Episode.10
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薄暗い地下牢は、春とはいえまだ寒さを纏っている
ここに来たのは自らの意志ではあるものの、向こうからしてみれば私は体のいい人質で
地下牢に放り込まれて、二丁銃も取り上げられたのも、心のどこかでは納得している
お市の方は明智と共に広間へ向かわれた
……織田の空気は異常だ
こちらの気が狂ってしまいそうなほど、禍々しい気配が濃い
風の噂で聞けば、徳川は反織田勢力に寝返ったという
本多忠勝を討ち取ったのが信長の妻・濃姫
……私の実の姉に当たる
徳川も浅井と同じく、長篠で連合軍を足止めしていたはずだった
そして浅井と同じように、織田に敵ごとまとめて始末されることになった……
「……」
真っ黒な羽織を頭からかぶった織田の家臣は微動だにしない
この軍では当主に逆らうことができないのだと改めて思い知る
逆らえば間違いなく己の命が散るのであり、だからこそ、ここまでの大勢力に拡大できたのだ
圧倒的な力と、手段を選ばぬその手法
人々は奴を第六天魔王と称し、畏れた
私にも多少の恐れはある
かつて一度、桶狭間で邂逅した時
あの視線に一瞬で射すくめられた
けれど……今回のことで、改めて決意が固まった
やはり織田は倒すべき存在だ
奴らによって故郷は焼き討ちされ、我が一族は滅ぼされた
さらには五年前の美稜侵略
どちらも到底許せることではない
必要な戦ではなかったのだから尚更だ
私はこの身を美稜に捧げた
ならば、美稜の仇を取らねばなるまい
たとえ刺し違えてでも――そう思うのに
脳裏をちらつくのは、政宗さんの優しげな瞳
本当に酷いことをしたと思っているし、この件に関しては申し開きの余地もない
……でも、大丈夫だろう
彼らの目には、私が伊達を裏切ったように映っているのだから
もし仮に織田が倒されたとしても、私には行くあてなどない
ならば死んでしまっても誰も文句は言わないだろう
どのみち、全てが終わった時には、この首は双竜に捧げられる
(躊躇いもなく斬り落としてくれるでしょう
恩を仇で返した裏切り者だもの、きっと片倉様が容赦しないわ)
足音が地下牢にこだまする
見張りをしていた織田の兵が、格子の前から恭しく身を退いた
「お待たせしました、綾葉――」
「名を呼ぶことを許可した覚えなどない、弁えよ
捕虜となろうとも、私は一国の主の正室
それ相応の敬意を払うべきであろう」
明智が肩を震わせた
……笑っている
どう考えても嘲笑だ
「これは失礼いたしました
なるほど、その振る舞い、口調……
それが本来の美稜綾葉という訳ですか」
「……別に、貴様には関係のない話だ
答える義理はない」
「ククク……
では参りましょうか、綾葉殿
あなたの夫の元へ、ね」
異常なまでの瞳の光に、僅かな戦慄を覚える
けれどもそれを悟られまいと、鋭く睨み返した
地下牢の鉄格子が開いて、出るよう促される
手首を拘束するかと思ったけれど、明智光秀は何もしてこない
「良いのか、私は自由であるぞ」
「今の貴女に拘束など必要ありません
貴女には逃げる理由も、逃げる術もないのですから」
「……」
悔しいがその通りだ
二丁銃を取り上げられている以上、私は丸腰ということになる
刀を振れない身では、逃げることもままならない
それに、ここに来たのは美稜彦一郎隆政様にお会いするため
それを果たしてもいないのに、ここから去るわけにはいかないというのも事実だった
「……お前、私をどうするつもり」
「どう、とは?」
「私を殺すつもりなのだろう
いつそうするつもりだ」
織田にとって、私が生きていたのは想定外
爪が甘かったことの証明に他ならない
だからいずれ私は始末される
そう考えた末の問い掛けだったけれど、明智光秀は愉しそうに肩を揺らし、歩き始めた
「貴女は殺しませんよ」
「……なんだと」
「私についてきた時から、貴女はここ尾張に囚われる未来が確定したのです
ここで貴女が、信長公の天下布武が成ったと知るまで、ね」
「ふざけたことを……」
「その途中で貴女はこう耳にするでしょう――
奥州の独眼竜が討ち取られ、奥州伊達軍は全滅した、と」
「――貴様」
「貴女が裏切ってしまったばかりに、伊達軍は貴重な戦力を失うことになってしまいました
クッククク……その状態で、果たしてどれだけの抵抗ができるでしょうか?」
……私が居なくなったことで、戦力が削がれてしまったのは事実だ
けれど私一人の力で、戦況が左右されるとは思えない
「奥州は、私が居なくなっても揺るぎはしない
貴様などに政宗様が討たれようものか
あのお方を甘く見るでないわ」
私が居らずとも、あの方は奥州を平定し、筆頭となられていた
私はその手伝いを少しばかりしただけに過ぎない
厄介な荷物が減った分、伊達は更に勢いづくかもしれない
……それでいい
私ごと織田を呑み込み、奥州より天下を食らう独眼竜の咆哮とされるが良い
