Episode.2-11
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政宗様と結ばれてから、私は政宗様といることが多くなった
それは片倉様がいないからというのもあったのだけど
ただ単に、私たちが一緒にいたいからというのが大半
そして何も言っていないのに、兵達から見守るような視線が増えたのは……おそらく、私との関係を隠そうともしない、この奥州筆頭のせいだ
「Hey,honey.
傷はもう平気か?」
千夜と二人で縁側に座ってお茶を飲んでいたとき、声をかけてきたのは政宗様
千夜は頭を下げて、その場を辞した
さすがは千夜、空気の読める優秀な侍女だ
「もう完治しております
政宗様はお加減如何でしょう?」
「I'm OK.
俺ももう大丈夫だ」
「そうでしたか、それは安心しました」
政宗様が隣に腰を下ろす
千夜が程なくして現れて、新しいお茶と湯呑みを私と政宗様の間に置くと、またどこかへと去っていった
政宗様の湯呑みにお茶を注ぐ
いい色だ、美味しそう
湯呑みに口をつけた政宗様は、一口だけを飲むと盆へ湯呑みを戻した
「……来週、出る」
「はい」
「今度こそ小十郎を取り戻して、豊臣もぶっ倒す
ついて来てくれるだろ?」
「勿論でございます
政宗様が往かれるところならば、どこへでも」
「嬉しいこと言ってくれやがって……
地獄の底までついて来てもらうからな」
「ふふ、喜んでお供致します」
自分の分の湯呑みにお茶を注ぎ、一口飲む
やはり夏は冷麦茶に限る
「千夜と何の話をしてた?」
「ただの世間話にございます
あとは昔の思い出話など少々……」
「昔の……美稜にいた頃のか」
「いえ、それよりも前の……
……斎藤の家にいた頃のことを」
そう答え、私は少しだけ口を閉ざした
聞かせろとはおっしゃらなかったから、この話を政宗様にしなくても怒られはしない
……だけど、政宗様のことだから、気になる話ではあるとも思う
「あの……政宗様」
「どうした?」
「少しだけ、私の話をしても宜しいでしょうか?」
「構わねえよ
なんだ?」
政宗さんの返答に胸を撫で下ろす
興味が無いと言われるやもしれぬと、内心不安だったのだ
一呼吸置いて、それから私はゆっくりと話し始めた
「……魔王の嫁を、ご存知でいらっしゃいますか」
「ああ、あの濃姫とか言う……」
「ご承知のことと思いますが、濃姫は、私の姉でした」
「……ああ」
「私は美濃の生まれ
そのことは政宗様にもお伝えしておりましたから、ご存知かと思います
私の生家は、美濃の斎藤家
私は斎藤道三の次女でした」
青空の中を雀が泳いでいく
点々と動く小さな黒を目で追いかけ、なおもぽつぽつと昔の話を続けた
「私と姉様……濃姫は、異母姉妹です
姉様は御正室様の御腹から、私は側室の腹から生まれた子です
ですから、姉様と私が銃の使い手であるというのは、父に由来します
父は種子島の扱いに長けておりました
姉様が二丁銃をはじめとした西洋の武器を軽々と扱い、そしてまた私が二丁銃を使いこなせているのも、そのせいかと」
「っつうことは、お前と魔王は……」
「はい
魔王は、私の義理の兄になります
とは申しましても、私と魔王が義理の兄妹として直接顔を合わせましたのは、姉様の輿入れの時だけです
それから十数年、魔王の元へと捕虜になるまで、顔を合わせたことはございませんでした」
そう言って目を閉じる
桶狭間にて、今川の影武者を追う最中での邂逅
頭の中では相手が魔王の嫁・濃姫であると理解していても
目の前で私に銃口を突きつけているその人が、姉様だとは思えなかった
「……戦乱の世は、簡単に人を変えてしまう
あんなに優しかった姉様までもが、手を血に染める道を選ぶほどに」
「……」
「二丁銃を手に、戦場を駆ける様から、姉様はいつしか帰蝶と呼ばれました
元のお名前は胡蝶であったとも伺ったことがあるのですが、帰蝶であったのか胡蝶であったのかはもう分かりません
明智光秀は姉様を帰蝶と呼びましたが、織田ではもっぱら濃姫と呼ばれておられるようでしたので」
