第十四章
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戦場に不釣り合いな沈黙
遠くからは剣戟の音、鬨の声が聞こえてくる
けれど、今この場には沈黙があった
「……少しでも安全なところに逃げた方がいいわ
ここは、お兄様にとっては危険すぎる」
ついでに言えば、石田三成との戦いにおいて邪魔でしかない
誰かを守りながら戦えるほど、海夜は起用ではないし、三成もその余裕はくれないだろう
槍を握りしめた海夜を、姫が呼び止めた
「あの
……どうして、こんなことを?」
訝しげな瞳が海夜を見上げる
成長したものだ──あの時、初めて相見えてから
以前の姫ならば、伊達成実の負傷に狼狽えていたはずだ
聞き返すだけの余裕を手に入れたのだ、と海夜は多少なりとも喜んだ──が
ここは戦場で、石田三成も長くは待てないだろう
二人を逃がすならば、今しかないのは確かだった
「詳しく話したいけど、今はそんな状況じゃないでしょ
早く本陣に帰って」
そう言って海夜は、立ち上がったまま己を見つめる黒衣の武将にも目を向けた
ただの冷静で冷徹な男かと思っていたが、まさか炎のバサラを持っていたとは……と考え
けれど、それはどうでもいい事だと頭の中から追いやる
かけるべき言葉はかけた
後は──
「海夜
貴様、裏切ったのか」
地を這うような声音がそう問う
問うと言うよりは、確認に近い
「裏切ったわけじゃないわ
そもそも私は、利害関係で行動を共にしてただけ
豊臣に忠誠を誓った覚えなんてない」
「だが!
貴様は豊臣に──秀吉様と共にいただろう!!」
その言葉に、海夜はそっと瞳を伏せた
石田三成は理解していたのか──いや、しなかったのかもしれない
海夜が傭兵である意味を
傭兵という言葉がさす役割を
「……そうね
あなたからすれば、私がしていることは立派な裏切りよね
でも、私は豊臣にいる理由もなくなったの
どの軍に与しようが私の勝手よ」
情けを捨てる気はない
槍を構え、石田を真っ直ぐに見据える
情けを捨てないからこそ、全力で
「許さない……!
私は貴様を許しはしないッ!!」
その言葉を残し、石田三成の姿が消える
実際には消えたように見えただけで、速度が人の動体視力を上回っているだけだ
完全に見えない訳では無い
「くっ……!」
石田三成の刃を受け止めて持ちこたえる
「なぜだ、海夜!
なぜ豊臣を離れる!!」
「秀吉公のやろうとしてることが正解だと、私は思わないわ」
刃を跳ね返して距離を取る
「死神姫が善悪をほざくなぁぁあ!!」
さらに素早い初速
「見えてるのよ……!」
ガキン、と火花が散った
受け止めると分かっていたのか、石田三成の表情に変化はない
……否、それを考える余裕もないのかもしれない
「あんたは何も見えてない、三成!
少し考えればわかることよ!」
「黙れぇぇぇえ!!!」
石田三成の一撃の余波で身体が持ち上がる
空中で体勢を整え、海夜はしっかりと着地をした
「三成」
静かに名を呼ぶ
石田三成は顔色を変えない
「刑部は、私が倒した」
その一言で、石田三成の表情が一転した
「なっ──」
「あんたと刑部の魂胆はもう分かってるわ
万一秀吉公が討たれたとき、あんたは──
第六天魔王を冥府から呼び起こすつもりだったんでしょう」
知っていたのかもしれないし、知らなかったのかもしれない
刑部のことだ、三成には黙って秘密裏に工作をしていた可能性も有り得る
……けれど、と海夜は伏せた瞳を開いて、真っ直ぐに石田三成を見つめた
「そんなこと、させやしないわよ
お市の方を豊臣で保護していたのもそのせいね
悪いけど、お市の方はこっそり徳川方に引き渡したわ
万策尽きたわね、三成」
「何をわけの分からんことを……
ほざけ!
秀吉様が討たれるなど、万に一つもあり得ない!!」
「忘れたの?
