Episode.3-5
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妻女山にて邂逅し、共に関ヶ原を目指すこととなった、伊達軍と武田軍
ただ今は美濃の関ヶ原へ向けて、進軍の真っ只中だ
間もなく日も暮れようかという頃で、川の近くで野営の用意となった
「綾葉様、川で水を浴びるなら先に浴びてきな
今なら男共は野営の用意に手一杯で、川まで近付きゃしないから
一応、うちの忍隊のくノ一を、見張りに付けておくよ」
「ありがとう、佐助
それじゃあ行ってくるわね」
佐助に見送られて川へ向かえば、緩やかな清流が流れている
川辺に脱いだ服を畳んで、晒と下穿きが飛ばされないよう、二丁銃を上から重しにして、私はそっと川に身を滑らせた
(……やっぱり熱を持っているように思えるわ)
右腕に残る焼けた皮膚の跡
かつてここには、大紫を模した蝶の刺青があった
織田と縁を切るという決意と共に焼いて消したのは、もう十年も前の話
それなのに……十年も経って今更、この傷が痛むなんて
(冷えるといけないわね
汗は洗い流せたし、早く戻って──)
ザリ、と誰かの足が、川辺の砂利を踏む音
ばしゃりと立ち上がって背後を振り返れば、そこには鎧を外して軽装の、政宗様が──
「……Sorry.
見てねぇ」
「い、いえっ、こちらこそお見苦しいものを!
すぐに上がりますので──」
政宗様がこちらに背を向けてくれている
配慮がありがたいけれど……本当に見ていないのかしら
(詮索するのは野暮ね
見ていないということにしてしまいましょう)
手拭いで体を拭いて、下穿きと晒をつける
それから装束を着込んでいくと、不意に誰かが帯紐をグッと結んでくれた
「ま、政宗様──」
「Stop.
前向いてろ」
「結構です、あの、自分で……」
逆ならまだしも、私が政宗様に世話をされてどうするのよ!
内心で慌てるしかない私を他所に、政宗様はてきぱきと私の着付けを済ませていく
背後から政宗様の体温を感じて、それが嬉しいだなんて……思っちゃいけないのに
「うちに来て何年経った?」
「え?」
「伊達に逃げてきてから何年だ?」
「……七年になります」
「初陣を挙げてからは?」
「……四年ほど経つかと」
「そうか」
なぜそのような事をお尋ねになるのだろう
私に関することなんて、政宗様が一番ご存知のはずだろうに
怪訝に思ったのが伝わったのだろうか、政宗様は私の帯を締めながら言った
「……どんなに長く居ようが、他人の考えてることなんざ分かりゃしねぇんだと思ってな」
「……」
「もう一度だけ聞いてやる
お前は本当に俺のことを諦めるのか」
「……それは」
「それとも俺だから諦めるのか
だったら他の男になら、あっさり靡くのか?」
「ちがっ……違います!
政宗様以外になんて」
耳を疑うような台詞だったから、前を向けと言われていたことも忘れて、背後の政宗様を振り向いてしまった
その顎を強く掬われて、瞬間
「……ッ!」
政宗様と、唇が重なった
離れようと藻掻く私を抱き込む腕は、何をしても振り払えない
離れなくてはいけないと……わかっているのに
政宗様から剥き出しの愛を与えられることが──私の心を求めてくださることが、こんなにも嬉しい
「諦めるのか、本当に」
「私は……」
「風神に『幸せになる』と約束したんだろう
その程度の誓いだったのか」
「違います……」
こんなものじゃなかった
奥州で美稜の名を残すことだけで終わるような……そんな幸せを誓ったんじゃない
政宗様を愛して幸せになるって、政宗様と共にいることが私の幸せなんだって……
だから奥州で幸せに暮らすんだと……私は、彦一郎様に約束していたのに
「俺を嫌っちゃいねぇなら、まだ可能性はあると思っちゃいるが……
アイツと戦り合う前に、心残りは潰しておきてぇのさ
綾葉、俺は誰だ?」
「貴方様は天下に名を轟かせる独眼竜
我らが奥州筆頭、伊達政宗様です」
「そうだ、俺はいずれ天下を獲る男だ
その俺がこんなところでくたばるわけにゃいかねぇ
魔王のオッサンでも豊臣の山猿でも獲れなかったこの首を、あの野郎の刃はたしかに掠めた」
政宗様の手が、私の手をご自身の首筋へと持っていく
温かい首筋からは、政宗様の脈が伝わってきた
力強く脈を打つそこから少し下れば、ひやりとして硬い、無機質なそれに触れた
「二度目はねぇ
お前らが……お前らの想いが、俺を死から守ってくれる」
「私は本当に、関わったと言える程では……」
「No kidding.
