第十三章
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二人だけの旅籠
先に口を開いたのは海夜だった
「それで、武田の忍びが私に何の用?」
「うちの旦那から極秘の書状を持ってきた」
「真田幸村から……?」
懐から取り出された書状を受け取り開く
そこには淡々と連合軍のことが書いてあった
「……あなたの主人は馬鹿なの?」
「そう言ってあげないでよ
真田の旦那も独眼竜も、すでにあんたが豊臣から離れたことを知ってる
お市の方の大坂城脱獄を手助けしたのがあんただってこともね」
「……それで、私にどうしろと」
「連合軍の一員になってほしい
遊撃部隊として」
「………」
「もちろん兵を率いてくれとは言わない
遊撃部隊があることを竹中に悟られる訳にはいかないし……
なにより、隠し事が下手な奴らばっかりだしね、うちは」
遊撃部隊はその存在を知られてはいけないからこそ遊撃部隊という
少数で動き、自軍の勝利のために戦場の形成を逆転させる――
そのひとつになれと言っているのだ
「……私が簡単に頷くと思ったの?
この書状をもって大坂に逃げたら、あなたたちは勝つどころか全滅よ?」
「いや、あんたは大坂には戻らない
戻れない、と言ったほうが正しいかな
だから町娘に扮装してこの旅籠に潜んでる
いざ連合と豊臣の戦いが始まったら、いつでも駆け付けられるようにね」
「………」
「狙いは何?
石田三成の首?」
「……知ってるの?」
「俺様は知ってる
あと越後の忍びもね
知らないのは伊達ぐらいじゃないかなぁ」
「そう……」
「てことは、あの噂は本当だったってわけだ」
「噂……」
「いやぁ夢物語にも程があると思ってたんだけどさぁ
第六天から織田信長を蘇らせるなんて……」
「……さぁ、でもそれもお市の方がいないと無理みたいよ」
「駿府城に豊臣の一軍が向かってる」
「……!」
「あっちには戦国最強がいるから、そう簡単には落ちないとは思う
けど、それで首尾よくお市の方を連れ出されたらあんたの目論見も水の泡だ」
「……追いかける暇はないわね
追いかける前に豊臣を討ったほうが早そうだわ」
「話が早くて助かるよ」
それじゃあ、と武田の忍びが去ろうとするのを海夜は呼び止めた
ただ一方的にこちらが要求を呑むのではつまらない
「私は傭兵よ
そっちの話に乗るんだから、私の条件も呑んでもらわないとね」
「……流石は天下の水城海夜
で、そっちの条件は?」
「二つ
一つは、大谷吉継と石田三成の相手は私がする」
「一人で武将を二人相手?
流石のあんただってそれは――」
「できるかできないかじゃないわ
やるかやらないかよ、そして私はやるの」
「……あんたやっぱり成ちゃんの双子だよ」
「その話はやめてちょうだい
私はもう伊達の名は捨てたの
それに関連するんだけど二つ目
私があなたたちに味方することを誰にも言わないで
特に伊達成実とあのお姫様には絶対に」
「え……なんで」
「変に同情を買いたくないのよ
最後の最後まで敵でいたいの
伊達の脅威だった……そう思われて死んだほうが私も気が楽なだけ」
「死ぬ気なの」
「ええ」
「……分かった」
「この書状、燃やしておくわ」
それには答えずに忍びはそっと姿を消した
旅籠で過ごす最後の夜
唇を引き結んだ海夜は、その晩、部屋で入念に槍を手入れした
*********************
「――死神姫は要求を呑んだか」
甲斐、武田領内の森の中
その杉の太い枝に、二人の忍びがいた
「きっちり俺様も条件を呑まされたけどね
けどこれで、大坂攻略もだいぶ楽になるはずだ」
「最後の最後まで伊達の敵として死ぬ、か……
孤高だな、奴は」
風に忍びの長い金の髪が揺れる
大胆に胸元が開いた装束は越後の忍びだった
「傭兵ってのはそんなもんかね」
「仮にこの戦を生き延びたとして、どこが取り立てるというんだ」
「それもそうだけど……
おたくに逃げ込んでる成ちゃんがどう思うかってさ」
「……私の知ったことではない」
「本当は心配してるくせにー」
「適当なことを言うな
……だが、夕華は心を痛めるだろうな」
「だろうね、あの子は優しいから」
二人の脳裏に、優しく微笑む伊達の一の姫が浮かぶ
長い間、二人に沈黙が降りた
「………」
「………」
「……あの風来坊はどうするのかね」
「前田の足止めを買って出るつもりのようだ」
「あの夫婦、一人で止められるとは思えないけど」
「信じるしかない、な」
「成ちゃんの再起もね……」
「謙信様は伊達成実を伊達に送り返すおつもりだ」
「ああやっぱり?」
「当たり前だ
あの男、未練しかないではないか」
「あはは、かすがってば相変わらず厳しいー」
「茶化しているのか?」
「まさか
変わってなくてホッとしてるんだよ
じゃ、俺様はそろそろ戻る
……成ちゃんのことよろしくね」
「言われなくとも」
先に姿を消したのは越後の忍び
そして武田の忍びがその場を去ると、森の中には再び静寂が訪れた
先に口を開いたのは海夜だった
「それで、武田の忍びが私に何の用?」
「うちの旦那から極秘の書状を持ってきた」
「真田幸村から……?」
懐から取り出された書状を受け取り開く
そこには淡々と連合軍のことが書いてあった
「……あなたの主人は馬鹿なの?」
「そう言ってあげないでよ
真田の旦那も独眼竜も、すでにあんたが豊臣から離れたことを知ってる
お市の方の大坂城脱獄を手助けしたのがあんただってこともね」
「……それで、私にどうしろと」
「連合軍の一員になってほしい
遊撃部隊として」
「………」
「もちろん兵を率いてくれとは言わない
遊撃部隊があることを竹中に悟られる訳にはいかないし……
なにより、隠し事が下手な奴らばっかりだしね、うちは」
遊撃部隊はその存在を知られてはいけないからこそ遊撃部隊という
少数で動き、自軍の勝利のために戦場の形成を逆転させる――
そのひとつになれと言っているのだ
「……私が簡単に頷くと思ったの?
