Episode.19
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
周囲の興奮も冷めやらぬ中、政宗様がおられる陣は静かだった
そっと天幕をめくると、中には手当てを施した政宗様がいて、すぐに私に気付いて下さった
「政宗様、若葉……いえ、綾葉でございます」
「入れ」
声をかけると、政宗様は僅かに笑みを浮かべてそう言ってくれた
追い返されなかっただけで万々歳だ
内心で胸を撫で下ろして陣の中へ入った
「来るならそろそろだと思ってたぜ」
床几に座っている政宗様からは疲れも感じ取れる
それも当然だ、あの戦いは本当に満身創痍だったのだから
政宗様の前まで進み出て、そうして膝を着いて頭を垂れる
得物である銃は、持ち手を政宗様へ向けて私の手の届かぬ位置へ置いた
これで彼は、いつでも私を撃つことができる
「姐御ッ!」
「何してんすか、姐御!?」
「Be quiet.
テメェらはそこで黙って見てな」
「ひ、筆頭……」
ここへ来る私の姿を見たからか、伊達の兵たちが集まってきた
けれどそのざわめきを一言で抑え、政宗様が私へと視線を投げかける
「俺に話があるんだろう
聞いてやるぜ、ちょうど小十郎もいることだしな」
「……お疲れのところ、お時間を頂戴して申し訳ございません」
まずは御礼と、そして謝罪をしたく参りました」
「……」
「この度は魔王征討、誠におめでとうございます
我ら美稜も、悲願を果たすことが出来ました」
政宗様も片倉様も無言のままだ
彼らからの答えを期待するわけではなかったので、そのまま私は言葉を重ねた
「そして心よりお詫び申し上げます
私は悲願達成のため、そして生きるため、伊達に対して身分を偽りました
政宗様を心より信頼することが出来なかった証左でもございます
この罰は如何様にもお申し付けください
……この首、今ここに――双竜へ捧げ奉ります」
周囲からどよめきが沸き起こった
私がおふたりへ向けて、斬り落とし安いように髪を掻き分け、項を晒したからだ
「それがお前の覚悟ってやつか」
「はい」
「……All right.
小十郎」
「はっ……」
政宗様が片倉様から六爪の一振りを受け取る
兵達からは懇願するような声さえ聞こえた
「筆頭!
そりゃいくらなんでも!!」
「やめてください、筆頭!
姐御を斬るなんて!」
「筆頭!!」
ゆっくりと私の前に立った政宗様が、刀をひとつ振り払った
そうして私の首元に、ひんやりとしたものが当てられる
……そうして、刀は高く持ち上げられ、風を切る音が迫って
「――」
……その刃は、私の首に触れることなどなかった
紙一重程の隙間を残して止まった刀が、私の項から退いていく
「……なぜです?」
「Ah?
何を勘違いしてやがるか知らねえが――」
顔を上げた先で、政宗様は六爪の鞘に刀を納めた
そうしてフッと意地悪げに微笑み
「俺は風神にも、テメェを美稜へ返すなんざ言った覚えはねえぜ?」
「……」
「こうなっちまった以上、俺に首を落とされて死ぬことでテメェは救われたかったんだろう
手っ取り早く美稜の風神の後を追えるってもんだ、テメェの罪悪感ごと清算してな
……俺はそんなモンを救いだなんて認めねえ」
私の前に膝をついて、政宗様が私の顔を片手で引き寄せる
そうして――勢いよく額をぶつけられた
「いっ……!
な、何をなさいますか、政宗様!
政宗様が痛みを負う必要など!」
「俺も長篠でテメェを疑った
これでevenってこった、you see?」
「それは……」
「美稜の風神はテメェに何を言い残した?
