Episode.23
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
季節は巡り、一回りして暑い夏の頃――
どの軍も、昨年の春先にあった魔王討伐で負った傷は完全に癒え、日ノ本は変わらず乱世が続いている
各地で新たな戦乱が起き始めていることは、斥候の持ち帰る情報からも見て取れた
それは勿論、ここ奥州でも――
「――政宗様!」
私と政宗様の二人で、伊達衆に稽古をつけていた時
道場内に片倉様の声が響いた
「どうした、小十郎
慌てるなんざお前らしくねえじゃねえか」
「は……
しかし、それどころでは」
「なんかあったんスか?」
稽古の手を止めて家臣たちが集まってくる
片倉様はひとつ息を整え、政宗様へ告げた
「――川中島です」
「……!」
その地名に、誰もが反応した
川中島と言えば、昨年の春に武田と上杉が相見え、伊達軍が乱入した場所
結果、そこでは武田と上杉の決着はつかず、蒼紅の出逢いという意外な結末で幕を閉じたものだけれど
「……もうおっ始めようってのか
悠長に構えてる暇はねえな」
肩を竦めてみせる中にも、そこに乱入する気が満々の色が見える
にっと口角を上げた奥州筆頭へ、家臣達も一気に沸き立った
「筆頭!」
「やっぱ行くんスか!」
「お供しますぜ筆頭!」
元々が荒事を好む奴らの集まり
怪我が治れば戦をしたがるのも無理はない
「……忙しくなるぜ」
にやりと笑う政宗さんに家臣たちが色めき立つ
そうして政宗様は片倉様へと指示を出した
「小十郎!
甲斐と越後に斥候を出せ
詳しい日取りが分かったら久々のPartyとしゃれ込むぜ!」
「承知」
片倉様が道場から出て行く
その横顔もどこか楽しそうだ
それを見届け、政宗様が私たち家臣を振り返った
「バテてる暇はねえ!
どこからでも打ってこい!」
「ええ!?
筆頭に向かってなんて無理っス!
片倉様になんて言われるか!」
「私が許す!
構いませんね、政宗様?」
「「ええぇ!?」」
どうせ政宗様に勝てる人なんて、片倉様以外にいやしないのだから
私達が束になったって、このお方には敵わない
「Come on!
Are you ready!?」
「「……Yeahーー!!」」
全員吹っ切れたのか、はたまたどうにでもなれと思ったのか……
その場を政宗様に任せ、こっそりと道場を抜け出した
剣術のこととなると、火縄が専門の私は出番がないのだ
さて、このまま今日の稽古を切り上げるか、場所を変えて稽古を続けるか、どうしたものか
抜けるような青空が広がっていて、眩しさに目を細める
立ち止まって白綿の雲を見つめていると、静かな足音が私の横で止まった
「――姫様」
左側から声をかけられ、視線を空から移す
そこには、私の侍女が立っていた
「千夜」
「本日の稽古もお疲れ様でございました」
「ええ、ありがとう
……片倉様から話は聞いてる?」
「はい
近く、武田と上杉が刃を交えると」
「私達も出陣するわ」
千夜は何も言わなかった
ただ私を見つめるのみだけれど、眼差しには不安の色がある
「川中島に乱入してどちらか、あるいはいずれとも獲る」
「……可能とは思えませぬが」
「出来るか出来ないかじゃないわ
やるか、やらないか
それだけよ」
「……失礼いたしました
ご武運をお祈りしております」
「留守の間は任せたわよ」
「はい
姫様達が戻られるまで、命に代えても奥州美稜のお屋敷をお守りいたします」
「ええ、お願いね
……大丈夫よ、片倉様は簡単にやられるほどヤワじゃないから」
「えっ、それは……
充分承知しております……」
千夜がほんのりと頬を染める
……あれから、千夜は片倉様と恋仲になった
今では時折、二人で仲良く談笑する姿が、屋敷の中で見られるようになったものだ
それを温かい目で見守る伊達家臣と政宗様と私――という構図が、最近の伊達軍の日常だ
「姫様、殿より二丁銃の新しい弾丸が納入されたとのことです」
「本当?
分かったわ、ありがとう」
「……私も戦場で鮮やかに舞う姫様を見てみとうございます」
「気持ちは嬉しいけれど……
戦場に千夜を連れては行けないものね」
「ふふ、心得ておりますよ
お召し替えをお手伝いいたします」
「お願いするわ」
どこか楽しげに千夜が私の後ろを歩いてくる
何か良いことでもあったのかしら
「千夜?」
「はい?」
「どうかしたの?
