第十章
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的確に急所を突いた槍
その躊躇のなさに、伊達実元はつかの間、声が出なかった
叫ぶ間もなく、己の伴侶たる女が床に倒れこむ
身体から槍を引き抜いた水城海夜は、穂先についた血を振り払った
「お、おのれ……
よくも我が妻を……」
「言ったはずよ
情状酌量の余地はないと」
次はお前の番だというように、海夜は嘲笑を浮かべて槍を構えた
その構えに――実元は目を疑った
「その構えを……どこで」
「さあ、どこででしょうね」
右脇に槍の長柄を挟み、左手、そして右手の順で柄を握る
右上段から左下段への斜めの構え
これは伊達実元の特有の構え方であり、つまりは伊達成実と同じ構えであるということ
そして先ほど放たれた氷片
氷の技の使い手であることは間違いがない
そしてそれは、実元も、成実もそうだった
「やはりお前であったか……
今生では、水城海夜と名乗っておると聞く
それもそのはずか、そうさせたのは我々だ」
伊達の姓を名乗らせなかったのも
庇護下に置かなかったのも
すべて自分の決めたことだった
「双子を忌み嫌う慣習……
そんな無意味なもののせいで、私は本来なら味わうはずのない苦労を味わった
私を捨てて、大森伊達家は救われた?
そうだと思ってるのなら、それは大きな勘違いね」
海夜の足元から、冷気をまとった風が巻き起こる
それは肌を刺すほどに凍てつく風
「もう一つ勘違いを挙げるとするなら――」
一歩、海夜が踏み出す
その次の瞬間には、彼女は実元の目の前にいた
「私に親への情などない」
――死ね
母親であった女と同じ言葉を手向けに
海夜は、奇しくも双子の兄とまったく同じ型で
父親であったという伊達実元を仕留めた
だらりと垂れ下がる両の腕
「さぁて……」
男の死体を足元に転がし、海夜は離れの入口を見た
「……お願い……します……
成実……だけは」
「……まだ息があったか、しぶとい婆だ」
手を下すまでもない
女の身体も足で転がした
「――歯ごたえが無さすぎるわね」
布で血を拭き取り、耳を澄ませる
こちらへ向かってくる足音
随分と来るのが早いことだ
――だが、遅い
「親父、お袋!」
飛び込んできた声と姿に、海夜は口角を歪めた
「遅かったわね、お兄様?」
実元夫妻の返り血を浴びたままの海夜を見て、成実が声を震わせた
「テメエ、何して……」
声はそこで途切れた
成実の足元……入り口には、母親であった女の死体を転がしたままだ
その死体に、成実の足が当たった
ハッとした表情の成実が、海夜の足元を見つめる
伊達実元も、すでに事切れている
それを悟った瞬間、成実の纏う気配が一気に変わった
(……何?)
威圧感でもなければ、怒りの感情も読み取れない
言うなれば
――まるで、己の意思と体を切り離したような
得体の知れない、異質の気配
(これが、伊達の修羅の本当の力)
完全な力の開放には至っていないというのは、海夜も感じていた
それでも、今の成実の纏うこの気配は、『異質』だった
「許さねえ
妹だろうが何だろうが関係ねえ――殺してやる」
その宣言が合図だった
少なくとも、海夜はそう感じている
踏み出した一歩は、今までのそれよりもはるかに素早く、そして大きな一歩
わずかな瞬きの間に、すんでのところで懐に入り込まれることだけは回避した
そのまま、互いに長い得物をぶつけ合う
「くっ……
頭で考えてるわけじゃないくせに、隙が見当たらないなんて……!」
衝動に突き動かされたように、無茶苦茶な攻撃をしてくる成実
しかし、その割には、海夜に一切の反撃の隙を与えない
ひとつ弾いて距離を取る
まさに、その瞬間だった
背筋を冷たい汗が流れた
今、完全に力を開放している
力の大きさが計り知れない
底知れない力は、けれど成実の意思とは無関係
「理性を沈めたってことなの……?」
あれだけ挑発しておいたため、本気の成実とやり合えるのは、待ち望んだことのはずだった
――けれど、これは一体どういうことか
成実の右足が動く
来る、と思ったとき、すでに成実は目の前に迫っていた
「……!?」
すんでのところで槍の穂先をかわす
来ると分かっていた
読みもあっていた、避けられるはずだった
……そのはずだった
「どういう、こと……?」
来ると分かっているのに、動けない
まるでそこに縫い付けられているように
そんなことは『有り得ない』はずだ
けれど現に今、彼女は彼の攻撃を避けられなかった
その躊躇のなさに、伊達実元はつかの間、声が出なかった
叫ぶ間もなく、己の伴侶たる女が床に倒れこむ
身体から槍を引き抜いた水城海夜は、穂先についた血を振り払った
「お、おのれ……
よくも我が妻を……」
「言ったはずよ
情状酌量の余地はないと」
次はお前の番だというように、海夜は嘲笑を浮かべて槍を構えた
その構えに――実元は目を疑った
「その構えを……どこで」
「さあ、どこででしょうね」
右脇に槍の長柄を挟み、左手、そして右手の順で柄を握る
右上段から左下段への斜めの構え
これは伊達実元の特有の構え方であり、つまりは伊達成実と同じ構えであるということ
そして先ほど放たれた氷片
氷の技の使い手であることは間違いがない
そしてそれは、実元も、成実もそうだった
「やはりお前であったか……
今生では、水城海夜と名乗っておると聞く
それもそのはずか、そうさせたのは我々だ」
伊達の姓を名乗らせなかったのも
庇護下に置かなかったのも
すべて自分の決めたことだった
「双子を忌み嫌う慣習……
そんな無意味なもののせいで、私は本来なら味わうはずのない苦労を味わった
私を捨てて、大森伊達家は救われた?
