23 落とし物の在り処
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「ご覧になって!
夕歌様がいらっしゃったわ!」
「ああ、今日もお美しいわ……!」
「ご学友の皆様と仲睦まじく談笑されるお姿、素敵だわ……!!」
午前中最後の講義は必修科目
講義室へ足を踏み入れた瞬間、そんな黄色い声があちらこちらで沸いて聞こえてきた
……私、いつの間にかとんでもない有名人になったりした?
23 落とし物の在り処
「――やっぱおかしいって」
ラウンジでお昼ご飯を取りながら、私は今日何度目かになるその言葉を繰り返した
何がおかしいのかと言われれば、全部だ
こんなに美男美女が友人なのもおかしいし、私の旦那さんが顔面国宝級なのもおかしいし、ていうかそもそも結婚してることも信じられない
更にはファンクラブの存在もだ
行く先々できゃあきゃあと声が上がるし、中には泣いている人だっていた
いやもう本当にわけが分からない
私を見て泣くってどういうことなの、そんなに私の顔は見るに堪えないのだろうか
「俺たちにしてみれば、これが日常なんだけどなー」
「むしろ歓声は少ない方ではござらぬか?」
「これで!?」
「これでも少ない方だな」
かすがにまで頷かれた
本当に今までの私は何をしてきたんだろう
何をしたらこんなに熱狂的に行儀のいいファンクラブができるの
「Hey.」
頭上から声が掛かって、ぱっと上を向く
そこには顔面国宝が顔面偏差値の高い男を連れて立っていた
言わずもがな、政宗さんと綱元先輩だ
「お疲れ」
「お疲れ様です」
成実と二人で場所を空けてやると、私の隣に政宗さん、成実の隣に綱元先輩が座った
どうもこれが定位置であるらしい
あまりにも自然だったので何も言わないことにした
「政宗様、例の件は如何なさいますか」
「例の件?」
「……あれか」
政宗さんの顔が曇る
何か難しい問題でも発生したのだろうか
「何かあったのでござるか」
「……夕歌に呼び出しがかかってる」
苦々しい声音が告げたのは、それだった
どこにそんなに険しい顔をする要素があるんだろう
ていうか、呼び出しって誰からだ
「よく分かんないですけど、呼び出されてるなら行くべきでは?」
「連れて行きたくねぇんだ」
「……梵、もしかして」
「藤野か」
成実とかすがの確認のようなそれに、政宗さんは無言を貫いた
藤野、藤野って……もしかして
「それって、私の――」
「お前の祖母だな
藤野芳江のことは聞いたか?」
綱元先輩に尋ねられて、首を横に振る
残念ながら、おばあちゃんの話は何も聞いていない
「お前の祖母が、お前に会いたがっている」
「えっ、それの何が駄目なんですか?」
「……駄目なんじゃない
ただ、怖いんだ」
怖い?
かすがの答えは、私の予想していたものとは違っていて
けれど、誰もそれを否定しないから、私の胸の中には不安が広がってしまった
「……何があったんですか、私」
「それは……」
「もしかして、おばあちゃんも私を殺そうとしました?」
「ッ!」
「その顔は……当たらずも遠からず、ですか」
そうか、おばあちゃんもそうだったのか
私には、本当に……もう、政宗さん達しかいないんだ
「違います、お嬢様」
和真さんの声が必死な様子で届いたのは、その時だった
驚きに肩が跳ねて、慌てて背後を振り向く
「芳江会長は最後までお嬢様の味方でした
お嬢様をわざと傷つけて遠ざけたのも、お嬢様を社長から逃がす為です
会長さえ社長の駒であれば、お嬢様に手出しはしないはずだと
こちらの……伊達側の用意が整うまで、会長はご自身で時間を稼ごうとしたのです
結果、その目論見は看破されましたが……
お願い致します、お嬢様、芳江会長のことだけは信じてください
ご家族を失われたお嬢様を探し続けたのも、お嬢様を見つけてからずっと支援し続けたのも、お嬢様が政宗様とご縁談を結ばれるよう動いたのも、すべて芳江会長のお心です
最善を選ぶことは難しい、けれどその時の最良を選び取ることはできる
芳江会長は、そうおっしゃいました
そうしてきたのです、お嬢様」
誰よりも、この場にいる誰よりも私の幸せを願い続けたという
たとえ自分が全てから憎まれることになっても、私が安全でいることを優先した
「……分からない、です
私は、何も知らない……覚えてない」
「新倉、今の夕歌には……」
「存じています、分かっております
それでもお伝えしたいのです
ただお嬢様が幸福でいられる日々を願っておられたのだと、それだけは……」
……おばあちゃん
もうずっと会っていない、私のおばあちゃん
おばあちゃんに会えば、何か思い出せるかな
失った記憶の、ほんの一欠片でもいいから……
「……政宗さん、あの」
「行くのか」
鳶色のような瞳が、私を案じて揺れている
その隻眼を見つめ返すことは、とても勇気がいる事だった
……それでも、もう逃げ続ける訳にはいかない
「……行きます
連れて行ってください」
そこに答えがあるのなら、私は逃げない
もう逃げる必要なんてないから
夕歌様がいらっしゃったわ!」
「ああ、今日もお美しいわ……!」
「ご学友の皆様と仲睦まじく談笑されるお姿、素敵だわ……!!」
午前中最後の講義は必修科目
講義室へ足を踏み入れた瞬間、そんな黄色い声があちらこちらで沸いて聞こえてきた
……私、いつの間にかとんでもない有名人になったりした?
