第七章
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薩摩から大坂へと帰還してしばらくした頃の事だった
半兵衛が何やらニコニコとした表情で、海夜に安芸への遠征を申し付けたのだ
「何故でしょうか」
「聞きたいかい?」
「お聞かせ願えますか」
「それは、秘密かな
でも――」
竹中半兵衛の手が海夜の肩を叩く
「面白いものが見られると思うよ?」
意味深な一言を残し、竹中半兵衛はそのままどこかへと歩き去っていった
「……面白いもの?」
訝しげに眉を寄せ、海夜はその言葉を繰り返した
面白いものとは、何なのか
そしてなぜ安芸なのか
九州を押さえた豊臣軍ではあるが、背後に伊達、武田、上杉の三軍があるため、中国と四国には手を出せていない
攻め手のきっかけを作りたいのかとも考えたが、それにしてはあまりにも無策だ
半兵衛の意図が分からぬまま、翌日、海夜は安芸へと旅立った
*********************
二日後、芸州入りした海夜が見たのは、荷物をまとめてどこかへと移動する町民達の姿だった
それも一人や二人ではない
明らかにそれは戦火から逃げる姿に他ならなかった
「ごめんなさい、そこの方」
「はいな、何でございましょう?」
荷台を引く一家を呼び止め、何事かを問いただす
主人は「ああ」と頷き
「近々、どこかの軍勢がここを攻める、なんちゅう噂がありましてな
巻き込まれちゃあいけないもんで、こうして逃げておりました」
「軍勢?
どこの?」
「さあ、そこまでは……
ただ、北の国からとかなんとか」
「北の……」
現在、北国で他国を攻めることができる軍事力を持っているのは、伊達以外にありえない
だが、わざわざ遠い安芸まで足を運ぶだろうか
安芸へ攻め入るということは、否が応でも豊臣の勢力圏内を通らなければならない
その好機を逃す竹中半兵衛ではないし、伊達軍もそのような危険を犯す馬鹿ではないはずだ
もっと他に理由があるような気がする
たとえば、人質を取り返しに来た、などとなれば、伊達軍は勇んで乗り込んでくるだろう
一家に礼を言い、海夜はさらに街道を進んだ
何人もの人とすれ違ったが、海夜と同じ方向へ向かう者たちはほとんどいない
昼を過ぎた頃、海夜はようやく府中へと入った
安芸の府中は、閑散としていた
国府が置かれていたここは、元々はもっと栄えていたのだろうが、今ではほとんどの店がたたまれている
「これは予想外だわ……
当てが外れたわね」
情報の伝達が早い
普通、攻め入る場合は情報の漏洩を避けたいはずだ
(目的は毛利ではないということ……?
でも、もしそうなら何を目的に安芸へ攻め入ろうとしているの?)
北の国から迫る軍勢、動きのない毛利軍、逃げる民衆
何一つ判然としない
ここでは情報の集めようがないと判断し、海夜は府中を抜けて、宿場町まで引き返した
宿場町の宿はいくつか開いているようで、海夜は一番安い宿で部屋を取る事にした
通された部屋は安宿らしく粗野な作りだったが、雨風がしのげれば充分だ
宿屋の主人にも確認してみたが、やはり攻めてくる軍勢は「分からない」とのことだった
「お夕飯のご用意が出来ましたら、お声を掛けますので」
「ええ、ありがとう」
荷物を置いて宿を出、海夜は宿場町を散策することにした
避難の途中で、ここで一夜を明かすつもりなのだろう、宿場町は異様な賑わいを見せている
しかし決定的な情報は得られず、海夜は日が暮れた頃、宿屋へ戻った
事が動いたのはその夜、夕餉を食べていたときだった
にわかに外が慌ただしくなり、海夜の耳は喧騒を聞き取った
同時に宿場の戸が勢い良く開かれる
「大変だ!
長曾我部が攻めてきたぞ!」
「長曾我部!?
敵は北の方から来るんじゃなかったのか!?」
「分からん!
だが確かに、あの異様な船は長曾我部だ!」
長曾我部と毛利は宿敵同士だが、彼らの戦場は常に瀬戸内の海上だ
陸地へ長曾我部が攻め込んでくるなど有り得ない
さらにそこに、男が突っ込んできた
「た、大変だー!