文七郎たちに口止めしてたらしいが、すぐにバラしてくれたぜ
鍛治を手伝えねぇ代わりに、小十郎の説得と鍛冶屋の親父への口添えをしてくれたんだとな」
「……私の名を出すなと言い含めておいたはずなのですが」
「ああ、それも言ってやがった
お前にゃ内緒で俺に伝えるがと前置きされてな」
……それを私に伝えてしまっては、意味がない気がする
それでも私がしたことなんてその程度
連日、鍛冶屋に通い、装備を打ったのはあの四人だ
もちろん若い衆たちはこぞって『自分が打つ』と言って聞かなかったけど、そんなことができるわけもない
発案者である四人に鍛治を任せて、他の奴らは四人が抜けた分の仕事を代わりにやっていたのだ
私はそんな彼らをただ眺めていただけ
なんなら途中で美稜領に引き上げてしまったから、本当に手伝ったなんて言えるほどのものではない
「私のことは頭数に含めてくださらなくて結構です
……そのせいで政宗様を守ろうとする彼らの想いに、障りがあってはいけませんので」
「障り、ねぇ……
だったら聞くが、お前が俺といることで、俺に何の障りがあった?」
「……?
石田三成と戦い、死の淵を彷徨われました」
「だが俺は生きてるぜ?
奥州も落ちちゃいねぇ、民たちも誰ひとり死んじゃいねぇ
障りがあったとは言えねぇだろう」
「政宗様は運を味方につけられておりますから
命を落とすまではいかなかったのでしょう
……ですがそれも、毎度そうなるとは限りません
やはり私は疫病神なのです、政宗様」
だからこの腕を離してほしい
私が貴方様を失う前に、私は貴方様から離れなければならない
一時でも情けをいただけた
私にはもう、それだけで十分だ
「……疫病神か」
呟いた政宗様の声は、冷え切ってきた
思わず背筋が凍るほどだったけれど、それは私に向けられたものではないような気もして
「政宗様……?」
「石田三成を倒したら、俺とお前のweddingだ
覚えておけよ」
「は……は!?
そ、それは辞退申し上げたはずですが……!」
「俺はそいつを承諾した覚えなんざねぇな」
「なっ!?
しかし政宗様も賛同されておられたのでは?
だからこそ私に幻滅したのも今更だと……」
「Ah?
お前、あの台詞をそんなふうに解釈しやがったのか」
「違ったのですか?」
「散々お前の情けねぇ姿を見てきたんだ
今更これくらいで幻滅なんざ、するわけねぇだろう」
開いた口が塞がらない
どうして忘れていたのかしら、政宗様が息をするように屁理屈を並べる人だって……
問い質したいことがあまりにも多すぎる
政宗様に愛想を尽かされたと思ったから、離れることも容易だと思っていたのに!
何が今更よ!
……ほんとうに今更じゃない!
「ま、お前の言い分を正しく理解してりゃ、お前が俺に惚れたままなのはすぐに理解できたことだ」
「そ……そのようなこと、一言も……」
「Fum……そうか?
『俺に惚れっぱなしだから死なせたくなくて離れます』と言っているようにしか聞こえてこなかったがな?」
「……そ……っ、それは……」
大当たりすぎて返す言葉がない……
恥ずかしさで顔も上げられなくて、私は政宗様の腕の中で項垂れるしかなかった
可笑しそうに肩を揺らした政宗様が、私の背を叩く
「……本当に私を迎えるおつもりで?」
「お前以外の女が、俺に釣り合うとでも?」
「ひ、日の本は広うございますので……」
「You have a point.
