第十話 信頼
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奥州から遠く離れた地・近江は小谷城──
浅井長政の居城であるはずのこの城には、火の手が上がっていた
「市、市っ!!」
城内を走り回り、城主・浅井長政は、愛する妻の名を呼んだ
「どこにいるのだ、市……!!」
いったいなぜ、と混乱する頭が疑問を生む
「なぜこのようなことになっているのだ!?
兄者……!!
なぜあなたが私を……!!」
信じられなかった
長政の妻・お市は、義兄弟である織田信長の妹
兄者が私を裏切った……!!?
「長政……様……」
その瞬間、長政の耳は、か細い声を捕らえていた
「市!!」
声のする方に行くと、部屋の中でお市が倒れていた
「市、しっかりしろ!」
「長政様……
逃げ……て……」
「何を言う!
貴様を置いて逃げられるものか!」
「兄様が……
長政様が、兄様に殺されちゃう……
お願い、逃げて……!」
「市!?」
逃げて逃げてと迫るお市を腕に抱いたまま、長政が火の手の上がる部屋を見つめる
「クッククク……
あなたは実の兄を裏切ることにしたのですね、お市様」
「明智……」
突如降ってきた第三者の声の主は、明智光秀のものだった
「裏切るだと!?」
「ええ、そうですよ、浅井長政
お市様は、織田の密命を帯びて浅井へと輿入れして来たのです
もっとも、お市様はそれらしいことは何もしてくださいませんでしたが」
「市、貴様……」
「ごめんなさい……
長政様、ごめんなさい……」
「さあ……お市様
信長公がお待ちです」
「明智、兄者はどこだ!」
「信長公なら奥州討伐のため、本能寺にいます
残念ですが……あなたにそこまでたどり着いてもらうわけにはいきません
私がおいしくいただきますよ
クククク……!」
歪な笑みを浮かべ、明智が鎌を構える
「良かろう……
貴様を倒し、兄者に直接この浅井攻めの理由を問う!!」
長政はお市を横たえ、剣を抜いた──
* * *
近江よりはるか東の地・奥州は大森城──
浅井攻めから一夜が明けた日の本……
大森城次期当主・安房守成実も、昨晩小谷城で起きた騒ぎはさすがに知らなかった
彼の頭には、奥州へ侵攻してくる織田軍を、いかに自軍の戦力を削ることなく追い払えるか──ということだけが常に渦巻いている
密かに想っている伊達家の姫に完徹禁止令を言い渡され
こうして今さっき起きたところだった
「さて、と
夕華でも起こすか」
一度廊下へ出て、朝日を見上げる
それから隣の部屋に行き、障子戸を開けた
「夕華ー!
朝だぞー!」
その部屋で寝ていた人物はゆっくりと起き上がり
しばらくぼんやりとしてから、成実に柔らかな笑みを見せた
「おはようございます、成実さん」
「おう、おはよう
はは、寝ぐせついてんぞ」
「ええ!?
ど、どこですか!?」
「後ろ」
わたわたとせわしなく動く姫の手に笑いを零して、枕元に置いてあった結紐を手に取る
父親譲りの癖のある髪を器用にまとめて、結紐で結ってやると、姫が照れるようにはにかんだ
「あ、ありがとうございます」
「結紐も新しくしたらどうだ?
それ、俺があげたやつだろ?」
「……でも、これがいいです」
「そうか?」
今までのような遠慮ではなく、姫自身が拘ったが故の言葉
何となく面映ゆい気持ちになりつつ、武の男は、甘く締め付ける胸の疼きに戸惑った
浅井長政の居城であるはずのこの城には、火の手が上がっていた
「市、市っ!!」
城内を走り回り、城主・浅井長政は、愛する妻の名を呼んだ
「どこにいるのだ、市……!!」
いったいなぜ、と混乱する頭が疑問を生む
「なぜこのようなことになっているのだ!?
兄者……!!
なぜあなたが私を……!!」
信じられなかった
長政の妻・お市は、義兄弟である織田信長の妹
兄者が私を裏切った……!!?
「長政……様……」
その瞬間、長政の耳は、か細い声を捕らえていた
「市!!」
声のする方に行くと、部屋の中でお市が倒れていた
「市、しっかりしろ!」
「長政様……
逃げ……て……」
「何を言う!
貴様を置いて逃げられるものか!」
「兄様が……
長政様が、兄様に殺されちゃう……
お願い、逃げて……!」
「市!?」
逃げて逃げてと迫るお市を腕に抱いたまま、長政が火の手の上がる部屋を見つめる
「クッククク……
あなたは実の兄を裏切ることにしたのですね、お市様」
「明智……」
突如降ってきた第三者の声の主は、明智光秀のものだった
「裏切るだと!?」
「ええ、そうですよ、浅井長政
お市様は、織田の密命を帯びて浅井へと輿入れして来たのです
もっとも、お市様はそれらしいことは何もしてくださいませんでしたが」
「市、貴様……」
「ごめんなさい……
長政様、ごめんなさい……」
「さあ……お市様
信長公がお待ちです」
「明智、兄者はどこだ!」
「信長公なら奥州討伐のため、本能寺にいます
残念ですが……あなたにそこまでたどり着いてもらうわけにはいきません
私がおいしくいただきますよ
クククク……!」
歪な笑みを浮かべ、明智が鎌を構える
「良かろう……
貴様を倒し、兄者に直接この浅井攻めの理由を問う!!」
長政はお市を横たえ、剣を抜いた──
* * *
近江よりはるか東の地・奥州は大森城──
浅井攻めから一夜が明けた日の本……
大森城次期当主・安房守成実も、昨晩小谷城で起きた騒ぎはさすがに知らなかった
彼の頭には、奥州へ侵攻してくる織田軍を、いかに自軍の戦力を削ることなく追い払えるか──ということだけが常に渦巻いている
密かに想っている伊達家の姫に完徹禁止令を言い渡され
こうして今さっき起きたところだった
「さて、と
夕華でも起こすか」
一度廊下へ出て、朝日を見上げる
それから隣の部屋に行き、障子戸を開けた
「夕華ー!
朝だぞー!」
その部屋で寝ていた人物はゆっくりと起き上がり
しばらくぼんやりとしてから、成実に柔らかな笑みを見せた
「おはようございます、成実さん」
「おう、おはよう
はは、寝ぐせついてんぞ」
「ええ!?
ど、どこですか!?」
「後ろ」
わたわたとせわしなく動く姫の手に笑いを零して、枕元に置いてあった結紐を手に取る
父親譲りの癖のある髪を器用にまとめて、結紐で結ってやると、姫が照れるようにはにかんだ
「あ、ありがとうございます」
「結紐も新しくしたらどうだ?
それ、俺があげたやつだろ?」
「……でも、これがいいです」
「そうか?」
今までのような遠慮ではなく、姫自身が拘ったが故の言葉
何となく面映ゆい気持ちになりつつ、武の男は、甘く締め付ける胸の疼きに戸惑った
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