Episode.21
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夕餉を終え、日も暮れた頃――
千夜の馬酔いも治ったので、改めて双竜へ事情を説明することにした
広間にいるのは双竜と私、そして千夜と真田主従の六人
大物揃いの中に放り込まれた千夜はちょっとだけ緊張気味だ
「改めてご紹介致します
こちらは千夜、私の乳母子でございます
斎藤と美稜では私の侍女を務めておりました」
「お初にお目にかかります
綾葉様の侍女を務めておりました、千夜と申します」
三つ指で千夜が折り目正しく頭を下げる
その仕草の上品さたるや、どちらが武家の妻だったかが怪しいほどだ
「長きにわたり我が姫、綾葉様が大変お世話になりました
美稜家を代表致しまして、厚く御礼申し上げます」
「いや、こいつの働きは大きくうちに貢献してくれた
俺達こそ礼を言うぜ」
政宗様がそうおっしゃって口元に笑みを乗せる
ほっとした表情で千夜が柔らかく微笑んだ
「聞けばアンタも、五年前の美稜攻めで生き残った人間らしいな」
「左様でございます
私も姫様同様、五年前に美稜と織田の戦いを経験致しました」
「相当ひでぇ状況だったと聞いてる、又聞きだがな
アンタも綾葉も、よく生き残ったもんだ
綾葉の乳母子ってこたぁ、アンタも生まれは美濃になるのか」
「はい、その通りでございます
私の生まれも美濃でございまして、生家は斎藤家に仕える小さな武家でございました
私の母が姫様の乳母を務めましたゆえ、私も幼少の頃より、お傍にてお仕えさせていただきました
姫様が信州美稜家へと嫁がれる際、そのまま私も共に美稜家へと参った次第です
それゆえの信頼か、先代美稜家当主も私を姫様付きの侍女に召し抱えてくださいました」
美稜家でも私のために侍女を用意してくれていたようだけれど、結局は私の猜疑心が強かったせいか、千夜以外の侍女を傍に置くことができなかった
彦一郎様はそんな私に対して何を言うわけでもなく、私の過ごしやすいように環境を整えてくれていたように思う
おかげで彦一郎様にものすごく依存した
「事の発端はその一年後……
織田が突如として美稜へ攻め込んできたのでございます
世の理では、城攻めには三倍の兵力がいると聞きます
しかし、その時の織田の兵力は四倍以上でした」
初めて聞く、綾葉攻めの全貌……
同じ歳ながら、どうして千夜はそうも詳しく知っているのだろう
「戦況は厳しくなるばかりで、城の兵糧も底を尽きました
そうしてついに落城となったとき、先代と共に殿が姫と私に申したのです
大金の入った袋を手渡し、一言『生きろ』と」
それは私の記憶にも残っている
そのあと、私は千夜と共に城を抜け出したのだ
火の手が上がる城内を走って、織田の包囲が手薄な場所から逃げようと外に出て……
「それから私は姫様と共に城を抜け出しました
しかし運悪く、織田の兵たちに見つかってしまいまして
武田からの援軍も到着せぬ中、私が取るべき行動はただ一つ
姫様をこの状況から逃がすことでした
生き延びてくださいませと、それだけを伝え、私は姫様への追っ手を防ぐためその場に残りました
曲がりなりにも私も武家の生まれ、薙刀の心得はございます
姫様が逃げるだけの時間稼ぎ程度ならばできると思っておりました
……しかし、敵は私が思うよりも多く、私一人で追っ手を払うことは叶わず……
その時にお助けいただいたのが、若きお侍様でございました
この近くを通りかかったのだとおっしゃっておられましたが、それはとても強いお方で
さらに、私を安全な武田の城下まで送ってくださり……」
「……そいつの名は?
聞いたのか?」
「ええ、もちろんでございます
前田慶次様という名でございました」
……え?
予想していなかった名前が飛び出してきて、千夜以外の全員が固まった
「「前田慶次!?」」
私と政宗様の声が重なる
片倉様もさすがに予想外だったようだ
「え、ええ
もしや、姫様もお会いしたことが?」
「もちろんよ
慶次殿は彦一郎様とも懇意にしていたもの
よく遊びに来ていたわ
……そうか、千夜は侍女だから、表に出るのを控えていたものね」
「はい
それゆえ、あの時が私と前田慶次様が初めて顔を合わせた時ということになります」
「……だから慶次殿は、美稜が落ちたことを知っておられたのね」
色々と納得がいった
てっきり各地を放浪していらっしゃるから、風の噂で耳にしたのだと思っていた
「織田は美稜の城を焼き払って撤退し、私たち美稜の民は領主を失い途方に暮れました
けれど待てども待てども、織田が美稜の地を統べる気は見えず……
現在、旧美稜領はご存じの通り、武田領の一部となっております
私はその旧美稜城下の甘味処でお世話になりながら、姫様の消息を探しておりました」
「そして伊達に美稜の姓を名乗る女がいるって噂を聞いた
そんなところか」
「はい
まさか、本当にこうして姫様と再会できるとは
これこそ神のお導きでございます、八幡神にお祈り申し上げ続けた甲斐がございました」
「八幡神?」
「はい、八幡神は戦の神であらせられます
もし美稜の姓を名乗り戦うお方が姫様であるならば、どうかお守りくださいますように
そして、いつかは再会できますようにとお祈り申し上げておりました」
「……そうか」
いつもなら強面と評される片倉様の表情が柔らかくなる
