27 聖夜の二人
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ワイワイと賑わう温泉街
もくもくと立ち上る湯気と、漂う硫黄の匂い
それらを眺めながら辿り着いた先には、風情ある佇まいの旅館――のように見える、別荘
「本当に箱根に来ちゃった……」
建物の入口を前に、とうとう私は心の中に留めきれなかったその一言を呟いた
27 聖夜の二人
冬の夕暮れに冷たい風が吹き抜ける
二泊分の荷物を別荘のスタッフが運び込むのを眺めながら、思わず呟いてしまった
夕暮れとは言いつつもほとんど日は落ちてしまって、どちらかと言えば晩御飯の時間だ
「夕歌、いつまで突っ立ってるつもりだ?
部屋に行くぞ」
「あ、はぁい」
政宗さんに急かされて、覚悟を決めて別荘に足を踏み入れる
もはや旅館の別棟か離れと言われたほうがまだ納得できる規模だけど、あくまでこれは別荘であるらしい
広い玄関の土間で靴を脱いでスリッパに履き替える
廊下の壁には日本画が飾られていたり、生け花があったりと、和を感じる内装になっていた
別荘には客間と呼ばれるお部屋が三部屋あって、それぞれのお部屋に三人から四人が寝泊まりできるようになっているらしい
今回は私と政宗さんの貸切だから、客間の仕切りになっている襖は全て取り払われて、それはそれは広い一室が広がっていた
「畳のいい匂い!」
「先週張り替えたばかりでございまして、坊っちゃまと若奥様が最初のご利用になります
良いタイミングでいらっしゃいました」
政宗さん、未だに坊っちゃまって呼ばれてるんだ……
あまりにも大人だから、坊っちゃま扱いが似合わない
「この後お食事をお持ち致します」
「All right.」
スタッフさんがお部屋を出ていくのを見送って、お部屋の障子を開ける
夜間照明がほのかに明るく照らすお庭は、広い日本庭園だ
池には鯉が泳いでいて、鹿威しもある
低木の植物や木々が侘び寂びを感じさせて、外からの視線は高い竹製の壁が隠してくれる
……そして至る所に備え付けられた監視カメラの数、セキュリティが万全すぎて笑いも起きなかった
「気に入ったか?」
「綺麗なお庭ですね
鯉に餌をあげたりもできるんですか?」
「Of course.
あとで持ってきてやる」
「え!」
鯉の餌やりできるんだ!
可笑しそうに笑った政宗さんが、部屋の外を見やる
廊下側の襖が開いて現れたスタッフさんは、申し訳なさそうに政宗さんに何かを話して、政宗さんは何事もなかったように頷いた
なんだったんだろう、トラブルがあったのかな
「dinnerの用意にもう少し時間がかかるらしい
先に温泉に入るか?」
「入ります!」
箪笥から浴衣を取って、いざ温泉へ
夏場なら露天でも良かったけど、さすがに冬場は寒いので、大人しく室内風呂に入ることにした
「政宗さんはどうします?」
「先に入ってこい」
「え、でもそれだと政宗さんが入る前に、ご飯が来そうですけど……」
「そんときゃ、食った後に入るだけだ」
それはそうだけど……
でも、私だけ楽しむのは気が引けるというか
せっかく一緒に来たのに……
……そうだ、一緒に来たんだから
「一緒に入りませんか?」
「Ah?」
「私ひとりで楽しむのは、なんだか寂しいですし
政宗さんが私に譲るってことは、男女で分かれてるわけでもなさそうですし……」
「俺は構わねぇが、お前はいいのか?」
私を気遣う言葉は、まだ私が、政宗さんと一緒にお風呂に入ることに羞恥心と抵抗があることを知っているから
……でも、なんだかんだで一回だけではあるけど、一緒にお風呂に入ったわけだし
「は、はしたないって、思います?」
「……No.
せっかくのお前からのお誘いだ、一緒に入るか」
箪笥から政宗さんの分の浴衣も出すと、政宗さんが手を差し出したので、首を傾げながら手を握った
きょとんとした政宗さんが、一拍おいて吹き出したので、どうやら違ったらしい
「浴衣を受け取ろうと思ったんだが……
なかなかcuteなことするじゃねぇか」
「なっ!
そ、それならそうと言ってください!」
「Sorry.
そんなに俺と離れたくなかったとはな」
「そんなんじゃないです!
