Episode.05
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駿河国から奥州に帰ってきて数日が経った
憎たらしいほどに天気は快晴で、屋敷の前に広がる田畑の作業も捗っているようだ
けれど晴れ渡る奥州の空模様とは裏腹に、奥州の主たる伊達家の屋敷には、重苦しい空気が漂っていた
その伊達屋敷の門前では、良直と左馬助が座り込んで小会議の最中だった
「交替の時間だぜ」
「バカ、おっせぇよ」
走ってきた文七郎と孫兵衛に良直がそう悪態をつく
屋敷の門番の交替時刻はとうに過ぎており、良直と左馬助は二人を待っていたのだ
やれやれといった様子の二人へ、文七郎がため息混じりに言った
「筆頭の様子、覗いてきたんだよ」
その言葉にすかさず二人が食いつく
「「どうだった!?」」
文七郎は無言で首を振った
代わりに答えたのは孫兵衛だ
「相変わらず」
それを象徴するかの如く、遠くからは止むことなく射撃音が聞こえている
いつもと変わりないはずのその音が、持ち主の心情を表すかのように重い
そしてそれは、彼らの主君たる人物とて例外ではなかった
「ここんとこ明けても暮れても、剣を振り回すか、物思いに耽るか……」
「長いこと軍議も開いてねえよなぁ……」
「片倉様も畑にかかりっきりだしな……」
「若葉の姐御もあの調子だしなぁ……」
晴れ渡る奥州の空に、二丁銃の音が響き続ける
その音からは確かな焦りも感じ取れた
「さんざん走り回った挙句、小田原を武田に、駿河を織田に献上しちまって」
「まさか、筆頭も片倉様も姐御も、やる気なくしちまったんじゃ……!」
そんなまさか、と誰かが反論しようとしたその時
晴れ渡っていたはずの空が曇りだした
「……?」
ふと四人が上空を見上げれば、頭上にはいつの間にやら鈍色の空が広がっている
そうしてとうとう、空からは雨が降りだした
*********************
……臆した
美稜の仇に
彦一郎様の仇に……
「……っ!
くそ、外したか……」
立ち向かわなければならない相手、必ずこの手で葬らなければならない存在
そんな男に、私は銃口を向けることさえ――否、銃を構えることさえ出来なかった
(魔王の存在は日ノ本にとって危険すぎる
いずれは討ち果たさなければならない――けれど)
あれほどの力を持つ織田信長を相手に、立ち向かえるの、私は……?
二丁銃を構えていた両腕が下がる
気が付けば雨が降りだしていた
「……雨、いつの間に……」
ふわりと雨の中を、一陣の風が吹いた
曇天と降りしきる雨の中を吹き抜けるには、似つかわしくないほど穏やかな風だった
ふと、政宗様が気になった
戻ってきてからというもの軍議が開かれず、政宗様とは滅多に顔を合わせなくなってしまった
彼は今、神社の境内で刀を振っているはず
そう考えて屋敷近くの神社の境内に足を運んでみると……近づくにつれ、刀が空を斬る音が聞き取れるようになっていった
「……政宗様」
政宗様はただひたすら、一人で刀を振っていた
とてもではないが、言葉をかけられる雰囲気ではない
そのまま邪魔にならないところで見ていようかと考えた、私の背後から、別の声が聞こえた
「政宗様」
現れたのは片倉様だ
鋭い薙ぎが水滴をも斬る
ゆっくりと振り返った政宗さんの表情は、どこか険しさと余裕のなさが窺えた
その切羽詰まった色を見せる隻眼が、鋭く右を睨みつける
神社の入り口に――人がいた
「――」
これは夢?
