕はこんな旅をすることもなかったんだろうな、と。
そうしたら姫やトロデ王と会うことも、レイラと一緒に過ごすこともなくて……。
レイラを好きになることもなかった。
そう考えたら、今の人生も悪くないものだ。
まだ夜明けを迎えたばかりのサザンビーク城は、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。
東の空が明るみ始めたのを見上げて、それから城下町を歩いてみることにした。
城下町は真ん中に川があって、その川に二箇所、橋がかかっている。
対岸を結ぶ橋は、ベンチを置いた小さな浮島を挟んでいて──。
……そのベンチに、レイラが座っていた。
「レイラ?」
駆け寄って声を掛けると、俯いていたレイラは顔を上げて、それからほっとしたように笑った。
レイラの顔色が悪い。
「またあの夢?」
「ううん、違う……。でも怖い夢見ちゃった」
無理やりに笑って見せているけど、手が震えているのは隠せていない。
思えばレイラにとっては過酷な旅だった。
この子は優しい。
優しいから、言葉には出さないだけで、きっといろんな感情を我慢してきたはず。
この旅で、僕らはあまりにも『死』というものに近くなりすぎた。
それじゃあ、最初からそれに最も近いところにいたレイラは──?
「……ごめんね」
「なんでエイトが謝るの?」
「僕がもっと、レイラの力になれていたら……。こんなふうに一人で抱え込ませることもなかったんだろうな」
レイラの力になりたいと常日頃から思ってはいるけれど、力になれているかと言われたら分からない。
僕はこの子と十年間も一緒にいたのに。
「エイトの悪い癖」
「……え?」
「すーぐ自分のせいにする。エイトのせいだなんて、一言も言ってないのに」
「そ……それは」
言われてみれば確かにそうかもしれない。
どうして夢見が悪かったのか、具体的なことも聞かないで僕は、また勝手に自分のせいだと責任を感じて。
そんな奴、誰が頼ろうなんて思うものか。
「……何を見たか聞いても?」
「本当に変な夢。でも実際にあった事なのかなぁ。小さい頃の夢を見てさ」
「小さい頃の? でもレイラは、その頃の記憶は……」
「無いんだよね。だからもしかしたら、都合のいい夢を見ただけなのかもしれないなって。それならそれで、最後まで幸せな終わり方をしてほしかったもんだけどさ」
「……そうじゃなかった?」
「魔物に襲われて、家族みんな死んじゃった。私はどうなったか分かんない」
「そんな……」
「夢にしては妙にリアルだったし、そういうことがあったのかもね。……陛下も言ってたじゃん、ロアナス家は魔物に襲われて滅んだって」
トロデーン王国の中でも古い歴史を持つロアナス家。
その当主夫婦は魔物に襲われて死亡、一人娘は行方不明。
恐らくもう生きてはいないだろう──事故が起きて一ヶ月後、陛下は生存者の捜索を打ち切った。
その頃だった、レイラがトロデーン城にやってきたのは。
僕は行き倒れていたところを、城を抜け出した姫に見つけてもらって、城に来た。
そして今度はその僕が、たまたま城の外に出た時にレイラを見つけて来たんだから、運命って分からない。
「……ね、エイト。もし私たちが、それぞれの両親のところでちゃんと生きてたら、きっと会うことはなかったんだろうね」
「そうかもしれないね」
「じゃあ今のままでいいや。ロアナス家の娘として生きてって、エイトとは出会わない人生より、今の人生のほうが断然面白いもんね!」
「ふふ、面白いかぁ。レイラには敵わないや。でも今の人生のほうが楽しいのは僕も同じかな。本当の親の元で暮らしていたら、それはそれで楽しいこともあったんだろうけど……。レイラやミーティア姫のいるトロデーン城で暮らすほうが楽しかったと思うよ」
「私といて楽しくないわけないじゃんね。近衛隊一の能天気だもん」
「せめてムードメーカーって言おうよ」
「ムードメーカーは言われたことなくてさ」
「なんで……?」
「むしろムードクラッシャーだったからじゃない? 知らないけど」
別に空気が読めていないとは思わないけどな。
まあムードメーカーにしてはちょっと賑やか過ぎたかもしれないけど。
フォローなんだか追い打ちなんだか分からない回答は、そっとしまっておくことにした。
いつの間にか空はすっかり明るくなっていて、家々に明かりがつき始めている。
「お腹空いたし、戻ろっか」
「そうだね」
「エイトが来てくれて良かった! ありがと!」
「どういたしまして。元気になってくれて良かったよ」
「エイトって、隣にいてほしいなって思った時に絶対現れるよね。エスパー?」
「……なんか全部ちょっとずつ惜しくて悔しいな……」
「何の話?」
「こっちの話……」
誰がエスパーだ、誰が。
でもレイラが弱った時、ちゃんと僕の存在を必要としてくれていることは分かったし、それは嬉しいんだけど。
なんでこんなに片想いを成就させるのが大変なんだ。
レイラ相手にこんなに苦戦するなんて知らなかったよ、僕は。
さっさと歩いていってしまうレイラを追いかけつつ、僕は観念して覚悟を決めた。
ドルマゲスを倒すまでに、この子に好きだと伝えよう。
そうしよう、そうするしかない。
ここまで鈍感だと、僕の気持ちになんて一生気付いてもらえなさそうだ。
絶対に伝えなければ。
心残りはないほうが良いに決まってる。
……ドルマゲスとの戦いは、それだけ熾烈なものになるんだろうから。
(これは……夢?)
