第十一章
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「――とはいえ」
竹中半兵衛が口を開く
「当分、君の仕事はない
来たる伊達軍との戦いに向けて、存分に鋭気を養っておいてくれたまえ
……分かっているとは思うけれど、君を手放す気は更々無いよ
それに、君自身も分かっているはずだ
君の生きる場所は平穏な日々などではなく――
血と埃にまみれた、この戦場だとね」
話は以上だ、と竹中は海夜に退室を命じた
固く手を握った海夜はそのまま私室を退室し
愕然とした思いのまま、その場に立ち尽くした
――どこをどう通ったのか覚えていない
気がつけば自分の部屋の前に立っていた
「……海夜?」
背後から声をかけられ、我に返る
そこにいたのは石田三成だった
「三成……」
「半兵衛様はなんと言っておられた?」
「……いえ、特に何も
伊達との戦いに備えておけとおっしゃっただけよ」
「では、まだここに残るのだな」
「――」
とっさに答えることができなかった
確かに、海夜と豊臣の関係は利害の一致
そして海夜が復讐の目的を果たした今、その契約は切れたことになる
「他にやりたいこともないけれど……」
ただ、少し考えていたことがあった
――どこか、人里離れたところで、静かにくらそうか、と
そう考えたところで、ふと、あの男の存在が気になった
「刑部は?」
「奴なら昼から姿を見ていない」
「……え?」
「刑部に用でもあったのか」
「いえ、特にそういうわけではないけれど……
いないと、それはそれで気味が悪いわね
何か企んでるみたいで」
「まさか、奴に限ってそのような事は」
「……そう、よね」
部屋に入るのを諦め、海夜は歩き始めた
「どこへ行く」
「厠」
「……そうか」
どこか安堵したような声音に、海夜の眉が寄った
「貴方も何か企んでるんじゃないでしょうね?」
「何を企むというのだ」
「……そうよね」
その場に三成をおいて、海夜は廊下の角を曲がった
そのまま向かったのは地下牢だった
珍しく見張りの兵がいない
これは好機と踏んで、海夜は中へと滑り込んだ
足音を立てないように忍び足で歩き、周囲の気配を探る
そして最奥へと近づいた時
「……!」
濃い闇を感じた
同時に、何かを口ずさむ女の声
全身を締め付けるほどの濃度に、息が詰まりそうになる
聞こえてくる歌声は「根の国」と口ずさんだ
(間違いない……)
ここにいるのは、第五天魔王の名を冠する、魔王の妹・お市の方だ
――と、そのとき
人の気配を察知した海夜は、そっとその場を後にした
「首尾はどうなっておる」
「全て上手くいっていますよ
このまま邪魔がなければ、伊達との戦でお披露目出来るでしょう」
しわがれたこえと、ねっとりした声
どちらも聞き覚えがあった
――刑部と、明智光秀だ
「しかし主もおかしなことを言う」
「ククク……
それに賛同したあなたも、随分と面白いことを言う人間ですよ」
「我は三成の為を思うただけのこと
あれは太閤がおらねば寂しそうゆえな」
「あなたも私も、望みは同じ
金吾さんもこれでようやく落ち着けるでしょう
伊達につくべきか豊臣につくべきか、あの方はまだ答えを出せないでいらっしゃいますから」
「太閤が勝った時はどうする」
「そのときは、世界のためにこの力を利用しましょう」
気色の悪い声を上げながら、刑部は笑ってどこかへと去っていった
その場に残された明智光秀――天海が肩を揺らす
「本当は太閤などどうでもいいのですがね……
お市の方、あなたの力さえあれば、この世は再びの闇と恐怖に包まれる……
この世界を統べるに相応しいのは信長公、あなたですよ
そしてその時こそ、私の手で……」
気色の悪い声が地下牢に響く
肩を揺らして笑う姿を視界に捉えながら、海夜はそっとその場を立ち去った
地下牢から地上に出ると、陽の明るさに思わず目を細めた
「………」
今の話が、本当であるならば
お市の方を利用して、織田信長を――?