伊達も攻めてきたぞー!」
「伊達!?」
海夜の夕餉を食べる手が止まる
その瞬間、半兵衛の意図が見えた
部屋に戻るなり槍を引っ掴み、宿場を飛び出す
「あ、お客さん、どこいくんだい!」
引き止める声を無視し、馬に飛び乗る
(長曾我部と毛利は同盟状態にあるから、伊達と長曾我部が毛利を攻めるはずはない)
――とすれば
(船で一度に運べる人数なんてたかが知れてるから、伊達も長曾我部も兵数は少ない……)
そこまでの危険を冒してまで、安芸に踏み入る理由は
(……だめだわ、理由が見えない)
だからこそ、この目で確かめようと馬を走らせているのではないか、と自嘲する
うっすらと東の空が明るみ始めた
(始まるなら、そろそろね)
グッと手綱を握ったとき
――ドォンッ!
「っ、なに!?」
音に驚いた馬が前足を上げる
振り落とされた海夜は、すぐさま立ち上がり馬を宥めた
「今の音は……大砲?」
落ち着きを取り戻した馬にまたがり、音がする方へと近付いていく
このあたりは、海が近い
長曾我部のカラクリ船が大砲を撃ち込むなら、この近辺からになる
遠くから鬨の声が聞こえ始めた
馬から降り、愛槍を手に更に近寄る
草の影にしゃがむと、向こうを軍勢が走り去っていった
旗印は竹に雀
間違いなく伊達だ
主だった武将が見当たらないため、おそらくこれは攻略本隊ではない
一体どこの敵と戦っているのかは分からないが、海夜はその軍勢を見失わぬよう後をつけた
どれくらい追いかけただろうか
突如、部隊の前方が消えた
いや、消えたわけではない
屠られたのだ
「誰だてめぇ!」
伊達兵が啖呵を切るが、答えは出かかっているようだ
「我らは松永久秀が配下、三好三人衆」
「ここから先へは通すことはできん」
「ここで朽ち果てるがいい」
槍を握る力が強まる
松永久秀は、海夜にとっても憎むべき相手
十年前の、共に過ごした仲間の仇
だが、おそらくこの一般兵では太刀打ちできないだろう
出来るとすれば――
それは、海夜だけ
伊達に味方するか、傍観するか
迷ったのは、一瞬だった
半兵衛が何やらニコニコとした表情で、海夜に安芸への遠征を申し付けたのだ
「何故でしょうか」
「聞きたいかい?」
「お聞かせ願えますか」
「それは、秘密かな
でも――」
竹中半兵衛の手が海夜の肩を叩く
「面白いものが見られると思うよ?」
意味深な一言を残し、竹中半兵衛はそのままどこかへと歩き去っていった
「……面白いもの?」
訝しげに眉を寄せ、海夜はその言葉を繰り返した
面白いものとは、何なのか
そしてなぜ安芸なのか
九州を押さえた豊臣軍ではあるが、背後に伊達、武田、上杉の三軍があるため、中国と四国には手を出せていない
攻め手のきっかけを作りたいのかとも考えたが、それにしてはあまりにも無策だ
半兵衛の意図が分からぬまま、翌日、海夜は安芸へと旅立った
*********************
二日後、芸州入りした海夜が見たのは、荷物をまとめてどこかへと移動する町民達の姿だった
それも一人や二人ではない
明らかにそれは戦火から逃げる姿に他ならなかった
「ごめんなさい、そこの方」
「はいな、何でございましょう?」
荷台を引く一家を呼び止め、何事かを問いただす
主人は「ああ」と頷き
「近々、どこかの軍勢がここを攻める、なんちゅう噂がありましてな
巻き込まれちゃあいけないもんで、こうして逃げておりました」
「軍勢?
どこの?」
「さあ、そこまでは……
ただ、北の国からとかなんとか」
「北の……」
現在、北国で他国を攻めることができる軍事力を持っているのは、伊達以外にありえない
だが、わざわざ遠い安芸まで足を運ぶだろうか
安芸へ攻め入るということは、否が応でも豊臣の勢力圏内を通らなければならない
その好機を逃す竹中半兵衛ではないし、伊達軍もそのような危険を犯す馬鹿ではないはずだ
もっと他に理由があるような気がする
たとえば、人質を取り返しに来た、などとなれば、伊達軍は勇んで乗り込んでくるだろう
一家に礼を言い、海夜はさらに街道を進んだ
何人もの人とすれ違ったが、海夜と同じ方向へ向かう者たちはほとんどいない
昼を過ぎた頃、海夜はようやく府中へと入った
安芸の府中は、閑散としていた
国府が置かれていたここは、元々はもっと栄えていたのだろうが、今ではほとんどの店がたたまれている
「これは予想外だわ……
当てが外れたわね」
情報の伝達が早い
普通、攻め入る場合は情報の漏洩を避けたいはずだ
(目的は毛利ではないということ……?