この書状をもって大坂に逃げたら、あなたたちは勝つどころか全滅よ?」
「いや、あんたは大坂には戻らない
戻れない、と言ったほうが正しいかな
だから町娘に扮装してこの旅籠に潜んでる
いざ連合と豊臣の戦いが始まったら、いつでも駆け付けられるようにね」
「………」
「狙いは何?
石田三成の首?」
「……知ってるの?」
「俺様は知ってる
あと越後の忍びもね
知らないのは伊達ぐらいじゃないかなぁ」
「そう……」
「てことは、あの噂は本当だったってわけだ」
「噂……」
「いやぁ夢物語にも程があると思ってたんだけどさぁ
第六天から織田信長を蘇らせるなんて……」
「……さぁ、でもそれもお市の方がいないと無理みたいよ」
「駿府城に豊臣の一軍が向かってる」
「……!」
「あっちには戦国最強がいるから、そう簡単には落ちないとは思う
けど、それで首尾よくお市の方を連れ出されたらあんたの目論見も水の泡だ」
「……追いかける暇はないわね
追いかける前に豊臣を討ったほうが早そうだわ」
「話が早くて助かるよ」
それじゃあ、と武田の忍びが去ろうとするのを海夜は呼び止めた
ただ一方的にこちらが要求を呑むのではつまらない
「私は傭兵よ
そっちの話に乗るんだから、私の条件も呑んでもらわないとね」
「……流石は天下の水城海夜
で、そっちの条件は?」
「二つ
一つは、大谷吉継と石田三成の相手は私がする」
「一人で武将を二人相手?
流石のあんただってそれは――」
「できるかできないかじゃないわ
やるかやらないかよ、そして私はやるの」
「……あんたやっぱり成ちゃんの双子だよ」
「その話はやめてちょうだい
私はもう伊達の名は捨てたの
それに関連するんだけど二つ目
私があなたたちに味方することを誰にも言わないで
特に伊達成実とあのお姫様には絶対に」
「え……なんで」
「変に同情を買いたくないのよ
最後の最後まで敵でいたいの
伊達の脅威だった……そう思われて死んだほうが私も気が楽なだけ」
「死ぬ気なの」
「ええ」
「……分かった」
「この書状、燃やしておくわ」
それには答えずに忍びはそっと姿を消した
旅籠で過ごす最後の夜
唇を引き結んだ海夜は、その晩、部屋で入念に槍を手入れした
*********************
「――死神姫は要求を呑んだか」
甲斐、武田領内の森の中
その杉の太い枝に、二人の忍びがいた
「きっちり俺様も条件を呑まされたけどね
けどこれで、大坂攻略もだいぶ楽になるはずだ」
「最後の最後まで伊達の敵として死ぬ、か……
孤高だな、奴は」
風に忍びの長い金の髪が揺れる
大胆に胸元が開いた装束は越後の忍びだった
「傭兵ってのはそんなもんかね」
「仮にこの戦を生き延びたとして、どこが取り立てるというんだ」
「それもそうだけど……
おたくに逃げ込んでる成ちゃんがどう思うかってさ」
「……私の知ったことではない」
「本当は心配してるくせにー」
「適当なことを言うな
……だが、夕華は心を痛めるだろうな」
「だろうね、あの子は優しいから」
二人の脳裏に、優しく微笑む伊達の一の姫が浮かぶ
長い間、二人に沈黙が降りた
「………」
「………」
「……あの風来坊はどうするのかね」
「前田の足止めを買って出るつもりのようだ」
「あの夫婦、一人で止められるとは思えないけど」
「信じるしかない、な」
「成ちゃんの再起もね……」
「謙信様は伊達成実を伊達に送り返すおつもりだ」
「ああやっぱり?」
「当たり前だ
あの男、未練しかないではないか」
「あはは、かすがってば相変わらず厳しいー」
「茶化しているのか?」
「まさか
変わってなくてホッとしてるんだよ
じゃ、俺様はそろそろ戻る
……成ちゃんのことよろしくね」
「言われなくとも」
先に姿を消したのは越後の忍び
そして武田の忍びがその場を去ると、森の中には再び静寂が訪れた
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