Episode.2-9
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俯いて膝を抱え、政宗様をお待ちしてから、程なく
背後で一度だけ足音がした
そして、再びの静寂
「……こんなところで何してんだ、お前」
「政宗、様」
彼を見上げて、それから腰の六爪へ視線を落とす
空いていた一つの鞘には、片倉様の黒龍が納まっていた
……刀が違えど、鞘に収まるか
もはや私の存在がこのお方にとって必要かどうかさえ分からない
「……いえ、何でもありません」
政宗様から視線を外して、立ち上がる
血は止まったとはいえ、傷が塞がったわけではない
体に痛みが走ったが、顔を背けていたので、政宗様には痛みで顔が歪んだことなど気付かれていないだろう
空は夜が明け、朝日が今にも顔を出そうとしている
「兵たちには指示を通しておきました
さすがに今日明日とはいきませんが、数日もすれば出陣も可能かと思われます
それでは傷の手当てがありますので、私はこれで」
「あ、オイ……」
政宗さんの声を無視してその場を立ち去る
追ってくる足音は、なかった
……それでいい、私のことなど気にかけなくていい
私など、所詮は手駒のひとつに過ぎないのだから
*********************
「――いっ……」
消毒が傷に滲みて、抑えていた悲鳴が漏れる
傷口が熱を持っているのか、身体が熱い
「我慢なさいませ
元々、姫様の傷は塞がってもいなかったのですよ
それをおして無理にご出陣なさったのですから、悪化するのも当然でございます
全く……」
「千夜、お願いだから、手当てか説教かどっちかにしてちょうだい」
「少し滲みますよ」
「~~~ッ!」
布を噛んでいたので、声は抑えられたけれど
思った以上にひどい怪我をしていたのね、私……
千夜が包帯を巻き直してくれて、手当てが終了
戦装束の代わりに寝巻きを着た
血だらけの戦装束は、職人によって血抜きと染み抜きが夜を徹して行われているとか
やっぱり白は目立つもの、羽織の色だけでもどうにかならないかしら……
「しばらくは安静になさってくださりませ
……それで、殿は」
「……私なんかが声をかけられる雰囲気じゃなかったわ
片倉様と政宗様は、二人で一つの竜
……分かっていたことなのにね
片倉様の代わりが私なんかに務まるはずないのに」
ため息をついて、二丁銃に弾丸を装填する
銃身に血糊がついていたのを丁寧に拭き上げ、枕元に置いた
「もちろん、私は私にできることをするつもりよ
だけど……私では、政宗様に心の安寧を与えてあげられない
片倉様は、そこにいるだけであのお方に安心感を与えていて……
……敵わない、なあ……」
包帯の上から傷を撫でる
……あの時、私が不覚を取らなければ、片倉様が連れ去られることなどなかったのに
「……姫様は、小十郎様になりたいのですか?」
「え……?」
「姫様、人にはそれぞれに為すべきことがございます
小十郎様が己の為すべきことを為せぬ状況の今、そうであるからと姫様がそれを肩代わりする必要はございますまい」
「千夜……?」
「姫様は変わらず、姫様の為すべきことを成し遂げられませ
その先にきっと、姫様の望む明日がございましょう」
私の望む明日……
戦の無い、平和な日の本……
脳裏に浮かんだのは――奥州の大地が見渡せる山頂で、満足そうに微笑む政宗様と、お傍に控える片倉様
「……政宗様ならきっと、私が望んだ世を創ってくださるのでしょうね」
「姫様……」
「ねえ、千夜……
私はどうしても、その中に私がいる必要を感じないのよ
きっと私がいなくても、伊達は……」
その先を言うことができなかった
否、言いたくなかった
痛いほどに分かっていたから
私が居なくても――片倉様がいれば、伊達は栄華を築ける
それでは一体、私は何のためにここにいるのだろう
武田の誘いを断って、武田に譲り渡すはずだった美稜の兵達を半分以上も引き連れて……
「……そうでございますね
少し足を止めて、姫様が戦う意味をいま一度お考えになるのも、良いことやもしれませぬ」
立ち止まってもいい
ただ、後ろは振り返るな
夢現で彦一郎様に言われた言葉を思い出す
「……そうね」
それだけを答えて、私は横になった
せいぜい考えるとしよう