23 落とし物の在り処
「――やっぱおかしいって」
ラウンジでお昼ご飯を取りながら、私は今日何度目かになるその言葉を繰り返した
何がおかしいのかと言われれば、全部だ
こんなに美男美女が友人なのもおかしいし、私の旦那さんが顔面国宝級なのもおかしいし、ていうかそもそも結婚してることも信じられない
更にはファンクラブの存在もだ
行く先々できゃあきゃあと声が上がるし、中には泣いている人だっていた
いやもう本当にわけが分からない
私を見て泣くってどういうことなの、そんなに私の顔は見るに堪えないのだろうか
「俺たちにしてみれば、これが日常なんだけどなー」
「むしろ歓声は少ない方ではござらぬか?」
「これで!?」
「これでも少ない方だな」
かすがにまで頷かれた
本当に今までの私は何をしてきたんだろう
何をしたらこんなに熱狂的に行儀のいいファンクラブができるの
「Hey.」
頭上から声が掛かって、ぱっと上を向く
そこには顔面国宝が顔面偏差値の高い男を連れて立っていた
言わずもがな、政宗さんと綱元先輩だ
「お疲れ」
「お疲れ様です」
成実と二人で場所を空けてやると、私の隣に政宗さん、成実の隣に綱元先輩が座った
どうもこれが定位置であるらしい
あまりにも自然だったので何も言わないことにした
「政宗様、例の件は如何なさいますか」
「例の件?」
「……あれか」
政宗さんの顔が曇る
何か難しい問題でも発生したのだろうか
「何かあったのでござるか」
「……夕歌に呼び出しがかかってる」
苦々しい声音が告げたのは、それだった
どこにそんなに険しい顔をする要素があるんだろう
ていうか、呼び出しって誰からだ
「よく分かんないですけど、呼び出されてるなら行くべきでは?」
「連れて行きたくねぇんだ」
「……梵、もしかして」
「藤野か」
成実とかすがの確認のようなそれに、政宗さんは無言を貫いた
藤野、藤野って……もしかして
「それって、私の――」
「お前の祖母だな
藤野芳江のことは聞いたか?」
綱元先輩に尋ねられて、首を横に振る
残念ながら、おばあちゃんの話は何も聞いていない
「お前の祖母が、お前に会いたがっている」
「えっ、それの何が駄目なんですか?」
「……駄目なんじゃない
ただ、怖いんだ」
怖い?
かすがの答えは、私の予想していたものとは違っていて
けれど、誰もそれを否定しないから、私の胸の中には不安が広がってしまった
「……何があったんですか、私」
「それは……」
「もしかして、おばあちゃんも私を殺そうとしました?」
「ッ!」
「その顔は……当たらずも遠からず、ですか」
そうか、おばあちゃんもそうだったのか
私には、本当に……もう、政宗さん達しかいないんだ
「違います、お嬢様」
和真さんの声が必死な様子で届いたのは、その時だった
驚きに肩が跳ねて、慌てて背後を振り向く
「芳江会長は最後までお嬢様の味方でした
お嬢様をわざと傷つけて遠ざけたのも、お嬢様を社長から逃がす為です
会長さえ社長の駒であれば、お嬢様に手出しはしないはずだと
こちらの……伊達側の用意が整うまで、会長はご自身で時間を稼ごうとしたのです
結果、その目論見は看破されましたが……
お願い致します、お嬢様、芳江会長のことだけは信じてください
ご家族を失われたお嬢様を探し続けたのも、お嬢様を見つけてからずっと支援し続けたのも、お嬢様が政宗様とご縁談を結ばれるよう動いたのも、すべて芳江会長のお心です
最善を選ぶことは難しい、けれどその時の最良を選び取ることはできる
芳江会長は、そうおっしゃいました
そうしてきたのです、お嬢様」
誰よりも、この場にいる誰よりも私の幸せを願い続けたという
たとえ自分が全てから憎まれることになっても、私が安全でいることを優先した
「……分からない、です
私は、何も知らない……覚えてない」
「新倉、今の夕歌には……」
「存じています、分かっております
それでもお伝えしたいのです
ただお嬢様が幸福でいられる日々を願っておられたのだと、それだけは……」
……おばあちゃん
もうずっと会っていない、私のおばあちゃん
おばあちゃんに会えば、何か思い出せるかな
失った記憶の、ほんの一欠片でもいいから……
「……政宗さん、あの」
「行くのか」
鳶色のような瞳が、私を案じて揺れている
その隻眼を見つめ返すことは、とても勇気がいる事だった
……それでも、もう逃げ続ける訳にはいかない
「……行きます
連れて行ってください」
そこに答えがあるのなら、私は逃げない
もう逃げる必要なんてないから
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