Episode.20
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日が真上から傾いていく
八つ時になった頃、ようやく私達は躑躅ヶ崎館へ辿り着いた
「政宗殿、片倉殿、綾葉殿!
お待ちしており申した!
食事の用意は出来ておりまする!
広間へ参られよ!」
「た、助かったぜ、真田の兄ちゃん……!」
「テメェらは先に行きな
小十郎、綾葉、お前らもだ
俺は後から向かう」
「それは……政宗様がお越しになられる頃には、料理が残っておらぬやもしれません」
「俺はそこまで腹が減ってるわけじゃねぇ
食えるモンさえ残ってりゃ上等だ」
行ってこい、と送り出されて、兵達が屋敷の広間へと上がっていく
どうやら政宗様の天邪鬼な面が出てしまっているようだ
このお方は昔から、そうやって周りに対して痩せ我慢をするから……
「参りましょう、政宗様」
「先に行けっつったろ」
「なりません
これは武田からのもてなしにございます
これを無下にしては、武田への失礼と相成りましょう
お客人を自らの料理でもてなす政宗様ならば、お分かりになるはずです」
正論を突き付けられて政宗様が言葉に詰まる
その背後で片倉様が笑いを堪えていた
「片倉様も、参りましょう!
腹が減っているのは皆同じでございます!」
「ああ、今行く」
「オイ綾葉ッ、テメェは勝手に……」
「真田殿、広間まで案内して下さいますか?」
「承知致し申した!
こちらにござる!」
政宗様の背を押して広間へと向かう
途中で美稜衆とすれ違ったら、彼らは全員綺麗に私を二度見した
広間には、それは美味しそうな料理が並んでいて、もはや取り合いの様相を呈していた
「てめぇら!!
もっと落ち着いて食わねぇか!!」
「す、すんません片倉様!!」
右目の雷が落ちたところで、私達も上座の辺りへ座って食事を頂くことに
味噌汁、米、魚に漬物、何もかもが五臓六腑に染み渡る美味しさだ
「……ま、ちょうどいいbreak timeにはなったか」
「包帯がたりぬ者もおりましたからな」
「長居はしねえぞ」
「承知しておりまする」
諦めた様子で政宗様も食事を進めていく
そうだ、あとで美稜衆には顔を出しておこう
あれでお別れは、やっぱりお互い未練がある
*********************
翌日、包帯を取り替えた私は、その足で真田殿を探していた
屋敷の正面で槍を振るっていた彼を見つけると、真田殿もまた私に気付いて駆け寄って来た
「綾葉殿!
如何な御用向きでござろうか?」
「真田殿、彦一郎様のお墓に参られませんか?」
どうも彦一郎様と真田殿は顔見知りのようであったし、何より今回は共に魔王と戦った仲だ
真田殿が来てくだされば、彦一郎様もお喜びになるだろう
「隆政公の……
ご一緒しても良いのでござろうか?」
「あ、それ俺様も行っていい?
美稜の旦那には色々と世話になったからさ」
「もちろんよ
彦一郎様も喜んでくれるわ」
供はいらない
三人とも恐ろしく腕の立つ武人と忍びだ
政宗様に外出の用件だけ伝えて、躑躅ヶ崎館を出発した
二人で馬を駆り、佐助が並走していく
昼頃には、昨日来たばかりのその領域に再び足を踏み入れた
――旧美稜領は、小さいながらも自然に恵まれたいい土地だ
現在は武田領に統合され、他国の牽制を任されていると聞く
「……ここよ」
かつて美稜一族が居を構えた小さな城の跡地には、石垣以外、何もない
真新しい墓石は陽光を受けて光を反射していた
佐助が花を手向け、二人が膝をついて目を閉じた
「ここで眠ることができ、さぞ隆政公も喜んでおられましょうぞ」
「あの人は美稜の土地とその民が大好きだったからね
そういう意味では、独眼竜の旦那に似てるよ」
「……そうね
二人ともいい領主よ」
政宗様は、この日の本を統べるに足る器を持っている
足元に暮らす者達の痛みを知ることができるのだから
「彦一郎様がね、おっしゃっておられたの
政宗様はきっとこの日ノ本を正しい方向へと導いてくれるって
その竜の天下のもとで暮らせていけたら、きっと幸せなんだろうって……」
その願いは叶うことなく、あのお方は逝ってしまったけれど
政宗様が創る平和な世の中を彦一郎様と共に生きていけたら、どんなに幸せだったか
「綾葉様は、幸せにならなきゃ駄目だぜ」
真剣な声音の佐助が、彦一郎様の墓石を見つめたまま呟いた
「今まで美稜の旦那の仇討ちしか頭になかっただろ?