相手は奥州の独眼竜よ」
「秀吉様は誰が相手であろうと敗北などしない
秀吉様こそがこの世のすべて!!」
「……あんた、哀しいわね」
それは、思わず漏れた海夜の本音だった
現状を受け入れることの出来ない、過去の栄華に魅せられたままの哀れな男
──この瞬間で、海夜の心は決まった
「ねえ、伊達のお姫様」
「え、あ、はい」
咄嗟に話を振られた姫──夕華が返事をする
その瞳に、嫌疑の色はなかった
「石田三成を……あなたはどうしたいわけ?」
「どうって……
……もちろん、討ちます」
確とした答えに海夜は人知れず安堵した
この心優しい姫も、倒すべき相手と救うべき相手の区別はつくようだ
ならば、と海夜は更に口を開いた
遠くからは剣戟の音、鬨の声が聞こえてくる
けれど、今この場には沈黙があった
「……少しでも安全なところに逃げた方がいいわ
ここは、お兄様にとっては危険すぎる」
ついでに言えば、石田三成との戦いにおいて邪魔でしかない
誰かを守りながら戦えるほど、海夜は起用ではないし、三成もその余裕はくれないだろう
槍を握りしめた海夜を、姫が呼び止めた
「あの
……どうして、こんなことを?」
訝しげな瞳が海夜を見上げる
成長したものだ──あの時、初めて相見えてから
以前の姫ならば、伊達成実の負傷に狼狽えていたはずだ
聞き返すだけの余裕を手に入れたのだ、と海夜は多少なりとも喜んだ──が
ここは戦場で、石田三成も長くは待てないだろう
二人を逃がすならば、今しかないのは確かだった
「詳しく話したいけど、今はそんな状況じゃないでしょ
早く本陣に帰って」
そう言って海夜は、立ち上がったまま己を見つめる黒衣の武将にも目を向けた
ただの冷静で冷徹な男かと思っていたが、まさか炎のバサラを持っていたとは……と考え
けれど、それはどうでもいい事だと頭の中から追いやる
かけるべき言葉はかけた
後は──
「海夜
貴様、裏切ったのか」
地を這うような声音がそう問う
問うと言うよりは、確認に近い
「裏切ったわけじゃないわ
そもそも私は、利害関係で行動を共にしてただけ
豊臣に忠誠を誓った覚えなんてない」
「だが!
貴様は豊臣に──秀吉様と共にいただろう!!」
その言葉に、海夜はそっと瞳を伏せた
石田三成は理解していたのか──いや、しなかったのかもしれない
海夜が傭兵である意味を
傭兵という言葉がさす役割を
「……そうね
あなたからすれば、私がしていることは立派な裏切りよね
でも、私は豊臣にいる理由もなくなったの
どの軍に与しようが私の勝手よ」
情けを捨てる気はない
槍を構え、石田を真っ直ぐに見据える
情けを捨てないからこそ、全力で
「許さない……!
私は貴様を許しはしないッ!!」
その言葉を残し、石田三成の姿が消える
実際には消えたように見えただけで、速度が人の動体視力を上回っているだけだ
完全に見えない訳では無い
「くっ……!」
石田三成の刃を受け止めて持ちこたえる
「なぜだ、海夜!
なぜ豊臣を離れる!!」
「秀吉公のやろうとしてることが正解だと、私は思わないわ」
刃を跳ね返して距離を取る
「死神姫が善悪をほざくなぁぁあ!!」
さらに素早い初速
「見えてるのよ……!」
ガキン、と火花が散った
受け止めると分かっていたのか、石田三成の表情に変化はない
……否、それを考える余裕もないのかもしれない
「あんたは何も見えてない、三成!
少し考えればわかることよ!」
「黙れぇぇぇえ!!!」
石田三成の一撃の余波で身体が持ち上がる
空中で体勢を整え、海夜はしっかりと着地をした
「三成」
静かに名を呼ぶ
石田三成は顔色を変えない
「刑部は、私が倒した」
その一言で、石田三成の表情が一転した
「なっ──」
「あんたと刑部の魂胆はもう分かってるわ
万一秀吉公が討たれたとき、あんたは──
第六天魔王を冥府から呼び起こすつもりだったんでしょう」
知っていたのかもしれないし、知らなかったのかもしれない
刑部のことだ、三成には黙って秘密裏に工作をしていた可能性も有り得る
……けれど、と海夜は伏せた瞳を開いて、真っ直ぐに石田三成を見つめた
「そんなこと、させやしないわよ
お市の方を豊臣で保護していたのもそのせいね
悪いけど、お市の方はこっそり徳川方に引き渡したわ
万策尽きたわね、三成」
「何をわけの分からんことを……
ほざけ!
秀吉様が討たれるなど、万に一つもあり得ない!!」
「忘れたの?
相手は奥州の独眼竜よ」
「秀吉様は誰が相手であろうと敗北などしない
秀吉様こそがこの世のすべて!!」
「……あんた、哀しいわね」
それは、思わず漏れた海夜の本音だった
現状を受け入れることの出来ない、過去の栄華に魅せられたままの哀れな男
──この瞬間で、海夜の心は決まった
「ねえ、伊達のお姫様」
「え、あ、はい」
咄嗟に話を振られた姫──夕華が返事をする
その瞳に、嫌疑の色はなかった
「石田三成を……あなたはどうしたいわけ?」
「どうって……
……もちろん、討ちます」
確とした答えに海夜は人知れず安堵した
この心優しい姫も、倒すべき相手と救うべき相手の区別はつくようだ
ならば、と海夜は更に口を開いた
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