太腿にあった、蒼い蝶の刺青
あれを消さずにいたことからも、姉様がその身を織田に捧げたことが伺える
あれは、あの蝶の刺青は、斎藤家が自らに施した烙印
信長に忠誠を誓うという証の鎖だったのだから
「その諱は聞いたことがある
帰蝶――その言葉が魔王の嫁を現すんだとな」
「はい
そして私は、その帰蝶の妹
きっと姉に劣らず、武芸に秀でているに違いない……
そう考えられ、つけられた本当の名は――揚羽」
「あげは……揚羽蝶ってわけか
……Wait,本当の名前ってのはどういうこった」
「実は私、美稜へ嫁ぐ際に、名を変えておりまして
今でこそ綾葉と名乗っておりますが、この名は美稜に嫁いでからの名でございます」
「なんで名前なんざ……」
「美稜は武田一門……
斎藤家と織田一門とは敵同士でございます
それゆえ、斎藤家との決別の意味を込めまして、名を変えることに致しました」
それは同時に、『織田方とは一切の関わりを断つ』と美稜に誓う行為でもあった
どのみち斎藤家からは厄介払い同然で放り出されたのだから、私が名を変えようと、斎藤家にとってはどうでも良かったのだろう
「姉様の太ももにある刺青をご覧になったことは?」
「ああ、あの蒼い蝶のだろ」
「同じものが、私にもありました」
政宗様が僅かに目を見開く
私の身体に刻まれた蝶の刺青の話は、初めてする
誰にも話したことはなかったから
「ご覧になりますか?」
「……ああ」
私は頷いて、右の袖を、肩まで捲り上げた
二の腕にあるのは、紫の蝶の刺青――ではなく、大きな火傷の痕
その場所を見た政宗様が息を呑む
「この火傷が……?」
「はい、ここに私の刺青がございました
私は美稜に嫁ぎ、織田と縁を切った身
美稜は武田の家臣に名を連ねる家……
いざとなれば、織田、ひいては斎藤家とも戦わねばなりません
生家に刃を向けることも辞さない覚悟で嫁ぐことになると思っておりました
その覚悟として、私は刺青を焼いて消したのです」
政宗様の指が、火傷の痕を撫でる
それから、その場所に口づけが落とされた
それは片倉様がいないからというのもあったのだけど
ただ単に、私たちが一緒にいたいからというのが大半
そして何も言っていないのに、兵達から見守るような視線が増えたのは……おそらく、私との関係を隠そうともしない、この奥州筆頭のせいだ
「Hey,honey.
傷はもう平気か?」
千夜と二人で縁側に座ってお茶を飲んでいたとき、声をかけてきたのは政宗様
千夜は頭を下げて、その場を辞した
さすがは千夜、空気の読める優秀な侍女だ
「もう完治しております
政宗様はお加減如何でしょう?」
「I'm OK.
俺ももう大丈夫だ」
「そうでしたか、それは安心しました」
政宗様が隣に腰を下ろす
千夜が程なくして現れて、新しいお茶と湯呑みを私と政宗様の間に置くと、またどこかへと去っていった
政宗様の湯呑みにお茶を注ぐ
いい色だ、美味しそう
湯呑みに口をつけた政宗様は、一口だけを飲むと盆へ湯呑みを戻した
「……来週、出る」
「はい」
「今度こそ小十郎を取り戻して、豊臣もぶっ倒す
ついて来てくれるだろ?」
「勿論でございます
政宗様が往かれるところならば、どこへでも」
「嬉しいこと言ってくれやがって……
地獄の底までついて来てもらうからな」
「ふふ、喜んでお供致します」
自分の分の湯呑みにお茶を注ぎ、一口飲む
やはり夏は冷麦茶に限る
「千夜と何の話をしてた?」
「ただの世間話にございます
あとは昔の思い出話など少々……」
「昔の……美稜にいた頃のか」
「いえ、それよりも前の……
……斎藤の家にいた頃のことを」
そう答え、私は少しだけ口を閉ざした
聞かせろとはおっしゃらなかったから、この話を政宗様にしなくても怒られはしない
……だけど、政宗様のことだから、気になる話ではあるとも思う
「あの……政宗様」
「どうした?」
「少しだけ、私の話をしても宜しいでしょうか?」
「構わねえよ
なんだ?」
政宗さんの返答に胸を撫で下ろす
興味が無いと言われるやもしれぬと、内心不安だったのだ