これからはそんな暗いもののために生きるんじゃなくて、目の前にある綾葉様の幸せのために生きなきゃ」
「私の、幸せ……」
「そ、綾葉様だけの幸せ
今はまだ手にするのは難しいかもしれないけどね
綾葉様自身が、まだ美稜の旦那に心を向けてるから」
すでに彦一郎様は過去の人
あのお方を忘れ、新たな人の伴侶になれ
そう言われているようで、私は言葉を返せなかった
「私は生家も、嫁ぎ先も失った人間よ
あまりにも縁起が悪いもの、誰かと人生を共にするのはやめた方がいいと思ってるわ」
「難しく考えなくていいんじゃない?
あーでも、うーん……時間の問題かもしんないけど」
「え?」
「あの人、長くは待てない性格してるっぽいから
特に自分が手に入れたいものに関しては」
「佐助が知ってる人?」
「俺様も良く知ってるよ、あんま好きじゃないけど」
「政宗様と同じ反応をするのね」
「……うん、まあね」
なぜ今、少しだけ間があったのだろう
不思議に思って見つめると、佐助は気まずそうに頬をかいて視線を逸らした
「……綾葉様ってさあ」
「なぁに?」
「人から求められることに関しては、結構疎いんだ……」
「どういうこと?」
「……何でもない」
私だけでなく、隣で真田殿も首を傾げていた
鈍いだのなんだのとは、そういえば安土で政宗様と片倉様からも言われた気がする
あれも結局、最後まで意味は分からないままだった
八つ時になった頃、ようやく私達は躑躅ヶ崎館へ辿り着いた
「政宗殿、片倉殿、綾葉殿!
お待ちしており申した!
食事の用意は出来ておりまする!
広間へ参られよ!」
「た、助かったぜ、真田の兄ちゃん……!」
「テメェらは先に行きな
小十郎、綾葉、お前らもだ
俺は後から向かう」
「それは……政宗様がお越しになられる頃には、料理が残っておらぬやもしれません」
「俺はそこまで腹が減ってるわけじゃねぇ
食えるモンさえ残ってりゃ上等だ」
行ってこい、と送り出されて、兵達が屋敷の広間へと上がっていく
どうやら政宗様の天邪鬼な面が出てしまっているようだ
このお方は昔から、そうやって周りに対して痩せ我慢をするから……
「参りましょう、政宗様」
「先に行けっつったろ」
「なりません
これは武田からのもてなしにございます
これを無下にしては、武田への失礼と相成りましょう
お客人を自らの料理でもてなす政宗様ならば、お分かりになるはずです」
正論を突き付けられて政宗様が言葉に詰まる
その背後で片倉様が笑いを堪えていた
「片倉様も、参りましょう!
腹が減っているのは皆同じでございます!」
「ああ、今行く」
「オイ綾葉ッ、テメェは勝手に……」
「真田殿、広間まで案内して下さいますか?」
「承知致し申した!
こちらにござる!」
政宗様の背を押して広間へと向かう
途中で美稜衆とすれ違ったら、彼らは全員綺麗に私を二度見した
広間には、それは美味しそうな料理が並んでいて、もはや取り合いの様相を呈していた
「てめぇら!!
