Episode.03
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春先の軍議から少しばかり時は過ぎ、卯月の頃
私たち伊達軍は川中島を目指していた
時刻は夜
目指すは妻女山
上杉軍の背後を取るためだ
「いいかテメェら!
越後の軍神とやらを背中から蹴散らして、一気に川向こうの武田へ突っ込むぜ!」
「「Yeahー!!」」
「甲斐の虎の首を取ったら、そのままnonstopで駿河へ向かう!
All right!?」
「「Yeahー!!」」
兵士たちの相槌を背中で聞きながら、私は木々の切れ間から見える妻女山を見つめていた
篝火と、上杉の旗印である「毘」の文字
確かにそこに上杉軍があると示している
……けれど
不安が拭えないのも事実だ
これだけの大騒ぎ、軍神と名高い上杉謙信が気付かぬはずもない
「政宗様」
私の斜め前を走る片倉様が、政宗様を呼んだ
その横顔はいつになく険しさを帯びている
「アン?
どした、小十郎?」
「全軍を止めて、今一度、妻女山へ斥候を出しましょう」
「Han?」
「不穏です
まるで我々を待ち受けているような……」
「Ha!
上等じゃねえか
気取られてもおかしかねえ」
「しかし、それでは奇襲になりません!」
「No problem!
行くぜ、小十郎!」
まったく、軍師の忠言を『問題ない』で一蹴するとは、政宗様らしい
それは時に頼もしくもあるのだけれど……
万が一、我が軍に勝機なしと場が決したときは、政宗様を退却させられるように覚悟をしておかなければ
* * *
妻女山へたどり着いた私達が目にしたのは、上杉本陣――だったもの
そこに上杉本隊はなく、篝火と旗が残るだけだった
「武田のオッサンとの戦いに出向いちまったあとみてえだな」
「あるいは、罠かも知れません」
「どちらにせよ、気取られていたということです
政宗様、如何いたしますか――」
――その時
前方から、地響きと掛け声が聞こえてきた
明らかにそれは軍勢を率いているものだ
「前方、何か来ます」
「上杉か?」
「まさか
上杉は我々との戦いを避けたのです
わざわざ戻ってくるはずがございませんでしょう?」
「……だよな
とすると……」
まさか武田が、上杉の代わりに伊達を妻女山で足止めしようとしている?
武田と上杉は、幾度も川中島で戦い、決着をつけられずにいる
今回こそ好敵手と雌雄を決するべく、その邪魔立てを許さぬためにわざわざ別働隊を差し向けたとでも?
武田信玄の目論見に思い至らぬ間にも、軍勢の足音はすぐそこまで近付いてくる
そして――その一軍は現れた
「全軍停止!
止まれぇいっ!!」
政宗様と対照的な、真っ赤な装束の武将がそう指示を出し、一軍は私達と向かい合って動きを止めた
率いていた若武者は馬から飛び降りて、得物の二槍を構えて着地し、そして政宗様を見てはっと目を見開いた
「弦月の前立てに隻眼……
もしや、奥州の独眼竜!?」
……有名になったものだな、この方も
赤い武将の部下たちが一様に囁き合う
よもや奥州の伊達軍が川中島にいるとは、誰も思うまい
その心中は察してあまりある
(しかしこの若武者、どこかで見覚えがあるような……
気のせいかしら……?)
過去の記憶と照らし合わせても、ぴったりと当てはまる顔が浮かぶような、浮かばないような感じだ
「某は真田源二郎幸村!
奥州筆頭・伊達政宗殿とお見受けする!」
その武将――真田幸村はそう名乗りを上げた
(真田?)
……真田幸村?
真田と言えば、間違いなく武田に属する家だ
美稜家も武田一門の端くれだったから、真田家の人間とは多少なり面識がある
……とは言っても、私はあまり表に出ることもなかったので、真田の家の者とは二度ほど顔を合わせただろうか、くらいのものであるけれど
「なにゆえ貴殿がここに!?