馬車はポルトリンクからリーザス村の方向へ向かっているようだった。
外の景色には少々、見覚えがある。
私の視界は馬車の窓から、室内へと向けられた。
私の隣に座るのはメイドの女の子。
そして向かいに母親らしき女性と、その隣には父親らしき男性。
顔は逆光になっていて分からないけど、母親の髪は綺麗な黒髪だった。
「旦那様、奥様。今日のお夕飯は何にしましょうか」
「そうねぇ。レイラは何が食べたい?」
「私はクリームシチューが食べたいです!」
「はは、レイラは本当にクリームシチューが好きだな。なら、そうしようか」
「かしこまりました。腕によりをかけてお作りします!」
メイドが腕に筋肉を作って見せて、三人で笑う。
……私にも、こんなふうに平和な幼少期があったんだろう。
それともこれはただの夢……私に都合のいい夢を見ているだけなのだろうか。
馬車の窓から海が遠ざかっていく。
名残惜しい気持ちでそれを眺めていた、次の瞬間──。
視界はぐるんと目まぐるしく回って、凄まじい衝撃に襲われた。
メイドの腕の中に庇われた私は、メイドと共に馬車の外へ放り出されて──。
「旦那様、奥様!」
メイドの悲鳴が聞こえて、そちらを振り向く。
瞬間、私の喉が「ひゅっ」と音を立てた。
……見た瞬間に分かる。
二人はもう……死んでいた。
獲物を仕留めた魔物たちは、まだ生きている私とメイドに目をつけた。
私を抱き上げたメイドが、魔物に背を向けて森の中に逃げ込もうとする。
だけど、それは逆に危険だ。
戦闘に慣れている今の私でも、魔物から逃げるのは簡単じゃない。
ましてやメイドは戦えない一般人。
逃げられるはずもない。
メイドが背中を引き裂かれて絶命する。
その腕から這い出した私は、ゆっくりと迫り来る魔物を前に、腰が抜けたまま後退りするしかなかった。
魔物が牙を剥いて襲いかかる。
その瞬間、私はぐっと体を硬くして──。
* * *
男子部屋で真っ先に目が覚めたのは、例によって例のごとく僕だった。
一番鶏の声と共に目が覚めるのは、近衛兵として取り立てられてから当たり前の事だった。
それでも、ふと思う。
もしこの世界のどこかに、顔も名前も知らない両親がいて、その両親の元で今も暮らしていたら、僕はこんな旅をすることもなかったんだろうな、と。
そうしたら姫やトロデ王と会うことも、レイラと一緒に過ごすこともなくて……。
レイラを好きになることもなかった。
そう考えたら、今の人生も悪くないものだ。
まだ夜明けを迎えたばかりのサザンビーク城は、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。
東の空が明るみ始めたのを見上げて、それから城下町を歩いてみることにした。
城下町は真ん中に川があって、その川に二箇所、橋がかかっている。
対岸を結ぶ橋は、ベンチを置いた小さな浮島を挟んでいて──。
……そのベンチに、レイラが座っていた。
「レイラ?」
駆け寄って声を掛けると、俯いていたレイラは顔を上げて、それからほっとしたように笑った。
レイラの顔色が悪い。
「またあの夢?」
「ううん、違う……。でも怖い夢見ちゃった」
無理やりに笑って見せているけど、手が震えているのは隠せていない。
思えばレイラにとっては過酷な旅だった。
この子は優しい。
優しいから、言葉には出さないだけで、きっといろんな感情を我慢してきたはず。
この旅で、僕らはあまりにも『死』というものに近くなりすぎた。
それじゃあ、最初からそれに最も近いところにいたレイラは──?
