第二章
夢小説設定
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尾張にある織田の城へ近付くにつれ、海夜の身体に重苦しい空気が纏わりついてきた
禍々しい気が満ち溢れている
最初の印象は、それだった
「信長公、山賊行為を働いていた娘を保護いたしました」
魔王・織田信長が海夜を見下ろす
目があった、と分かった瞬間
海夜の背筋に戦慄が走った
こめかみを冷や汗が流れ落ちる
これほどまでに魔の瘴気を纏った者はいない
――これが、尾張のうつけ
うつけなどという評価は生温い
第六天魔王、その肩書きがどれ程の意味を持つものかは知らないが、この世に属していいものではないと直感が告げている
「貴様が我が領内を荒らした山賊か」
――怖い
生まれて初めて、恐怖を味わった
問われている、答えなければと焦るが、喉は閉じきって開かない
「まだ未熟なようですが、鍛え方によっては陣羽織以上の活躍が見込めるでしょう」
「その者を拾って、どうするというの?」
「ご安心を、帰蝶
この娘に抵抗する気はありません」
信長はもう一度海夜を見て、頬杖をついたままに尋ねた
「貴様、名は何と言う」
「あ……
海夜、と申します……」
手足の震えと冷や汗が止まらない
ようやくどうにか、それだけを吐き出すと、織田信長は奇怪な光を宿した瞳を閉じた
「これより、貴様は水城海夜と名乗るがよい」
「上総介様……
この者を召し抱えると?」
「世話は貴様に任せる、濃よ」
「……承知いたしました」
濃、と呼ばれた女が、海夜を手招きする
拘束されていた腕を解かれ、海夜は濃に導かれるまま、信長の前を去ることになった
震えたままの足を無理やり動かして、女の後をついていく
信長の瘴気が感じられないところまで来ると、海夜は一気に息を吐き出した
「緊張していたの?」
「……ええ」
「そう、あなたにもそんなことがあるのね」
「私だって、人だもの……」
「上総介様に初めて会って、緊張しないなら、それは人ではないわ」
濃という女性は、口元に微笑を浮かべていた
「私は上総介様の妻の帰蝶――濃姫と呼んでくれていいわ
これからよろしくね」
「……水城海夜、です
よろしくお願いいたします」
先程与えられたばかりの姓を名乗る
違和感を覚えるが、慣れていくしかないのだろう
ここで生きていくのなら、それしか方法はない
「あなたは、まだ正式な家臣と決まったわけではないわ
これからの様子を見て、また上総介様からお話があるはずよ
それであなた、文字の読み書きはできるの?」
「ひと通りならば」
「そう、それならいいわ」
濃姫に連れられて、更に城の奥へと進んでいく
居住区域と思われるそこは、あの禍々しさに溢れる城内とは思えない程、静かな場所だった
時折すれ違う家臣達は濃姫に道を譲り頭を下げ、その後ろにいる海夜を不躾な視線で見送る
その視線は無視をして、海夜は濃姫の後ろをただ歩いた
ひとつの部屋の前で、濃姫が立ち止まる
開け放たれた障子は一箇所だけ小さく破れている
目ざとく見つけた濃姫は「後で張り替えないと」と呟き、背後の海夜を振り返った
「ここがあなたの部屋よ
正式に家臣として取り立てられれば、また別の部屋になるから、あくまで一時的なものだけど」
障子の先には、質素な部屋が広がっていた
文机と、必要最低限の家具
掛け軸も花瓶もなく、どう見ても物置部屋を急拵えで私室にしただけだと分かる
けれども、初めてちゃんとした建物に住む海夜にとっては、これでも十分だった
「不便かもしれないけれど、我慢してちょうだいね」
「いえ……十分です
こんなに立派な作りの建物に住めるだけで」
今まで海夜が住まいとしてきたのは、廃屋や天然の洞穴
雨風が凌げるだけでも都のようなものだ
部屋に足を踏み入れる
冷たい畳が、裸足の足裏に心地よかった
「何か欲しいものはある?」
「では……
筆と墨と、真新しい書物を」
「何に使うつもり?」
「今までのことと、これからのことを書き留めていこうと思ったのです」
「あなた、意外に筆まめなのね
いいわ、日記に使うのなら、問題はないから」
なるほど、日々のことを書く書物は、日記というらしい
文字を知っていながら、日記という言葉を知らないのはさすがにどうかとも思ったが、知る機会がなかったのだから仕方ない
これから、色々なことを知っていけばいい