庇って生き残らせた嫁がテメェを追いかけてくるなんざ、それこそあの野郎が浮かばれねえって話だ
――生きろ
生きて足掻け
テメェを守って死んだ奴の分まで、生き抜くしかねぇんだ
お前も、俺もな」
「……政宗様」
「テメェの処分はこれで終いだ
不服かもしれねえがな」
どっかりと床几に座り直した政宗様が、頬杖をついて私を見やった
私も首を落とされるとは思っていなかったので、ここまではケジメを付けるための予定調和のようなもの
本題はお互い、ここからだ
「綾葉は全員、武田に仕官する……
当主の妻だったお前はどうする?」
「私は……」
このまま伊達にいたい
いざ言おうとすると、喉が張り付いたように塞がって言葉が出なくなる
政宗様は待つつもりなのか、私を見つめたまま口を開かなかった
……そうしてから、幾ばくか時が経った時
「……言いだしづれえか
そりゃそうだな」
「申し訳――」
「謝罪が聞きたいんじゃねえ」
苦笑いのようなものを浮かべて呟く声が、厳しさを伴った
はっとして政宗様の隻眼を見つめる
そこにある瞳は、私の真意を問おうとする真っ直ぐさで
いま、この人は私に対して真剣に向き合ってくれているのだと、曲がりかけていた背筋が伸びた
「だったら俺からお前に聞く
お前は、その銃を手離すか?」
「……いえ
まだ、戦うことをやめるつもりはありません」
「Fum.
なら、お前には選ぶ権利がある
美稜のヤツらと共に武田へ行くか、それとも他の軍に仕官するか――」
どこで戦うか、それによって私の人生も変わってくる
武田か、伊達か……それとも何の縁もない上杉や徳川か
「……私は」
声が震える
でも、伝えなければ
ともすれば俯きそうになる心を叱咤して、前を向く
政宗様の眼差しをしかと見つめ返して――
「……伊達軍に、いたいです」
やっとの思いでそう伝えると
政宗様は、見たこともないような……穏やかな笑みを浮かべた
「ああ、そばにいてくれ
お前が必要なんだ、綾葉」
「私、が……?」
いてもいい、くらいの答えだと思っていた
まさか政宗様から、私が必要だとまで言われるなんて、まったく想像していなかったのだ
ぽかんとしてしまった私へ、政宗様が……片倉様までもが笑っている
腑抜けた顔をしやがって、とは片倉様の言葉だ
再び床几から立ち上がった政宗様が、今度は私の手を取って立ち上がらせてくれた
「私は、政宗様を……伊達を欺いた女です
それでも私をお傍に置いてくださると……?」
「そいつに関しちゃあ、さっきので終わった話だろうが」
政宗さんの右手が伸ばされる
そっと頬が撫でられた
「これからお前は正式な伊達の家臣だ
肩書をくれてやらねえとな」
「肩書、でございますか?」
「Yes.
だがそれはもう決まってる」
手が離れた後、政宗さんの凛とした声音が、私の肩書を告げた
「蒼誠繚乱
お前を表す言葉はこれしか浮かばねえ」
蒼誠繚乱
蒼への忠誠を繚い乱れ舞う
今までも背負ってきたそれが、今ようやく、本当の意味で私を表すものになった
それほどまでに、私は政宗様から必要とされてきたのだ
たとえ彦一郎様が相手でも、私を手放せやしないと思うほどに――
「軍の中での立場は、変わらず俺と小十郎の補佐をしろ
それから……姓はそのまま美稜を名乗れ」
最後の言葉に、心臓が撥ねた
美稜の姓を名乗り、戦えと……?
そんなことまで、許されるなんて――
「綾葉を忘れろとは言わねえよ
忘れる気もないんだろ?」
「……っ、ありがとうございます……」
すっかり止まったと思っていたのに、また涙が溢れてきた
温かな政宗さんの手が、そっと頭を撫でてくれる
「……ありがとうございます
我が忠義、忠誠はこれからも、奥州筆頭に」
「今はそれだけでいい
いずれは全部頂くがな」
「全部、とは?」
政宗様が不敵に笑って、私の額を指でつつく
首を傾げてしまった私へ、政宗様は飄々とした口調で言った
「テメェの心ごと――ってことだ
you see?」
私に背を向け、用は済んだと手を振る後ろ姿を訝しみながらも、本陣から出る
私の心ごと、とは一体……?