「……ごめんね」
「なんでエイトが謝るの?」
「僕がもっと、レイラの力になれていたら……。こんなふうに一人で抱え込ませることもなかったんだろうな」
レイラの力になりたいと常日頃から思ってはいるけれど、力になれているかと言われたら分からない。
僕はこの子と十年間も一緒にいたのに。
「エイトの悪い癖」
「……え?」
「すーぐ自分のせいにする。エイトのせいだなんて、一言も言ってないのに」
「そ……それは」
言われてみれば確かにそうかもしれない。
どうして夢見が悪かったのか、具体的なことも聞かないで僕は、また勝手に自分のせいだと責任を感じて。
そんな奴、誰が頼ろうなんて思うものか。
「……何を見たか聞いても?」
「本当に変な夢。でも実際にあった事なのかなぁ。小さい頃の夢を見てさ」
「小さい頃の? でもレイラは、その頃の記憶は……」
「無いんだよね。だからもしかしたら、都合のいい夢を見ただけなのかもしれないなって。それならそれで、最後まで幸せな終わり方をしてほしかったもんだけどさ」
「……そうじゃなかった?」
「魔物に襲われて、家族みんな死んじゃった。私はどうなったか分かんない」
「そんな……」
「夢にしては妙にリアルだったし、そういうことがあったのかもね。……陛下も言ってたじゃん、ロアナス家は魔物に襲われて滅んだって」
トロデーン王国の中でも古い歴史を持つロアナス家。
その当主夫婦は魔物に襲われて死亡、一人娘は行方不明。
恐らくもう生きてはいないだろう──事故が起きて一ヶ月後、陛下は生存者の捜索を打ち切った。
その頃だった、レイラがトロデーン城にやってきたのは。
僕は行き倒れていたところを、城を抜け出した姫に見つけてもらって、城に来た。
そして今度はその僕が、たまたま城の外に出た時にレイラを見つけて来たんだから、運命って分からない。
「……ね、エイト。もし私たちが、それぞれの両親のところでちゃんと生きてたら、きっと会うことはなかったんだろうね」
「そうかもしれないね」
「じゃあ今のままでいいや。ロアナス家の娘として生きてって、エイトとは出会わない人生より、今の人生のほうが断然面白いもんね!」
「ふふ、面白いかぁ。レイラには敵わないや。でも今の人生のほうが楽しいのは僕も同じかな。本当の親の元で暮らしていたら、それはそれで楽しいこともあったんだろうけど……。レイラやミーティア姫のいるトロデーン城で暮らすほうが楽しかったと思うよ」
「私といて楽しくないわけないじゃんね。近衛隊一の能天気だもん」
「せめてムードメーカーって言おうよ」
「ムードメーカーは言われたことなくてさ」
「なんで……?」
「むしろムードクラッシャーだったからじゃない? 知らないけど」
別に空気が読めていないとは思わないけどな。
まあムードメーカーにしてはちょっと賑やか過ぎたかもしれないけど。
フォローなんだか追い打ちなんだか分からない回答は、そっとしまっておくことにした。
いつの間にか空はすっかり明るくなっていて、家々に明かりがつき始めている。
「お腹空いたし、戻ろっか」
「そうだね」
「エイトが来てくれて良かった! ありがと!」
「どういたしまして。元気になってくれて良かったよ」
「エイトって、隣にいてほしいなって思った時に絶対現れるよね。エスパー?」
「……なんか全部ちょっとずつ惜しくて悔しいな……」
「何の話?」
「こっちの話……」
誰がエスパーだ、誰が。
でもレイラが弱った時、ちゃんと僕の存在を必要としてくれていることは分かったし、それは嬉しいんだけど。
なんでこんなに片想いを成就させるのが大変なんだ。
レイラ相手にこんなに苦戦するなんて知らなかったよ、僕は。
さっさと歩いていってしまうレイラを追いかけつつ、僕は観念して覚悟を決めた。
ドルマゲスを倒すまでに、この子に好きだと伝えよう。
そうしよう、そうするしかない。
ここまで鈍感だと、僕の気持ちになんて一生気付いてもらえなさそうだ。
絶対に伝えなければ。
心残りはないほうが良いに決まってる。
……ドルマゲスとの戦いは、それだけ熾烈なものになるんだろうから。
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