でも、もしそうなら何を目的に安芸へ攻め入ろうとしているの?)
北の国から迫る軍勢、動きのない毛利軍、逃げる民衆
何一つ判然としない
ここでは情報の集めようがないと判断し、海夜は府中を抜けて、宿場町まで引き返した
宿場町の宿はいくつか開いているようで、海夜は一番安い宿で部屋を取る事にした
通された部屋は安宿らしく粗野な作りだったが、雨風がしのげれば充分だ
宿屋の主人にも確認してみたが、やはり攻めてくる軍勢は「分からない」とのことだった
「お夕飯のご用意が出来ましたら、お声を掛けますので」
「ええ、ありがとう」
荷物を置いて宿を出、海夜は宿場町を散策することにした
避難の途中で、ここで一夜を明かすつもりなのだろう、宿場町は異様な賑わいを見せている
しかし決定的な情報は得られず、海夜は日が暮れた頃、宿屋へ戻った
事が動いたのはその夜、夕餉を食べていたときだった
にわかに外が慌ただしくなり、海夜の耳は喧騒を聞き取った
同時に宿場の戸が勢い良く開かれる
「大変だ!
長曾我部が攻めてきたぞ!」
「長曾我部!?
敵は北の方から来るんじゃなかったのか!?」
「分からん!
だが確かに、あの異様な船は長曾我部だ!」
長曾我部と毛利は宿敵同士だが、彼らの戦場は常に瀬戸内の海上だ
陸地へ長曾我部が攻め込んでくるなど有り得ない
さらにそこに、男が突っ込んできた
「た、大変だー!
伊達も攻めてきたぞー!」
「伊達!?」
海夜の夕餉を食べる手が止まる
その瞬間、半兵衛の意図が見えた
部屋に戻るなり槍を引っ掴み、宿場を飛び出す
「あ、お客さん、どこいくんだい!」
引き止める声を無視し、馬に飛び乗る
(長曾我部と毛利は同盟状態にあるから、伊達と長曾我部が毛利を攻めるはずはない)
――とすれば
(船で一度に運べる人数なんてたかが知れてるから、伊達も長曾我部も兵数は少ない……)
そこまでの危険を冒してまで、安芸に踏み入る理由は
(……だめだわ、理由が見えない)
だからこそ、この目で確かめようと馬を走らせているのではないか、と自嘲する
うっすらと東の空が明るみ始めた
(始まるなら、そろそろね)
グッと手綱を握ったとき
――ドォンッ!
「っ、なに!?」
音に驚いた馬が前足を上げる
振り落とされた海夜は、すぐさま立ち上がり馬を宥めた
「今の音は……大砲?」
落ち着きを取り戻した馬にまたがり、音がする方へと近付いていく
このあたりは、海が近い
長曾我部のカラクリ船が大砲を撃ち込むなら、この近辺からになる
遠くから鬨の声が聞こえ始めた
馬から降り、愛槍を手に更に近寄る
草の影にしゃがむと、向こうを軍勢が走り去っていった
旗印は竹に雀
間違いなく伊達だ
主だった武将が見当たらないため、おそらくこれは攻略本隊ではない
一体どこの敵と戦っているのかは分からないが、海夜はその軍勢を見失わぬよう後をつけた
どれくらい追いかけただろうか
突如、部隊の前方が消えた
いや、消えたわけではない
屠られたのだ
「誰だてめぇ!」
伊達兵が啖呵を切るが、答えは出かかっているようだ
「我らは松永久秀が配下、三好三人衆」
「ここから先へは通すことはできん」
「ここで朽ち果てるがいい」
槍を握る力が強まる
松永久秀は、海夜にとっても憎むべき相手
十年前の、共に過ごした仲間の仇
だが、おそらくこの一般兵では太刀打ちできないだろう
出来るとすれば――
それは、海夜だけ
伊達に味方するか、傍観するか
迷ったのは、一瞬だった
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