第五章
夢小説設定
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休暇を言い渡された翌週、海夜は潜入した上田城から帰還した
特訓の成果とやらにはがっかりだ
やはり伊達成実は、いくらかかろうとも自分の敵ではないのか
けれど、そうと決めつけるには今一つ腑に落ちないものがある
兄には……おそらく、無意識的な何かが働いている
力を抑える蓋と言ってもいい
なぜそうしているかは知らないが、その蓋を開けさえすれば――
「戻ったんだね、海夜君」
海夜の思考は、半兵衛の声で遮られた
顔を上げた先には、豊臣が誇る軍師の姿がある
「ああ……はい
ただ今戻りました」
「どうだった?」
「どう、とは」
「上田に行ったんだろう?」
「伊達成実のことですか?
がっかりですね
鍛錬の成果だのなんだのと吼えておりましたが、私の敵ではありませんでした
豊臣にとってもさしたる脅威ではないでしょう」
「それで、彼は」
「生きていますよ
途中で猿飛の邪魔が入りましたので、事を大きくするのも面倒で
ただ、忍びが持ち歩いていた毒は役に立ちましたが
ついでに、上田につながる街道の崖を一部切り崩しておきました
救援はそう簡単に辿り着けないでしょう
もちろん、あの毒程度、忍びの解毒薬でどうとでもできるでしょうけれど」
「君は甘いね
手負いの兄と猿飛佐助、二人を相手にできないほど弱くはないだろうに」
「帰りの足を失いそうでしたので」
あのまま上田に留まっていれば、おそらく真田幸村辺りに、自分の忍びはやられていただろう
上田から大阪までを徒歩で帰るのは少々面倒だった
加えてひとつ屁理屈をこねるなら、海夜は『休暇』を過ごしただけで、『伊達成実の暗殺』は命じられていない
「そうかい?
だとしたら賢明な判断だろうけれど
休暇の日数はあと二日分残っている
それが終われば、君には薩摩に行ってもらうよ」
「承知いたしました」
薩摩と豊臣が戦い始めてしばらく経つが、膠着状態で攻め手に欠けており、決着がついていないという
海夜を投じることでこれを切欠にし、南方に拠点を置こうという考えなのだろう
しばらくは、伊達成実を相手にすることは出来なさそうだ
だが、それでいい
次に会うときは、もう少し強くなっていてもらわなくてはつまらない
半兵衛の前を辞して部屋への廊下を歩き、不意に海夜は足を止めた
あと数歩で海夜の部屋だが、微かに気配を感じる
大阪城へと乗り込めたことは褒めてやろう
「だけど……
女の部屋に忍び込むのは、いただけないわね」
障子ごと槍を突き通す
真っ白な障子一面に血が飛び散り、障子の向こうにいた人物は僅かに呻くと動かなくなった
突き刺していた槍を引き抜く
それから障子を開くと、そこには忍びが事切れていた
上田での騒ぎを考えれば真田の忍びが報復に来たかと思ったが、その装束からして真田の忍びではない
「……そう、黒脛巾ね」
黒いすね当ては、伊達家の隠密集団・黒脛巾以外にありえない
なぜここで黒脛巾が現れるのか――
恐らくこれは上田の騒動とは無関係だろう
とすると、伊達軍は定期的に黒脛巾をここへ送り込んでいることになる
「今し方こちらで物音がしたが、どうした」
騒ぎを聞きつけたのか、三成が姿を見せた
血塗れの障子を見やった瞳が、説明しろと訴えている
「間者が紛れ込んでいただけよ
見逃すわけにもいかないから、殺しておいただけ」
「黒脛巾か」
「ええ、そうみたい
独眼竜が送り込んできたようだけど、私の部屋に入ったことが運の尽きね」
「部屋を掃除させる
貴様はしばらく、どこかへ行っていろ」
「どこかへって……
行く場所はないんだけど」
「ならば三成の部屋にでも行っておれ」
別の声が海夜の左側から聞こえた
現れたのは大谷吉継だ
「刑部、なぜ私の部屋へ海夜を入れなければならないのだ」
「ここから一番近いのはぬしの部屋だと思うが?」
「どこだっていいわ……」
「……私物には手を触れるな
それが条件だ」
「言われなくたって、人のものをベタベタ触るわけないでしょう」
ふいと顔をそむけ、その場を立ち去る
その背へ嗄れた声が問うた
「どこへ行く、水城」
「三成の部屋よ!
