29章
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教会のシスターは、快く私たちを泊めてくれた。
お祈りを済ませてから、修道士の皆さんにも話を聞いてみたところ、「ドルマゲスという名前は知らないが……」と前置きをしつつ、話をしてくれた。
教会の外にいた幼い修道士は、今でも恐ろしく思ったのか、小さな手を不安そうに握り締めていた。
どんな凶悪なものを見てしまったんだろうか。
「今日みたいに晴れた日でした。仲間の修道士があれを見たのは」
「あれって?」
「海を走る人間のことですよ! 詳しいことは、中にいる僕の友人に聞いてください」
海を走る人間──トロデーン王国のある大陸から、南の大陸へ向かう定期船騒動の際に、オセアーノンも言っていた。
海の上を走る人間がいた、と。
「……エイト」
「うん。きっと奴だ。もうこの大陸に来ていたみたいだね」
「中の奴にも話を聞いてみようぜ。どこに行ったか分かるかもしれねぇぜ?」
ククールに頷いて、教会の中へと戻る。
ベッドが並んだ部屋にいる、これまた幼い修道士に話を聞いてみると、こちらはもっと不安そうな顔だった。
なんだか顔色もあまりよくないように見える。
「あれを目にして以来、寝不足気味なんです。あれって言うのはですね……海の上を走る、道化師の格好をした不気味な人間のことです」
「道化師……!」
ここに来て大当たりだ。
奴はこの大陸のどこかにいる。
一体、何が目的で行動しているかは分からないままだけど、奴の次の狙いがこの大陸にいるというのは確かなようだ。
「その道化師はどこに向かったの?」
「海岸線に沿って走っていったから、たぶん、ベルガラックの方へ向かったんだと思います」
「ベルガラック……」
「とにかくもう、忘れたいです。なのに忘れられない。あれは幽霊だったんじゃ……」
小さな修道士はそう言って頭を両手で押さえ、何かを振り払うように頭を振った。
私たち大人でさえ、おぞましいと思っているんだもん。
子供にとっては恐怖でしかないよね……。
「聞いたか、エイト、レイラ! この修道士が見たのは、きっとドルマゲスに違いないぞ! 奴が向かったかもしれん、そのベルガラックという町へ行ってみるぞい」
「ウワびっくりした!!」
「おっさん、いつの間に!」
本当に前触れもなく現れるのをやめて頂けないだろうか。
本当にビビるんですよ、こっちは……。
どうしてエイトは「いるのは分かってましたよ」みたいな顔で会話できるのか。
まあ、それはさておき。
「明日の目的地は決まったね」
「間に合うといいけど……」
何にとは言わなかったけれど、エイトの言った言葉の意味は誰もが理解していた。
マスター・ライラスとサーベルトさんは、私たちが辿り着く前に亡くなっていた。
オディロ院長は私たちの目の前で──守れたかもしれないのに、命を落としてしまった。
(もう、誰も失いたくないね)
険しい表情をするエイトの横顔をそっと見上げて、私は握り締められた手のひらに触れた。
マイエラ修道院でドルマゲスを見失ってから、かなり日数が経過している。
私も今回ばかりは、最悪の結果を覚悟したところだ。
「ベルガラック、か……」
「どんな町なのかしらね?」
「西の大陸に来たことはないから、分かんないや。でも、その町にドルマゲスの狙いがあるってことだもんね……」
オディロ院長を手に掛けたけれど、パヴァン王には見向きもしなかった。
奴の行動基準はまるで分からないまま。
貴人やその町の有名人を狙った犯行と思わせておいて、アスカンタを素通りして、奴は西の大陸へ渡った。
うーん、考えても分からないな。
こういうときは、分かっていることだけを考えればいい。
ドルマゲスは誰かを狙ってベルガラックに向かった。
それだけ分かっていれば充分だ。
「じゃあ、今日はみんなゆっくり休んで。明日の朝、ベルガラックに向けて出発しよう」
エイトによる解散の合図で、みんなはそれぞれ宛てがわれたベッドへ歩いていった。
いの一番でいびきをかき始めたのは、ヤンガスだ。
みんな相当お疲れだったんだろう、ククールとゼシカもすぐに寝息を立て始めた。