私がここにいる意味とやらを
背後で一度だけ足音がした
そして、再びの静寂
「……こんなところで何してんだ、お前」
「政宗、様」
彼を見上げて、それから腰の六爪へ視線を落とす
空いていた一つの鞘には、片倉様の黒龍が納まっていた
……刀が違えど、鞘に収まるか
もはや私の存在がこのお方にとって必要かどうかさえ分からない
「……いえ、何でもありません」
政宗様から視線を外して、立ち上がる
血は止まったとはいえ、傷が塞がったわけではない
体に痛みが走ったが、顔を背けていたので、政宗様には痛みで顔が歪んだことなど気付かれていないだろう
空は夜が明け、朝日が今にも顔を出そうとしている
「兵たちには指示を通しておきました
さすがに今日明日とはいきませんが、数日もすれば出陣も可能かと思われます
それでは傷の手当てがありますので、私はこれで」
「あ、オイ……」
政宗さんの声を無視してその場を立ち去る
追ってくる足音は、なかった
……それでいい、私のことなど気にかけなくていい
私など、所詮は手駒のひとつに過ぎないのだから
*********************
「――いっ……」
消毒が傷に滲みて、抑えていた悲鳴が漏れる
傷口が熱を持っているのか、身体が熱い
「我慢なさいませ
元々、姫様の傷は塞がってもいなかったのですよ
それをおして無理にご出陣なさったのですから、悪化するのも当然でございます
全く……」
「千夜、お願いだから、手当てか説教かどっちかにしてちょうだい」
「少し滲みますよ」
「~~~ッ!」
布を噛んでいたので、声は抑えられたけれど
思った以上にひどい怪我をしていたのね、私……
千夜が包帯を巻き直してくれて、手当てが終了
戦装束の代わりに寝巻きを着た
血だらけの戦装束は、職人によって血抜きと染み抜きが夜を徹して行われているとか
やっぱり白は目立つもの、羽織の色だけでもどうにかならないかしら……
「しばらくは安静になさってくださりませ
……それで、殿は」
「……私なんかが声をかけられる雰囲気じゃなかったわ
片倉様と政宗様は、二人で一つの竜
……分かっていたことなのにね
片倉様の代わりが私なんかに務まるはずないのに」
ため息をついて、二丁銃に弾丸を装填する
銃身に血糊がついていたのを丁寧に拭き上げ、枕元に置いた
「もちろん、私は私にできることをするつもりよ
だけど……私では、政宗様に心の安寧を与えてあげられない
片倉様は、そこにいるだけであのお方に安心感を与えていて……
……敵わない、なあ……」
包帯の上から傷を撫でる
……あの時、私が不覚を取らなければ、片倉様が連れ去られることなどなかったのに
「……姫様は、小十郎様になりたいのですか?」
「え……?」
「姫様、人にはそれぞれに為すべきことがございます
小十郎様が己の為すべきことを為せぬ状況の今、そうであるからと姫様がそれを肩代わりする必要はございますまい」
「千夜……?」
「姫様は変わらず、姫様の為すべきことを成し遂げられませ
その先にきっと、姫様の望む明日がございましょう」
私の望む明日……
戦の無い、平和な日の本……
脳裏に浮かんだのは――奥州の大地が見渡せる山頂で、満足そうに微笑む政宗様と、お傍に控える片倉様
「……政宗様ならきっと、私が望んだ世を創ってくださるのでしょうね」
「姫様……」
「ねえ、千夜……
私はどうしても、その中に私がいる必要を感じないのよ
きっと私がいなくても、伊達は……」
その先を言うことができなかった
否、言いたくなかった
痛いほどに分かっていたから
私が居なくても――片倉様がいれば、伊達は栄華を築ける
それでは一体、私は何のためにここにいるのだろう
武田の誘いを断って、武田に譲り渡すはずだった美稜の兵達を半分以上も引き連れて……
「……そうでございますね
少し足を止めて、姫様が戦う意味をいま一度お考えになるのも、良いことやもしれませぬ」
立ち止まってもいい
ただ、後ろは振り返るな
夢現で彦一郎様に言われた言葉を思い出す
「……そうね」
それだけを答えて、私は横になった
せいぜい考えるとしよう
私がここにいる意味とやらを
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