一呼吸置いて、それから私はゆっくりと話し始めた
「……魔王の嫁を、ご存知でいらっしゃいますか」
「ああ、あの濃姫とか言う……」
「ご承知のことと思いますが、濃姫は、私の姉でした」
「……ああ」
「私は美濃の生まれ
そのことは政宗様にもお伝えしておりましたから、ご存知かと思います
私の生家は、美濃の斎藤家
私は斎藤道三の次女でした」
青空の中を雀が泳いでいく
点々と動く小さな黒を目で追いかけ、なおもぽつぽつと昔の話を続けた
「私と姉様……濃姫は、異母姉妹です
姉様は御正室様の御腹から、私は側室の腹から生まれた子です
ですから、姉様と私が銃の使い手であるというのは、父に由来します
父は種子島の扱いに長けておりました
姉様が二丁銃をはじめとした西洋の武器を軽々と扱い、そしてまた私が二丁銃を使いこなせているのも、そのせいかと」
「っつうことは、お前と魔王は……」
「はい
魔王は、私の義理の兄になります
とは申しましても、私と魔王が義理の兄妹として直接顔を合わせましたのは、姉様の輿入れの時だけです
それから十数年、魔王の元へと捕虜になるまで、顔を合わせたことはございませんでした」
そう言って目を閉じる
桶狭間にて、今川の影武者を追う最中での邂逅
頭の中では相手が魔王の嫁・濃姫であると理解していても
目の前で私に銃口を突きつけているその人が、姉様だとは思えなかった
「……戦乱の世は、簡単に人を変えてしまう
あんなに優しかった姉様までもが、手を血に染める道を選ぶほどに」
「……」
「二丁銃を手に、戦場を駆ける様から、姉様はいつしか帰蝶と呼ばれました
元のお名前は胡蝶であったとも伺ったことがあるのですが、帰蝶であったのか胡蝶であったのかはもう分かりません
明智光秀は姉様を帰蝶と呼びましたが、織田ではもっぱら濃姫と呼ばれておられるようでしたので」
太腿にあった、蒼い蝶の刺青
あれを消さずにいたことからも、姉様がその身を織田に捧げたことが伺える
あれは、あの蝶の刺青は、斎藤家が自らに施した烙印
信長に忠誠を誓うという証の鎖だったのだから
「その諱は聞いたことがある
帰蝶――その言葉が魔王の嫁を現すんだとな」
「はい
そして私は、その帰蝶の妹
きっと姉に劣らず、武芸に秀でているに違いない……
そう考えられ、つけられた本当の名は――揚羽」
「あげは……揚羽蝶ってわけか
……Wait,本当の名前ってのはどういうこった」
「実は私、美稜へ嫁ぐ際に、名を変えておりまして
今でこそ綾葉と名乗っておりますが、この名は美稜に嫁いでからの名でございます」
「なんで名前なんざ……」
「美稜は武田一門……
斎藤家と織田一門とは敵同士でございます
それゆえ、斎藤家との決別の意味を込めまして、名を変えることに致しました」
それは同時に、『織田方とは一切の関わりを断つ』と美稜に誓う行為でもあった
どのみち斎藤家からは厄介払い同然で放り出されたのだから、私が名を変えようと、斎藤家にとってはどうでも良かったのだろう
「姉様の太ももにある刺青をご覧になったことは?」
「ああ、あの蒼い蝶のだろ」
「同じものが、私にもありました」
政宗様が僅かに目を見開く
私の身体に刻まれた蝶の刺青の話は、初めてする
誰にも話したことはなかったから
「ご覧になりますか?」
「……ああ」
私は頷いて、右の袖を、肩まで捲り上げた
二の腕にあるのは、紫の蝶の刺青――ではなく、大きな火傷の痕
その場所を見た政宗様が息を呑む
「この火傷が……?」
「はい、ここに私の刺青がございました
私は美稜に嫁ぎ、織田と縁を切った身
美稜は武田の家臣に名を連ねる家……
いざとなれば、織田、ひいては斎藤家とも戦わねばなりません
生家に刃を向けることも辞さない覚悟で嫁ぐことになると思っておりました
その覚悟として、私は刺青を焼いて消したのです」
政宗様の指が、火傷の痕を撫でる
それから、その場所に口づけが落とされた
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