Episode.15
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与えられた部屋に戻り、二丁銃の弾丸を装填する
ふと、これを握るのも今日で最後になるだろうかと考えた
彦一郎様は、私が共に戦場に立ちたいと言ったら、許してくださるのか、怒るのか
(終わってもいないのに、先のことを考えてはいけないわ)
頭に浮かんだそれを追いやって安全装置を戻す
予備の弾丸を懐に持って部屋を出ると、外は少しばかり薄暗くなっていた
「綾葉」
「彦一郎様」
迎えに来てくださった彦一郎様へ頭を下げる
決戦を控えた彦一郎様は、いつにも増して厳しい顔つきだった
この表情を以前見たことがある
それこそ五年前、美稜が織田に滅ぼされようとしたときの一度だけ
「いよいよでございますね」
「ああ
やっと父上や皆の仇が取れる」
「……彦一郎様
この戦が終わった後は、如何様に?」
返答次第では、私は政宗様達に別れを告げなければいけないだろう
……否、もはやそれは決まったも同然のこと
私がいて彦一郎様がいて、美稜の地は武田が守り抜いてきた
ならばそれは、然るべき者の手に返されるだろう
「そうだな……
また武田に仕官し、美稜が治めていた地を再興しようと思う」
「そうですね……
それが一番ようございます」
「長い道のりになるだろう
力を貸してくれるか、綾葉
お前の聡明さが私には必要だ」
「何を……
彦一郎様は片倉様よりも聡明です
私は彦一郎様を、私のできる範囲でお手伝いできれば……」
「……ああ、そうだな
そのためにもまずは、今日を生き抜こう
……今度は二人で」
「はい、一緒に」
全ての思いは、魔王にぶつければいい
日の本の平和のための第一歩として
そのために私たちは集まったのだから
「……今気付いたが、お前の銃は銃身に風流な意匠が彫られているな」
「美稜といえば家紋にもございます、桜でございますから
これは風に乗り舞い踊る桜を模したものでございます
きっとこれを撃つのは、今日が最後になりましょう」
銃身を撫でて、細かな傷を指の腹でなぞる
五年間、この銃と共に奥州の戦を生き延びてきた
私の半身とも言える相棒だけれど、これを撃つような機会はなくていい
「最後になれば良いが、まだまだ戦乱の世は続いていくだろう
残念ながら、銃を押し入れに仕舞うのはもう少し先のようだな」
「……私も彦一郎様と共に戦場に立っても宜しゅうございますか」
「勿論だ、心強いことこの上ない
お前が隣にいてくれれば、百人力だぞ?」
彦一郎様は弓、私は銃
刀や槍と違い、相手と至近距離で戦う得物ではないけれど
この方と共に戦えるのなら、どのような戦とて勝利の号砲に変えてみせる
「さあ、行こう
片倉様も大広間へ向かわれている頃だろう」
「かしこまりました」
彦一郎様の弓に、銃身を重ねる
軍議の際、政宗様と交わす約束の証だったそれ
必ず生きて帰ると、あの方の刀に誓いを立てた
今その誓いを、彦一郎様の弓に立てよう
彦一郎様と共に微笑み、そして大広間へと向かった
部屋から大広間へはさほど離れてはいない
その途中で片倉様と合流した
「此度は、世話になり申す」
「すべては政宗様のご判断
俺はただあのお方の後詰めに向かうだけだ」
「……そうだな
礼は政宗公へ言わねばなるまい」
彦一郎様と片倉様が互いに笑みを交わす
そうして表情を引き締めた片倉様が、大部屋の障子戸を開け放した
「オメエら、出陣の用意だ!」
突然降ってきた出陣の言葉に、部屋にいた伊達衆は固まったまま片倉様を凝視していた
今まさに何かをしようとしていました、と言わんばかりの良直の顔が少し面白い
とりあえず、中途半端なところで入ってきてしまったのは察した