あなたが行けって言ったんでしょ!」
「三成、ぬしのせいでさらに水城の機嫌が悪くなってしまった」
「なぜ私のせいになる!」
いがみ合う両者の中間に立つ義継は、やれやれと肩をすくめた
喧嘩するほど何とやら、とはこのことかと、生温かい目で三成を見つめ
それから、目の前の惨状をどうすべきかと腕を組んだ
特訓の成果とやらにはがっかりだ
やはり伊達成実は、いくらかかろうとも自分の敵ではないのか
けれど、そうと決めつけるには今一つ腑に落ちないものがある
兄には……おそらく、無意識的な何かが働いている
力を抑える蓋と言ってもいい
なぜそうしているかは知らないが、その蓋を開けさえすれば――
「戻ったんだね、海夜君」
海夜の思考は、半兵衛の声で遮られた
顔を上げた先には、豊臣が誇る軍師の姿がある
「ああ……はい
ただ今戻りました」
「どうだった?」
「どう、とは」
「上田に行ったんだろう?」
「伊達成実のことですか?
がっかりですね
鍛錬の成果だのなんだのと吼えておりましたが、私の敵ではありませんでした
豊臣にとってもさしたる脅威ではないでしょう」
「それで、彼は」
「生きていますよ
途中で猿飛の邪魔が入りましたので、事を大きくするのも面倒で
ただ、忍びが持ち歩いていた毒は役に立ちましたが
ついでに、上田につながる街道の崖を一部切り崩しておきました
救援はそう簡単に辿り着けないでしょう
もちろん、あの毒程度、忍びの解毒薬でどうとでもできるでしょうけれど」
「君は甘いね
手負いの兄と猿飛佐助、二人を相手にできないほど弱くはないだろうに」
「帰りの足を失いそうでしたので」
あのまま上田に留まっていれば、おそらく真田幸村辺りに、自分の忍びはやられていただろう
上田から大阪までを徒歩で帰るのは少々面倒だった
加えてひとつ屁理屈をこねるなら、海夜は『休暇』を過ごしただけで、『伊達成実の暗殺』は命じられていない
「そうかい?
だとしたら賢明な判断だろうけれど
休暇の日数はあと二日分残っている
それが終われば、君には薩摩に行ってもらうよ」
「承知いたしました」
薩摩と豊臣が戦い始めてしばらく経つが、膠着状態で攻め手に欠けており、決着がついていないという
海夜を投じることでこれを切欠にし、南方に拠点を置こうという考えなのだろう
しばらくは、伊達成実を相手にすることは出来なさそうだ
だが、それでいい
次に会うときは、もう少し強くなっていてもらわなくてはつまらない
半兵衛の前を辞して部屋への廊下を歩き、不意に海夜は足を止めた
あと数歩で海夜の部屋だが、微かに気配を感じる
大阪城へと乗り込めたことは褒めてやろう
「だけど……
女の部屋に忍び込むのは、いただけないわね」
障子ごと槍を突き通す
真っ白な障子一面に血が飛び散り、障子の向こうにいた人物は僅かに呻くと動かなくなった
突き刺していた槍を引き抜く
それから障子を開くと、そこには忍びが事切れていた
上田での騒ぎを考えれば真田の忍びが報復に来たかと思ったが、その装束からして真田の忍びではない
「……そう、黒脛巾ね」
黒いすね当ては、伊達家の隠密集団・黒脛巾以外にありえない
なぜここで黒脛巾が現れるのか――
恐らくこれは上田の騒動とは無関係だろう
とすると、伊達軍は定期的に黒脛巾をここへ送り込んでいることになる
「今し方こちらで物音がしたが、どうした」
騒ぎを聞きつけたのか、三成が姿を見せた
血塗れの障子を見やった瞳が、説明しろと訴えている
「間者が紛れ込んでいただけよ
見逃すわけにもいかないから、殺しておいただけ」
「黒脛巾か」
「ええ、そうみたい
独眼竜が送り込んできたようだけど、私の部屋に入ったことが運の尽きね」
「部屋を掃除させる
貴様はしばらく、どこかへ行っていろ」
「どこかへって……
行く場所はないんだけど」
「ならば三成の部屋にでも行っておれ」
別の声が海夜の左側から聞こえた
現れたのは大谷吉継だ
「刑部、なぜ私の部屋へ海夜を入れなければならないのだ」
「ここから一番近いのはぬしの部屋だと思うが?」
「どこだっていいわ……」
「……私物には手を触れるな
それが条件だ」
「言われなくたって、人のものをベタベタ触るわけないでしょう」
ふいと顔をそむけ、その場を立ち去る
その背へ嗄れた声が問うた
「どこへ行く、水城」
「三成の部屋よ!
あなたが行けって言ったんでしょ!」
「三成、ぬしのせいでさらに水城の機嫌が悪くなってしまった」
「なぜ私のせいになる!」
いがみ合う両者の中間に立つ義継は、やれやれと肩をすくめた
喧嘩するほど何とやら、とはこのことかと、生温かい目で三成を見つめ
それから、目の前の惨状をどうすべきかと腕を組んだ
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