第一章
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荷車を引く音
馬の蹄
男たちの話し声
それら全てが、街道に消えていく
「――それより、聞いたか?
例の話」
「ああ、知ってる
この辺りに出るようになったとかいう、山賊の話だろ?
おっかないもんだよ、まったく」
「だがなぁ、城下への近道はこれが一番だからな」
「そうなんだよ
やれやれ、山賊なんぞに会わなきゃいいがね」
馬に荷車を引かせる男と、荷台に座る男は、呑気な声音で笑い合った
なにせ今回は護衛として雇った浪人もいる
風体は貧相だが、腕は立つと評判の男だ
その男は面倒そうに欠伸をして、やれやれと首を振った
「その山賊ってのは、私達のことかしら?」
誰もが気を緩めていたその瞬間、鈴を転がすような幼い声が街道に響き渡る
同時に、あちらこちらの草むらから、がさがさと音がした
「だっ、誰だ!」
「あんたたち、かかりなさい!」
一斉に草むらから飛び出すのは、手に得物を携えた山賊たち
そのどれもが、元服前の子供ばかりだった
「おのれ、曲者――」
「遅いぜオッサン!」
「ぐあぁぁっ!!!」
腕が立つと評判だった男が、齢十ばかりの子供の手によって、一瞬で肉塊に成り果てる
「平太、逃げろ!」
「元助!
ぎゃぁぁあ!!!」
商人たちが次々と物言わぬ骸へと化す
道祖神は血を浴び、赤く染まった
襲撃はわずかな時間で終わりを告げ、子供達は嬉々とした表情で荷車へと寄って集った
「姉貴、こいつら米商人だぜ」
「金目のものは?」
「おっ!
銭がわんさか出てきやがった!」
「ねぇ姉貴!
この浪人、お金持ってた!」
「手分けしてこの荷物、隠れ家へ運ぶわよ
それから、この死体たちは川へ投げ捨てなさい」
「「おう!」」
更に身をひそめていた盗賊の仲間がわっと現れる
その様子を、姉貴と呼ばれた少女は黙って見ていた
彼女こそ、この山賊集団を仕切る頭
それぞれが手に持っているのは、すべて商人たちを襲って手に入れたものだった
こうして人を襲って生計を立てるようになってから、どれ程の月日が経っただろう
「姉貴ー!
大変だぜ!」
走ってくる足音に全員がそちらを振り向く
三人の少年達がこちらへ走ってきているのが見えた
それらは、情報収集要員として、城下町へとやっていた者たちだ
「どうかしたんか?」
「とうとう殿様が、山賊討伐に乗り出したんだ!」
「なんだと!?」
「討伐隊を組んでここに来るってよ!」
「姉貴、どうするんだ?」
山賊の中でも比較的年長の少年が少女へと問う
少女はしばらく悩み、ゆっくりと口を開いた
「……討伐はいつから始まるの?」
「早ければ十日後だ」
「そう、それなら……逃げ切れそうね
隠れ家に置いてあるもの、全て取ってきて
この荷車に詰め込んで、逃げるわよ」
「がってん!」
「南の方の隠れ家に行きましょう
あっちはまだ見つかっていないはずよ」
そして数刻後
この街道に縄張りを張っていた山賊は、その日のうちに姿を消した
十日後、山賊討伐軍が見たのは、かの日の襲撃で赤く染まったままの、道祖神だけだった
*********************
「ご報告申し上げます!」
奥州伊達領・信夫郡――
大森城の大広間に、山賊討伐軍の隊長の声が響いた
「先日から行いました調査によりますと、山賊どもはすでに逃亡したようです
件の場所には兵を置き、商人たちの道中護衛に努めております
現在に至るまで、被害は無しとのことでございます」
相対するは大森伊達家当主・伊達実元
城主の唸る声が僅かに響く
「あい分かった
山賊討伐隊は兵を引き上げよ
商人たちが襲われる心配は無かろう」
「はっ!」
隊長が大広間を出て行く
ため息をついた城主が顔を上げると、柱の陰からそっとこちらを伺い見る、幼い我が子が見えた
「父上、お疲れですか?」
「時宗丸か
そんなところにいないで、こちらに来なさい」
「はいっ!」
ぱっ、と笑顔になった我が子が走り寄る
「お前が立派になるまでに、少しは平和になるといいんだが」
父の呟きに、息子は小首を傾げただけだった
明日にはここを離れ、米沢へ参上することになっている
山賊共を仕留め切れなかったことは心残りだが、被害が止まったことは不幸中の幸いと言えよう
「時宗丸よ、儂は明日は予定通り、米沢へと参る
留守の間、羽目を外しすぎるでないぞ」
「承知しております!
父上がおらぬ間、大森は時宗丸が守ります!」
「ハハ、こやつめ
元服も済ませておらぬくせに、抜かしよるわ」
息子の愛らしい笑顔に頬を緩ませ、広間から下がらせる
小さな背が視界から消えた直後、伊達実元の眉間には深い皺が一つ刻まれた
馬の蹄
男たちの話し声
それら全てが、街道に消えていく
「――それより、聞いたか?
