06 叔父と姪
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大学の講義にもようやく慣れてきた、五月のゴールデンウィーク明け
剣道部に正式に入部した私は、高校時代と全く変わり映えしない伊達家の皆との稽古に扱かれる日々を送っていた
大学までは和真さんだったり、たまに綱元先輩が送ってくれたりで、歩いて帰る必要が無いから楽なんだけど……
今日の放課後は私だけ別行動になってしまった
06 叔父と姪
「──そういうわけで、今日は一緒には帰れないんです」
政宗さんに手を合わせて、頭を下げる
目の前の政宗さんは、腕組みをしたまま、ため息をついた
「……ま、そいつは仕方ねぇってやつだ」
「本当にすみません……」
稽古中に、和真さんが連絡を受けていたようで
この日、私は突然、藤野家──つまり、おばあちゃんの家に呼び出された
おばあちゃんが私を呼ぶことはあんまりなくて(藤野の会長なだけあって、連日多忙を極めているし)、妙に嫌な予感がするのは事実だ
「……俺は一緒にいなくて大丈夫か」
「それは……分かりません
でも、大丈夫だと思います、おばあちゃんに会うだけでしょうし」
「新倉も一緒なんだろ?」
「はい」
「……そうか」
ようやく、政宗さんの隻眼の目元が柔らかく緩んだ
政宗さんの信頼も勝ち得ているようで、伊達家の中でも着々と和真さんに対する好感度が上昇している気がする
……まぁ、何でも出来ちゃう万能執事だもんね
駐車場で政宗さんと別れて、私一人で和真さんの車に乗り込む
一人で乗るのは久しぶりだ
いつもは、政宗さんだったり、成実だったりが乗っているから
「おばあちゃんからの用事の内容は、聞いてますか?」
「ええ、現在の藤野グループの代表取締役がお見えになるそうですので、お嬢様もぜひお会いになっていただきたい、と」
「……藤野の、社長」
「お嬢様から見て、叔父にあたる方ですね
私の記憶は少し古いものになりますが、誠実でいい方です」
「おばあちゃんの、息子なんですね
……私のお母さんの……兄弟」
「はい、美奈子社長のお兄様にあたります
ただ……藤野社長と美奈子社長は、お父上が違います」
「えっ」
その話は意外だった
おばあちゃんは、再婚だったのか
「藤野社長は、芳江会長が最初の旦那様との間にお産みになられた方
美奈子社長は……会長が再婚されて、産まれたことになります」
「そうだったんですか……」
異父兄妹──現在の藤野社長からすれば、私はほとんど血のつながりも無いような存在だ
……どう思われるだろうか、悪感情を持たれていないとは思いたいけれど
車は藤野邸に入って、すぐに森口さんがドアを開けてくれる
「お久しぶりです、森口さん」
「ご無沙汰しております、夕歌お嬢様
応接室で会長がお待ちです」
今日もきりっと後ろで綺麗に結んだ髪と、理知的な眼鏡
その眼鏡の奥の、少し吊り気味の瞳が、優し気に細められた
何度か足を運んだことのある、応接室のドアをノックする
中からおばあちゃんの声で返事があって、ドアを開いた
「失礼します、おばあちゃん──と」
おばあちゃんと向かい合うようにソファに座っていた男性
年は五十もとっくに越えているだろうか
もしかして、と思う前に、その男性が立ち上がって
「……美奈子にそっくりだな」
「え──」
感情のない顔が、私に向けられた
ぞわり、と背筋が粟立つ
嫌悪でもない、けれど好意ではない──私に向けられた感情は、何?