楽しそうだけれど……」
「そうですか?
それは……ふふ、秘密でございます」
「片倉様と何かあった?」
「小十郎様は関係ございません」
即答されてしまった、ということは片倉絡みではないということだ
だったら何かしら……
「……千夜が楽しそうにしてるって言ったら、私か片倉様に関することくらいよね」
「なぜそう断定されるのでしょう……」
「分かるわよ
千夜ったら自分のことは後回しで、一に姫様、二に片倉様って感じだもの」
「うっ……
そ、それは、姫様にお仕えする者として当然の心構えでっ」
「その気持ちは嬉しいけれど、もう少し自分のことにも気を遣いなさい」
「そうですね、姫様がお幸せになられたらそうします」
「そこは譲らないわけね……」
「ここだけは譲ることはできませぬ」
笑顔での即答だ
これは何を言っても考えを曲げないか……
頑固というか、何というか
「……姫様
小十郎様から、良からぬ話を聞いたのです」
「良からぬ話?」
先程とは打って変わって、千夜が声の高さを落とした
それは正しく、主君へ忠言致さんとする家臣のそれだ
私も揶揄うような素振りをやめ、千夜に向き直った
「ええ、何でも西のほう……
大坂に居を構える豊臣に動きがあると」
「豊臣……」
「川中島での戦に、何も関与がなければ良いのですが」
「……何かしらの情報漏れはあると思うわ
現に伊達がその情報を仕入れているから
でも向こうからすれば、川中島に武田と上杉がいるのは承知でも、伊達がいるのは想定外よ
もし何かしらの関与があったとしても、伊達がいることで虚をつくこともできるわ」
「……そうでございますね
ともかく私は、姫様方が無事戻ってこられますよう、八幡神にお祈りしております」
「いいわね、それ
片倉様に成島神社まで連れて行っていただいたら?」
「ふふ、それも良うございますね」
千夜の顔に笑みが戻る
出陣する前に不安を残してはいけない
それにしても、魔王を討ち果たしたと思ったら、また新たな一大勢力の出現となるか
覇王・豊臣秀吉
一体、どれ程のものなのだろう
どの軍も、昨年の春先にあった魔王討伐で負った傷は完全に癒え、日ノ本は変わらず乱世が続いている
各地で新たな戦乱が起き始めていることは、斥候の持ち帰る情報からも見て取れた
それは勿論、ここ奥州でも――
「――政宗様!」
私と政宗様の二人で、伊達衆に稽古をつけていた時
道場内に片倉様の声が響いた
「どうした、小十郎
慌てるなんざお前らしくねえじゃねえか」
「は……
しかし、それどころでは」
「なんかあったんスか?」
稽古の手を止めて家臣たちが集まってくる
片倉様はひとつ息を整え、政宗様へ告げた
「――川中島です」
「……!」
その地名に、誰もが反応した
川中島と言えば、昨年の春に武田と上杉が相見え、伊達軍が乱入した場所
結果、そこでは武田と上杉の決着はつかず、蒼紅の出逢いという意外な結末で幕を閉じたものだけれど
「……もうおっ始めようってのか
悠長に構えてる暇はねえな」
肩を竦めてみせる中にも、そこに乱入する気が満々の色が見える
にっと口角を上げた奥州筆頭へ、家臣達も一気に沸き立った
「筆頭!」
「やっぱ行くんスか!」
「お供しますぜ筆頭!」
元々が荒事を好む奴らの集まり
怪我が治れば戦をしたがるのも無理はない
「……忙しくなるぜ」
にやりと笑う政宗さんに家臣たちが色めき立つ
そうして政宗様は片倉様へと指示を出した
「小十郎!
甲斐と越後に斥候を出せ
詳しい日取りが分かったら久々のPartyとしゃれ込むぜ!」
「承知」
片倉様が道場から出て行く
その横顔もどこか楽しそうだ
それを見届け、政宗様が私たち家臣を振り返った
「バテてる暇はねえ!
どこからでも打ってこい!」
「ええ!?
筆頭に向かってなんて無理っス!
片倉様になんて言われるか!」
「私が許す!
構いませんね、政宗様?」
「「ええぇ!?」」
どうせ政宗様に勝てる人なんて、片倉様以外にいやしないのだから
私達が束になったって、このお方には敵わない
「Come on!
