第十二章
夢小説設定
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「……変わった、か
そうかもしれないわね」
言葉を失ったのは、時間にしてわずかに三秒程度であった
けれどもその一瞬にしては長い時間を押し黙ったことで、徳川家康は海夜の変化に確信を持った
「ああ、変わったとも
少なくとも、以前のお前ならば、己の身を危険にさらしてまで、お市の方を駿河まで逃がそうとは思わなかっただろう?」
「分かったような口をきいてくれるのね」
「違ったか?」
「……違わないわよ、自分でも驚いてるもの」
どこか拗ねたような口調になってしまったが、徳川はさほど気にしなかったようだ
快活な笑い声を広間に響かせると、小姓を呼び寄せた
「客間を二つ、用意してくれ」
「はっ」
「お市の方は桜の間、水城殿を菖蒲の間に」
「仰せのままに」
小姓がその場を辞すると、海夜の口からため息がこぼれた
「どうした?」
「あなた、これから私が何をするのか知ってるの?」
「大体の見当はついたがな
詳しく聞かせてはくれないか、儂にも協力できれば――」
「生憎だけど、誰の手も借りるつもりはないわ」
はっきりとした口調で申し出を断った海夜の表情は、決意をとうに固めたものだった
いっそ晴れやかとすら言えるほどの微笑みに、徳川家康もそれ以上は何も言わず
「では、お市の方は、責任をもって儂が預かろう」
「お願いね
良い話があったら、受けてあげて
……なんて、私が言うのもおかしい話だけれど」
「おかしくはないさ
お前が経験できなかった、女としての幸せは……少しくらい、お市の方に託してもいいんじゃないか?」
「……幸せ、ね
そんなものは、私には無いものだと思っていたのに」
目を伏せる海夜の表情に、徳川も何かを感じ取り
「そうだな」と呟くにとどめた
「これからどうする」
「伊達との戦が始まるまでは身を隠すわ
せっかく中立の立場を取った貴方を頼ったのに、私を匿っているのが知れてしまったら」
「それもそうだな……
伊達との前に、ここが潰されかねん
そうなれば、お市の方はもう守ってやれなくなる」
「そういうこと
しっかりと守って頂戴ね?
彼女が日の本を平和にするための鍵なんだから
豊臣の手に――それも、刑部の手に渡ったらおしまいよ」
「お市の方は、何を担っておられるのだ」
「盗み聞きした程度だから、全貌は掴めず仕舞いだったのだけど」
天海と刑部の二人から得た情報をかいつまんで話す
すると、徳川の表情が曇っていった
「それは……
にわかには信じがたいが」
「私もよ
でも、戯れに刑部がこんなことをするとも思えない」
「そうだな……
三成も関わっているかもしれないところが、多少は気がかりだが――」
「あの人、貴方のこと恨んでたわよ」
「やはりな」
苦笑いが徳川に浮かぶ
おそらく、中立を取った時から予想はできていたのだろう
在りし日は肩を並べて戦った者同士だっただけに
「裏切者には容赦がない性格だものね」
「……水城、お前まさか」
「さあ、どう転んでも私は豊臣を滅ぼすだけよ」
「刺し違えても……か?」
「運よく生き残っても、私は死を選ぶでしょう
それが私のさだめだもの」
「生きようとは思わないのか」
「……どこで生きろって言うのよ
豊臣の裏切り者の烙印を押された私に、生きる場所なんてないわ」
「奥州や上杉なら――」
「もってのほかよ……
上杉なんて、何のつてもない
奥州も駄目でしょうね、私の素性が明るみに出ないとも限らないし
そうなれば、奥州が――特に、大森が混乱に陥るわ
実元たちならともかく、おにいさ……伊達成実に迷惑はかけたくないのよ」
「お前、成実と知己の中だったのか」
「違うわよ
……ああもう、そうね、どうせここに来るのは最後でしょうし、全部教えてあげるわ」
もう一度ため息をついた海夜は、なんでもないことのように話し始めた
これはここだけの話である、そう前置きをして
「あのね、私は伊達成実の双子の妹なの」
「そうだったのか」
「あら意外、驚かないのね」
「いや、他人にしては共通項が多いとは思っていたんだ
長柄の槍に氷の技の使い手、構え方もそっくりだった
それに、その肌の白さは奥州の女のものだ」
「ほとんど見当はついてたってこと?」
「まあ、そうだな」
「もったいぶって損したわ、じゃああまり話すこともないかしらね」
「全部教えてくれるのではなかったのか?」
冗談めかした言い方に、海夜も口の端を持ち上げ、意味深に微笑んだ
「気が変わったわ
やっぱり、女は秘密の一つや二つは持っておかなきゃね」
「はは、これは手厳しい」
「……今晩だけは世話になるわ
だけれど、それでおしまい
あとは私一人でやる
今も豊臣の追っ手がここまで迫っていないとも限らないしね」
「ああ
死神姫には似合わんかもしれんが、せめてもの願掛けだ
菖蒲の間は、庭の景色が一番きれいな部屋でもある」
「……死に往く者への手向けとしては、最低ね」
西日が照らす広間で、海夜は穏やかに頭を下げた