もー!!」
手を繋いだまま政宗さんとお部屋を出る
まあ、政宗さんが楽しそうだし、いいか……
「一昨日のことは事故だと思って忘れようと思ったんだが、まさかお前が吹っ切れるきっかけになるとはな」
「まだそれ言う!
あれは事故でした!
でも政宗さんと一緒に入りたいなって思ったのは本当なんですよ
せっかく箱根の別荘まで来たんですし」
「顔赤いぞ」
「羞恥心が消えたわけではないので……」
多少の恥ずかしさは目をつぶろうと思っただけで、恥ずかしいものは恥ずかしい
いつかは恥ずかしくなくなるものなんだろうか
お風呂場の引き戸を開けて、脱衣所へ入る
タオルは備え付けのものが山積みされていたので、二枚取っておいた
先に入っていく政宗さんを背中で見送って、私もいざ浴室へ
「おおー……!!
……旅館の大浴場だ」
これは……別荘が置いていい広さではないだろう……
どう見ても温泉の大浴場並に広い気がする
政宗さんと二つ分空けてシャワーの前に座り、蛇口を捻る
温かいお湯になってから顔を洗って、全身を洗う頃には政宗さんはとっくに湯船の中だった
距離にして二人分を空けて湯船に入ると、政宗さんが無言で距離を詰めてきた
「いい湯だな」
「疲れも取れそうですね……」
「合宿終わりに箱根で温泉か
贅沢なchristmasだ」
「のんびり出来ていいですね
ケーキはないですけど」
「用意してるかもしれねぇぜ
ま、期待するこった」
「ケーキあるんですか!?」
「あるかもな」
濡れた前髪を掻き上げて、政宗さんが左目を閉じる
すっごいな、全身美形って何しても綺麗なんだ
「……」
そっと自分の腕を持ち上げてみる
あの秋の日、私の体にあった傷はとっくに消えてなくなった
でもあの時のことを忘れたわけじゃなくて、乗り越えられたわけでもなくて
……お母さんと関係を修復できた政宗さんにとって、叔父を切り捨てた私は、どう見えているだろう
「……先に上がりますね」
「ああ」
私のこと、どう思ってますか
なんてこと怖くて聞けないから、いつも心の中で問いかける
私という人間が政宗さんの隣にいることは、正しいことだろうか、と
もくもくと立ち上る湯気と、漂う硫黄の匂い
それらを眺めながら辿り着いた先には、風情ある佇まいの旅館――のように見える、別荘
「本当に箱根に来ちゃった……」
建物の入口を前に、とうとう私は心の中に留めきれなかったその一言を呟いた
27 聖夜の二人
冬の夕暮れに冷たい風が吹き抜ける
二泊分の荷物を別荘のスタッフが運び込むのを眺めながら、思わず呟いてしまった
夕暮れとは言いつつもほとんど日は落ちてしまって、どちらかと言えば晩御飯の時間だ
「夕歌、いつまで突っ立ってるつもりだ?
部屋に行くぞ」
「あ、はぁい」
政宗さんに急かされて、覚悟を決めて別荘に足を踏み入れる
もはや旅館の別棟か離れと言われたほうがまだ納得できる規模だけど、あくまでこれは別荘であるらしい
広い玄関の土間で靴を脱いでスリッパに履き替える
廊下の壁には日本画が飾られていたり、生け花があったりと、和を感じる内装になっていた
別荘には客間と呼ばれるお部屋が三部屋あって、それぞれのお部屋に三人から四人が寝泊まりできるようになっているらしい
今回は私と政宗さんの貸切だから、客間の仕切りになっている襖は全て取り払われて、それはそれは広い一室が広がっていた
「畳のいい匂い!」
「先週張り替えたばかりでございまして、坊っちゃまと若奥様が最初のご利用になります
良いタイミングでいらっしゃいました」
政宗さん、未だに坊っちゃまって呼ばれてるんだ……
あまりにも大人だから、坊っちゃま扱いが似合わない
「この後お食事をお持ち致します」
「All right.」
スタッフさんがお部屋を出ていくのを見送って、お部屋の障子を開ける
夜間照明がほのかに明るく照らすお庭は、広い日本庭園だ
池には鯉が泳いでいて、鹿威しもある
低木の植物や木々が侘び寂びを感じさせて、外からの視線は高い竹製の壁が隠してくれる
……そして至る所に備え付けられた監視カメラの数、セキュリティが万全すぎて笑いも起きなかった
「気に入ったか?」
「綺麗なお庭ですね
鯉に餌をあげたりもできるんですか?」
「Of course.