「片倉様……?」
「何をボーッとしてやがる
早く支度しろ」
「だ、だって……」
「筆頭は、伊達軍はもう解散だって……」
「いいから来い
どのみちそのつもりだったんだろうが」
そう言うと片倉様は門前へと歩いていく
不審気な良直たちもその後に続いていった
「……姐御、俺達、やっぱ筆頭のことが心配で」
「筆頭はああ言ったけど、追いかけましょうって片倉様に言ってみるつもりだったんです」
孫と文七のそれに頷く
政宗様のことが心配なのはよく分かる
「そんなの、私だってそうよ
政宗様はいつだって先陣を切って往くお方だもの、心配にならない方が無理だわ
……でも私達、政宗様のことを信じてるでしょ、いつだって」
二人がはっと息を飲んで、大きく頷く
信じているからこそ、私たちはあの背を追いかけていられる
政宗様は私たちの信頼を裏切ったりなんかしないと知っているから
「……なんか館の前が騒がしいッスね?」
「ふふ、すごいものが見られるわよ」
「凄いモン?」
首を傾げる左馬助の背を押す
躑躅ヶ崎館の前にようやく現れた私たちの前に広がっているのは――数えるのも大変なほどの軍勢だった
ざっと見ただけでも武田、浅井、徳川に上杉の四軍は揃っている
中には朝倉などの他家の幟もあった
「す、すげえ……!」
「こいつは……!
片倉様!」
「集まるべき者達が集まった
これまで、鳴りを潜めていた連中までもな
隆政公、貴殿にも頼もしき軍がいるようです」
「まさか……っ!?」
彦一郎様が武田の兵へと振り返るのと同時
武田軍の背後から、新しい幟が姿を現した
淡い色――桜色の幟だ
その旗に描かれた家紋は……
「美稜……美稜の旗が……」
円の中に桜の紋
間違いなく、それは美稜の旗印――
武田軍の間を縫うように彦一郎様がその旗の下へと急ぐ
その後を、私も手を引かれたまま進んで行った
ふと、これを握るのも今日で最後になるだろうかと考えた
彦一郎様は、私が共に戦場に立ちたいと言ったら、許してくださるのか、怒るのか
(終わってもいないのに、先のことを考えてはいけないわ)
頭に浮かんだそれを追いやって安全装置を戻す
予備の弾丸を懐に持って部屋を出ると、外は少しばかり薄暗くなっていた
「綾葉」
「彦一郎様」
迎えに来てくださった彦一郎様へ頭を下げる
決戦を控えた彦一郎様は、いつにも増して厳しい顔つきだった
この表情を以前見たことがある
それこそ五年前、美稜が織田に滅ぼされようとしたときの一度だけ
「いよいよでございますね」
「ああ
やっと父上や皆の仇が取れる」
「……彦一郎様
この戦が終わった後は、如何様に?」
返答次第では、私は政宗様達に別れを告げなければいけないだろう
……否、もはやそれは決まったも同然のこと
私がいて彦一郎様がいて、美稜の地は武田が守り抜いてきた
ならばそれは、然るべき者の手に返されるだろう
「そうだな……
また武田に仕官し、美稜が治めていた地を再興しようと思う」
「そうですね……
それが一番ようございます」
「長い道のりになるだろう
力を貸してくれるか、綾葉
お前の聡明さが私には必要だ」
「何を……
彦一郎様は片倉様よりも聡明です
私は彦一郎様を、私のできる範囲でお手伝いできれば……」
「……ああ、そうだな
そのためにもまずは、今日を生き抜こう
……今度は二人で」
「はい、一緒に」
全ての思いは、魔王にぶつければいい
日の本の平和のための第一歩として
そのために私たちは集まったのだから
「……今気付いたが、お前の銃は銃身に風流な意匠が彫られているな」
「美稜といえば家紋にもございます、桜でございますから
これは風に乗り舞い踊る桜を模したものでございます