上杉軍は何処へ……」
その問いかけで私の予想も外れていたのを知った
この一軍は武田が伊達に差し向けたのではなく、一向に動かぬ上杉をつつくためのものだったということ……?
それにしては腑に落ちない点がいくつかある
武田信玄の意図を読み取ろうと思案を巡らす私を差し置き、政宗様はふっと目の前の真田幸村を笑った
「……赤いの」
「赤っ……!?
無礼な!」
「アンタさしずめ、武田の捨て駒ってところだな」
そう言い放って自分も馬から飛び降りる
手は既に六爪のうちのひと振りに掛かっていた
「俺は上杉を追って川中島に攻め込む」
「なっ……!」
「取って返して加勢するか、ここで俺を食い止めるか――
どっちにしても、伊達の一人勝ちは見えてるがな」
「貴殿が勝つと申す、その根拠が分からぬ!」
「独眼竜は伊達じゃねえってことだ……
You see?」
(政宗様、それは理由になっておりません)
……の一言は、言わないことにした
流石の私も、そこまで空気が読めない馬鹿ではない
「お館様と謙信公の勝負に、水を差させるわけにはゆかぬ……!」
「上等……
小十郎、若葉
誰にも手ぇ出させるんじゃねえぜ」
「承知」
「御心のままに」
分かりきったことを申されるものだ
そもそも他人が手出しなどできる状態にならないと思う
「真田幸村、全力でお相手いたす!」
「奥州筆頭・伊達政宗……」
「いざ尋常に、勝負!」
「推して参る!」
そう二人が叫んだ直後、ふっと篝火が消えた
それを合図に、二人が気を纏って飛び出した
互いに咆哮を上げて、最初に動いたのは政宗様だ
鋭い一撃が真田幸村を襲う
その一太刀を、真田幸村は槍を交差させて防いでいた
「筆頭の一撃を止めやがった!」
「やるなあ、真田幸村……」
あの一太刀を受け止めたことに感心はすれど、実力は今の一瞬で透けて見えた
彼は槍、政宗様は太刀
間合いは遥かに向こうの方が遠いのに、彼はその侵入を許した
「Ha!
槍使いが速攻で間合いに入られちゃ形無しだな!」
「ぐっ……
うぉぉお!!」
政宗さんの刀を弾き、真田幸村が素早い突きを繰り出す
それを余裕の表情でかわしていた時、政宗さんの兜の左側を槍が掠めた
真田幸村は一瞬目を見張り、ニッと笑って見せる
……なるほど、その程度か
片倉様が政宗様の勝ちを確信しているのも当然だ
「掠ったくらいで気を緩めるんじゃねえ!」
バサラを纏わせた一刀が真田幸村を襲う
それを弾きかえし、真田幸村も攻撃に転じた
バサラの激突で爆風が周囲を襲う
単純な力で言えば互角かもしれない
「夜が明ける前に、どうにか片が付けばいいけれど……」
「え?
なんで明け方までなんスか?」
不思議そうに左馬助が尋ねてきて、私は川中島の――両者が睨み合っているであろう方角を向いた
ここは妻女山、上杉軍が陣を敷いた場所
「分からない?
上杉軍と武田軍、相当の陣容ではあるけれど、今から移動すれば夜明けには着くわよ、ここに」
「ってことは……」
孫兵衛と文七郎も気付いたようだ
良直は両隣を交互に見やっていた――こちらは気付いていないらしい
「……ええ
夜明けまでに決着がつかなければ、囲まれるかもしれないわね」
――武田と上杉、両軍に
苛烈さを増す二人の戦いから目を離さぬ伊達の軍師も、その可能性を考えていないはずはない
「片倉様
退却のご指示を出されたときは、私が殿を務めます」
「……ああ」
片倉様は二人から目を逸らさぬまま、ただひとつ頷いた
私にとっては、それで充分だ
私たち伊達軍は川中島を目指していた
時刻は夜
目指すは妻女山
上杉軍の背後を取るためだ
「いいかテメェら!