例の話」
「ああ、知ってる
この辺りに出るようになったとかいう、山賊の話だろ?
おっかないもんだよ、まったく」
「だがなぁ、城下への近道はこれが一番だからな」
「そうなんだよ
やれやれ、山賊なんぞに会わなきゃいいがね」
馬に荷車を引かせる男と、荷台に座る男は、呑気な声音で笑い合った
なにせ今回は護衛として雇った浪人もいる
風体は貧相だが、腕は立つと評判の男だ
その男は面倒そうに欠伸をして、やれやれと首を振った
「その山賊ってのは、私達のことかしら?」
誰もが気を緩めていたその瞬間、鈴を転がすような幼い声が街道に響き渡る
同時に、あちらこちらの草むらから、がさがさと音がした
「だっ、誰だ!」
「あんたたち、かかりなさい!」
一斉に草むらから飛び出すのは、手に得物を携えた山賊たち
そのどれもが、元服前の子供ばかりだった
「おのれ、曲者――」
「遅いぜオッサン!」
「ぐあぁぁっ!!!」
腕が立つと評判だった男が、齢十ばかりの子供の手によって、一瞬で肉塊に成り果てる
「平太、逃げろ!」
「元助!
ぎゃぁぁあ!!!」
商人たちが次々と物言わぬ骸へと化す
道祖神は血を浴び、赤く染まった
襲撃はわずかな時間で終わりを告げ、子供達は嬉々とした表情で荷車へと寄って集った
「姉貴、こいつら米商人だぜ」
「金目のものは?」
「おっ!
銭がわんさか出てきやがった!」
「ねぇ姉貴!
この浪人、お金持ってた!」
「手分けしてこの荷物、隠れ家へ運ぶわよ
それから、この死体たちは川へ投げ捨てなさい」
「「おう!」」
更に身をひそめていた盗賊の仲間がわっと現れる
その様子を、姉貴と呼ばれた少女は黙って見ていた
彼女こそ、この山賊集団を仕切る頭
それぞれが手に持っているのは、すべて商人たちを襲って手に入れたものだった
こうして人を襲って生計を立てるようになってから、どれ程の月日が経っただろう
「姉貴ー!
大変だぜ!」
走ってくる足音に全員がそちらを振り向く
三人の少年達がこちらへ走ってきているのが見えた
それらは、情報収集要員として、城下町へとやっていた者たちだ
「どうかしたんか?」
「とうとう殿様が、山賊討伐に乗り出したんだ!」
「なんだと!?」
「討伐隊を組んでここに来るってよ!」
「姉貴、どうするんだ?」
山賊の中でも比較的年長の少年が少女へと問う
少女はしばらく悩み、ゆっくりと口を開いた
「……討伐はいつから始まるの?」
「早ければ十日後だ」
「そう、それなら……逃げ切れそうね
隠れ家に置いてあるもの、全て取ってきて
この荷車に詰め込んで、逃げるわよ」
「がってん!」
「南の方の隠れ家に行きましょう
あっちはまだ見つかっていないはずよ」
そして数刻後
この街道に縄張りを張っていた山賊は、その日のうちに姿を消した
十日後、山賊討伐軍が見たのは、かの日の襲撃で赤く染まったままの、道祖神だけだった
*********************
「ご報告申し上げます!」
奥州伊達領・信夫郡――
大森城の大広間に、山賊討伐軍の隊長の声が響いた
「先日から行いました調査によりますと、山賊どもはすでに逃亡したようです
件の場所には兵を置き、商人たちの道中護衛に努めております
現在に至るまで、被害は無しとのことでございます」
相対するは大森伊達家当主・伊達実元
城主の唸る声が僅かに響く
「あい分かった
山賊討伐隊は兵を引き上げよ
商人たちが襲われる心配は無かろう」
「はっ!」
隊長が大広間を出て行く
ため息をついた城主が顔を上げると、柱の陰からそっとこちらを伺い見る、幼い我が子が見えた
「父上、お疲れですか?」
「時宗丸か
そんなところにいないで、こちらに来なさい」
「はいっ!」
ぱっ、と笑顔になった我が子が走り寄る
「お前が立派になるまでに、少しは平和になるといいんだが」
父の呟きに、息子は小首を傾げただけだった
明日にはここを離れ、米沢へ参上することになっている
山賊共を仕留め切れなかったことは心残りだが、被害が止まったことは不幸中の幸いと言えよう
「時宗丸よ、儂は明日は予定通り、米沢へと参る
留守の間、羽目を外しすぎるでないぞ」
「承知しております!
父上がおらぬ間、大森は時宗丸が守ります!」
「ハハ、こやつめ
元服も済ませておらぬくせに、抜かしよるわ」
息子の愛らしい笑顔に頬を緩ませ、広間から下がらせる
小さな背が視界から消えた直後、伊達実元の眉間には深い皺が一つ刻まれた
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