きっとこれを撃つのは、今日が最後になりましょう」
銃身を撫でて、細かな傷を指の腹でなぞる
五年間、この銃と共に奥州の戦を生き延びてきた
私の半身とも言える相棒だけれど、これを撃つような機会はなくていい
「最後になれば良いが、まだまだ戦乱の世は続いていくだろう
残念ながら、銃を押し入れに仕舞うのはもう少し先のようだな」
「……私も彦一郎様と共に戦場に立っても宜しゅうございますか」
「勿論だ、心強いことこの上ない
お前が隣にいてくれれば、百人力だぞ?」
彦一郎様は弓、私は銃
刀や槍と違い、相手と至近距離で戦う得物ではないけれど
この方と共に戦えるのなら、どのような戦とて勝利の号砲に変えてみせる
「さあ、行こう
片倉様も大広間へ向かわれている頃だろう」
「かしこまりました」
彦一郎様の弓に、銃身を重ねる
軍議の際、政宗様と交わす約束の証だったそれ
必ず生きて帰ると、あの方の刀に誓いを立てた
今その誓いを、彦一郎様の弓に立てよう
彦一郎様と共に微笑み、そして大広間へと向かった
部屋から大広間へはさほど離れてはいない
その途中で片倉様と合流した
「此度は、世話になり申す」
「すべては政宗様のご判断
俺はただあのお方の後詰めに向かうだけだ」
「……そうだな
礼は政宗公へ言わねばなるまい」
彦一郎様と片倉様が互いに笑みを交わす
そうして表情を引き締めた片倉様が、大部屋の障子戸を開け放した
「オメエら、出陣の用意だ!」
突然降ってきた出陣の言葉に、部屋にいた伊達衆は固まったまま片倉様を凝視していた
今まさに何かをしようとしていました、と言わんばかりの良直の顔が少し面白い
とりあえず、中途半端なところで入ってきてしまったのは察した
「片倉様……?」
「何をボーッとしてやがる
早く支度しろ」
「だ、だって……」
「筆頭は、伊達軍はもう解散だって……」
「いいから来い
どのみちそのつもりだったんだろうが」
そう言うと片倉様は門前へと歩いていく
不審気な良直たちもその後に続いていった
「……姐御、俺達、やっぱ筆頭のことが心配で」
「筆頭はああ言ったけど、追いかけましょうって片倉様に言ってみるつもりだったんです」
孫と文七のそれに頷く
政宗様のことが心配なのはよく分かる
「そんなの、私だってそうよ
政宗様はいつだって先陣を切って往くお方だもの、心配にならない方が無理だわ
……でも私達、政宗様のことを信じてるでしょ、いつだって」
二人がはっと息を飲んで、大きく頷く
信じているからこそ、私たちはあの背を追いかけていられる
政宗様は私たちの信頼を裏切ったりなんかしないと知っているから
「……なんか館の前が騒がしいッスね?」
「ふふ、すごいものが見られるわよ」
「凄いモン?」
首を傾げる左馬助の背を押す
躑躅ヶ崎館の前にようやく現れた私たちの前に広がっているのは――数えるのも大変なほどの軍勢だった
ざっと見ただけでも武田、浅井、徳川に上杉の四軍は揃っている
中には朝倉などの他家の幟もあった
「す、すげえ……!」
「こいつは……!
片倉様!」
「集まるべき者達が集まった
これまで、鳴りを潜めていた連中までもな
隆政公、貴殿にも頼もしき軍がいるようです」
「まさか……っ!?」
彦一郎様が武田の兵へと振り返るのと同時
武田軍の背後から、新しい幟が姿を現した
淡い色――桜色の幟だ
その旗に描かれた家紋は……
「美稜……美稜の旗が……」
円の中に桜の紋
間違いなく、それは美稜の旗印――
武田軍の間を縫うように彦一郎様がその旗の下へと急ぐ
その後を、私も手を引かれたまま進んで行った
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