だがその広い日の本で、俺に見合う女はお前だけだってことだ
You see?」
信じてみても、いいのかしら
私は愛する人を喪うことしか出来ない人間だと思っていたけれど、政宗様はそうならないって
政宗様だけは、私と一緒にいてくれるって……
「……私は政宗様と共にいられるだけの器ではないと思います
ですが、他ならぬ貴方様が私のことを望まれるのなら──私も今一度、己が幸せというものを、信じてみとうございます」
私は奥州で、貴方様の隣で幸せになれるのだと
貴方様を愛して生きていけるのだと……信じたい
だって私の愛する奥州は、貴方様がおらねば始まらないのだから
「お慕いしております、我らが奥州筆頭
日の本を確と見つめる独眼竜、伊達政宗様」
「俺の名を呼べ、綾葉」
「はい……藤次郎様」
深く唇が重なる
吸われるように何度も重なって、その度に藤次郎様が私を想う熱が伝わって
知らず知らずのうちに、私は涙を流していた
それでも藤次郎様は、そんな私を笑うことなんてなかった
このまま、身も心もひとつに溶け合うことができたら──
再び掴んだ幸福の中で息をしながら
──大紫が焦げるような熱で痛みを与えていた
ただ今は美濃の関ヶ原へ向けて、進軍の真っ只中だ
間もなく日も暮れようかという頃で、川の近くで野営の用意となった
「綾葉様、川で水を浴びるなら先に浴びてきな
今なら男共は野営の用意に手一杯で、川まで近付きゃしないから
一応、うちの忍隊のくノ一を、見張りに付けておくよ」
「ありがとう、佐助
それじゃあ行ってくるわね」
佐助に見送られて川へ向かえば、緩やかな清流が流れている
川辺に脱いだ服を畳んで、晒と下穿きが飛ばされないよう、二丁銃を上から重しにして、私はそっと川に身を滑らせた
(……やっぱり熱を持っているように思えるわ)
右腕に残る焼けた皮膚の跡
かつてここには、大紫を模した蝶の刺青があった
織田と縁を切るという決意と共に焼いて消したのは、もう十年も前の話
それなのに……十年も経って今更、この傷が痛むなんて
(冷えるといけないわね
汗は洗い流せたし、早く戻って──)
ザリ、と誰かの足が、川辺の砂利を踏む音
ばしゃりと立ち上がって背後を振り返れば、そこには鎧を外して軽装の、政宗様が──
「……Sorry.
見てねぇ」
「い、いえっ、こちらこそお見苦しいものを!
すぐに上がりますので──」
政宗様がこちらに背を向けてくれている
配慮がありがたいけれど……本当に見ていないのかしら
(詮索するのは野暮ね
見ていないということにしてしまいましょう)
手拭いで体を拭いて、下穿きと晒をつける
それから装束を着込んでいくと、不意に誰かが帯紐をグッと結んでくれた
「ま、政宗様──」
「Stop.
前向いてろ」
「結構です、あの、自分で……」
逆ならまだしも、私が政宗様に世話をされてどうするのよ!
内心で慌てるしかない私を他所に、政宗様はてきぱきと私の着付けを済ませていく
背後から政宗様の体温を感じて、それが嬉しいだなんて……思っちゃいけないのに
「うちに来て何年経った?」
「え?」
「伊達に逃げてきてから何年だ?」
「……七年になります」
「初陣を挙げてからは?」
「……四年ほど経つかと」
「そうか」
なぜそのような事をお尋ねになるのだろう
私に関することなんて、政宗様が一番ご存知のはずだろうに
怪訝に思ったのが伝わったのだろうか、政宗様は私の帯を締めながら言った
「……どんなに長く居ようが、他人の考えてることなんざ分かりゃしねぇんだと思ってな」
「……」
「もう一度だけ聞いてやる
お前は本当に俺のことを諦めるのか」
「……それは」
「それとも俺だから諦めるのか
だったら他の男になら、あっさり靡くのか?」
「ちがっ……違います!
政宗様以外になんて」
耳を疑うような台詞だったから、前を向けと言われていたことも忘れて、背後の政宗様を振り向いてしまった
その顎を強く掬われて、瞬間
「……ッ!」
政宗様と、唇が重なった
離れようと藻掻く私を抱き込む腕は、何をしても振り払えない
離れなくてはいけないと……わかっているのに
政宗様から剥き出しの愛を与えられることが──私の心を求めてくださることが、こんなにも嬉しい
「諦めるのか、本当に」
「私は……」
「風神に『幸せになる』と約束したんだろう
その程度の誓いだったのか」
「違います……」
こんなものじゃなかった
奥州で美稜の名を残すことだけで終わるような……そんな幸せを誓ったんじゃない
政宗様を愛して幸せになるって、政宗様と共にいることが私の幸せなんだって……
だから奥州で幸せに暮らすんだと……私は、彦一郎様に約束していたのに
「俺を嫌っちゃいねぇなら、まだ可能性はあると思っちゃいるが……
アイツと戦り合う前に、心残りは潰しておきてぇのさ
綾葉、俺は誰だ?」
「貴方様は天下に名を轟かせる独眼竜
我らが奥州筆頭、伊達政宗様です」
「そうだ、俺はいずれ天下を獲る男だ
その俺がこんなところでくたばるわけにゃいかねぇ
魔王のオッサンでも豊臣の山猿でも獲れなかったこの首を、あの野郎の刃はたしかに掠めた」
政宗様の手が、私の手をご自身の首筋へと持っていく
温かい首筋からは、政宗様の脈が伝わってきた
力強く脈を打つそこから少し下れば、ひやりとして硬い、無機質なそれに触れた
「二度目はねぇ
お前らが……お前らの想いが、俺を死から守ってくれる」
「私は本当に、関わったと言える程では……」
「No kidding.