「エイトは休まないの?」
「レイラこそ。疲れただろ?」
「私はもう少し起きていようかなって」
「そっか」
あんまり喋ると、みんなが起きちゃうかな。
小声で話してたら大丈夫かも。
ゼシカが私の分のスペースを開けて、壁際に寄って眠っているのを眺めながら、私とエイトは空いているベッドに並んで腰かけた。
「……なんだか、随分と遠いところに来たね、僕ら」
「そうだね。まさか自分たちで船を持つことになるとは思わなかったや」
「僕も。月の世界なんて場所に二度も行くことになるなんて」
「もう会うこともないんだろうなあ、イシュマウリ」
本当に不思議な体験だった。
もうあんな体験はできないだろうな。
ドルマゲスを倒したら……こんな風に旅をするのも終わりで。
私たちはまた、トロデーン城で近衛兵として働いて……。
みんなと集まることは、あるのかな。
「……んー。疲れちゃったから、やっぱりもう寝ようかな」
「そっか。僕はもう少し起きてるから、先に寝てて」
「旅のリーダーも程々にねー。……あ、そだ。たまには姫様の話し相手になりなよ」
部屋を出ようとしたエイトの背中にそう声をかけると、エイトは私を振り返って、不思議そうに小首を傾げた。
私に言われなかったら、陛下とだけ話してそのまま戻ってくるつもりだったんだろう。
「姫様だってきっと寂しいよ。自分だけ喋れないんだもん。だからせめて、こういう時くらいは一緒にいてあげて」
「それならレイラも一緒に──」
「姫様は、エイトとの方が嬉しいよ」
そうとだけ言って、私はエイトに背を向けて目を閉じた。
エイトは私を見つめていたようだけれど、やがて教会の外へと出ていく音が聞こえてきた。
姫様がエイトのことを好きだなんて、ずっと前から気付いていた。
気付いていないのは鈍感なエイト本人くらいだ。
三人でいる時だって、姫様はエイトを目で追っていた。
……エイトも姫様も、私の自慢の幼馴染みだ。
二人が結ばれることがあるとしたら、私は自分のことみたいに嬉しく思う。
それは嘘じゃない。
……嘘じゃないはずなのに、少しだけ苦しいのは、どうしてなんだろう。
お祈りを済ませてから、修道士の皆さんにも話を聞いてみたところ、「ドルマゲスという名前は知らないが……」と前置きをしつつ、話をしてくれた。
教会の外にいた幼い修道士は、今でも恐ろしく思ったのか、小さな手を不安そうに握り締めていた。
どんな凶悪なものを見てしまったんだろうか。
「今日みたいに晴れた日でした。仲間の修道士があれを見たのは」
「あれって?」
「海を走る人間のことですよ! 詳しいことは、中にいる僕の友人に聞いてください」
海を走る人間──トロデーン王国のある大陸から、南の大陸へ向かう定期船騒動の際に、オセアーノンも言っていた。
海の上を走る人間がいた、と。
「……エイト」
「うん。きっと奴だ。もうこの大陸に来ていたみたいだね」
「中の奴にも話を聞いてみようぜ。どこに行ったか分かるかもしれねぇぜ?」
ククールに頷いて、教会の中へと戻る。
ベッドが並んだ部屋にいる、これまた幼い修道士に話を聞いてみると、こちらはもっと不安そうな顔だった。
なんだか顔色もあまりよくないように見える。
「あれを目にして以来、寝不足気味なんです。あれって言うのはですね……海の上を走る、道化師の格好をした不気味な人間のことです」
「道化師……!」
ここに来て大当たりだ。
奴はこの大陸のどこかにいる。
一体、何が目的で行動しているかは分からないままだけど、奴の次の狙いがこの大陸にいるというのは確かなようだ。
「その道化師はどこに向かったの?」
「海岸線に沿って走っていったから、たぶん、ベルガラックの方へ向かったんだと思います」
「ベルガラック……」
「とにかくもう、忘れたいです。なのに忘れられない。あれは幽霊だったんじゃ……」
小さな修道士はそう言って頭を両手で押さえ、何かを振り払うように頭を振った。
私たち大人でさえ、おぞましいと思っているんだもん。
子供にとっては恐怖でしかないよね……。