「……あ、斎藤、夕歌……です」
気圧されたまま、なんとか名前を言うと、その男性は無表情のまま
「藤野佳宏 」
「………」
初めまして、と声が震えたまま頭を下げる
顔を上げた時、彼は微動だにしていなくて……私に頭を下げる価値はない、と判断されたことを悟った
「……佳宏、姪に対してその態度はなんです」
「姪、か」
僅かに伏せられた瞳が私を射抜く
その瞳は──拒絶の色だった
「……あ」
「以前も言ったと思うが……」
叔父さんが一歩を踏み出す、同時に私が一歩下がって
「……俺は、美奈子を妹だと認めるつもりはない」
「え……」
「よって、お前のことも姪だとは思わない
何を企んでいるかは知らないが、藤野家は、先代藤野商事の社長を父に持つ俺の家系で引き継いでいく」
言葉が出ない
私は、今、親族に拒絶された
初めてじゃないのに……こんな拒絶は、何度だって──
「消えろ、俗物の血を引く紛い物の女の娘
二度と光輝ある藤野の一族の名を口にするな」
おばあちゃんが怒りに震えて立ち上がる
それより、一瞬早く
「……申し訳ございませんでした
失礼いたします」
叔父に頭を下げて、応接室を出る
無我夢中でロビーから外に出て──新倉さんを車の前で見つけた瞬間、身体の力が抜けきってしまった
剣道部に正式に入部した私は、高校時代と全く変わり映えしない伊達家の皆との稽古に扱かれる日々を送っていた
大学までは和真さんだったり、たまに綱元先輩が送ってくれたりで、歩いて帰る必要が無いから楽なんだけど……
今日の放課後は私だけ別行動になってしまった
06 叔父と姪
「──そういうわけで、今日は一緒には帰れないんです」
政宗さんに手を合わせて、頭を下げる
目の前の政宗さんは、腕組みをしたまま、ため息をついた
「……ま、そいつは仕方ねぇってやつだ」
「本当にすみません……」
稽古中に、和真さんが連絡を受けていたようで
この日、私は突然、藤野家──つまり、おばあちゃんの家に呼び出された
おばあちゃんが私を呼ぶことはあんまりなくて(藤野の会長なだけあって、連日多忙を極めているし)、妙に嫌な予感がするのは事実だ
「……俺は一緒にいなくて大丈夫か」
「それは……分かりません
でも、大丈夫だと思います、おばあちゃんに会うだけでしょうし」
「新倉も一緒なんだろ?」
「はい」
「……そうか」
ようやく、政宗さんの隻眼の目元が柔らかく緩んだ
政宗さんの信頼も勝ち得ているようで、伊達家の中でも着々と和真さんに対する好感度が上昇している気がする
……まぁ、何でも出来ちゃう万能執事だもんね
駐車場で政宗さんと別れて、私一人で和真さんの車に乗り込む
一人で乗るのは久しぶりだ
いつもは、政宗さんだったり、成実だったりが乗っているから
「おばあちゃんからの用事の内容は、聞いてますか?」
「ええ、現在の藤野グループの代表取締役がお見えになるそうですので、お嬢様もぜひお会いになっていただきたい、と」
「……藤野の、社長」
「お嬢様から見て、叔父にあたる方ですね
私の記憶は少し古いものになりますが、誠実でいい方です」
「おばあちゃんの、息子なんですね
……私のお母さんの……兄弟」
「はい、美奈子社長のお兄様にあたります
ただ……藤野社長と美奈子社長は、お父上が違います」
「えっ」
その話は意外だった
おばあちゃんは、再婚だったのか
「藤野社長は、芳江会長が最初の旦那様との間にお産みになられた方
美奈子社長は……会長が再婚されて、産まれたことになります」
「そうだったんですか……」
異父兄妹──現在の藤野社長からすれば、私はほとんど血のつながりも無いような存在だ
……どう思われるだろうか、悪感情を持たれていないとは思いたいけれど
車は藤野邸に入って、すぐに森口さんがドアを開けてくれる
「お久しぶりです、森口さん」
「ご無沙汰しております、夕歌お嬢様
応接室で会長がお待ちです」
今日もきりっと後ろで綺麗に結んだ髪と、理知的な眼鏡
その眼鏡の奥の、少し吊り気味の瞳が、優し気に細められた
何度か足を運んだことのある、応接室のドアをノックする
中からおばあちゃんの声で返事があって、ドアを開いた
「失礼します、おばあちゃん──と」
おばあちゃんと向かい合うようにソファに座っていた男性
年は五十もとっくに越えているだろうか
もしかして、と思う前に、その男性が立ち上がって
「……美奈子にそっくりだな」
「え──」
感情のない顔が、私に向けられた
ぞわり、と背筋が粟立つ
嫌悪でもない、けれど好意ではない──私に向けられた感情は、何?
「……あ、斎藤、夕歌……です」
気圧されたまま、なんとか名前を言うと、その男性は無表情のまま
「藤野
「………」
初めまして、と声が震えたまま頭を下げる
顔を上げた時、彼は微動だにしていなくて……私に頭を下げる価値はない、と判断されたことを悟った
「……佳宏、姪に対してその態度はなんです」
「姪、か」
僅かに伏せられた瞳が私を射抜く
その瞳は──拒絶の色だった
「……あ」
「以前も言ったと思うが……」
叔父さんが一歩を踏み出す、同時に私が一歩下がって
「……俺は、美奈子を妹だと認めるつもりはない」
「え……」
「よって、お前のことも姪だとは思わない
何を企んでいるかは知らないが、藤野家は、先代藤野商事の社長を父に持つ俺の家系で引き継いでいく」
言葉が出ない
私は、今、親族に拒絶された
初めてじゃないのに……こんな拒絶は、何度だって──
「消えろ、俗物の血を引く紛い物の女の娘
二度と光輝ある藤野の一族の名を口にするな」
おばあちゃんが怒りに震えて立ち上がる
それより、一瞬早く
「……申し訳ございませんでした
失礼いたします」
叔父に頭を下げて、応接室を出る
無我夢中でロビーから外に出て──新倉さんを車の前で見つけた瞬間、身体の力が抜けきってしまった
1/3ページ