ここに仕えるかは分からないけれど、どこにいようとも、自分は自分らしくあるだけだ
禍々しい気が満ち溢れている
最初の印象は、それだった
「信長公、山賊行為を働いていた娘を保護いたしました」
魔王・織田信長が海夜を見下ろす
目があった、と分かった瞬間
海夜の背筋に戦慄が走った
こめかみを冷や汗が流れ落ちる
これほどまでに魔の瘴気を纏った者はいない
――これが、尾張のうつけ
うつけなどという評価は生温い
第六天魔王、その肩書きがどれ程の意味を持つものかは知らないが、この世に属していいものではないと直感が告げている
「貴様が我が領内を荒らした山賊か」
――怖い
生まれて初めて、恐怖を味わった
問われている、答えなければと焦るが、喉は閉じきって開かない
「まだ未熟なようですが、鍛え方によっては陣羽織以上の活躍が見込めるでしょう」
「その者を拾って、どうするというの?」
「ご安心を、帰蝶
この娘に抵抗する気はありません」
信長はもう一度海夜を見て、頬杖をついたままに尋ねた
「貴様、名は何と言う」
「あ……
海夜、と申します……」
手足の震えと冷や汗が止まらない
ようやくどうにか、それだけを吐き出すと、織田信長は奇怪な光を宿した瞳を閉じた
「これより、貴様は水城海夜と名乗るがよい」
「上総介様……
この者を召し抱えると?」
「世話は貴様に任せる、濃よ」
「……承知いたしました」
濃、と呼ばれた女が、海夜を手招きする
拘束されていた腕を解かれ、海夜は濃に導かれるまま、信長の前を去ることになった
震えたままの足を無理やり動かして、女の後をついていく
信長の瘴気が感じられないところまで来ると、海夜は一気に息を吐き出した
「緊張していたの?」
「……ええ」
「そう、あなたにもそんなことがあるのね」
「私だって、人だもの……」
「上総介様に初めて会って、緊張しないなら、それは人ではないわ」
濃という女性は、口元に微笑を浮かべていた
「私は上総介様の妻の帰蝶――濃姫と呼んでくれていいわ
これからよろしくね」
「……水城海夜、です
よろしくお願いいたします」
先程与えられたばかりの姓を名乗る
違和感を覚えるが、慣れていくしかないのだろう
ここで生きていくのなら、それしか方法はない
「あなたは、まだ正式な家臣と決まったわけではないわ
これからの様子を見て、また上総介様からお話があるはずよ
それであなた、文字の読み書きはできるの?」
「ひと通りならば」
「そう、それならいいわ」
濃姫に連れられて、更に城の奥へと進んでいく
居住区域と思われるそこは、あの禍々しさに溢れる城内とは思えない程、静かな場所だった
時折すれ違う家臣達は濃姫に道を譲り頭を下げ、その後ろにいる海夜を不躾な視線で見送る
その視線は無視をして、海夜は濃姫の後ろをただ歩いた
ひとつの部屋の前で、濃姫が立ち止まる
開け放たれた障子は一箇所だけ小さく破れている
目ざとく見つけた濃姫は「後で張り替えないと」と呟き、背後の海夜を振り返った
「ここがあなたの部屋よ
正式に家臣として取り立てられれば、また別の部屋になるから、あくまで一時的なものだけど」
障子の先には、質素な部屋が広がっていた
文机と、必要最低限の家具
掛け軸も花瓶もなく、どう見ても物置部屋を急拵えで私室にしただけだと分かる
けれども、初めてちゃんとした建物に住む海夜にとっては、これでも十分だった
「不便かもしれないけれど、我慢してちょうだいね」
「いえ……十分です
こんなに立派な作りの建物に住めるだけで」
今まで海夜が住まいとしてきたのは、廃屋や天然の洞穴
雨風が凌げるだけでも都のようなものだ
部屋に足を踏み入れる
冷たい畳が、裸足の足裏に心地よかった
「何か欲しいものはある?」
「では……
筆と墨と、真新しい書物を」
「何に使うつもり?」
「今までのことと、これからのことを書き留めていこうと思ったのです」
「あなた、意外に筆まめなのね
いいわ、日記に使うのなら、問題はないから」
なるほど、日々のことを書く書物は、日記というらしい
文字を知っていながら、日記という言葉を知らないのはさすがにどうかとも思ったが、知る機会がなかったのだから仕方ない
これから、色々なことを知っていけばいい
ここに仕えるかは分からないけれど、どこにいようとも、自分は自分らしくあるだけだ
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