越後の軍神とやらを背中から蹴散らして、一気に川向こうの武田へ突っ込むぜ!」
「「Yeahー!!」」
「甲斐の虎の首を取ったら、そのままnonstopで駿河へ向かう!
All right!?」
「「Yeahー!!」」
兵士たちの相槌を背中で聞きながら、私は木々の切れ間から見える妻女山を見つめていた
篝火と、上杉の旗印である「毘」の文字
確かにそこに上杉軍があると示している
……けれど
不安が拭えないのも事実だ
これだけの大騒ぎ、軍神と名高い上杉謙信が気付かぬはずもない
「政宗様」
私の斜め前を走る片倉様が、政宗様を呼んだ
その横顔はいつになく険しさを帯びている
「アン?
どした、小十郎?」
「全軍を止めて、今一度、妻女山へ斥候を出しましょう」
「Han?」
「不穏です
まるで我々を待ち受けているような……」
「Ha!
上等じゃねえか
気取られてもおかしかねえ」
「しかし、それでは奇襲になりません!」
「No problem!
行くぜ、小十郎!」
まったく、軍師の忠言を『問題ない』で一蹴するとは、政宗様らしい
それは時に頼もしくもあるのだけれど……
万が一、我が軍に勝機なしと場が決したときは、政宗様を退却させられるように覚悟をしておかなければ
* * *
妻女山へたどり着いた私達が目にしたのは、上杉本陣――だったもの
そこに上杉本隊はなく、篝火と旗が残るだけだった
「武田のオッサンとの戦いに出向いちまったあとみてえだな」
「あるいは、罠かも知れません」
「どちらにせよ、気取られていたということです
政宗様、如何いたしますか――」
――その時
前方から、地響きと掛け声が聞こえてきた
明らかにそれは軍勢を率いているものだ
「前方、何か来ます」
「上杉か?」
「まさか
上杉は我々との戦いを避けたのです
わざわざ戻ってくるはずがございませんでしょう?」
「……だよな
とすると……」
まさか武田が、上杉の代わりに伊達を妻女山で足止めしようとしている?
武田と上杉は、幾度も川中島で戦い、決着をつけられずにいる
今回こそ好敵手と雌雄を決するべく、その邪魔立てを許さぬためにわざわざ別働隊を差し向けたとでも?
武田信玄の目論見に思い至らぬ間にも、軍勢の足音はすぐそこまで近付いてくる
そして――その一軍は現れた
「全軍停止!
止まれぇいっ!!」
政宗様と対照的な、真っ赤な装束の武将がそう指示を出し、一軍は私達と向かい合って動きを止めた
率いていた若武者は馬から飛び降りて、得物の二槍を構えて着地し、そして政宗様を見てはっと目を見開いた
「弦月の前立てに隻眼……
もしや、奥州の独眼竜!?」
……有名になったものだな、この方も
赤い武将の部下たちが一様に囁き合う
よもや奥州の伊達軍が川中島にいるとは、誰も思うまい
その心中は察してあまりある
(しかしこの若武者、どこかで見覚えがあるような……
気のせいかしら……?)
過去の記憶と照らし合わせても、ぴったりと当てはまる顔が浮かぶような、浮かばないような感じだ
「某は真田源二郎幸村!
奥州筆頭・伊達政宗殿とお見受けする!」
その武将――真田幸村はそう名乗りを上げた
(真田?)
……真田幸村?
真田と言えば、間違いなく武田に属する家だ
美稜家も武田一門の端くれだったから、真田家の人間とは多少なり面識がある
……とは言っても、私はあまり表に出ることもなかったので、真田の家の者とは二度ほど顔を合わせただろうか、くらいのものであるけれど
「なにゆえ貴殿がここに!?