文七郎たちに口止めしてたらしいが、すぐにバラしてくれたぜ
鍛治を手伝えねぇ代わりに、小十郎の説得と鍛冶屋の親父への口添えをしてくれたんだとな」
「……私の名を出すなと言い含めておいたはずなのですが」
「ああ、それも言ってやがった
お前にゃ内緒で俺に伝えるがと前置きされてな」
……それを私に伝えてしまっては、意味がない気がする
それでも私がしたことなんてその程度
連日、鍛冶屋に通い、装備を打ったのはあの四人だ
もちろん若い衆たちはこぞって『自分が打つ』と言って聞かなかったけど、そんなことができるわけもない
発案者である四人に鍛治を任せて、他の奴らは四人が抜けた分の仕事を代わりにやっていたのだ
私はそんな彼らをただ眺めていただけ
なんなら途中で美稜領に引き上げてしまったから、本当に手伝ったなんて言えるほどのものではない
「私のことは頭数に含めてくださらなくて結構です
……そのせいで政宗様を守ろうとする彼らの想いに、障りがあってはいけませんので」
「障り、ねぇ……
だったら聞くが、お前が俺といることで、俺に何の障りがあった?」
「……?
石田三成と戦い、死の淵を彷徨われました」
「だが俺は生きてるぜ?
奥州も落ちちゃいねぇ、民たちも誰ひとり死んじゃいねぇ
障りがあったとは言えねぇだろう」
「政宗様は運を味方につけられておりますから
命を落とすまではいかなかったのでしょう
……ですがそれも、毎度そうなるとは限りません
やはり私は疫病神なのです、政宗様」
だからこの腕を離してほしい
私が貴方様を失う前に、私は貴方様から離れなければならない
一時でも情けをいただけた
私にはもう、それだけで十分だ
「……疫病神か」
呟いた政宗様の声は、冷え切ってきた
思わず背筋が凍るほどだったけれど、それは私に向けられたものではないような気もして
「政宗様……?」
「石田三成を倒したら、俺とお前のweddingだ
覚えておけよ」
「は……は!?
そ、それは辞退申し上げたはずですが……!」
「俺はそいつを承諾した覚えなんざねぇな」
「なっ!?
しかし政宗様も賛同されておられたのでは?
だからこそ私に幻滅したのも今更だと……」
「Ah?
お前、あの台詞をそんなふうに解釈しやがったのか」
「違ったのですか?」
「散々お前の情けねぇ姿を見てきたんだ
今更これくらいで幻滅なんざ、するわけねぇだろう」
開いた口が塞がらない
どうして忘れていたのかしら、政宗様が息をするように屁理屈を並べる人だって……
問い質したいことがあまりにも多すぎる
政宗様に愛想を尽かされたと思ったから、離れることも容易だと思っていたのに!
何が今更よ!
……ほんとうに今更じゃない!
「ま、お前の言い分を正しく理解してりゃ、お前が俺に惚れたままなのはすぐに理解できたことだ」
「そ……そのようなこと、一言も……」
「Fum……そうか?
『俺に惚れっぱなしだから死なせたくなくて離れます』と言っているようにしか聞こえてこなかったがな?」
「……そ……っ、それは……」
大当たりすぎて返す言葉がない……
恥ずかしさで顔も上げられなくて、私は政宗様の腕の中で項垂れるしかなかった
可笑しそうに肩を揺らした政宗様が、私の背を叩く
「……本当に私を迎えるおつもりで?」
「お前以外の女が、俺に釣り合うとでも?」
「ひ、日の本は広うございますので……」
「You have a point.
だがその広い日の本で、俺に見合う女はお前だけだってことだ
You see?」
信じてみても、いいのかしら
私は愛する人を喪うことしか出来ない人間だと思っていたけれど、政宗様はそうならないって
政宗様だけは、私と一緒にいてくれるって……
「……私は政宗様と共にいられるだけの器ではないと思います
ですが、他ならぬ貴方様が私のことを望まれるのなら──私も今一度、己が幸せというものを、信じてみとうございます」
私は奥州で、貴方様の隣で幸せになれるのだと
貴方様を愛して生きていけるのだと……信じたい
だって私の愛する奥州は、貴方様がおらねば始まらないのだから
「お慕いしております、我らが奥州筆頭
日の本を確と見つめる独眼竜、伊達政宗様」
「俺の名を呼べ、綾葉」
「はい……藤次郎様」
深く唇が重なる
吸われるように何度も重なって、その度に藤次郎様が私を想う熱が伝わって
知らず知らずのうちに、私は涙を流していた
それでも藤次郎様は、そんな私を笑うことなんてなかった
このまま、身も心もひとつに溶け合うことができたら──
再び掴んだ幸福の中で息をしながら
──大紫が焦げるような熱で痛みを与えていた
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