私を礎にして竜の天下が成るならば……それもまた本望というものだ
ここに来たのは自らの意志ではあるものの、向こうからしてみれば私は体のいい人質で
地下牢に放り込まれて、二丁銃も取り上げられたのも、心のどこかでは納得している
お市の方は明智と共に広間へ向かわれた
……織田の空気は異常だ
こちらの気が狂ってしまいそうなほど、禍々しい気配が濃い
風の噂で聞けば、徳川は反織田勢力に寝返ったという
本多忠勝を討ち取ったのが信長の妻・濃姫
……私の実の姉に当たる
徳川も浅井と同じく、長篠で連合軍を足止めしていたはずだった
そして浅井と同じように、織田に敵ごとまとめて始末されることになった……
「……」
真っ黒な羽織を頭からかぶった織田の家臣は微動だにしない
この軍では当主に逆らうことができないのだと改めて思い知る
逆らえば間違いなく己の命が散るのであり、だからこそ、ここまでの大勢力に拡大できたのだ
圧倒的な力と、手段を選ばぬその手法
人々は奴を第六天魔王と称し、畏れた
私にも多少の恐れはある
かつて一度、桶狭間で邂逅した時
あの視線に一瞬で射すくめられた
けれど……今回のことで、改めて決意が固まった
やはり織田は倒すべき存在だ
奴らによって故郷は焼き討ちされ、我が一族は滅ぼされた
さらには五年前の美稜侵略
どちらも到底許せることではない
必要な戦ではなかったのだから尚更だ
私はこの身を美稜に捧げた
ならば、美稜の仇を取らねばなるまい
たとえ刺し違えてでも――そう思うのに
脳裏をちらつくのは、政宗さんの優しげな瞳
本当に酷いことをしたと思っているし、この件に関しては申し開きの余地もない
……でも、大丈夫だろう
彼らの目には、私が伊達を裏切ったように映っているのだから
もし仮に織田が倒されたとしても、私には行くあてなどない
ならば死んでしまっても誰も文句は言わないだろう
どのみち、全てが終わった時には、この首は双竜に捧げられる
(躊躇いもなく斬り落としてくれるでしょう
恩を仇で返した裏切り者だもの、きっと片倉様が容赦しないわ)
足音が地下牢にこだまする
見張りをしていた織田の兵が、格子の前から恭しく身を退いた
「お待たせしました、綾葉――」
「名を呼ぶことを許可した覚えなどない、弁えよ
捕虜となろうとも、私は一国の主の正室
それ相応の敬意を払うべきであろう」
明智が肩を震わせた
……笑っている
どう考えても嘲笑だ
「これは失礼いたしました
なるほど、その振る舞い、口調……
それが本来の美稜綾葉という訳ですか」
「……別に、貴様には関係のない話だ
答える義理はない」
「ククク……
では参りましょうか、綾葉殿
あなたの夫の元へ、ね」
異常なまでの瞳の光に、僅かな戦慄を覚える
けれどもそれを悟られまいと、鋭く睨み返した
地下牢の鉄格子が開いて、出るよう促される
手首を拘束するかと思ったけれど、明智光秀は何もしてこない
「良いのか、私は自由であるぞ」
「今の貴女に拘束など必要ありません
貴女には逃げる理由も、逃げる術もないのですから」
「……」
悔しいがその通りだ
二丁銃を取り上げられている以上、私は丸腰ということになる
刀を振れない身では、逃げることもままならない
それに、ここに来たのは美稜彦一郎隆政様にお会いするため
それを果たしてもいないのに、ここから去るわけにはいかないというのも事実だった
「……お前、私をどうするつもり」
「どう、とは?」
「私を殺すつもりなのだろう
いつそうするつもりだ」
織田にとって、私が生きていたのは想定外
爪が甘かったことの証明に他ならない
だからいずれ私は始末される
そう考えた末の問い掛けだったけれど、明智光秀は愉しそうに肩を揺らし、歩き始めた
「貴女は殺しませんよ」
「……なんだと」
「私についてきた時から、貴女はここ尾張に囚われる未来が確定したのです
ここで貴女が、信長公の天下布武が成ったと知るまで、ね」
「ふざけたことを……」
「その途中で貴女はこう耳にするでしょう――
奥州の独眼竜が討ち取られ、奥州伊達軍は全滅した、と」
「――貴様」
「貴女が裏切ってしまったばかりに、伊達軍は貴重な戦力を失うことになってしまいました
クッククク……その状態で、果たしてどれだけの抵抗ができるでしょうか?」
……私が居なくなったことで、戦力が削がれてしまったのは事実だ
けれど私一人の力で、戦況が左右されるとは思えない
「奥州は、私が居なくなっても揺るぎはしない
貴様などに政宗様が討たれようものか
あのお方を甘く見るでないわ」
私が居らずとも、あの方は奥州を平定し、筆頭となられていた
私はその手伝いを少しばかりしただけに過ぎない
厄介な荷物が減った分、伊達は更に勢いづくかもしれない
……それでいい
私ごと織田を呑み込み、奥州より天下を食らう独眼竜の咆哮とされるが良い
私を礎にして竜の天下が成るならば……それもまた本望というものだ
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