そうだと思ってるのなら、それは大きな勘違いね」
海夜の足元から、冷気をまとった風が巻き起こる
それは肌を刺すほどに凍てつく風
「もう一つ勘違いを挙げるとするなら――」
一歩、海夜が踏み出す
その次の瞬間には、彼女は実元の目の前にいた
「私に親への情などない」
――死ね
母親であった女と同じ言葉を手向けに
海夜は、奇しくも双子の兄とまったく同じ型で
父親であったという伊達実元を仕留めた
だらりと垂れ下がる両の腕
「さぁて……」
男の死体を足元に転がし、海夜は離れの入口を見た
「……お願い……します……
成実……だけは」
「……まだ息があったか、しぶとい婆だ」
手を下すまでもない
女の身体も足で転がした
「――歯ごたえが無さすぎるわね」
布で血を拭き取り、耳を澄ませる
こちらへ向かってくる足音
随分と来るのが早いことだ
――だが、遅い
「親父、お袋!」
飛び込んできた声と姿に、海夜は口角を歪めた
「遅かったわね、お兄様?」
実元夫妻の返り血を浴びたままの海夜を見て、成実が声を震わせた
「テメエ、何して……」
声はそこで途切れた
成実の足元……入り口には、母親であった女の死体を転がしたままだ
その死体に、成実の足が当たった
ハッとした表情の成実が、海夜の足元を見つめる
伊達実元も、すでに事切れている
それを悟った瞬間、成実の纏う気配が一気に変わった
(……何?)
威圧感でもなければ、怒りの感情も読み取れない
言うなれば
――まるで、己の意思と体を切り離したような
得体の知れない、異質の気配
(これが、伊達の修羅の本当の力)
完全な力の開放には至っていないというのは、海夜も感じていた
それでも、今の成実の纏うこの気配は、『異質』だった
「許さねえ
妹だろうが何だろうが関係ねえ――殺してやる」
その宣言が合図だった
少なくとも、海夜はそう感じている
踏み出した一歩は、今までのそれよりもはるかに素早く、そして大きな一歩
わずかな瞬きの間に、すんでのところで懐に入り込まれることだけは回避した
そのまま、互いに長い得物をぶつけ合う
「くっ……
頭で考えてるわけじゃないくせに、隙が見当たらないなんて……!」
衝動に突き動かされたように、無茶苦茶な攻撃をしてくる成実
しかし、その割には、海夜に一切の反撃の隙を与えない
ひとつ弾いて距離を取る
まさに、その瞬間だった
背筋を冷たい汗が流れた
今、完全に力を開放している
力の大きさが計り知れない
底知れない力は、けれど成実の意思とは無関係
「理性を沈めたってことなの……?」
あれだけ挑発しておいたため、本気の成実とやり合えるのは、待ち望んだことのはずだった
――けれど、これは一体どういうことか
成実の右足が動く
来る、と思ったとき、すでに成実は目の前に迫っていた
「……!?」
すんでのところで槍の穂先をかわす
来ると分かっていた
読みもあっていた、避けられるはずだった
……そのはずだった
「どういう、こと……?」
来ると分かっているのに、動けない
まるでそこに縫い付けられているように
そんなことは『有り得ない』はずだ
けれど現に今、彼女は彼の攻撃を避けられなかった
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