もしくは幻覚の類いだろうか
風の向くまま、気の向くままに旅をする風来坊
もちろん美稜にも来たことがある
有り体に言えば――顔見知り、だった
「奥州名物・独眼竜ってのは、あんたかい?」
剣呑とした気配にひるむこともなく、その派手な風体をした人は、軽やかな口振りでそう尋ねた
「Ah?」
「門番やってる連中にここだって聞いて」
「餅が食いたきゃ茶屋へ行きな」
対する政宗様の返答は、素っ気なさに棘までつけたようなもの
しかしこの客人は、政宗様と会うために約束を取り付けたわけでもなく、突然ここを尋ねてきたのだ
政宗様が取り合おうとしないのは当然のことでもある
「簡単には食えそうもねえな……
ま、覚悟の上さ」
「政宗様に何の用だ?
仮にも奥州筆頭を前にした以上、まずテメェから名乗るのが筋ってもんじゃねえのか」
片倉様が凄みを効かせながら、相手を睨み付ける
けれどその圧に臆することはなく、彼はやはりおどけたように目を丸くした
「おっと、こいつは!
俺は前田慶次、以後お見知りおきを
こいつは夢吉」
「キキッ」
肩にいた子猿が可愛らしく鳴く
……が、政宗様の表情は変わらなかった
「大道芸人が来るところじゃねえ
帰んな」
「しっかし、男臭いところだねえ
せっかくの別嬪さんがいるってのに、恋の花ひとつ咲かせるのも、これじゃ一苦労だ」
政宗様の言葉をまるっと無視してそう宣う前田慶次の肩で、子猿が片倉様へ向かって嬉しそうな顔を向ける
ほんの少しだけ、片倉様が虚をつかれたように戸惑いの表情を浮かべた
……彼は、私の事を覚えていない、のだろうか
それはそれで好都合だし、私から名乗ることはしたくないので、ありがたく不振な人物として扱わせてもらおう
「どこの祭りへ行った帰りか知らねえが……」
ドスの効いた声が政宗様の口から発せられる
何せ現在、我らが奥州筆頭は、大層機嫌が悪いのだ
「――やけにHappyな野郎だな」
政宗様が前田慶次に向き直る
その横顔には、明らかな怒りが浮かんでいた
憎たらしいほどに天気は快晴で、屋敷の前に広がる田畑の作業も捗っているようだ
けれど晴れ渡る奥州の空模様とは裏腹に、奥州の主たる伊達家の屋敷には、重苦しい空気が漂っていた
その伊達屋敷の門前では、良直と左馬助が座り込んで小会議の最中だった
「交替の時間だぜ」
「バカ、おっせぇよ」
走ってきた文七郎と孫兵衛に良直がそう悪態をつく
屋敷の門番の交替時刻はとうに過ぎており、良直と左馬助は二人を待っていたのだ
やれやれといった様子の二人へ、文七郎がため息混じりに言った
「筆頭の様子、覗いてきたんだよ」
その言葉にすかさず二人が食いつく
「「どうだった!?」」
文七郎は無言で首を振った
代わりに答えたのは孫兵衛だ
「相変わらず」
それを象徴するかの如く、遠くからは止むことなく射撃音が聞こえている
いつもと変わりないはずのその音が、持ち主の心情を表すかのように重い
そしてそれは、彼らの主君たる人物とて例外ではなかった
「ここんとこ明けても暮れても、剣を振り回すか、物思いに耽るか……」
「長いこと軍議も開いてねえよなぁ……」
「片倉様も畑にかかりっきりだしな……」
「若葉の姐御もあの調子だしなぁ……」
晴れ渡る奥州の空に、二丁銃の音が響き続ける
その音からは確かな焦りも感じ取れた
「さんざん走り回った挙句、小田原を武田に、駿河を織田に献上しちまって」
「まさか、筆頭も片倉様も姐御も、やる気なくしちまったんじゃ……!」
そんなまさか、と誰かが反論しようとしたその時
晴れ渡っていたはずの空が曇りだした
「……?」
ふと四人が上空を見上げれば、頭上にはいつの間にやら鈍色の空が広がっている
そうしてとうとう、空からは雨が降りだした
*********************
……臆した
美稜の仇に
彦一郎様の仇に……
「……っ!