「聞いたか、エイト、レイラ! この修道士が見たのは、きっとドルマゲスに違いないぞ! 奴が向かったかもしれん、そのベルガラックという町へ行ってみるぞい」
「ウワびっくりした!!」
「おっさん、いつの間に!」
本当に前触れもなく現れるのをやめて頂けないだろうか。
本当にビビるんですよ、こっちは……。
どうしてエイトは「いるのは分かってましたよ」みたいな顔で会話できるのか。
まあ、それはさておき。
「明日の目的地は決まったね」
「間に合うといいけど……」
何にとは言わなかったけれど、エイトの言った言葉の意味は誰もが理解していた。
マスター・ライラスとサーベルトさんは、私たちが辿り着く前に亡くなっていた。
オディロ院長は私たちの目の前で──守れたかもしれないのに、命を落としてしまった。
(もう、誰も失いたくないね)
険しい表情をするエイトの横顔をそっと見上げて、私は握り締められた手のひらに触れた。
マイエラ修道院でドルマゲスを見失ってから、かなり日数が経過している。
私も今回ばかりは、最悪の結果を覚悟したところだ。
「ベルガラック、か……」
「どんな町なのかしらね?」
「西の大陸に来たことはないから、分かんないや。でも、その町にドルマゲスの狙いがあるってことだもんね……」
オディロ院長を手に掛けたけれど、パヴァン王には見向きもしなかった。
奴の行動基準はまるで分からないまま。
貴人やその町の有名人を狙った犯行と思わせておいて、アスカンタを素通りして、奴は西の大陸へ渡った。
うーん、考えても分からないな。
こういうときは、分かっていることだけを考えればいい。
ドルマゲスは誰かを狙ってベルガラックに向かった。
それだけ分かっていれば充分だ。
「じゃあ、今日はみんなゆっくり休んで。明日の朝、ベルガラックに向けて出発しよう」
エイトによる解散の合図で、みんなはそれぞれ宛てがわれたベッドへ歩いていった。
いの一番でいびきをかき始めたのは、ヤンガスだ。
みんな相当お疲れだったんだろう、ククールとゼシカもすぐに寝息を立て始めた。
「エイトは休まないの?」
「レイラこそ。疲れただろ?」
「私はもう少し起きていようかなって」
「そっか」
あんまり喋ると、みんなが起きちゃうかな。
小声で話してたら大丈夫かも。
ゼシカが私の分のスペースを開けて、壁際に寄って眠っているのを眺めながら、私とエイトは空いているベッドに並んで腰かけた。
「……なんだか、随分と遠いところに来たね、僕ら」
「そうだね。まさか自分たちで船を持つことになるとは思わなかったや」
「僕も。月の世界なんて場所に二度も行くことになるなんて」
「もう会うこともないんだろうなあ、イシュマウリ」
本当に不思議な体験だった。
もうあんな体験はできないだろうな。
ドルマゲスを倒したら……こんな風に旅をするのも終わりで。
私たちはまた、トロデーン城で近衛兵として働いて……。
みんなと集まることは、あるのかな。
「……んー。疲れちゃったから、やっぱりもう寝ようかな」
「そっか。僕はもう少し起きてるから、先に寝てて」
「旅のリーダーも程々にねー。……あ、そだ。たまには姫様の話し相手になりなよ」
部屋を出ようとしたエイトの背中にそう声をかけると、エイトは私を振り返って、不思議そうに小首を傾げた。
私に言われなかったら、陛下とだけ話してそのまま戻ってくるつもりだったんだろう。
「姫様だってきっと寂しいよ。自分だけ喋れないんだもん。だからせめて、こういう時くらいは一緒にいてあげて」
「それならレイラも一緒に──」
「姫様は、エイトとの方が嬉しいよ」
そうとだけ言って、私はエイトに背を向けて目を閉じた。
エイトは私を見つめていたようだけれど、やがて教会の外へと出ていく音が聞こえてきた。
姫様がエイトのことを好きだなんて、ずっと前から気付いていた。
気付いていないのは鈍感なエイト本人くらいだ。
三人でいる時だって、姫様はエイトを目で追っていた。
……エイトも姫様も、私の自慢の幼馴染みだ。
二人が結ばれることがあるとしたら、私は自分のことみたいに嬉しく思う。
それは嘘じゃない。
……嘘じゃないはずなのに、少しだけ苦しいのは、どうしてなんだろう。