上杉軍は何処へ……」
その問いかけで私の予想も外れていたのを知った
この一軍は武田が伊達に差し向けたのではなく、一向に動かぬ上杉をつつくためのものだったということ……?
それにしては腑に落ちない点がいくつかある
武田信玄の意図を読み取ろうと思案を巡らす私を差し置き、政宗様はふっと目の前の真田幸村を笑った
「……赤いの」
「赤っ……!?
無礼な!」
「アンタさしずめ、武田の捨て駒ってところだな」
そう言い放って自分も馬から飛び降りる
手は既に六爪のうちのひと振りに掛かっていた
「俺は上杉を追って川中島に攻め込む」
「なっ……!」
「取って返して加勢するか、ここで俺を食い止めるか――
どっちにしても、伊達の一人勝ちは見えてるがな」
「貴殿が勝つと申す、その根拠が分からぬ!」
「独眼竜は伊達じゃねえってことだ……
You see?」
(政宗様、それは理由になっておりません)
……の一言は、言わないことにした
流石の私も、そこまで空気が読めない馬鹿ではない
「お館様と謙信公の勝負に、水を差させるわけにはゆかぬ……!」
「上等……
小十郎、若葉
誰にも手ぇ出させるんじゃねえぜ」
「承知」
「御心のままに」
分かりきったことを申されるものだ
そもそも他人が手出しなどできる状態にならないと思う
「真田幸村、全力でお相手いたす!」
「奥州筆頭・伊達政宗……」
「いざ尋常に、勝負!」
「推して参る!」
そう二人が叫んだ直後、ふっと篝火が消えた
それを合図に、二人が気を纏って飛び出した
互いに咆哮を上げて、最初に動いたのは政宗様だ
鋭い一撃が真田幸村を襲う
その一太刀を、真田幸村は槍を交差させて防いでいた
「筆頭の一撃を止めやがった!」
「やるなあ、真田幸村……」
あの一太刀を受け止めたことに感心はすれど、実力は今の一瞬で透けて見えた
彼は槍、政宗様は太刀
間合いは遥かに向こうの方が遠いのに、彼はその侵入を許した
「Ha!
槍使いが速攻で間合いに入られちゃ形無しだな!」
「ぐっ……
うぉぉお!!」
政宗さんの刀を弾き、真田幸村が素早い突きを繰り出す
それを余裕の表情でかわしていた時、政宗さんの兜の左側を槍が掠めた
真田幸村は一瞬目を見張り、ニッと笑って見せる
……なるほど、その程度か
片倉様が政宗様の勝ちを確信しているのも当然だ
「掠ったくらいで気を緩めるんじゃねえ!」
バサラを纏わせた一刀が真田幸村を襲う
それを弾きかえし、真田幸村も攻撃に転じた
バサラの激突で爆風が周囲を襲う
単純な力で言えば互角かもしれない
「夜が明ける前に、どうにか片が付けばいいけれど……」
「え?
なんで明け方までなんスか?」
不思議そうに左馬助が尋ねてきて、私は川中島の――両者が睨み合っているであろう方角を向いた
ここは妻女山、上杉軍が陣を敷いた場所
「分からない?
上杉軍と武田軍、相当の陣容ではあるけれど、今から移動すれば夜明けには着くわよ、ここに」
「ってことは……」
孫兵衛と文七郎も気付いたようだ
良直は両隣を交互に見やっていた――こちらは気付いていないらしい
「……ええ
夜明けまでに決着がつかなければ、囲まれるかもしれないわね」
――武田と上杉、両軍に
苛烈さを増す二人の戦いから目を離さぬ伊達の軍師も、その可能性を考えていないはずはない
「片倉様
退却のご指示を出されたときは、私が殿を務めます」
「……ああ」
片倉様は二人から目を逸らさぬまま、ただひとつ頷いた
私にとっては、それで充分だ
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