第四章
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二週間後、豊臣軍は尾張への進軍を決行した
織田の残党狩りともいえるこの任務に当たったのは、先日雇われた死神姫・水城海夜だった
織田の残党が立てこもる城を一望できる小高い丘に布陣した豊臣軍
その海夜の部隊の後詰として遣わされたのが、豊臣秀吉の左腕
――石田三成だった
「この部隊の責任者は誰だ」
豊臣軍の本陣に着くなり一言目がそれだった
なんとも高圧的な物言いに兵達が視線で海夜を示す
部隊の軍師役と攻め手を講じていたところの海夜は、軍議を中断して立ち上がった
「私よ」
「貴様は……
先日秀吉様に拾われた者か」
「拾われたんじゃないわ、雇われたのよ
そこ、勘違いしないでくれる?」
「秀吉様の左腕たる私に、よくもそのような口が聞けるものだな」
「立場のことを言っているのなら、私は主力部隊の大将で、あなたは後詰の軍でしょう?
どちらがこの場において立場が上かなんて、いちいち言わなきゃ分からないことかしら
それに、私はあなたが誰かも知らないの
知らない奴に頭を下げるほど、私の自尊心は低くないわよ」
「貴様ぁ……ッ!」
「あら、何ならここで決着を付ける?
私は構わないわよ
あなたの首がどうなっても知らないけれど」
まさに一触即発
その空気を壊したのは、台座に乗って現れた男だった
「やれ、三成
その辺にしておけ」
「刑部!」
「この者にも悪気はない
許してはくれぬか、死神姫」
「……興が削がれたわ」
海夜はそう吐き捨て、軍議を再開することもなく軍師に解散を命じた
異様な雰囲気を残す本陣をそのままに、陣幕の奥に引っ込む
(豊臣秀吉の左腕とか言っていたけれど……)
たかだか後詰の軍にそれ程までの男を遣わすとは、余程この残党狩りを重要視しているのか、それとも海夜を警戒しているのか
どちらにせよ残党狩りが済むまで、あの男と行動を共にせねばならないと思うと、気が滅入りそうだ
あの刑部とかいう男が間に立ってとりなしてくれるならいいが
(なんにせよ、あまりいい気にはならないわね)
こう言っては何だが、形部と呼ばれた男からは胡散臭ささえ感じた
豊臣秀吉と竹中半兵衛の信頼が篤い人物らしいが、警戒しておくに越したことはないだろう
*********************
それからしばらくして、先程の二人が海夜のいる陣へと入ってきた
「先程はすまなかった」
銀髪の男が、海夜をまっすぐに見つめる
その澄んだ瞳に、海夜は僅かながらに驚き、そして居心地悪く目をそらした
「別にいいわ
本気で戦おうなんて思ってなかったもの」
「そうか
改めて名乗らせてもらおう
私は石田三成、秀吉様の左腕にして、半兵衛様の忠実な部下だ
以後よろしく頼む
そしてこの男が……」
「大谷義継
刑部とでも呼びやれ」
包帯からわずかに見える瞳が笑うように細められる
得体の知れない男だと思った
竹中半兵衛が遣わしたのだから、怪しい者ではないのだろう
が、どうにも信用しきれない
「私は水城海夜
よろしく」
「主のことは聞き及んでおる
以前は織田に与しておったそうだな」
「ただの協力関係よ
豊臣との関係もそれにすぎないけれどね」
「だが一定の忠誠は持っておろう?」
「言われればどこへだって行くわ
それが傭兵だもの」
言われなければ行かないが、とは言わないでおいた
また石田三成が面倒なことになると思ったからだ
「なぜ仕官の形をとらない」
心底理解しがたいという顔で、石田がそう問う
確かに彼には理解できないだろう
なぜ海夜が根無し草の道を選んだかなど
「……城勤めは私には向かないわ
誰かに仕えるっていうのが性に合わないの
おそらく、私の生い立ちがそうさせたのでしょうけど」
「生い立ちが?」
「刑部は知ってる?」
「ひと通りはな」
「そう
まあ、いいわ
私は山賊上がりなの
元々は伊達の生まれ、そして捨てられたの
まだ乳飲み子だった頃にね
育ての親と住んでいた村も、戦で焼き払われたわ
それが確か、私が五つくらいの頃
それから数年は、私が孤児を拾って仲間にして、山賊集団を形成していたの
まあその集団も、私が十歳かそこらの時に、山賊狩りの軍勢に潰されたんだけど――」
ちらりと石田三成の様子を見る
石田は身じろぎすらせず、こちらを見つめていた
どこまでも律儀な性格をしている
いつかその純粋さが仇を成さないと良いが
心の中で苦笑を浮かべ、海夜は話を続けた
織田の残党狩りともいえるこの任務に当たったのは、先日雇われた死神姫・水城海夜だった
織田の残党が立てこもる城を一望できる小高い丘に布陣した豊臣軍
その海夜の部隊の後詰として遣わされたのが、豊臣秀吉の左腕
――石田三成だった
「この部隊の責任者は誰だ」
豊臣軍の本陣に着くなり一言目がそれだった
なんとも高圧的な物言いに兵達が視線で海夜を示す
部隊の軍師役と攻め手を講じていたところの海夜は、軍議を中断して立ち上がった
「私よ」
「貴様は……
先日秀吉様に拾われた者か」
「拾われたんじゃないわ、雇われたのよ
そこ、勘違いしないでくれる?」
「秀吉様の左腕たる私に、よくもそのような口が聞けるものだな」
「立場のことを言っているのなら、私は主力部隊の大将で、あなたは後詰の軍でしょう?
