Episode.2-8
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廃寺で数日を過ごした後、伊達軍はそこを後にした
威勢のいい軍勢をひと目見ようと道沿いに顔を出した民達が目にしたのは、ぼろぼろの身体を引き摺るように帰ってゆく蒼の一団
彼らにはこんな姿を見せたくはなかった
……そして、明け方
山々の間から朝日が顔を出そうかという時刻
……満身創痍の伊達軍は、伊達屋敷へと帰還した
兵の二人がその門を開ける
「……チッ……」
豊臣へ負けたことへの怒りか、片倉様を救い出さんとする焦燥からか
政宗様が舌打ちをした
その腰の六爪には、ひとつ空きがある
「すいやせん、筆頭……」
「摺上原で、どうしても六爪の残り一振りを見つけられなくて……」
「……No problem.
これだけありゃ、上等だ」
落ち込む孫と文七に向かって僅かに笑みを見せ
政宗様は屋敷へと入っていった
「殿、よくぞご無事で……」
出迎えに来た千夜が政宗様に頭を下げる
それから私を見て唇をきつく結んだ
「姫様、手当てを」
「いいわ
もうしてもらってるから」
「ここへ戻られる道中で、また開いたやも知れませぬ
なにとぞ手当てをなさいますよう」
「……ええ」
その前に、するべきことがある
ひとり屋敷の中へと歩いていく政宗様の背中が、どこか頼りなさげに見えた
精神的な支えを失った彼を、少しでも支えてあげられるなら……
千夜もそれを悟ったのか、何も言わずに頭を下げて、屋敷の奥に戻っていった
「あんた達は、傷の手当と新しい軍馬の手配をしなさい
刀の刃こぼれが激しい者は、鍛冶屋に出すのはひとまず先にして、新しい刀剣を使うように」
「「はいッ!!」」
全員が即座に動く
どうやらここに美稜衆はいないようだ
摺上原での一報を聞いて、領内に戻ったのだろう
成実様と綱元様もおられない様子を見ると、屋敷周辺の守備固めは解かれたようだ
次の出陣がいつになるかはまだ不明だけれど、しばらくは動けないことになる
馬の数は足りているにしても、兵糧や道中の路銀の用意もあるし……
(やることが山積みだわ
でもまずは、何よりも……)
政宗様の去り際のお背中が脳裏に焼き付いている
後で声をお掛けしておこう
そう思いつつも、ぼんやりと兵達の動きを見つめていると、文七が走り寄ってきた
「あの……姐御
筆頭のこと、お願いします」
「え……?」
「筆頭、多分今すごく不安なんだと思います
だから……」
言いたいことが分かって、笑みを浮かべる
元よりそのつもりだ――期待に添えられるかは分からないけれど
「ええ、任せて
文七も次の出陣に向けて準備しなさい」
「……はい!」
文七がほっとしたように笑みを浮かべて、兵たちの方に戻っていく
それを見送って、私は政宗様が向かわれたであろう先へと踵を返した
*********************
「はぁー……」
厩へ向かいながら、左馬助が大きなため息を吐き出した
その両隣には、いつもの三人が並んでいる
「なんだよ左馬、デッケェため息ついて」
「良直は鈍くていいよなァ……」
「アァ!?」
「姐御の様子、おかしかったろ」
「……姐御が?」
三人の視線が文七郎へ向かう
先程、文七郎は美稜綾葉に伊達政宗のことを頼んだばかりだ
「いや……いつも通りに見えた、けど」
その時のことを思い出しながら呟くと、左馬助はやはり首を振って
それからぽつりと言った
「姐御、片倉様の代わりにならなきゃって、変な気負い方してる気がすんだよなぁ」
「そりゃあ、そんなのは俺達だって……」
「筆頭にとって、片倉様は特別なお人だろ
奥州最強の、竜の右目だ
それに代わって、作戦の立案から軍の指揮から、果てには筆頭の背中を守るってことまで、全部やろうとしてる気がする」
「……姐御、無理してないといいな」
孫兵衛が誰に言うでもなく呟く
初夏のちょっとした騒動は、まだ伊達の兵達の記憶にも新しい
竹を割ったようにさっぱりとした性格に見えて、美稜綾葉は背負い込みやすいと気付かされたのも、その時だった
「でも俺らが言っても、姐御は聞いちゃくれねぇだろうし……」
「なぁ、もしかしてだけどさ……
姐御に筆頭のこと頼んだの、まずかったかな……」
「でも姐御以外に今、筆頭のこと任せられる人もいないのは事実だしよ……」
「姐御にはあんまり無理してほしくないなぁ……」
とうとう四人揃って大きなため息が出る
屋敷の厩は、通り過ぎていた
威勢のいい軍勢をひと目見ようと道沿いに顔を出した民達が目にしたのは、ぼろぼろの身体を引き摺るように帰ってゆく蒼の一団
彼らにはこんな姿を見せたくはなかった
……そして、明け方
山々の間から朝日が顔を出そうかという時刻
……満身創痍の伊達軍は、伊達屋敷へと帰還した
兵の二人がその門を開ける
「……チッ……」
豊臣へ負けたことへの怒りか、片倉様を救い出さんとする焦燥からか
政宗様が舌打ちをした
その腰の六爪には、ひとつ空きがある
「すいやせん、筆頭……」
「摺上原で、どうしても六爪の残り一振りを見つけられなくて……」
「……No problem.