忠誠心という話なら、とっくに政宗様へ捧げているつもりなのだけれど
よく分からないまま太ももに手をやり、あ、と声が漏れた
銃を政宗様のところへ忘れてきてしまったままだ
慌てて戻ると、双竜の声が聞こえてきた
それもなぜか……そう、なぜか、片倉様が政宗様を揶揄うような声だったのだ
そっと天幕をめくると、中には手当てを施した政宗様がいて、すぐに私に気付いて下さった
「政宗様、若葉……いえ、綾葉でございます」
「入れ」
声をかけると、政宗様は僅かに笑みを浮かべてそう言ってくれた
追い返されなかっただけで万々歳だ
内心で胸を撫で下ろして陣の中へ入った
「来るならそろそろだと思ってたぜ」
床几に座っている政宗様からは疲れも感じ取れる
それも当然だ、あの戦いは本当に満身創痍だったのだから
政宗様の前まで進み出て、そうして膝を着いて頭を垂れる
得物である銃は、持ち手を政宗様へ向けて私の手の届かぬ位置へ置いた
これで彼は、いつでも私を撃つことができる
「姐御ッ!」
「何してんすか、姐御!?」
「Be quiet.
テメェらはそこで黙って見てな」
「ひ、筆頭……」
ここへ来る私の姿を見たからか、伊達の兵たちが集まってきた
けれどそのざわめきを一言で抑え、政宗様が私へと視線を投げかける
「俺に話があるんだろう
聞いてやるぜ、ちょうど小十郎もいることだしな」
「……お疲れのところ、お時間を頂戴して申し訳ございません」
まずは御礼と、そして謝罪をしたく参りました」
「……」
「この度は魔王征討、誠におめでとうございます
我ら美稜も、悲願を果たすことが出来ました」
政宗様も片倉様も無言のままだ
彼らからの答えを期待するわけではなかったので、そのまま私は言葉を重ねた
「そして心よりお詫び申し上げます
私は悲願達成のため、そして生きるため、伊達に対して身分を偽りました
政宗様を心より信頼することが出来なかった証左でもございます
この罰は如何様にもお申し付けください
……この首、今ここに――双竜へ捧げ奉ります」
周囲からどよめきが沸き起こった
私がおふたりへ向けて、斬り落とし安いように髪を掻き分け、項を晒したからだ
「それがお前の覚悟ってやつか」
「はい」
「……All right.
小十郎」
「はっ……」
政宗様が片倉様から六爪の一振りを受け取る
兵達からは懇願するような声さえ聞こえた
「筆頭!
そりゃいくらなんでも!!」
「やめてください、筆頭!
姐御を斬るなんて!」
「筆頭!!」
ゆっくりと私の前に立った政宗様が、刀をひとつ振り払った
そうして私の首元に、ひんやりとしたものが当てられる
……そうして、刀は高く持ち上げられ、風を切る音が迫って
「――」
……その刃は、私の首に触れることなどなかった
紙一重程の隙間を残して止まった刀が、私の項から退いていく
「……なぜです?」
「Ah?
何を勘違いしてやがるか知らねえが――」
顔を上げた先で、政宗様は六爪の鞘に刀を納めた
そうしてフッと意地悪げに微笑み
「俺は風神にも、テメェを美稜へ返すなんざ言った覚えはねえぜ?」
「……」
「こうなっちまった以上、俺に首を落とされて死ぬことでテメェは救われたかったんだろう
手っ取り早く美稜の風神の後を追えるってもんだ、テメェの罪悪感ごと清算してな
……俺はそんなモンを救いだなんて認めねえ」
私の前に膝をついて、政宗様が私の顔を片手で引き寄せる
そうして――勢いよく額をぶつけられた
「いっ……!
な、何をなさいますか、政宗様!
政宗様が痛みを負う必要など!」
「俺も長篠でテメェを疑った
これでevenってこった、you see?」
「それは……」
「美稜の風神はテメェに何を言い残した?