Are you ready!?」
「「……Yeahーー!!」」
全員吹っ切れたのか、はたまたどうにでもなれと思ったのか……
その場を政宗様に任せ、こっそりと道場を抜け出した
剣術のこととなると、火縄が専門の私は出番がないのだ
さて、このまま今日の稽古を切り上げるか、場所を変えて稽古を続けるか、どうしたものか
抜けるような青空が広がっていて、眩しさに目を細める
立ち止まって白綿の雲を見つめていると、静かな足音が私の横で止まった
「――姫様」
左側から声をかけられ、視線を空から移す
そこには、私の侍女が立っていた
「千夜」
「本日の稽古もお疲れ様でございました」
「ええ、ありがとう
……片倉様から話は聞いてる?」
「はい
近く、武田と上杉が刃を交えると」
「私達も出陣するわ」
千夜は何も言わなかった
ただ私を見つめるのみだけれど、眼差しには不安の色がある
「川中島に乱入してどちらか、あるいはいずれとも獲る」
「……可能とは思えませぬが」
「出来るか出来ないかじゃないわ
やるか、やらないか
それだけよ」
「……失礼いたしました
ご武運をお祈りしております」
「留守の間は任せたわよ」
「はい
姫様達が戻られるまで、命に代えても奥州美稜のお屋敷をお守りいたします」
「ええ、お願いね
……大丈夫よ、片倉様は簡単にやられるほどヤワじゃないから」
「えっ、それは……
充分承知しております……」
千夜がほんのりと頬を染める
……あれから、千夜は片倉様と恋仲になった
今では時折、二人で仲良く談笑する姿が、屋敷の中で見られるようになったものだ
それを温かい目で見守る伊達家臣と政宗様と私――という構図が、最近の伊達軍の日常だ
「姫様、殿より二丁銃の新しい弾丸が納入されたとのことです」
「本当?
分かったわ、ありがとう」
「……私も戦場で鮮やかに舞う姫様を見てみとうございます」
「気持ちは嬉しいけれど……
戦場に千夜を連れては行けないものね」
「ふふ、心得ておりますよ
お召し替えをお手伝いいたします」
「お願いするわ」
どこか楽しげに千夜が私の後ろを歩いてくる
何か良いことでもあったのかしら
「千夜?」
「はい?」
「どうかしたの?
楽しそうだけれど……」
「そうですか?
それは……ふふ、秘密でございます」
「片倉様と何かあった?」
「小十郎様は関係ございません」
即答されてしまった、ということは片倉絡みではないということだ
だったら何かしら……
「……千夜が楽しそうにしてるって言ったら、私か片倉様に関することくらいよね」
「なぜそう断定されるのでしょう……」
「分かるわよ
千夜ったら自分のことは後回しで、一に姫様、二に片倉様って感じだもの」
「うっ……
そ、それは、姫様にお仕えする者として当然の心構えでっ」
「その気持ちは嬉しいけれど、もう少し自分のことにも気を遣いなさい」
「そうですね、姫様がお幸せになられたらそうします」
「そこは譲らないわけね……」
「ここだけは譲ることはできませぬ」
笑顔での即答だ
これは何を言っても考えを曲げないか……
頑固というか、何というか
「……姫様
小十郎様から、良からぬ話を聞いたのです」
「良からぬ話?」
先程とは打って変わって、千夜が声の高さを落とした
それは正しく、主君へ忠言致さんとする家臣のそれだ
私も揶揄うような素振りをやめ、千夜に向き直った
「ええ、何でも西のほう……
大坂に居を構える豊臣に動きがあると」
「豊臣……」
「川中島での戦に、何も関与がなければ良いのですが」
「……何かしらの情報漏れはあると思うわ
現に伊達がその情報を仕入れているから
でも向こうからすれば、川中島に武田と上杉がいるのは承知でも、伊達がいるのは想定外よ
もし何かしらの関与があったとしても、伊達がいることで虚をつくこともできるわ」
「……そうでございますね
ともかく私は、姫様方が無事戻ってこられますよう、八幡神にお祈りしております」
「いいわね、それ
片倉様に成島神社まで連れて行っていただいたら?」
「ふふ、それも良うございますね」
千夜の顔に笑みが戻る
出陣する前に不安を残してはいけない
それにしても、魔王を討ち果たしたと思ったら、また新たな一大勢力の出現となるか
覇王・豊臣秀吉
一体、どれ程のものなのだろう
1/5ページ