微かな微笑みを浮かべ、彼は面映ゆそうに目を伏せた
千夜の馬酔いも治ったので、改めて双竜へ事情を説明することにした
広間にいるのは双竜と私、そして千夜と真田主従の六人
大物揃いの中に放り込まれた千夜はちょっとだけ緊張気味だ
「改めてご紹介致します
こちらは千夜、私の乳母子でございます
斎藤と美稜では私の侍女を務めておりました」
「お初にお目にかかります
綾葉様の侍女を務めておりました、千夜と申します」
三つ指で千夜が折り目正しく頭を下げる
その仕草の上品さたるや、どちらが武家の妻だったかが怪しいほどだ
「長きにわたり我が姫、綾葉様が大変お世話になりました
美稜家を代表致しまして、厚く御礼申し上げます」
「いや、こいつの働きは大きくうちに貢献してくれた
俺達こそ礼を言うぜ」
政宗様がそうおっしゃって口元に笑みを乗せる
ほっとした表情で千夜が柔らかく微笑んだ
「聞けばアンタも、五年前の美稜攻めで生き残った人間らしいな」
「左様でございます
私も姫様同様、五年前に美稜と織田の戦いを経験致しました」
「相当ひでぇ状況だったと聞いてる、又聞きだがな
アンタも綾葉も、よく生き残ったもんだ
綾葉の乳母子ってこたぁ、アンタも生まれは美濃になるのか」
「はい、その通りでございます
私の生まれも美濃でございまして、生家は斎藤家に仕える小さな武家でございました
私の母が姫様の乳母を務めましたゆえ、私も幼少の頃より、お傍にてお仕えさせていただきました
姫様が信州美稜家へと嫁がれる際、そのまま私も共に美稜家へと参った次第です
それゆえの信頼か、先代美稜家当主も私を姫様付きの侍女に召し抱えてくださいました」
美稜家でも私のために侍女を用意してくれていたようだけれど、結局は私の猜疑心が強かったせいか、千夜以外の侍女を傍に置くことができなかった
彦一郎様はそんな私に対して何を言うわけでもなく、私の過ごしやすいように環境を整えてくれていたように思う
おかげで彦一郎様にものすごく依存した
「事の発端はその一年後……
織田が突如として美稜へ攻め込んできたのでございます
世の理では、城攻めには三倍の兵力がいると聞きます
しかし、その時の織田の兵力は四倍以上でした」
初めて聞く、綾葉攻めの全貌……
同じ歳ながら、どうして千夜はそうも詳しく知っているのだろう
「戦況は厳しくなるばかりで、城の兵糧も底を尽きました
そうしてついに落城となったとき、先代と共に殿が姫と私に申したのです
大金の入った袋を手渡し、一言『生きろ』と」
それは私の記憶にも残っている
そのあと、私は千夜と共に城を抜け出したのだ
火の手が上がる城内を走って、織田の包囲が手薄な場所から逃げようと外に出て……
「それから私は姫様と共に城を抜け出しました
しかし運悪く、織田の兵たちに見つかってしまいまして
武田からの援軍も到着せぬ中、私が取るべき行動はただ一つ
姫様をこの状況から逃がすことでした
生き延びてくださいませと、それだけを伝え、私は姫様への追っ手を防ぐためその場に残りました
曲がりなりにも私も武家の生まれ、薙刀の心得はございます
姫様が逃げるだけの時間稼ぎ程度ならばできると思っておりました
……しかし、敵は私が思うよりも多く、私一人で追っ手を払うことは叶わず……
その時にお助けいただいたのが、若きお侍様でございました
この近くを通りかかったのだとおっしゃっておられましたが、それはとても強いお方で
さらに、私を安全な武田の城下まで送ってくださり……」
「……そいつの名は?
聞いたのか?」
「ええ、もちろんでございます
前田慶次様という名でございました」
……え?
予想していなかった名前が飛び出してきて、千夜以外の全員が固まった
「「前田慶次!?」」
私と政宗様の声が重なる
片倉様もさすがに予想外だったようだ
「え、ええ
もしや、姫様もお会いしたことが?」
「もちろんよ
慶次殿は彦一郎様とも懇意にしていたもの
よく遊びに来ていたわ
……そうか、千夜は侍女だから、表に出るのを控えていたものね」
「はい
それゆえ、あの時が私と前田慶次様が初めて顔を合わせた時ということになります」
「……だから慶次殿は、美稜が落ちたことを知っておられたのね」
色々と納得がいった
てっきり各地を放浪していらっしゃるから、風の噂で耳にしたのだと思っていた
「織田は美稜の城を焼き払って撤退し、私たち美稜の民は領主を失い途方に暮れました
けれど待てども待てども、織田が美稜の地を統べる気は見えず……
現在、旧美稜領はご存じの通り、武田領の一部となっております
私はその旧美稜城下の甘味処でお世話になりながら、姫様の消息を探しておりました」
「そして伊達に美稜の姓を名乗る女がいるって噂を聞いた
そんなところか」
「はい
まさか、本当にこうして姫様と再会できるとは
これこそ神のお導きでございます、八幡神にお祈り申し上げ続けた甲斐がございました」
「八幡神?」
「はい、八幡神は戦の神であらせられます
もし美稜の姓を名乗り戦うお方が姫様であるならば、どうかお守りくださいますように
そして、いつかは再会できますようにとお祈り申し上げておりました」
「……そうか」
いつもなら強面と評される片倉様の表情が柔らかくなる
微かな微笑みを浮かべ、彼は面映ゆそうに目を伏せた
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