あとで持ってきてやる」
「え!」
鯉の餌やりできるんだ!
可笑しそうに笑った政宗さんが、部屋の外を見やる
廊下側の襖が開いて現れたスタッフさんは、申し訳なさそうに政宗さんに何かを話して、政宗さんは何事もなかったように頷いた
なんだったんだろう、トラブルがあったのかな
「dinnerの用意にもう少し時間がかかるらしい
先に温泉に入るか?」
「入ります!」
箪笥から浴衣を取って、いざ温泉へ
夏場なら露天でも良かったけど、さすがに冬場は寒いので、大人しく室内風呂に入ることにした
「政宗さんはどうします?」
「先に入ってこい」
「え、でもそれだと政宗さんが入る前に、ご飯が来そうですけど……」
「そんときゃ、食った後に入るだけだ」
それはそうだけど……
でも、私だけ楽しむのは気が引けるというか
せっかく一緒に来たのに……
……そうだ、一緒に来たんだから
「一緒に入りませんか?」
「Ah?」
「私ひとりで楽しむのは、なんだか寂しいですし
政宗さんが私に譲るってことは、男女で分かれてるわけでもなさそうですし……」
「俺は構わねぇが、お前はいいのか?」
私を気遣う言葉は、まだ私が、政宗さんと一緒にお風呂に入ることに羞恥心と抵抗があることを知っているから
……でも、なんだかんだで一回だけではあるけど、一緒にお風呂に入ったわけだし
「は、はしたないって、思います?」
「……No.
せっかくのお前からのお誘いだ、一緒に入るか」
箪笥から政宗さんの分の浴衣も出すと、政宗さんが手を差し出したので、首を傾げながら手を握った
きょとんとした政宗さんが、一拍おいて吹き出したので、どうやら違ったらしい
「浴衣を受け取ろうと思ったんだが……
なかなかcuteなことするじゃねぇか」
「なっ!
そ、それならそうと言ってください!」
「Sorry.
そんなに俺と離れたくなかったとはな」
「そんなんじゃないです!
もー!!」
手を繋いだまま政宗さんとお部屋を出る
まあ、政宗さんが楽しそうだし、いいか……
「一昨日のことは事故だと思って忘れようと思ったんだが、まさかお前が吹っ切れるきっかけになるとはな」
「まだそれ言う!
あれは事故でした!
でも政宗さんと一緒に入りたいなって思ったのは本当なんですよ
せっかく箱根の別荘まで来たんですし」
「顔赤いぞ」
「羞恥心が消えたわけではないので……」
多少の恥ずかしさは目をつぶろうと思っただけで、恥ずかしいものは恥ずかしい
いつかは恥ずかしくなくなるものなんだろうか
お風呂場の引き戸を開けて、脱衣所へ入る
タオルは備え付けのものが山積みされていたので、二枚取っておいた
先に入っていく政宗さんを背中で見送って、私もいざ浴室へ
「おおー……!!
……旅館の大浴場だ」
これは……別荘が置いていい広さではないだろう……
どう見ても温泉の大浴場並に広い気がする
政宗さんと二つ分空けてシャワーの前に座り、蛇口を捻る
温かいお湯になってから顔を洗って、全身を洗う頃には政宗さんはとっくに湯船の中だった
距離にして二人分を空けて湯船に入ると、政宗さんが無言で距離を詰めてきた
「いい湯だな」
「疲れも取れそうですね……」
「合宿終わりに箱根で温泉か
贅沢なchristmasだ」
「のんびり出来ていいですね
ケーキはないですけど」
「用意してるかもしれねぇぜ
ま、期待するこった」
「ケーキあるんですか!?」
「あるかもな」
濡れた前髪を掻き上げて、政宗さんが左目を閉じる
すっごいな、全身美形って何しても綺麗なんだ
「……」
そっと自分の腕を持ち上げてみる
あの秋の日、私の体にあった傷はとっくに消えてなくなった
でもあの時のことを忘れたわけじゃなくて、乗り越えられたわけでもなくて
……お母さんと関係を修復できた政宗さんにとって、叔父を切り捨てた私は、どう見えているだろう
「……先に上がりますね」
「ああ」
私のこと、どう思ってますか
なんてこと怖くて聞けないから、いつも心の中で問いかける
私という人間が政宗さんの隣にいることは、正しいことだろうか、と
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