庇って生き残らせた嫁がテメェを追いかけてくるなんざ、それこそあの野郎が浮かばれねえって話だ
――生きろ
生きて足掻け
テメェを守って死んだ奴の分まで、生き抜くしかねぇんだ
お前も、俺もな」
「……政宗様」
「テメェの処分はこれで終いだ
不服かもしれねえがな」
どっかりと床几に座り直した政宗様が、頬杖をついて私を見やった
私も首を落とされるとは思っていなかったので、ここまではケジメを付けるための予定調和のようなもの
本題はお互い、ここからだ
「綾葉は全員、武田に仕官する……
当主の妻だったお前はどうする?」
「私は……」
このまま伊達にいたい
いざ言おうとすると、喉が張り付いたように塞がって言葉が出なくなる
政宗様は待つつもりなのか、私を見つめたまま口を開かなかった
……そうしてから、幾ばくか時が経った時
「……言いだしづれえか
そりゃそうだな」
「申し訳――」
「謝罪が聞きたいんじゃねえ」
苦笑いのようなものを浮かべて呟く声が、厳しさを伴った
はっとして政宗様の隻眼を見つめる
そこにある瞳は、私の真意を問おうとする真っ直ぐさで
いま、この人は私に対して真剣に向き合ってくれているのだと、曲がりかけていた背筋が伸びた
「だったら俺からお前に聞く
お前は、その銃を手離すか?」
「……いえ
まだ、戦うことをやめるつもりはありません」
「Fum.
なら、お前には選ぶ権利がある
美稜のヤツらと共に武田へ行くか、それとも他の軍に仕官するか――」
どこで戦うか、それによって私の人生も変わってくる
武田か、伊達か……それとも何の縁もない上杉や徳川か
「……私は」
声が震える
でも、伝えなければ
ともすれば俯きそうになる心を叱咤して、前を向く
政宗様の眼差しをしかと見つめ返して――
「……伊達軍に、いたいです」
やっとの思いでそう伝えると
政宗様は、見たこともないような……穏やかな笑みを浮かべた
「ああ、そばにいてくれ
お前が必要なんだ、綾葉」
「私、が……?」
いてもいい、くらいの答えだと思っていた
まさか政宗様から、私が必要だとまで言われるなんて、まったく想像していなかったのだ
ぽかんとしてしまった私へ、政宗様が……片倉様までもが笑っている
腑抜けた顔をしやがって、とは片倉様の言葉だ
再び床几から立ち上がった政宗様が、今度は私の手を取って立ち上がらせてくれた
「私は、政宗様を……伊達を欺いた女です
それでも私をお傍に置いてくださると……?」
「そいつに関しちゃあ、さっきので終わった話だろうが」
政宗さんの右手が伸ばされる
そっと頬が撫でられた
「これからお前は正式な伊達の家臣だ
肩書をくれてやらねえとな」
「肩書、でございますか?」
「Yes.
だがそれはもう決まってる」
手が離れた後、政宗さんの凛とした声音が、私の肩書を告げた
「蒼誠繚乱
お前を表す言葉はこれしか浮かばねえ」
蒼誠繚乱
蒼への忠誠を繚い乱れ舞う
今までも背負ってきたそれが、今ようやく、本当の意味で私を表すものになった
それほどまでに、私は政宗様から必要とされてきたのだ
たとえ彦一郎様が相手でも、私を手放せやしないと思うほどに――
「軍の中での立場は、変わらず俺と小十郎の補佐をしろ
それから……姓はそのまま美稜を名乗れ」
最後の言葉に、心臓が撥ねた
美稜の姓を名乗り、戦えと……?
そんなことまで、許されるなんて――
「綾葉を忘れろとは言わねえよ
忘れる気もないんだろ?」
「……っ、ありがとうございます……」
すっかり止まったと思っていたのに、また涙が溢れてきた
温かな政宗さんの手が、そっと頭を撫でてくれる
「……ありがとうございます
我が忠義、忠誠はこれからも、奥州筆頭に」
「今はそれだけでいい
いずれは全部頂くがな」
「全部、とは?」
政宗様が不敵に笑って、私の額を指でつつく
首を傾げてしまった私へ、政宗様は飄々とした口調で言った
「テメェの心ごと――ってことだ
you see?」
私に背を向け、用は済んだと手を振る後ろ姿を訝しみながらも、本陣から出る
私の心ごと、とは一体……?
忠誠心という話なら、とっくに政宗様へ捧げているつもりなのだけれど
よく分からないまま太ももに手をやり、あ、と声が漏れた
銃を政宗様のところへ忘れてきてしまったままだ
慌てて戻ると、双竜の声が聞こえてきた
それもなぜか……そう、なぜか、片倉様が政宗様を揶揄うような声だったのだ
1/4ページ