これだけありゃ、上等だ」
落ち込む孫と文七に向かって僅かに笑みを見せ
政宗様は屋敷へと入っていった
「殿、よくぞご無事で……」
出迎えに来た千夜が政宗様に頭を下げる
それから私を見て唇をきつく結んだ
「姫様、手当てを」
「いいわ
もうしてもらってるから」
「ここへ戻られる道中で、また開いたやも知れませぬ
なにとぞ手当てをなさいますよう」
「……ええ」
その前に、するべきことがある
ひとり屋敷の中へと歩いていく政宗様の背中が、どこか頼りなさげに見えた
精神的な支えを失った彼を、少しでも支えてあげられるなら……
千夜もそれを悟ったのか、何も言わずに頭を下げて、屋敷の奥に戻っていった
「あんた達は、傷の手当と新しい軍馬の手配をしなさい
刀の刃こぼれが激しい者は、鍛冶屋に出すのはひとまず先にして、新しい刀剣を使うように」
「「はいッ!!」」
全員が即座に動く
どうやらここに美稜衆はいないようだ
摺上原での一報を聞いて、領内に戻ったのだろう
成実様と綱元様もおられない様子を見ると、屋敷周辺の守備固めは解かれたようだ
次の出陣がいつになるかはまだ不明だけれど、しばらくは動けないことになる
馬の数は足りているにしても、兵糧や道中の路銀の用意もあるし……
(やることが山積みだわ
でもまずは、何よりも……)
政宗様の去り際のお背中が脳裏に焼き付いている
後で声をお掛けしておこう
そう思いつつも、ぼんやりと兵達の動きを見つめていると、文七が走り寄ってきた
「あの……姐御
筆頭のこと、お願いします」
「え……?」
「筆頭、多分今すごく不安なんだと思います
だから……」
言いたいことが分かって、笑みを浮かべる
元よりそのつもりだ――期待に添えられるかは分からないけれど
「ええ、任せて
文七も次の出陣に向けて準備しなさい」
「……はい!」
文七がほっとしたように笑みを浮かべて、兵たちの方に戻っていく
それを見送って、私は政宗様が向かわれたであろう先へと踵を返した
*********************
「はぁー……」
厩へ向かいながら、左馬助が大きなため息を吐き出した
その両隣には、いつもの三人が並んでいる
「なんだよ左馬、デッケェため息ついて」
「良直は鈍くていいよなァ……」
「アァ!?」
「姐御の様子、おかしかったろ」
「……姐御が?」
三人の視線が文七郎へ向かう
先程、文七郎は美稜綾葉に伊達政宗のことを頼んだばかりだ
「いや……いつも通りに見えた、けど」
その時のことを思い出しながら呟くと、左馬助はやはり首を振って
それからぽつりと言った
「姐御、片倉様の代わりにならなきゃって、変な気負い方してる気がすんだよなぁ」
「そりゃあ、そんなのは俺達だって……」
「筆頭にとって、片倉様は特別なお人だろ
奥州最強の、竜の右目だ
それに代わって、作戦の立案から軍の指揮から、果てには筆頭の背中を守るってことまで、全部やろうとしてる気がする」
「……姐御、無理してないといいな」
孫兵衛が誰に言うでもなく呟く
初夏のちょっとした騒動は、まだ伊達の兵達の記憶にも新しい
竹を割ったようにさっぱりとした性格に見えて、美稜綾葉は背負い込みやすいと気付かされたのも、その時だった
「でも俺らが言っても、姐御は聞いちゃくれねぇだろうし……」
「なぁ、もしかしてだけどさ……
姐御に筆頭のこと頼んだの、まずかったかな……」
「でも姐御以外に今、筆頭のこと任せられる人もいないのは事実だしよ……」
「姐御にはあんまり無理してほしくないなぁ……」
とうとう四人揃って大きなため息が出る
屋敷の厩は、通り過ぎていた
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