くそ、外したか……」
立ち向かわなければならない相手、必ずこの手で葬らなければならない存在
そんな男に、私は銃口を向けることさえ――否、銃を構えることさえ出来なかった
(魔王の存在は日ノ本にとって危険すぎる
いずれは討ち果たさなければならない――けれど)
あれほどの力を持つ織田信長を相手に、立ち向かえるの、私は……?
二丁銃を構えていた両腕が下がる
気が付けば雨が降りだしていた
「……雨、いつの間に……」
ふわりと雨の中を、一陣の風が吹いた
曇天と降りしきる雨の中を吹き抜けるには、似つかわしくないほど穏やかな風だった
ふと、政宗様が気になった
戻ってきてからというもの軍議が開かれず、政宗様とは滅多に顔を合わせなくなってしまった
彼は今、神社の境内で刀を振っているはず
そう考えて屋敷近くの神社の境内に足を運んでみると……近づくにつれ、刀が空を斬る音が聞き取れるようになっていった
「……政宗様」
政宗様はただひたすら、一人で刀を振っていた
とてもではないが、言葉をかけられる雰囲気ではない
そのまま邪魔にならないところで見ていようかと考えた、私の背後から、別の声が聞こえた
「政宗様」
現れたのは片倉様だ
鋭い薙ぎが水滴をも斬る
ゆっくりと振り返った政宗さんの表情は、どこか険しさと余裕のなさが窺えた
その切羽詰まった色を見せる隻眼が、鋭く右を睨みつける
神社の入り口に――人がいた
「――」
これは夢?
もしくは幻覚の類いだろうか
風の向くまま、気の向くままに旅をする風来坊
もちろん美稜にも来たことがある
有り体に言えば――顔見知り、だった
「奥州名物・独眼竜ってのは、あんたかい?」
剣呑とした気配にひるむこともなく、その派手な風体をした人は、軽やかな口振りでそう尋ねた
「Ah?」
「門番やってる連中にここだって聞いて」
「餅が食いたきゃ茶屋へ行きな」
対する政宗様の返答は、素っ気なさに棘までつけたようなもの
しかしこの客人は、政宗様と会うために約束を取り付けたわけでもなく、突然ここを尋ねてきたのだ
政宗様が取り合おうとしないのは当然のことでもある
「簡単には食えそうもねえな……
ま、覚悟の上さ」
「政宗様に何の用だ?
仮にも奥州筆頭を前にした以上、まずテメェから名乗るのが筋ってもんじゃねえのか」
片倉様が凄みを効かせながら、相手を睨み付ける
けれどその圧に臆することはなく、彼はやはりおどけたように目を丸くした
「おっと、こいつは!
俺は前田慶次、以後お見知りおきを
こいつは夢吉」
「キキッ」
肩にいた子猿が可愛らしく鳴く
……が、政宗様の表情は変わらなかった
「大道芸人が来るところじゃねえ
帰んな」
「しっかし、男臭いところだねえ
せっかくの別嬪さんがいるってのに、恋の花ひとつ咲かせるのも、これじゃ一苦労だ」
政宗様の言葉をまるっと無視してそう宣う前田慶次の肩で、子猿が片倉様へ向かって嬉しそうな顔を向ける
ほんの少しだけ、片倉様が虚をつかれたように戸惑いの表情を浮かべた
……彼は、私の事を覚えていない、のだろうか
それはそれで好都合だし、私から名乗ることはしたくないので、ありがたく不振な人物として扱わせてもらおう
「どこの祭りへ行った帰りか知らねえが……」
ドスの効いた声が政宗様の口から発せられる
何せ現在、我らが奥州筆頭は、大層機嫌が悪いのだ
「――やけにHappyな野郎だな」
政宗様が前田慶次に向き直る
その横顔には、明らかな怒りが浮かんでいた
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