どちらがこの場において立場が上かなんて、いちいち言わなきゃ分からないことかしら
それに、私はあなたが誰かも知らないの
知らない奴に頭を下げるほど、私の自尊心は低くないわよ」
「貴様ぁ……ッ!」
「あら、何ならここで決着を付ける?
私は構わないわよ
あなたの首がどうなっても知らないけれど」
まさに一触即発
その空気を壊したのは、台座に乗って現れた男だった
「やれ、三成
その辺にしておけ」
「刑部!」
「この者にも悪気はない
許してはくれぬか、死神姫」
「……興が削がれたわ」
海夜はそう吐き捨て、軍議を再開することもなく軍師に解散を命じた
異様な雰囲気を残す本陣をそのままに、陣幕の奥に引っ込む
(豊臣秀吉の左腕とか言っていたけれど……)
たかだか後詰の軍にそれ程までの男を遣わすとは、余程この残党狩りを重要視しているのか、それとも海夜を警戒しているのか
どちらにせよ残党狩りが済むまで、あの男と行動を共にせねばならないと思うと、気が滅入りそうだ
あの刑部とかいう男が間に立ってとりなしてくれるならいいが
(なんにせよ、あまりいい気にはならないわね)
こう言っては何だが、形部と呼ばれた男からは胡散臭ささえ感じた
豊臣秀吉と竹中半兵衛の信頼が篤い人物らしいが、警戒しておくに越したことはないだろう
*********************
それからしばらくして、先程の二人が海夜のいる陣へと入ってきた
「先程はすまなかった」
銀髪の男が、海夜をまっすぐに見つめる
その澄んだ瞳に、海夜は僅かながらに驚き、そして居心地悪く目をそらした
「別にいいわ
本気で戦おうなんて思ってなかったもの」
「そうか
改めて名乗らせてもらおう
私は石田三成、秀吉様の左腕にして、半兵衛様の忠実な部下だ
以後よろしく頼む
そしてこの男が……」
「大谷義継
刑部とでも呼びやれ」
包帯からわずかに見える瞳が笑うように細められる
得体の知れない男だと思った
竹中半兵衛が遣わしたのだから、怪しい者ではないのだろう
が、どうにも信用しきれない
「私は水城海夜
よろしく」
「主のことは聞き及んでおる
以前は織田に与しておったそうだな」
「ただの協力関係よ
豊臣との関係もそれにすぎないけれどね」
「だが一定の忠誠は持っておろう?」
「言われればどこへだって行くわ
それが傭兵だもの」
言われなければ行かないが、とは言わないでおいた
また石田三成が面倒なことになると思ったからだ
「なぜ仕官の形をとらない」
心底理解しがたいという顔で、石田がそう問う
確かに彼には理解できないだろう
なぜ海夜が根無し草の道を選んだかなど
「……城勤めは私には向かないわ
誰かに仕えるっていうのが性に合わないの
おそらく、私の生い立ちがそうさせたのでしょうけど」
「生い立ちが?」
「刑部は知ってる?」
「ひと通りはな」
「そう
まあ、いいわ
私は山賊上がりなの
元々は伊達の生まれ、そして捨てられたの
まだ乳飲み子だった頃にね
育ての親と住んでいた村も、戦で焼き払われたわ
それが確か、私が五つくらいの頃
それから数年は、私が孤児を拾って仲間にして、山賊集団を形成していたの
まあその集団も、私が十歳かそこらの時に、山賊狩りの軍勢に潰されたんだけど――」
ちらりと石田三成の様子を見る
石田は身じろぎすらせず、こちらを見つめていた
どこまでも律儀な性格をしている
いつかその純粋さが仇を成さないと良いが
心の中で苦笑を浮かべ、海夜は話を続けた
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