「……まさかね」
現実になどありえない
死人が生き返るのは、物語の中で充分だ
……しかし、それで済ませられないことも確かだった
ざわざわと風が吹く
――豊臣が支配すれば、日ノ本は新たなる戦へと身を投じることとなる
どの国も――伊達も、武田も、軍は違えど目指していたのは戦の終焉だ
それが、達成されなくなるならば……
どうでもいいと思っていたが、笑い事ではなくなりそうだ
それに、織田信長が甦りでもしたならば、それこそ日ノ本はお終いだろう
……ならば、自分は何をすべきか
この豊臣という場所に虚無を感じた自分は何とする
脳裏に浮かんだのは、あの男だった
東照権現・徳川家康――
「……私らしい最期になりそうね」
石田三成ならば、一瞬で殺してくれるだろう
裏切り者には容赦のない男だ
今しがた決めた行動は、明らかな反逆だった
が、後には退けないとも覚悟していた
「なるべく、早いほうがいいわね」
地下牢の入口を見つめ、それから大坂城の内部の構造を思い出す
仮に一戦交えることになっても、豊臣秀吉以外になら遅れを取らない自信はあった
力ずくで連れ出してもいいのだが、それでは意味がない
あの魔の手に襲われたなら、さすがの海夜も窮地に陥るだろう
とすれば、説得する時間も必要ということだ
さあどうする、となった時
背後に感じたのは、忍びの気配だった
竹中半兵衛が口を開く
「当分、君の仕事はない
来たる伊達軍との戦いに向けて、存分に鋭気を養っておいてくれたまえ
……分かっているとは思うけれど、君を手放す気は更々無いよ
それに、君自身も分かっているはずだ
君の生きる場所は平穏な日々などではなく――
血と埃にまみれた、この戦場だとね」
話は以上だ、と竹中は海夜に退室を命じた
固く手を握った海夜はそのまま私室を退室し
愕然とした思いのまま、その場に立ち尽くした
――どこをどう通ったのか覚えていない
気がつけば自分の部屋の前に立っていた
「……海夜?」
背後から声をかけられ、我に返る
そこにいたのは石田三成だった
「三成……」
「半兵衛様はなんと言っておられた?」
「……いえ、特に何も
伊達との戦いに備えておけとおっしゃっただけよ」
「では、まだここに残るのだな」
「――」
とっさに答えることができなかった
確かに、海夜と豊臣の関係は利害の一致
そして海夜が復讐の目的を果たした今、その契約は切れたことになる
「他にやりたいこともないけれど……」
ただ、少し考えていたことがあった
――どこか、人里離れたところで、静かにくらそうか、と
そう考えたところで、ふと、あの男の存在が気になった
「刑部は?」
「奴なら昼から姿を見ていない」
「……え?」
「刑部に用でもあったのか」
「いえ、特にそういうわけではないけれど……
いないと、それはそれで気味が悪いわね
何か企んでるみたいで」
「まさか、奴に限ってそのような事は」
「……そう、よね」
部屋に入るのを諦め、海夜は歩き始めた
「どこへ行く」
「厠」
「……そうか」
どこか安堵したような声音に、海夜の眉が寄った
「貴方も何か企んでるんじゃないでしょうね?」
「何を企むというのだ」
「……そうよね」
その場に三成をおいて、海夜は廊下の角を曲がった
そのまま向かったのは地下牢だった
珍しく見張りの兵がいない
これは好機と踏んで、海夜は中へと滑り込んだ
足音を立てないように忍び足で歩き、周囲の気配を探る
そして最奥へと近づいた時
「……!」
濃い闇を感じた
同時に、何かを口ずさむ女の声
全身を締め付けるほどの濃度に、息が詰まりそうになる
聞こえてくる歌声は「根の国」と口ずさんだ
(間違いない……)
ここにいるのは、第五天魔王の名を冠する、魔王の妹・お市の方だ
――と、そのとき
人の気配を察知した海夜は、そっとその場を後にした
「首尾はどうなっておる」
「全て上手くいっていますよ
このまま邪魔がなければ、伊達との戦でお披露目出来るでしょう」
しわがれたこえと、ねっとりした声
どちらも聞き覚えがあった
――刑部と、明智光秀だ
「しかし主もおかしなことを言う」
「ククク……
それに賛同したあなたも、随分と面白いことを言う人間ですよ」
「我は三成の為を思うただけのこと
あれは太閤がおらねば寂しそうゆえな」
「あなたも私も、望みは同じ
金吾さんもこれでようやく落ち着けるでしょう
伊達につくべきか豊臣につくべきか、あの方はまだ答えを出せないでいらっしゃいますから」
「太閤が勝った時はどうする」
「そのときは、世界のためにこの力を利用しましょう」
気色の悪い声を上げながら、刑部は笑ってどこかへと去っていった
その場に残された明智光秀――天海が肩を揺らす
「本当は太閤などどうでもいいのですがね……
お市の方、あなたの力さえあれば、この世は再びの闇と恐怖に包まれる……
この世界を統べるに相応しいのは信長公、あなたですよ
そしてその時こそ、私の手で……」
気色の悪い声が地下牢に響く
肩を揺らして笑う姿を視界に捉えながら、海夜はそっとその場を立ち去った
地下牢から地上に出ると、陽の明るさに思わず目を細めた
「………」
今の話が、本当であるならば
お市の方を利用して、織田信長を――?
「……まさかね」
現実になどありえない
死人が生き返るのは、物語の中で充分だ
……しかし、それで済ませられないことも確かだった
ざわざわと風が吹く
――豊臣が支配すれば、日ノ本は新たなる戦へと身を投じることとなる
どの国も――伊達も、武田も、軍は違えど目指していたのは戦の終焉だ
それが、達成されなくなるならば……
どうでもいいと思っていたが、笑い事ではなくなりそうだ
それに、織田信長が甦りでもしたならば、それこそ日ノ本はお終いだろう
……ならば、自分は何をすべきか
この豊臣という場所に虚無を感じた自分は何とする
脳裏に浮かんだのは、あの男だった
東照権現・徳川家康――
「……私らしい最期になりそうね」
石田三成ならば、一瞬で殺してくれるだろう
裏切り者には容赦のない男だ
今しがた決めた行動は、明らかな反逆だった
が、後には退けないとも覚悟していた
「なるべく、早いほうがいいわね」
地下牢の入口を見つめ、それから大坂城の内部の構造を思い出す
仮に一戦交えることになっても、豊臣秀吉以外になら遅れを取らない自信はあった
力ずくで連れ出してもいいのだが、それでは意味がない
あの魔の手に襲われたなら、さすがの海夜も窮地に陥るだろう
とすれば、説得する時間も必要ということだ
さあどうする、となった時
背後に感じたのは、忍びの気配だった
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