もっと落ち着いて食わねぇか!!」
「す、すんません片倉様!!」
右目の雷が落ちたところで、私達も上座の辺りへ座って食事を頂くことに
味噌汁、米、魚に漬物、何もかもが五臓六腑に染み渡る美味しさだ
「……ま、ちょうどいいbreak timeにはなったか」
「包帯がたりぬ者もおりましたからな」
「長居はしねえぞ」
「承知しておりまする」
諦めた様子で政宗様も食事を進めていく
そうだ、あとで美稜衆には顔を出しておこう
あれでお別れは、やっぱりお互い未練がある
*********************
翌日、包帯を取り替えた私は、その足で真田殿を探していた
屋敷の正面で槍を振るっていた彼を見つけると、真田殿もまた私に気付いて駆け寄って来た
「綾葉殿!
如何な御用向きでござろうか?」
「真田殿、彦一郎様のお墓に参られませんか?」
どうも彦一郎様と真田殿は顔見知りのようであったし、何より今回は共に魔王と戦った仲だ
真田殿が来てくだされば、彦一郎様もお喜びになるだろう
「隆政公の……
ご一緒しても良いのでござろうか?」
「あ、それ俺様も行っていい?
美稜の旦那には色々と世話になったからさ」
「もちろんよ
彦一郎様も喜んでくれるわ」
供はいらない
三人とも恐ろしく腕の立つ武人と忍びだ
政宗様に外出の用件だけ伝えて、躑躅ヶ崎館を出発した
二人で馬を駆り、佐助が並走していく
昼頃には、昨日来たばかりのその領域に再び足を踏み入れた
――旧美稜領は、小さいながらも自然に恵まれたいい土地だ
現在は武田領に統合され、他国の牽制を任されていると聞く
「……ここよ」
かつて美稜一族が居を構えた小さな城の跡地には、石垣以外、何もない
真新しい墓石は陽光を受けて光を反射していた
佐助が花を手向け、二人が膝をついて目を閉じた
「ここで眠ることができ、さぞ隆政公も喜んでおられましょうぞ」
「あの人は美稜の土地とその民が大好きだったからね
そういう意味では、独眼竜の旦那に似てるよ」
「……そうね
二人ともいい領主よ」
政宗様は、この日の本を統べるに足る器を持っている
足元に暮らす者達の痛みを知ることができるのだから
「彦一郎様がね、おっしゃっておられたの
政宗様はきっとこの日ノ本を正しい方向へと導いてくれるって
その竜の天下のもとで暮らせていけたら、きっと幸せなんだろうって……」
その願いは叶うことなく、あのお方は逝ってしまったけれど
政宗様が創る平和な世の中を彦一郎様と共に生きていけたら、どんなに幸せだったか
「綾葉様は、幸せにならなきゃ駄目だぜ」
真剣な声音の佐助が、彦一郎様の墓石を見つめたまま呟いた
「今まで美稜の旦那の仇討ちしか頭になかっただろ?
これからはそんな暗いもののために生きるんじゃなくて、目の前にある綾葉様の幸せのために生きなきゃ」
「私の、幸せ……」
「そ、綾葉様だけの幸せ
今はまだ手にするのは難しいかもしれないけどね
綾葉様自身が、まだ美稜の旦那に心を向けてるから」
すでに彦一郎様は過去の人
あのお方を忘れ、新たな人の伴侶になれ
そう言われているようで、私は言葉を返せなかった
「私は生家も、嫁ぎ先も失った人間よ
あまりにも縁起が悪いもの、誰かと人生を共にするのはやめた方がいいと思ってるわ」
「難しく考えなくていいんじゃない?
あーでも、うーん……時間の問題かもしんないけど」
「え?」
「あの人、長くは待てない性格してるっぽいから
特に自分が手に入れたいものに関しては」
「佐助が知ってる人?」
「俺様も良く知ってるよ、あんま好きじゃないけど」
「政宗様と同じ反応をするのね」
「……うん、まあね」
なぜ今、少しだけ間があったのだろう
不思議に思って見つめると、佐助は気まずそうに頬をかいて視線を逸らした
「……綾葉様ってさあ」
「なぁに?」
「人から求められることに関しては、結構疎いんだ……」
「どういうこと?」
「……何でもない」
私だけでなく、隣で真田殿も首を傾げていた
鈍いだのなんだのとは、そういえば安土で政宗様と片倉様からも言われた気がする
あれも結局、最後まで意味は分からないままだった
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