そうかもしれないわね」
言葉を失ったのは、時間にしてわずかに三秒程度であった
けれどもその一瞬にしては長い時間を押し黙ったことで、徳川家康は海夜の変化に確信を持った
「ああ、変わったとも
少なくとも、以前のお前ならば、己の身を危険にさらしてまで、お市の方を駿河まで逃がそうとは思わなかっただろう?」
「分かったような口をきいてくれるのね」
「違ったか?」
「……違わないわよ、自分でも驚いてるもの」
どこか拗ねたような口調になってしまったが、徳川はさほど気にしなかったようだ
快活な笑い声を広間に響かせると、小姓を呼び寄せた
「客間を二つ、用意してくれ」
「はっ」
「お市の方は桜の間、水城殿を菖蒲の間に」
「仰せのままに」
小姓がその場を辞すると、海夜の口からため息がこぼれた
「どうした?」
「あなた、これから私が何をするのか知ってるの?」
「大体の見当はついたがな
詳しく聞かせてはくれないか、儂にも協力できれば――」
「生憎だけど、誰の手も借りるつもりはないわ」
はっきりとした口調で申し出を断った海夜の表情は、決意をとうに固めたものだった
いっそ晴れやかとすら言えるほどの微笑みに、徳川家康もそれ以上は何も言わず
「では、お市の方は、責任をもって儂が預かろう」
「お願いね
良い話があったら、受けてあげて
……なんて、私が言うのもおかしい話だけれど」
「おかしくはないさ
お前が経験できなかった、女としての幸せは……少しくらい、お市の方に託してもいいんじゃないか?」
「……幸せ、ね
そんなものは、私には無いものだと思っていたのに」
目を伏せる海夜の表情に、徳川も何かを感じ取り
「そうだな」と呟くにとどめた
「これからどうする」
「伊達との戦が始まるまでは身を隠すわ
せっかく中立の立場を取った貴方を頼ったのに、私を匿っているのが知れてしまったら」
「それもそうだな……
伊達との前に、ここが潰されかねん
そうなれば、お市の方はもう守ってやれなくなる」
「そういうこと
しっかりと守って頂戴ね?
彼女が日の本を平和にするための鍵なんだから
豊臣の手に――それも、刑部の手に渡ったらおしまいよ」
「お市の方は、何を担っておられるのだ」
「盗み聞きした程度だから、全貌は掴めず仕舞いだったのだけど」
天海と刑部の二人から得た情報をかいつまんで話す
すると、徳川の表情が曇っていった
「それは……
にわかには信じがたいが」
「私もよ
でも、戯れに刑部がこんなことをするとも思えない」
「そうだな……
三成も関わっているかもしれないところが、多少は気がかりだが――」
「あの人、貴方のこと恨んでたわよ」
「やはりな」
苦笑いが徳川に浮かぶ
おそらく、中立を取った時から予想はできていたのだろう
在りし日は肩を並べて戦った者同士だっただけに
「裏切者には容赦がない性格だものね」
「……水城、お前まさか」
「さあ、どう転んでも私は豊臣を滅ぼすだけよ」
「刺し違えても……か?」
「運よく生き残っても、私は死を選ぶでしょう
それが私のさだめだもの」
「生きようとは思わないのか」
「……どこで生きろって言うのよ
豊臣の裏切り者の烙印を押された私に、生きる場所なんてないわ」
「奥州や上杉なら――」
「もってのほかよ……
上杉なんて、何のつてもない
奥州も駄目でしょうね、私の素性が明るみに出ないとも限らないし
そうなれば、奥州が――特に、大森が混乱に陥るわ
実元たちならともかく、おにいさ……伊達成実に迷惑はかけたくないのよ」
「お前、成実と知己の中だったのか」
「違うわよ
……ああもう、そうね、どうせここに来るのは最後でしょうし、全部教えてあげるわ」
もう一度ため息をついた海夜は、なんでもないことのように話し始めた
これはここだけの話である、そう前置きをして
「あのね、私は伊達成実の双子の妹なの」
「そうだったのか」
「あら意外、驚かないのね」
「いや、他人にしては共通項が多いとは思っていたんだ
長柄の槍に氷の技の使い手、構え方もそっくりだった
それに、その肌の白さは奥州の女のものだ」
「ほとんど見当はついてたってこと?」
「まあ、そうだな」
「もったいぶって損したわ、じゃああまり話すこともないかしらね」
「全部教えてくれるのではなかったのか?」
冗談めかした言い方に、海夜も口の端を持ち上げ、意味深に微笑んだ
「気が変わったわ
やっぱり、女は秘密の一つや二つは持っておかなきゃね」
「はは、これは手厳しい」
「……今晩だけは世話になるわ
だけれど、それでおしまい
あとは私一人でやる
今も豊臣の追っ手がここまで迫っていないとも限らないしね」
「ああ
死神姫には似合わんかもしれんが、せめてもの願掛けだ
菖蒲の間は、庭の景色が一番きれいな部屋でもある」
「……死に往く者への手向けとしては、最低ね」
西日が照らす広間で、海夜は穏やかに頭を下げた
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